第329話 店員と忍者

 ......うん、そういえば俺って今パクられる瞬間を民衆に見られまくったんだったな。やべぇ、ものっそい居心地が悪い......


「ほら......あの人......」

「でも出てきたから冤罪か無罪じゃ......」

「アタシゃスカッとしたけど貴族サマを殺してるのを見たから無罪ってワケじゃ......」

「そういえばお城が様変わりしてるけど逃げ出してきたんじゃ......」

「でもよぉ、あの兄ちゃんは何も悪くねぇだろ......」

「ヒソヒソヒソヒソ......」


 うるっせぇんだよ!! くそがっ!!

 あの兵士共......即死させるんじゃなかったぜェ......死体に劇物ぶちこんだら、何かの間違いで不味さで蘇生しねぇかなぁ? そうしたらリアル版無間地獄になるのに......


 ......うん、まだ死体に劇物って試した事無かったよなそういえば。今現場に戻って衆人環視の下、死体を弄ぶ実験をするのは止めた方がよさそう。

 折角俺が住む山を合法的に俺の所有物に認定させるよう話をつけてきた所だからな。ワールドエネミー認定されそうなマッドな実験は止めておこう。


 どうせ納得出来ないバカが魔王を倒せー! って攻めてくるだろうしそん時に試せばいいな。


 ......でも鬱陶しいからちょっと黙らせよう。好意的でないヤツに気ィ遣う必要なんてないし。


「......黙れ」


 一応一般人用に気持ち控えめな殺気をぶつける。阿鼻叫喚一歩手前なその隙に人混みを抜け、適当に目に付いた店に避難した。

 もう絡んでこないでね。次は勢い余ってもっと強いのぶつけちゃうかもしれないから。


「いらっしゃいま......せぇ」


 駆け込んできた俺を見て驚いた表情を見せた店員だったが、そこはプロ根性を見せ何事も無かったかのように取り繕う。バレバレだけどいいよね、そういった心意気は俺好きやで。


 でもなんで驚いたんだろうか。俺、この店もこの店員も知らない......って言うか、この周辺は初めて来たんだけど。


「あの......会えて光栄です!! 私、ミステリアス商会の常連でっ......」


 思案していたら答えは相手から提示された。なるほど、かなりあの商会はハバを利かせれるようになってきたらしい。

 ヤり手の商会長や商会員に向けて心でサムズアップした。何故か心の中でなのに恍惚とした雰囲気を醸し出している......きっと俺のあの子たちへの印象がそんな感じで固定されているんだろう。


「ちなみに......君はどの子を推しているのかな?」


 あの店のファンという事はウチの子のファンという事である。ならばコレだけはどうしても聞いておかねばならぬと思った。

 ウチの子に優劣付ける気は無い。どの子も等しく俺の子であり最愛なのだが人の好みは十人十色であり、そうなれば一番人気の子が居れば最下位の子も居るだろう。

 まぁぶっちゃけ王都の中では誰が人気なんだろうってのはとても気になるのだ。人気投票が大好きなジャパニーズスピリットが騒いだ結果ですごめんなさい。


「あの......私はこの子が好きです......」


 俺が質問をした後、バックヤードと思われる所に駆け込んだ店員ちゃんが鞄を抱えて戻ってきた。そしてその子の鞄から出てきたのは木彫りのヘカトンくん人形だった。


「マジか......」


 二十代前半っぽく見える子が木彫りヘカトンくんを持ち運んでるとは流石に想像出来なくてビビった。どうせなら鮭をガッとしてるアレを見たいと思ったので後で店に案を出しておこう。


「えと......おかしいでしょうか......」


 しょんぼりしてしまった店員ちゃん。俺は慌ててフォローして事なきを得た。


「お詫びにヘカトンくんのオフショット写真をあげるね。そんでヘカトンくんをこれからも推してくれたら嬉しいな」


 友達も商会で買い物をしているらしく、他の子はもふもふな子のぬいぐるみに目が無い状態。そんな中ヘカトンくんラブなこの子は肩身が狭い思いをしながらヘカトンくんの推し活をしていたらしい。

 俺も最初はヘカトンくんの事を可愛く思えなかったから一般人がそうなるのは仕方ない。でもそんな逆風吹き荒れる最中でヘカトンくんを推してくれるのは俺としてはかなり嬉しい。


 本当にファンなんだなぁと嬉しくなった俺は少しばかり舌が滑らかになり、ヘカトンくんの可愛いエピソードや良い子エピソードをファンの子に話していた。

 ファンの子は目を輝かせて俺の話を聞き、最後には親公認を頂けたと浮かれていた。

 ちなみにこの店は木製の小物類を扱う店で、俺は綺麗なフォークやナイフ、スプーン等と皆に似合いそうな小物を購入しお暇する時間になった。


「あの、何時になっても構いませんので......その、いつかヘカトンくんちゃんをこの店に連れてきて貰えませんか?」


 最後に可愛いお願いをされた。もちろんオーケー。

 だけどそれは何時になるかわからないけどと付け加えたが、今度絶対連れてくると約束をして店を出た。


「可愛い小物を買えたしヘカトンくんファンも確認したし、いい店ブラだったわ......うん、本当に俺何しに王都来たんだっけか」


 濃い出来事や衝撃の所為で目的を忘れた俺はその後も店を冷やかしながら回り、時々目に付いた品を購入して気付けば見慣れた通りに出ていた。


 ......見慣れる程王都に来てはないけど見知った景色っていいわぁ。心が落ち着く。


 最後はミステリアス商会で爆買いして帰ろう。


「いらっしゃいま......アァン」


 おい、感じるな。喘ぐな。接客しろ。


「もう! アンタは何して......ッンン」


 おい、最後まで言い切れ。諌めろ。ミイラ取りがミイラになるなオイ。


「失礼しましハァン」


 パタパタ走ってきたかと思ったら狙撃されたかのように倒れるな。オイ! マトモな店員寄越......あ、うん、この店にマトモな店員居なかったわ。


「もうコントはいいから......それにしても今日君たちなんか感度よくない? さすがに接客くらいはマトモにできるようになろうぜ」


 このままだとマドハ〇ドレベルアップ法と同じになりそうだったので戦闘を強引に終わらせ、この店の出資者として軽く説教をする。

 ......あれ? 出資したっけ? まぁいいや。口を挟める程度には恩は売ってあるからセーフだ。


「......あの......しゅ、粛清お疲れ様でした!!」


 誰が木の彫り物やってるのか聞こうと思っていたら背後から声がした。振り返ると、顔を真っ赤にして天井へ逃げていく忍者がチラッと見えた。逃げんな。


「確保ォ!」


 天井に張り付き、恐るべき速さで侵入経路らしき所へ潜り込もうとしてした忍者を糸でグルグル巻きにして目の前に降ろす。俺でなきゃ逃げ仰せれてたね。


「......え、え!? えぇぇぇぇっ!!??」


 絶賛大パニック中の忍者は可哀想なほどに顔を真っ赤にしているが、俺の背後に立ったのが運の尽きと思って羞恥プレイを受け入れるがよろし。

 姿を消せないだけで撃たれないし死の危険はないからまだマシだろう。


「俺が望む事......わかる?」


「えっ!? あっ......あぅぅう......コッチデス」


 どんどん尻すぼみになっていくが俺の望みは理解しているらしく、サツに連行される容疑者、受刑者のように腰紐スタイルのまま俺を先導していく。


「トウチャクシマシタ」


 カーナビかよと突っ込みたくなるが我慢して目的地へと入る。「解放シテクダサイ」と言われたがニッコリ笑ってお断りし、忍者を視界に入れながら彫り師に作って貰いたいモノのイメージを伝えていく。

 途中で諜報的にコイツを拘束したままでいいのか気になって彫り部署の責任者に聞いたが、代わりは居るから気にしないでいいと言われたので拘束続行。


 魔王 からは にげられない▽


 たっぷり三時間程使って熱い意見交換をし、漆塗りや金箔の使い方、蒔絵等をそれっぽく適当に教えると、木彫りチームは目に見えてやる気を出していた。

 昇華させれば王都の名産品にもなり得る知識だろう。だが、俺はただゴー☆ジャスな天使たちの置き物がみたいんだ。作った後でならどんな使い方もしていいから頑張ってほしい。


 あとゴー☆ジャスヘカトンくんが完成したら木製小物店の店員に届けてあげて欲しいと頼み込んでから木彫りチームの部屋から離れた。


「お、お次は......ど、どどど何処い、行きマスカ......」


 はよ慣れろや! ショック療法っぽいのを試してみても何も変わらんやんけ!


「んー......とりあえず皆へのお土産選びたいから......そうだな、一緒に選んでよ」


「ひょうっ」


「え゛!?」


 異音を発してパタリと倒れた忍者。

 オーバーヒートするのって本当にあるんだなぁ......なんて雑な感想を思いながら忍者を小脇に抱えて店内へ向かう。

 悪戯にお姫様抱っこしないでよかった。小脇に抱えるだけでも店員の目付きがヤバいのにお姫様抱っこなんてしてたら......




 ◇◇◇




「ありがとうございましたっ!! またのお越しをいつまでもお待ちしておりますっ!!」


 可愛い新商品群と買いたい物が多くて商品の取捨選択をしているお客さんたちにテンションが上がった俺は爆買い&爆奢りをした後、店員に混じって客までもが頭を下げている不思議なお見送りを受けながら王都の店回りを再開......


「なんで帰宅しようとしていたのに外に出たんだろう俺は......」


 再開せずに全力で気配と存在感を殺しながら転移部屋まで移動し、天使たちの待つ我が家へと帰還した。

 俺が全力で力を行使したにも関わらず、店員や客の一部は俺がいる方へと視線を向ける不思議な現象が起きた。すぐに何も居ないと視線を元に戻すが、一瞬でも違和感を持たれたとかマジで怖い。

 直感や勘とかのシックスセンス系は馬鹿に出来ない心に刻みつけた。


「たっだいまぁぁ......ぁぁっ!?」


「「「「「「「「............」」」」」」」」

「「「ジィィィィィ」」」


「......ちゃうねん」


 怒気を孕んだ温度の低いジト目を向ける八対の瞳&野次馬根性丸出しな三対の瞳が俺を射竦める。

 そこで何があってここを飛び出したかを思い出す。そう、あのクソ共の所為で頭からすっかり抜け落ちていた事を今思い出したのだった......

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