第332話 闇鍋

 突然だが来客があった。

 朝方、日が昇る前というクソ非常識な時間帯。


 数日ぶりにもふもふなおふとぅんに包まれて眠れた俺は当然の如く爆睡していて、ヘカトンくんが来客を丁重にお・も・て・な・ししてくれた事にすら気付く事はなかった。

 気が抜けていたと思われても仕方ないがこれはもうマジで仕方ないんよ、これはもうほんとに。あの呪い付きの寝具なんか目じゃないんだってばよマジで。体力と精神を限界値を超えて回復してくれて、尚且つ最高の寝心地と多幸感、安心感、満足感をくれるおふとぅんなんだもの。それも数日ぶりに味わう天使のおふとぅんは馬ですら堕とすヨ〇ボーさんを開幕のジャブにクロスカウンターを合わせて仕留められるようなやべぇーブツってなもんさ、起きれなくても無理は無いんや。


「......ヨうこそォ、イらッしャいませお客様ァ」


「「「「...............」」」」


 もう一つ言い訳させて欲しいんだけど、ほら......流石にさ、この山一帯が俺の領地と認められた直後にさ、こう、なんつーの? 誰かがやって来るとか思わないやんふつー。


「大したァ! おもてなしモォ! 出来ませんがァ!!! どうかごゆるりとォ!!! お寛ぎくださいませェお客様ァ......ネェ?」


「「「「............」」」」


 そんでまぁとりあえず俺に代わって来客を出迎えてくれたヘカトンくんだけど、流石にどうしていいかわからんかったみたいで俺は叩き起こされた訳ですよ。


 んでそんな眠気マックスな俺が来客共の前に来てみたんだけど、バラエティに富んだ色んな種族の五名が玄関前で正座させられていました。その後ろには牛に踏みつけられている正座組の従者と思しき十数名がズタボロで寝ていた。

 まぁ見てわかる通りこの時点で招かれざる客だったのは確定だからマトモに持て成す気はゼロ。むしろ何でヘカトンくんはコイツらを生かして置物にしているのだろうか。俺に知らせずにこっそり処理してくれてもいいのに......いや、処理してくれた方がよかったのに。


「......チッ、礼儀も知らぬクソ共がっ! 生きる価値無しという事で画面から消えても文句は言わせネェぞゴラァ!! はぁ......とりあえずヘカトンくん、色々ありがとうね。眠くない?」


『大丈夫』


 いつものようにボードに文字を書いてくれる。なんか物凄く字が達筆になっているので、今回のご褒美に書道道具一式プレゼントしてあげよう。


「牛くんたちもヘカトンくんの手伝いご苦労さん。大分強くなったようだねぇ......今日は最高級の牧草をあげるよ」


「ブルフゥゥゥゥッ!!」


 リーダーとか代表者みたいな雰囲気の五人以外を踏み付けていないボス牛が代表して返事っぽいのをくれた。喜んでるのかは知らん。めっちゃ地面ガツガツ抉ってるけど威嚇かな? 牛の生態に詳しくねぇしコミュニケーションも取れねぇからやっぱどーでもいい。

 ヘカトンくんの部下みたいな扱いになってるっぽくて、月に何頭か食肉になってもらってる事に若干の一瞬だけ罪悪感が芽生えたよさっきは。けどさ......この牛共従順じゃないし、どんどん美味しくなっていくから今更放牧を止められないの。うん、やっぱコイツらの認識は食肉だわ。


「牛くんたち、俺が起きるまでコイツらを踏み付けてて......あ、正座してる奴らは......あーうん、膝の上に乗っかっちゃっていいからよろしく頼む」


 正直即刻殺処分して見てないフリが正解な気がしてならないけど、ヘカトンくんが生かしたのには何か理由があるかもしれない......眠い頭じゃ深く考えらんないから仕方ない。それも全て夜が明けない内に来たコイツらが悪い。


 それじゃおやすみなさい。牛がする初めてのおもてなしを存分に味わってください。




 ◆◇◆




 初めはこの山に住むと言われる魔王自ら手下を率いて出てきたのだと思った。

 だが部下が瞬殺されていく中、魔王はヒト型と聞いていたのを思い出し目の前の化け物は違うんだと気付くが、圧倒的な実力差による蹂躙は止められず我等は五分と掛からず全滅する事となる。


 ......が、何の思惑があるのかなぞわからぬが我等は生かされていた。部下共も我等より扱いは悪いが全員生きているらしく反応は消えていない。

 化け物は居ないようで部下が我等を見張っていた。変な行動をしなければすぐ殺される事は無さそうなので、今の内に現状把握と身の振り方について考えておこうと思う。




 暫くすると我等を蹂躙した化け物はより強い存在を連れて戻ってきた。反応が増えているので、化け物の管理者か上位者、若しくは此処の主である魔王を連れてきたのだと思われる。まだ考えが纏まっていないのでもう少し猶予が欲しかった所だが、こればかりは仕方ない。


 使えた時間内で思い付いた事で乗り切るしかない。


 ――そう、思っていた。だが考えが甘かった。


 化け物に連れられ現れたヒトを見た瞬間、それまで考えていた全てが頭から吹っ飛んでしまう。

 何かを話しているようだが威圧が強すぎて聞く余裕などなく何も理解出来ない。気絶する事も許されぬし自死を選ぼうにも身体は全く言う事を聞かず、震える事すら許されない。

 そんな中、唯一つ理解出来た事がある。それは目の前の存在が怒っているという事。


 化け物は我らを処刑する権限は与えられておらず、ただ侵入者を......いや、魔王の土地に現れた不審者と思しき者共をただ蹂躙するだけの存在なのだろう。


 多分皆、感じている事は一つだろう。もう、我等の生命はあと数分で潰えると云う事実を......




「............はは」


 無限とも思えた心臓を鷲掴みにされる圧迫感のある時間を終えた我等一同。未だ安堵できる状況では断じて無いのだが、魔王が去った事で意識した呼吸を許され深々と息を吐く。

 己の力が及ばない相手に呼吸すら許可制と思える程完璧に生殺与奪の権利全てを奪われるなど初めての体験で、危機的状況なのに身体が弛緩してしまう。ただ乾いた笑いしか出てこない。


 とりあえず許されてはいないのは理解出来るが、化け物の手下の魔牛が我等に乗ってくるのは何なのだろうか......わけがわからない。




 ◇◇◇




 もふんっむにんっ


 幸せ......あぁ、幸せだ......気持ちいい......何だこれはけしからんっ......違法薬物よりもよっぽど中毒性があるやんけ......もっとやれ


 ペチンッペチンッ


 このスベスベしたお肌......んもう美肌さんめっ......こっちも堪らない気持ちよさじゃけぇ......


 ポフッポフッペシッペシッ


 ずっと手を突っ込んでいたい気持ちよさと顔を埋めたい枕のような感触......んっ゛気゛持゛ち゛ぃぃぃぃぃぃぃい......


 嗚呼、なんだ俺は今天国にいるのか。そっか、仮称魔王領は真名を天国と言うのありんすか......なるほど、なまら深いぜよ......


 ユサユサ

 ユサユサ


 なんか硬い棒のようなモノが脇腹に......もうっ硬いのを押し当てるのは女の人にしてあげなさい......男はな、本能で柔らかいモノが好きなんやで......あと揺すんないでおくなまし両端からは反則だっぺ......


 フミフミフミ

 ビタンビタンッ


 顔がフミフミされているのかこれは......あー猫がフミフミしてくれる動画に憧れて顔面に友達の飼い猫を乗せてもらったら親の仇かってくらい爪を立てられた挙句お漏らしされたなぁ......何故俺は天国に居るのに悲しい気持ちになるのか......解せぬ

 お腹が一定の間隔でペチコンされてるのも気持ちいいよねぇ......


 あーそれにしても不思議なモフ味と温かさと滑らかさがアルティメット・バーストのように俺のライフを削るぜ......へへへへへ、もっとやれ......


『ゴニョゴニョ......』

『うん、うん』

『やっちゃって』

『りょーかーいっ』


 可愛いお声が聞こえてきて耳が幸せ。脳が溶け――


「キュゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」


「ッッ......! 脳が飛び出りゅぅぅぅぅっ!!!」


『やっと起きた』


 起こされました。どうやら俺はガチ寝で正攻法の起こし方では無理だったらしい。音って怖いね。


 それでグワングワン揺れる頭と視界の中、ウチの子たちからクレームをたくさん頂いた。

 どうやら玄関先に変なのがたくさん居て気持ち悪いからどうにかして、との事。


『外出ようとしたら気持ち悪かった!!』


「玄関......何かあったっけ? 誰か来てるの?」


 俺の言にヘカトンくんが深い溜め息を吐きながら何かを書いていく。


『深夜の来客、とりあえず上下関係ハッキリさせた後に正座させてある』


 ............あー、何かあった。気がする。


「よく覚えてないけど行ってきます。アレらが気持ち悪くて嫌なら商会にでも行っとく? それかお外まで隠しながら送るとか」


『お店? たまには行こうかな』

『『いくー』』

『保護者枠は必要だよね』

『わたしも行こうかな』


 あんこ、ピノちゃん、自称保護者のエロ鳥、末っ子がお店へ飛ぶらしい。行ってらっしゃい。


 残ったツキミちゃんは俺の肩へ、ワラビとヘカトンくんは俺が外に出たら牛を連れてくらしい。いつもありがとう。


「......行こっか」


 もふもふハーレムが大分減ったが、全員居なくならなくてよかった。




「うわぁ」

『じゃあね』

『頑張って!』


 外に出たらそそくさと牛を纏めてヘカトンくんとワラビが戦線離脱。一応約束していたらしいので干し草を大量に渡しておいた。

 起きた時に枕元に置いてあった書道セット......多分頑張ってくれたヘカトンくんへのプレゼントかな? うん、寝る前によー取寄せた俺。寝たら絶対に迷宮入りしていただろう。


「ツキミちゃん、顔にピトッてくっ付いてくれない? これからすっごい精神が荒れそうだから癒して」

『わかった!』


 あはぁ......幸せ。やっぱ時代はデレ甘よ。糖尿病になりそうなくらい甘々でいいんだ。


「......ふぅ。さて、結局お前らは何者なのかな? 俺の安眠を邪魔したくらいだから余程の理由があるんだろうな? な?」


 正座するダークエルフ、ウサギ、カエル、ネズミ、ハシビロコウ。一体何なんだろう......この闇鍋のようなメンツの集団は......

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る