第324話 モフ見
インフルエンザ後は溜まった仕事などでゴタゴタしていまして......金曜日無理でした。申し訳ございません。
来週は多分いつも通りイケますのでまたよろしくお願いいたします。
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酒に酔い、逆上せたおっさんの群れを花見会場の近くに安置していくヘカトンくんとワラビ。
おっさん共を冷めた目で見ながら安置を手伝う同じく風呂上がりの女性従業員&商会員たち。
「ヘカトンくん様、ワラビ様、ウチのバカ共が本当にご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません......」
『大丈夫』
『お気になさらず』
シアンの従魔の中でもしっかり者筆頭の二人からの言葉を受けて益々恐縮する従業員たち。「情けない」「しっかりしろ」「ヘカトンくん様とワラビ様の手を煩わせるとか......悔い改めろ」などと、結構辛辣な言葉を投げかけられながら寝かされていく野郎共。
気を失ってはいないのでただただ情けなさに身を任せるしかない不甲斐なさに打ちひしがれる。
「......ッ」
喋ろうにも、弁明しようにも、上手く喋る事が出来ずどうする事も出来ない。
『早く快復して誠心誠意謝罪しよう』
野郎共の心はひとつになっていた。しかし、女性陣の心も主に元気になった野郎共を後で罵倒若しくは折檻してやろうという方向でひとつになっていた事を野郎共は知らない。
◇◇◇
『もうすぐ全ての準備が完了致しますので、お客様方を集めて頂けますでしょうか』
『おっけー』
『りょーかい』
メイドからのお願いに応えたのは近くでメイドコンビを応援していたあんことピノ。あんことピノに応援してもらえた二人はそれはそれは張り切り、後日この事をシアンに自慢して拗ねさせたのは別の話。
『じゃあ行ってくるね!』
ピノを頭の上に乗せたあんこが走って去っていく。その胸きゅんでハートフルな様子を見ていた二人は最後の仕上げに取り掛かる。
王女曰く、こんな二人の姿を見たのは後にも先にもこの時だけだったと語った。王女にこう言わせる程に鬼気迫った戦だったのであろう。
『ダイフク、ツキミ! 準備が終わるから皆を集めろって指示が出た。そういうの訳だからよろしく』
『わたしたちはあっちの方行くからそっちは任せるねー』
ダイフクとツキミを見かけたあんことピノは、一切動きを止める事無くそう言い放ちながら駆け抜けていった。
ダイフクとツキミは、指示は聞けたが返事はしなかった。別にこの二羽の態度が悪いとか協力的では無いという訳ではなく、駆け抜けていく二体の指示をキチンと聞く事に注力していたからである。最後の方は魔力で聴力を強化しながらじゃないと聞き取れなかったくらいだ。
『いこっか』
『うん』
初期組が全員参加した事によって連絡作業は瞬く間に終わりを迎えた。人の移動速度は従魔よりも遅い故に、動ける客全てが集まったのは庭を駆け回っていた四体が戻ってきてから更に五分以上を要していたが無事にミッションコンプリート。
会場に集まれていないのは逆上せた酔っ払い共のみで、そいつらには女性陣に怒りの籠った書き置きを残してきてもらったので憂いは無い。
『じゃあご主人が居ない親睦会始めまーす! アラクネのお姉ちゃんたちの作ってくれたお料理とご主人が隠してるお酒、それをこのサクラってお花を見ながら食べて飲んで騒いでくださーい』
「「「「「『『おぉぉぉぉぉぉ!!』』」」」」」
ピノを頭の上に乗せたあんこが王女に掲げられながら皆の前に出てくる。もしシアンがこの場にいて、コレを見ていたとしたら、『ライオン〇ングか!!』とノリノリでツッコミを入れていただろう。
『ねぇピノ、この後......何だっけ?』
『......うっ、確か......カンパイじゃなかった?』
『あっそれだ! ありがとー! えーっと、みんなー! お酒や飲み物の入ったコップを持って掲げてー!! わたしがカンパイって言うから、皆もカンパイって言ってねー!』
「「「「「『『おぉぉぉぉぉぉ!!』』」」」」」
ちょっと締まらなかったがシアンの真似をしたお花見の説明と乾杯の件を再現したあんこ。皆がグラスを掲げたのを見て満足そうに頷く。自分たちに視線が一斉に集まった事を恥ずかしがっていたピノも、何か思う事があったのか一緒に。
『じゃあピノも一緒にね。いくよー! せーのっ!』
『『カンパーイ』』
「「「「「『『カンパーーーイッ!!』』」」」」」
テンション爆上がりの皆が一斉に乾杯をする。
扱いの面倒な野郎共はほとんどが酔い潰れており居らず、男には決して作れない女性ならではの華やかな食事と美しく香り高い美味しい酒、見た事のない煌びやかなスイーツ、可愛さが留まる所を知らない愛らしい従魔の面々、巨木から垂れる枝には桃色の綺麗で可愛い花。......加えて温泉でツヤプルになったお肌とキラキラサラサラな髪。
テンションを上げるなと言う方が酷だろう。
「お料理美味しいですー」
「お肉もお野菜も凄い......」
「このお酒もですわ」
「このスイーツ、ウチで作れるかしら......」
「これ凄い......これらにお値段を付けるなら、一体いくらになるんでしょうか......」
最初はこの様に純粋に目の前の物を楽しむ者、未知の料理にただただ感嘆する者、これらを職場でも食べられるようになりたいと思う者、値段を考察して戦慄する者......と、様々な反応はあったがすぐにそれらは翳りを見せ、各々料理に夢中になり、きゃあきゃあ言いながら女子会の様相になっていく。
『ふふふ、美味しいです。貴女たち腕を上げましたね』
『ありがとうございます』
王女は激務のピークを無事に超えた侍従を労う。
『はいあんこちゃん、アーン』
「わうっ」
その片割れは不敬にもあんこに夢中であったが......
「うぅ......どれもこれも美味しそう......なんで私の胃には限界があるのかしら......」
「同意します......が、一つ訂正を。どれもこれも美味しそうではなく、どれもこれも美味しいですわ」
「「「「あー......」」」」
一方でホテル側、商会側は垣根を越えて交流をしていた。内容はかなりくだらなかったが......
「きゅーきゅきゅー」
「めぇぇぇぇ」
「......永遠に見ていられます」
「......赤い毛や黒い毛がクリームで白くなっているのが可愛すぎて血を吐きそうですわ」
また一方では大きな皿に大量のケーキを並べ、それらをウイとしるこが顔を突っ込んで食べている光景をうっとりと眺め......
『コレ、追加のお肉。ローストビーフってヤツらしいから食べて』
「あ、ありがとうございます。あのー......ヘカトンくん様はお料理をお食べになっていますか?」
『今日は持て成す側だから気にしないでいい』
「そうなのですね......でも......うーん、少々はしたないですが、よければどうぞ。お口を開けてください」
『ありがとう』
「えへへへ、どういたしまして。お仕事頑張ってください」
追加の料理を収納袋から出して持ってきたヘカトンくんを労い、ここぞとばかりにアーンをする熱心なヘカトンくんファンが居たり......
「......おぅ起きたか。とりあえず何も言わずにこれを読んでくれ。............ん、読んだか。どう思う? 俺はあっちに合流したくないんだけど」
「......多大な御迷惑をかけたのは事実なので行かなければならないのですが......今からあの輪の中に加わっていくのは勇気が要りますね」
「......もう少し寝て体調を戻そう。あの様子を見ている限り、暫くこっちにゃ気ぃ回さねぇだろ」
「......ですね。全員起きるまでは大人しく寝ていましょう......」
寝起きに死刑宣告......もとい、お気持ち表明の手紙を見て現実逃避するダメなおっさんがいたりと、各自楽しんでいた。
花見なのにシアンご自慢の枝垂れ桜は乾杯後にチラ見された程度にしか見られず、心做しか枝や花がしょんぼりしている。人が魔物よりも弱く、命の軽い世界では田舎以外で、大自然の中のんびり花を愛でる文化が発達していない故に仕方ない事だろう。
花見からモフ見に内容が変わるのは自然の摂理と異世界の理か......花より団子、花よりモフモフ。シアンが居ればサクラにスポットが当たらない事に嘆きながら、そんな言葉を残していたと思われる。
『一番! あんこ! 飛びます!』
「「「「きゃぁぁぁぁぁあ!!! 可愛いぃぃぃぃぃぃぃ!!」」」」
『二番! ピノ! 花火打つよー!』
「「「「たーまやー!!」」」」
『三番! ダイフク! わたあめ!』
「「「「触らせてくださーい」」」」
『四番! ツキミ! 歌います!』
「「「「フゥゥゥゥゥ!!」」」」
開始から三時間程が経過し、会場は一発芸を披露する場へと変貌していた。さながらアイドルのコンサートのような熱気と興奮が渦巻いている。ちなみにおっさん共も熱狂しているモブに混ざっていた。
女性陣に酒が入りフワフワしてきたタイミングを見計らって合流していた。ガチ説教を取るか、上手くいけば良いが絡み酒で余計に面倒になるリスクがあるこの二つを天秤に掛けた結果、絡み酒の方に天秤が傾いた模様。
運良くモフモフとスイーツに癒されて潤っていた女性陣はある程度の説教で済ませ、早々に宴へと戻っていった。命拾いしたおっさん共はその後シレッと混ざり込み酔い潰れないよう注意しながら酒と肴に舌鼓を打った。
『......八番! しるこ! なんかヤバい生き物の真似するよー!』
「「「「きゃぁぁぁぁぁあ!!! (歓喜)」」」」
「「「「ちょっ......」」」」
「天国......」
「幸せぇ......」
『あははははは!』
『楽しーね!』
「あ、コレ気持ちよくて......もう無理......」
「もう死んでもいい......」
従魔ズの一発芸の〆として行動を起こしたしるこ。
お腹いっぱいな酔っ払いたちが次々と巨大な毛玉と化したしるこに取り込まれていった。
知らず知らずのうちにその内側に蓄積していた勤続疲労に本日ハシャいで騒いだ疲れ、そこに満腹&酔いが加わったある意味万全な状態の面々。
それらを最高級羽毛布団を易々と凌駕する神話級(某飼い主談)の天然羊毛布団の中に放り込めばどうなるものか......
結果は即堕ち。
見た目は暴走した化け物に取り込まれる形にはなったが、取り込まれた面々は皆、その生涯に一遍の悔いなしと言わんばかりのだらしない顔で息絶え......ではなく意識を飛ばしていた。
『......えっ、どーしよー......こんなつもりじゃなかったのに......お姉ちゃん! 助けて!』
『あははは、やらかした罰と思って暫くそのままでいるしかないね』
『お姉ちゃぁぁぁん! あぅぅ......』
自力で這い出してくる者も少数だが居たが、残りはしるこが疲れ果てて萎むまでそのまま取り込まれていた。
そして花見会がお開きになった時、そこには元気いっぱいな従業員&商会員&アラクネ御一行、やりきった感を全面に出している従魔ズ、ぐったりしているしるの姿がありましたとさ。
めでたしめでたし。
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