第326話 異世界MM

 とりあえず大人しく着いていった。なんかもう既に面倒になってきているけど、諸悪の根源を元から断てるからええねんと言い聞かせる事によってなんとかモチベーションを保つ。


「それにしても......段取り悪いなぁ」


 俺が唐突にパクられた事で、コイツらの上が段取りも何も無い所から急いで方々に手を回しているらしく、俺は城らしき所の前で待機なう。

 職務質問された経験のある方々ならわかってくれると思うが、サツに囲まれた一般人は目立つし好奇の目に晒されてしまう。


「......なぁ、一般市民を追い払うか、俺の事を頑張って隠すかしてくんないかな? ......イライラしすぎてこっちを見てくる全員、失明させたくなってくるんだけど」


 ママあれなにー? しっ! 見ちゃいけません! をリアルでやられて心がヤられてしまったので、兵士長の更に上っぽく見える人にそれとなーく伝えてみる。

 ギョッとしたってよりドン引きした表情をした後、責任者(らしき人)は走って何処かに伝えにいった。


 今時殺人犯でもブルーシートで隠されたり、フード付きのなんかを着せられて顔を隠されるんやで? 思っくそニュースとかで晒されるけどな!! 一応配慮しているってポーズは見せんのや!! おら、テメェらも早く肉のカーテンになれや!!


「......おい、何時まで俺は晒し者になってないといけないんだ? うむ......これ以上時間を掛けるつもりなら城で隠れてるヤツらも同じように晒し者になってもらえばいいか」


 まず城の外壁を撤去。そうすれば巣穴に危機が訪れた蟻のようにワラワラと出てくるだろう。

 その後、拘束して喚び出したマジックミラーで作成したハウスにヤツらを押し込んで出入口を溶接かなんかで塞いでやる......空気穴と差し入れ穴はちゃんと作ってあげるよ。うふふふ、マジックミラーの向きは本家の逆にしてあげるからね。逆MM号もとい、逆MMハウスが異世界に爆誕する。

 その後はもうアレよ。お高貴な人たちのお高貴な生活が我ら一般ピーポーに晒されてジ・エンド。プライバシーの配慮などせぬよ。果たしてお高貴な連中はラブホからインスパイアした透け透けバスルームや、留置場とか刑務所とかそこらへんチックな丸見えおトイレを編成したユニットバスに耐えられるかな......ふっふっふ――




「おい! おぉぉぉい!!」


「あ゛ぁ゛ん」


 考え事に没頭しすぎてしまっていたらしく、いつの間にか来ていた知らないおっさんの呼ぶ声で現実に戻された。急に声掛けられるとびっくりしちゃうじゃないか! 不意打ちはよくないと思うの!

 そして、結局最初から最後まで衆目に晒されたままだった。ち〇こ壊死しろ。


「ま、待たせてしまったが大会議場の使用許可が出たので着いて来い」


 引き攣った顔で偉そうにそんな事を宣い、俺の付けられてる手枷に紐を通し引っ張って城へと向かっていくおっさん。ぶっ殺......いや、コイツにはMMハウスの......いや、これも違うか。MMキャッスルだな。訂正しましょう。

 MMキャッスルの一番目立つ場所に、コイツの家族諸共ぶち込む。独断と偏見で判断してクソと看做したヤツ以外は見逃すが、残りはコイツ諸共全員押し込んでやろう。お高貴な連中がくっそ不便な場所と透け透けユニットバスで狼狽えたりする所や、ブチ切れて醜い振る舞いをする所を民にガン見して貰いましょう。うん、それがいい。


「......おい、貴様何をニヤニヤしておるか。気持ち悪い」


 んだよ、クソお前コラ! ......俺が某黒いノートを持ってたら即書き込んで削除されてたぞクソが。こんな爽やかで人畜無害なプリティ一般ピーポーを気持ち悪いとか......お前の方が気持ち悪いわボケ!! 脂ぎったツラとたぷたぷわがままボディのくせに!!


「うぜェよテカテカデブ」


「なっ!?」


 おっと、つい本音がポロリしてしまった。ポロリがあるのは水泳大会かウチのウサギモドキだけでええんや。死ね。


「......余裕ぶっていられるのも今のうちだけだ。オイ、着いたぞ。入れ!」


 プルプルと小刻みに贅肉を揺らしながら怒るおっさんを睨みつつ俺は部屋に入る。中にはこれまた偉そうな人がえっらそーに犇めいていた。うん、まるでテンプレ貴族の宝石箱やぁ。

 整髪料と加齢臭の入り混じったなんかよーわからん臭いが充満していてキツい。辛抱堪らず嘔吐く。

 そんな俺を横目で見た脂デブが舌打ちした......それを見た俺は決意し、口を開いた。


「MMキャッスル~腐臭漂う薔薇の園~へ、後ほど貴方をご招待致しマース」


「何を意味わからぬ事を......これだから狂人の相手は嫌なのだ」


 家族と入れてやるのは辞めた。後で草野ダンジョンに行ってサバト系アイテムやローション出して貰おう。

 ......それにしても一々ムカつくヤツだなコイツは。まぁいい、精々今の内に好きなだけ勝ち誇っておくがいいよ。

 これからお前の残りの生にはずっと腐臭が付き纏うのだから......愚腐腐腐腐腐腐、貴腐人や腐女子のオカズや二次創作のネタになるがよい! 異世界ではマイノリティで大っぴらになる事も、認知される事もこれまでなかったとんでもない文化を爆誕させ......


 そこまで考えて背筋を冷たいナニかが伝った気がしたが、コイツらが不快すぎる方が強くて俺の中のリトルシアンがコイツらへの制裁へとガッツリ傾いた。

 前も似たような事したし。それがオープンになるだけだ。


 これにて裁判は結審! 判決、腐刑! これにて閉廷致します! あ、控訴は受け付けません。再審も致しません。私、失敗しないので。


「コホン、そろそろいいかな? まずは大罪人の確保、ご苦労だったな。......さて、貴様は何故此処に連れて来られたか理解しておるな?」


 誰だコイツ......普通、こういうのって名乗ってからするんちゃうの? ......ふぅ、まぁ俺は貴族を殺したという点は間違いないから大罪人だろう。

 でもさ、だからなんなの? って話よ。殺しに来たら殺す。不利益を被らせられそうになったから殺す。人に迷惑を掛けたから殺す。ただそれだけよ。

 司法がしっかりしていない世界で、権力を笠に着て襲ってくる奴、悪意を持って襲って来たヤツを殺す事の何が悪いのか。


「はい、せんせー! ボク、せんせーが、なにいってるか、ぜんぜんわかりません!」


 手をピンと挙げて一音一音ハッキリと、丁寧に紡いでいった。なんであんなに青筋立てて怒っているんだろうか......うわぁぁぁん、怖いよォ。


「こんな輩、即刻処刑しましょうぞ!!」

「不敬極まりない!! 此奴はこの場で処刑する事こそが国益になると思います!!」

「貴族殺害、殺人、不敬、建造の物不法占拠、恐喝、強盗などの疑いがありますし、即処刑が妥当でしょう」


「殺すの? ぼく、なにも悪い事してないのに......おじちゃんたちひどいよぉ」


 即断即決、殺すと決めたのならば、そう決めた瞬間にはもう殺してないと......ってなんか誰かが言ってたけど、こんなグダグダさせてないで早く俺の大義名分の為に斬り掛かってきてくんないかな? と思いながら煽る為に態とらしい泣き真似を披露する。


「茶番はもうよい、不快だ。卿らは面をあげよ。罪人は首を刎ねよ......ふむ、殺れ」

「はい」

「「「「「はっ」」」」」


 にわかに騒がしくなった後方から、目の前で騒ぐアブラマシマシよりも威厳のある声が聞こえた。と、思ったらおっさん共が揃って首を垂れる。

 なるほど、コイツが王か。おっさん共のラブなMMライフにコイツも寂しくないようちゃーんと加えてあげよう。


 鋭い――いや、そうでもなかった剣閃が、俺の首を襲う。周りを見る余裕があったで偉そうにしてるヤツらは殺せ殺せと喚く割には、その光景を直視してるヤツは半数程だった。ヘタレ共め。


 脂マシマシはデブニヤニヤしてやがる。死ね。


 そこまでして漸く振り下ろされた剣が俺の首に到達し......止まる。一応傷付けられたというポーズの為に糸で薄皮一枚切って軽く血を流す。これで準備万端だ。


「「「「なっ!?」」」」

「............」


 余りにも衝撃的だったのだろう。王ですら目を見開き動揺を顔に出した。が、一瞬で顔を元に戻したあたりは流石といった所か。

 貴族共は口をあんぐりしてマヌケ面を晒している。ざまぁねぇな。


「俺の住んでいたには......まぁ色々諸説あるんだが、一説では死刑執行はされた時点で刑は完了と見倣し、生き残った罪人は刑期満了となるらしいんだ。絞首刑の場合は三十分以上吊ってからになるからほぼ無いらしいけど」


 死刑囚が死ぬ迄殺し続ける。これが日本の現行法らしく絞首刑以外認められないので、さっき言った通り三十分は吊るすらしいのでこれでも死ななかったら死ぬ迄吊るすのかな?

 執行時点で刑期満了。こう考える所もあった? 今もある? よくわからないけど、死刑の執行が刑罰だから執行された時点でもう自由と考えるらしい。電気椅子の不具合で生き延びた死刑囚が再度電気椅子されて無事死亡という例もあったらしい。

 納棺時に奇跡的に元死刑囚が蘇生した場合はどう処置するか。戸籍を与えて放逐らしい。これが一番穏便に済むよね。


 などと、色々あるらしいけどまぁ報道や周知されていないだけで色々と闇が深そうなアレなのでそれ以上は考えるのを止める。

 俺は死刑執行=刑期満了って知識を持っていたから今こうして反撃へと移っている。


「んで、殺せなかったけど......どうする? 一応俺は大人しくちゃんと刑に服したけど。これ以上やるならば......大人しくしないよ。ここからは難癖付けるなら冤罪事件だし、攻撃してきたら反撃する。これは正当防衛になるからね♡」


 ニチャってない爽やかな笑顔を心掛けたんだけど、おっさん共はかなり際どい顔をしている。解せぬ。


「......ふむ、確かにそうだな。よかろう、確かに貴様への刑は執行されたな。これ以上貴様に罪を問うのは間違いよの」


 この死刑自体間違いですよー。


「......さて、話をしようか。座るがよい。この場に限り不敬は赦す故、普段通りに喋ってよいぞ。お主らも一々騒ぎ立てるな! 良いな?」


 俺がおかしいのか、まるで何事も無かったかのように場が進む。殺し合えば次には友達! なんてのは実際には起こり得ないのに......

 クソ貴族共はバケモンでも見てるかのような視線を向けてくるし......


 うん、まぁ殺るならいつでも殺れるから今はいいや。とりあえずコイツの話を聞いてみよう。城をMMリフォームすんのはそれからだ。

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