第325話 爆睡......そして
「......めっちゃよく寝た気がする。でも外はまだ明るいから普段なら寝過ごした程度かね......よし、死ぬほど贅沢な時間の使い方......そうだ、どうせだからあの布団使って二度寝してやろう!」
不貞寝から始まったシアンの無気力惰眠計画は一日半と少し寝た所で目が覚めた。が、スマホのようにパッと見て正確な日時を教えてくれるツールが無いせいで、不貞寝決意から多くても半日程度しか時間が経過していないと勘違いして二度寝に勤しむシアン。
世の学生や社会人が見たら助走をつけてぶん殴りたくなるであろう贅沢をしくさりやがったのだ。
いつも誰かしら傍らにいてくれる存在が居ない寂しさがかなりあったが、無気力かつ不貞腐れた精神力はシナジーを起こし......とある布団の存在を思い出す。
しばらくゴロゴロして眠気が来たら寝ればいいと甘く考えていたシアンだったが、布団の威力は凄まじくそこから約一週間の惰眠を貪った。
体調不良でも状態異常でも何でもなく、ただひたすら布団から与えられる心地良さによって幸せに一週間寝続けた。ダンジョン産の安眠グッズ恐るべし......
さて、そんな寝続けるバ飼い主に対して従魔ズは流石に痺れを切らした。これまで自分たちの為に毎日色々してくれていたのを知っているので、従魔ズは寂しいのを我慢して寝入るシアンを放っておいたが、そんな従魔ズでも四日目の朝に我慢の限界に達した。
全員が力を合わせた必殺技の訓練をし始め、周囲の魔物や生きる生物、人型生物は暴威とも災厄とも取れる魔力に晒され恐れ慄いた......のは語る必要は無いだろう。
そしてシアン爆睡の六日目の夜にようやく納得のいく一点突破型の必殺技が完成する。ただただ各自の得意技を繰り出すだけならば多大な被害と共に......になるが容易に空間隔離を破壊出来ただろう。
それをしなかったのは従魔ズ全員が今の棲み家に対して愛着を持っている事、趣味やら仕事やら境目が曖昧だが毎日の作業をしている箇所に愛着がある事の二点に起因する。
そして迎えた七日目の朝―――従魔ズが全員集まり、シアンが引き篭る部屋の前で編み出した必殺技を繰り出し......これまで誰にも破られなかった空間隔離が破壊された。
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁー」
中から断末魔の叫びが聞こえたのはご愛嬌。
◇◇◇
「............お、おふとぅんが......俺の......俺の大事なおふとぅんが......俺の寝室が......」
空間隔離の障壁っぽいものには大砲をぶち込まれたかのような穴が空き、俺が寝ていたスペースは三畳程の小規模な更地が出来ていた。
とりあえずアレだ。何かしらの攻撃を受けたんだろうよ......ウチの子たちに。
空間隔離をぶち壊してまで干渉してきたという事はきっと現実ではタダならぬ事が起きた......とか?
..................やばっ、こんな事してる場合じゃないやん! 急いで外に出な......ッッ!!?
『起きたんだね、やっと......一週間振りに』
......わたしシアンさん。今ブチ切れてるように見える天使たちが抗争一歩手前な雰囲気で佇んでる幻が見えてるの......
それよりもちょっとウェイトしようか。何!? 俺、一週間よ寝てたん!?
「おーけーヌーヌル! この状況を穏便に切り抜ける方法を教えて!」
『遺言はそれでいいんだね?』
ヌーヌルさん、俺は方法が知りたいのであって遺言を残したワケではないのですよ。チッ、コイツ使えねぇなオイ!
「HEY! 尻! この状況『遺言は済んだようだね』を......って、お待ちください」
『もう一回いくよー! せーのっ!』
ヘイ尻ぃぃぃぃ!! あっ......
『ちょっ......』
今度はクッションになるモノが無い状態で空間隔離をぶち壊したあの子たちの攻撃が俺を直撃した。
避けて部屋をぶち壊すor俺が受けている間に余波で他のモノとかが壊れないように頑張る以外の選択肢が思い浮かばなかった。だから頑張って他への配慮を優先した俺を褒めて欲しい。
寝起きの頭が回っていない状態でこれは酷いとパパは思うの......
◇◇◇
こうして俺は我が子たちの力の奔流に飲み込まれ、消滅―――したフリをして攻撃が直撃する寸前に王都へ転移して難を逃れた。それと......寝過ぎた俺が悪いと思うのだけれども我が子ちが問答無用で殺しに来るレベルの暴力の行使は良くないと思うので、反省させる意味を込めて今日一日このまま王都で過ごそうと思っている。
転移石は今日だけは使えないようにこっそり回収して......と、ヨシ。
モチモチからの盗撮に対しては俺のボディの上から隠蔽の膜をジャミングするように覆う事で対処。これで......多分平気なハズ。最後に俺が消滅したと見せかける為にあの子たちに流れ込む俺の魔力&あの子たちからの魔力のパイプ的なのを塞いで......
「あっ......やっば......コレ予想以上に寂しいぞ......」
あの子たちとの繋がりは切れていないけど、あの子たちとの繋がりを全然感じられない......心にぽっかりと穴が空いたような感覚がする。
あの子たちへのお仕置き的な意味合いでやったハズなのに先に俺がへこたれそう......
「オイ!! そこの露出魔!!」
あまりの喪失感に項垂れていると、誹謗中傷と共に肩を掴まれた。
「......あ゛? なんだテメェらは。こっちは忙しいんだから後にしろクソが」
そのままぶん殴りそうになるが必死に堪えて対応するも、少々本音が混ざってしまった。反省反省。
「ほぼ全裸のヤツが忙しいって言ってて、はいそうですかって見逃すワケないだろ! オイ! 誰か不審者にマントかなんか渡して連行しろ!」
「ハッ!」
完全論破されてしまった。うん、確かにそんなヤツの言い分を信じて見逃したら大スキャンダルになる事は確定だろう......
しかも言動はちょっと粗暴だけど、マント渡してからっていうジェントルな行動。流石にこれでゴネたり暴れたりでもしたら完全にアレな人ですわ。
「......すまない。少し頭に血が昇っていたようだ。因みに今すぐ服を来たら無罪放免ってならない?」
「その様子を見ると何かのっぴきならない事情があるのは分かったが、こちらも一応仕事でな......見逃すワケにはいかねェんだ。悪ぃけど大人しく着いて来て貰えっかな」
ですよねー......
こういうタイプのヤツらでまともな人は初めて合うからどうも強行しようと思えず大人しく連行される事を決める。ごめんね皆......俺、とうとう前科が一つ付いちゃうよ......多分猥褻物陳列罪か公然猥褻罪か迷惑防止条例違反が......
親がそんな罪状でパクられたのがバレたら子どもたちはグレるの確定だろう......原因はあの子たちなんだけど、何も考えずにこんな所に転移した俺も悪い。
......てか何でミステリアス商会の転移部屋に飛んでないんだ!? バグか? バグなのか!?
「確保ォ!!」
あっちにいた頃からよく思ってたけど、完全に諦めて大人しく捕まる気な相手をかなり手荒に捕まえるサツはなんなんだろうね......おけ、お前とお前ツラ覚えたから。
んで、この後は詰所かなんかに連れていかれると思っていた俺だったが、俺と話しをした隊長っぽい人と荒っぽい逮捕をしたクソが揉めながら進んだ後......何故か急遽進路を変更して城の方に進んでいっている。
この時点でもう隊長っぽい人への義理は果たしたから強硬手段を取ってもいいんだけど、その隊長っぽい人が物凄く申し訳無さそうにペコペコしてくるモンだから......イマイチ行動に移せていない。
隊長っぽい人は安酒飲んでクダを巻きながら娼館に肩を組んで入っていけるような間柄になれそうで、なんか憎めないんだよなぁ......まぁ俺は娼館よりもわんこカフェに行きたいタイプだから行くことは無いだろうけど、隊長っぽい人とは一緒に酒は飲みたい。
......今暴れ出したら彼は絶対に将来ストレスでハゲそうだから自重。今は大人しくしておいて絶対に殺すヤツをリストアップしておこう。それはもう念入りにね......ふふふふふ。
彼の部下連中を勝手に選別し良さげな人をピックアップし終えた所で丁度良く目的地周辺に到着。
うん、めっちゃ城だわ......それでなんか知らんけどクッソ偉そうにしている髭野郎が来て、俺に拘束具の様なモノをモリモリ付けていく。
こっそり鑑定するも魔封じの枷(リミット500)やスキル封じの手錠(レアレベルまでの物を五つ)、単純に重し(300kg)など、意味ねぇなーって思うのが付けられていった。きっと重罪人に付けるモンで国の大事なモノなんだろうけど......うん。
とりあえず髭野郎は殺すリストにキッチリ記載。装備を付けられていく間にもわらわら湧いてきた生理的に無理なクソ共も同様に記載した。
隊長っぽい人とその連れはいつの間にか消えていたので憂いはない。さて、この後俺はどうなってしまうのかなぁ......怖いわー怖いわー。
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世はブラックフライデー(収益的な意味)なんてよーわからんモンをアレして何かしていましたが、こっちはブラックフライデー(畜生的な意味)でした。
それと、サッカーがドイツ相手にまさかの大金星をあげて、お外によく出る連中が沸いてバカ騒ぎした影響がいつ出るのかと戦々恐々としております......
最悪でも週一では! 日曜だけは! と更新する気持ちは満々ですが......無理な時もあると思うので生暖かく見守ってくれると嬉しいです。
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