第328話 終演

 阿鼻叫喚の城内はとても風通しが良く、邪魔するのはたまにポップするゴブさんレベルのザコ程度。そのザコ敵は骨喰さんへカルシウムを献上して軟体生物になりそこら辺で雑に転がっていく。


 そんなこんなを経て今、俺は玉座の間前の扉と御対面している。


「どうせこの王の敷く王政も今日までだし、こんな豪奢な扉なんていらないよね。という訳で、骨喰さんガッツリ壊しちゃおっか」


 俺の言葉にカタカタして返事をする骨喰さん。それは多分だけど賛成って事だよね?

 骨喰さんのスキルで使った記憶が無い【魔刃】を使ってみようと思っている。一度使ったような気もしなくもなくはないけど......いやうーん、使ったかなぁ......ダメだ、全く記憶にございません。


「そーい」


【魔刃】ッッ!! と、脳内では手の施しようがない厨二病患者よろしくカッコつけながらも、そう見せない為にやる気無い掛け声を出し骨喰さんを一閃。


 ............某オーガ武者みたいな連鎖一閃をいつかリアルで出来るようになりたいものである。うむ、先ずは一閃と同時に白い光を出す訓練からだな。骨喰さんいっつも黒いの出してるけど白いの出せるのかなぁ。


「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」」」


 HAHAHA、思わず現実逃避をしてしまった。

 鋭く振るわれた刃からズワッと真っ黒なTSUNAMIが発生して扉を飲み込んだ。骨喰さんが手加減してくれたおかげなのか、扉を飲み込んだ後は即座に消滅したが扉の前で待機していた数人の近衛兵は可哀想な結末に終わった......まぁ、そんな感じで思ってたんと違うモンを見せられたら現実逃避してしまうのはしゃーないと思うの。


「ヒィッ......ひ、怯むなッ!! 犯罪者の魔の手から何としても王を守りきるのだッ!!」

「「「「ハッ!!」」」」


 足はガックガクで顔面も蒼白だけど勇ましい言葉を吐いて無理やり職務を全うしようとするエリート共には頭が下がる思いだ。だけどコレ......うん、悲しいけどコレ戦争なのよね。お前らから俺に勝手に仕掛けてきた戦争。


「さっきぶりですね王様、年貢の納め時が来ましたよー」


 先ずは心からの笑顔を心掛けて王へご挨拶。

 ただ笑顔で挨拶をしただけだというのにケツが浮く程ビクッとしやがって......思わず噴き出しそうになってしまった。シリアスっぽくしたかったのに......コイツぁ訴訟モンやでぇ。


「ま、待て、話し合おうではないか......な!」


「言語を用いた話し合いフェーズは既に終わりましたよ王様。なのでここからは肉体言語を用いた話し合いフェーズとなっておりますので悪しからず」


 ハハッ、何を今更。優勢な(と思い込んでる)時はパワハラ上司ムーブだドンなクセに、劣勢になると途端に話し合いをしようと小物振るなんて情けない。

 お話じゃなくてOHANASHIならいくらでも付き合いますよ。えぇ。


「儂が悪かった!! 愚かだった!! 済まぬ!!」


 形振り構わずに土下座でもしてくれたら......まぁローマ字表記から日本語表記にしてあげてもと思わなくもなかったんだけど......

 今のコイツのような頭も下げない、ただこの困難をいかに乗り切るか感満載の謝罪をされても心なぞ動かされる訳が無い。もし何か変わるとしても精々フォントが変わる程度だろう。


「謝罪をするのならば先ずは誠意を見せろ。ちなみに青い竜の血が流れる某元メジャーリーガーさんも誠意は言葉ではなく〇〇と仰っておられた。さて、お前の示す誠意とはどんなもんなのかなぁ?」


 誠意とは何なのだろうか。そう問われれば日本人の九割くらいは金!! と答えるだろう(※個人の見解です)。残る一割は......なんと答えるだろう? やっぱりハラキリとかなのかな?


 まぁいい、古来よりあるモノといえば有名な川の名前の人がしたあの焼き土下座があったり、他にはドシンプルな皆大好き慰謝料パイセン、他にも金では無い部分の財産の分与、ハラキリもしくは切腹、毛髪の全剃り、エンコさんの切断、臓器提供などなど......古来より脈々と受け継がれているジャパニーズ式誠意の示し方を知る俺に、この王はどんな示し方をしてくれるのだろう。

 ちなみに俺は、己に都合の悪い部分のみ都合よく記憶障害を起こし、追求からひらりと身を躱しながら説明責任を果たさない辞任は逃げと思っている。


「貴様......いや、貴殿は何を望むのか教えてくれないだろうか......」


 ......ドラゴンブルーの話辺りで青い顔になった王だけど、良い感じに何かお貴族的方面に勘違いしてくれたのだろうか。なんか俺の呼び方が変わり、明らかに遜っている雰囲気がしている。

 だが少し待とうか王さんよ......ここで俺が何かしらの答えを教えてあげてしまったら、それはただの支払い命令でしょうがっ!!

 ここは心を鬼にして、逆らえない者から無理難題を吹っ掛けられる苦しみor圧を掛けられる苦しみを体感して貰おうではないか。


「お前及びお前の血脈全ての生命......あ、この部屋にいるヤツら全てにも王と同じ事を要求するから」


 殺意マシマシの人間相手に思考放棄して全てを委ねればこうなるとわからなかったのだろうか? まぁそもそもこうなるまで追い詰められた経験が無いからこうなっているんだろうけど......アホすぎひん?

 案の定、なんか絶望した顔をしている。一割くらい顔を真っ赤にして死なば諸共カミカゼアタックを仕出かしそうな雰囲気だが。


「そ、それは流石に......わ、私に出来る事であればなんでもする......私はどうなってもいい!! ......だからどうか家族の生命だけは......」


 王では無いなんか偉そうなヤツがそう宣う。

 何を今更パート......いくつだっけ? もう僕ァ何度目か覚えていないよ。なんかMMキャッスル生活をさせる為に追い込んでから落とし所を適当に決めようとしていたけど......コイツらは本当に死んだ方が世の為なんじゃないだろうか。


「うん、だからそのフェーズは既に通過していてもう遥か後方にあるんだってば。お前らに出来る事はどうやって楽に死ねるように誠意をみせるか、若しくは俺に最大限の誠意をみせて自分か家族の誰かの生命を買うかの二択なんだってばよ」


 既得権益チューチューおいちい! もう他の物はチューチューしても味気ない! お貴族以外はただの踏み台! ってなってるからまだ赦されるラインを大幅に踏み越えるまで危機感を感じられないのよ。


「ぐっ......たかが一平民如きが......ッ!! 殺れお前たち!! 今すぐ動かないのならば私がお前らを殺すぞ!!」


 前門のワンコスキー、後門のお貴族。板挟み可哀想とは少しは思うけど......でも本気で同情するほどコイツらは清廉ではない。


「はぁ......権力も暴力も通じない相手にそれは悪手なんだよー。......見せしめって必要なんだなぁ」


 扉破壊に巻き込んで死んだ兵士以外に死人は居なかった気がする。

 お貴族様だろうが王だろうが兵士だろうが一般人だろうが犯罪者だろうが関係なく殺す。そんな相手が居ると認識させてあげよう。コイツは気に食わないし危機感を煽る為に丁度いい。


「何をごちゃごちゃ言っ......ぐぅっ......や、やめ」


 バツンッ――


 喧しくなりそうだったので首に手を掛け、そのまま力を込めて握り潰した。「ヒイッ」「うわぁっ」「なんて事を」「あぁ......」など、どうでもいい声が聞こえてくる。

 あるべきパーツをパージされたお貴族様の頭部は苦痛8:恨み2の顔で床を転がり、王の近くへ向かった。うーん素晴らしい忠誠心だネ!


 まぁ俺がそっちへ向かうように転がしたんだけど。


「儂が......儂が悪かった......どうか許してほしい。貴殿の要求は全て飲む......だからどうか......」


 数を減らしながら追い込もうと思っていたんだ。

 だからなんというか......心が折れるまでが呆気なさすぎて......なんだコレ? って気持ち。最高権力者がガクガク震えながら情けなく懇願してくる様は、情けなさすぎて毒気を抜かれる。


「えぇ......えぇぇぇぇ......」


「頼む......いや、お願いします......どうかご慈悲を」


「えぇぇぇぇ......」


 兵士共は王を囲むよう展開しているが何か臭う。お貴族共は最早肉人形のように立ち尽くすorへたり込むのみ、王は情けなく懇願。


「......はぁ」


 俺が手を下すまでもない。命令さえ下せばコイツらはこれからはただの傀儡のように命令を熟すだろう。きっと。


 そう思った俺は王に要求を伝え、城を全面魔法の鏡張りにリフォームして城から出た。命令が実行されなければ、リフォーム時城の中心部にこっそり埋め込んだ某人造人型決戦兵器で分裂する使徒相手に使った地雷を起爆するだけなのだから。



 さて、皆のご機嫌取りの為に散財しにいこう。そういえば結局俺って何しに王都へ来たんだっけ......





 ◆◇◆




「宰相......今すぐ彼の要求した事を書面に起こし各所に通達、早急に最適な人員を選出して事に当たってくれ。儂もすぐ動く」


「畏まりました」


 教国、帝国と立て続けに崩壊したのは彼奴が原因と見て間違いないだろう......あんなのが普通に市井へと紛れ込んでいるとは末恐ろしい。

 今回は連れていなかったが大変美しい動物を連れているらしい。犬や蛇、梟、巨大な鹿などらしく、勘違いした貴族やゴロツキには格好の獲物に映り、奪おうと躍起なるのは目に見えている。既にそれで滅んだ家もあるという。


「............」


 儂は儂で今そんな事を気にしている暇は無いのだが、それでも色々と衝撃的すぎて......


「後悔しても仕方ない、か......好き放題する貴族をのさばらせていたのは事実じゃ」


 溜め息を吐き気持ちを切り替える。一人になった鏡張りの執務室中、元五大国だった物、残り三大国の内自国を除いた二国へ向けた書簡の制作を行い始めた。


【魔王の住む山(仮)について明らかになった事実、及び山に住む魔王の要求についての報告】


 この書簡に書かれた内容を受け、緊急の首脳会議が即座に執り行われ、これまで詳細不明だった山に巣食う脅威が周知される事となる。

 始めは訝しんでいた各国首脳陣も、王城へ呼ばれ直接王城の惨状を見せられると即座に手の平を返し脅威度を認定。

 そこからはあれよあれよと事は進み、魔王の住む山(仮)は魔王の領域と正式に決まり、人間界最大級のアンタッチャブルとされ命知らず以外は近付かなくなった。


 シアンのした残りの要求も一年程と時間が掛かったが無事に終わり、商会経由でその事を知ったシアンは振り上げた鉈を下ろす。


 ―――シアンのした要求は三つ

 一つ、王城はこのまま、引越し、改装は許さない

 二つ、居住地の山を正式にシアンの物と周知させる

 三つ、権力に溺れた貴族、兵士の大粛清

 これらがキチンと成されると、王都へ週に一度届けられていた濃密な殺気が無くなった。ちなみに極一部ではこの殺気は至高の御方による時報と大ウケだったらしい。


 次に人間界から離れた位置にある亜人種は後にこの事実を知ると、直にシアンに接触した事のあるエルフが先頭に立ち人間と同じく山及び彼らをアンタッチャブルと認定。ただこちらは庇護を求める勢力と二分するも、人間の様に無謀に挑むものはなかった。


 そして残る一つ、魔界は―――

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