第322話 閑話~ハロウィン~

「トリックオアトリートって言う魔法の言葉があってね、それはまぁ大体18歳以上......うん、なんて言うか、大人になると使えなくなる子どもしか使えない不思議な力なんだ」


 今、俺はウチの天使たちを前に講義を開いている。

 365日中、364日は天使なウチのエンジェルたちが唯一小悪魔になるのを許される日だから。


「それでね、その言葉の意味は『悪戯されるかお菓子を差し出すか......少しだけ考える時間をやるから疾く選べ。お菓子を用意していなければ、蹂躙だ』って意味なのよ。それは今日、10月の最終日である31日だけにしか使えないから注意してね」


 そして、続けて言葉の持つ意味と注意事項を伝えていく。だいぶ俺に都合のいい説明にしているが、これは当然の措置だ......ここは日本ではないのだから。

『揉みくちゃにされる程悪戯されてからお菓子を献上したい』......そう、俺の心はそれだけを求めているのさ......


「最後に、これだけはしないといけません。いいですか? 魔女とか蝙蝠とかジャック・オー・ランタンとかマミーとかサキュバスとか......邪悪すぎないけどちょっとだけ邪悪な存在に変身しないといけないんだ。そうしないとただの強請り集りになっちゃうから注意ね......はい、ここまではいいですかー?」


 俺の収納の中には、畜生なペンギン商会とアラクネ王女たちと俺が合同で開発したコスプレグッズがたっぷり詰まっている。

 あんこたん、ツキミちゃん、ウイちゃん、しるこは普段から喜んで着てくれるんだけど、モチモチとホワイトスネイクはすっごい反発する。だから、合法的且つ自発的に着てもらう為に餌をチラつかせながらの作戦を執り行わないといけないからだ。


『はいッ!』


「可愛ッ......こほん、はいツキミちゃんどうぞ」


 ピョンピョコしぬがら片羽根を上げるツキミちゃんに理性を根こそぎナイナイされそうになったが、ギリギリ致命傷で収めて発言を促した。ここで耐えた俺を褒め称えろお前らッ!


『悪戯ってどの程度まで許されるのー?』


「ふむ......それはまぁ悪戯の範疇ならば何しても許されると思うし俺になら何してもいいんだけど、協力者の人たちにはかなり力の加減をしてあげないとダメだよー。んー、明確に禁止しなきゃいけないのは怪我させたり殺したり......かな」


『わかった!』


 あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ゛ー゛ー゛ー!! 敬礼可愛すぎりゅぅぅぅぅ!!


 はっ!? 落ち着け、まだ錯乱する時間じゃない。


「他に質問ある子いるかなー?」


『はい』


「は゛ぁ゛......ッ、ピノちゃんどーぞー」


 尻尾をふりふりするプリチースネーク。お前ら、こんな序盤にもなってない段階から殺しにこないでくれ。心臓がもたぬ!!


『......? 変身ってどうすればいい?』


 危ない......溢れ出るパッションで猜疑心を植え付けてしまう所だった。自重自重。


「それはですねー、ミステリアス商会のお姉さんたちとアラクネ王女さんたちが協力して用意してくれましたー。会った時にちゃんとお礼を言うんだよー」


『わかった』


 うちの子たちは皆ちゃーんと俺を言えるんです。偉いんですよ!! ......ハロウィンコス装備でお礼するマイ小悪魔エンジェルズ......イイッ!!


 あかん、鼻血出そう......


「じゃあこのお部屋の中に衣装を出していくから、各自気に入ったのを着てきてねー。着方がわからなかったら、着たいのを持って部屋の外に出てきてね」


 種族もサイズもバラバラなマイエンジェルズ。全員分ちゃんと用意してあんの? って思うだろ?

 そこはほら......アラクネ王女のひり出すロイヤルな糸で衣装を作ればあら不思議、【サイズ自動調整】と【最適化】が付与されたコス衣装の出来上がりって訳さ。


 ほんと不思議だよねぇスキルって。

 一番小さいピノちゃんから、一番デカいワラビまで、誰が着ても【サイズ自動調整】がピッタリなサイズにしてくれ、尚且つ種族毎の違いがある部位などに関しては【最適化】が働いてくれてその子専用に作ったの? と思える出来上がりになるのよ。

 着方が分からないのは俺が着せてあげればいいので問題は無し! あー......この後が楽しみすぎぃぃぃ!


「......ドローンで空撮の準備は万端、定点カメラは大量に設置してあって抜かりは無いはず、小型カメラも問題無し......それと、ペン型、メガネ型、ネクタイピン型、アクセサリー型の犯罪には絶対に用いてはいけないタイプのカメラも参加者には配ってある。これで主観タイプの触れ合いにも対応......ふふふふふふふふはははははははっ!! ん? どしたん?」


 とある衣装をお口に銜えたあんこに背中をポフポフされて正気に戻る。危ない危ない、人に戻れなくなる所だった。


「くぅん」


 ごめんね、危ない人で。


「それを選んだのね! 絶対似合うよ! ほら、着せてあげるからおいで!」


 失態を無かった事にするように、強引に話を進めた。俺は何も悪くない!! 何もしていかった!!




 あんこに衣装を着せ終え、無事理性と衝動の板挟みに遭っている俺の前に続々と着替えを終えた子と衣装を持ってきた子が集まってくる。ふふっ。


「皆、いいチョイスだね......ごめん、あんこたん。わるいんだけど俺の背中を凍らせてくれない? このままだとヤバい域に突入してまう」


「ひゅーん......」


 悲しい顔をさせてごめんよ......




 ◇◇◇




『とりっくおあとりーと!!』


 顔面だけは覆われるのを免れた氷像と化した俺は、貸し切りにしてもらったホテルの大広間で動き回るエンジェル小悪魔を眺めている。


「えへへへ、悪戯を選んでもいいんですけど......えへへへへへへ、はい、お菓子ですよ」


 キリッとした顔をしている人は誰もいない。

 頑張って顔を作ろうと努力している人もいるにはいるが、どいつもこいつも五割以上緩んでいる。この軟弱者共め!!


『ありがと〜おねーちゃん♡ がおー!』


 ツキミちゃんがあんこベースに作られた狼コスを着用して商会の子にがおーしている。

 ......俺も、俺もそれさ゛れ゛た゛い゛ッッ!!


『トリックオアトリート』


 蝙蝠コスをしたピノちゃんがクールにトリトリを言っている。でもね、君は気付いていないかもしれないけど......その羽根、嬉しいとか楽しいとかの感情に反応してパタパタするように作られているんだよ。そのパタパタは俺が全力で隠蔽をかけてあり、装着者には動いている事を気付かれない配慮をしてある。

 それどーゆー原理かって? 知らねェ。


「......はぅ♡ お、お菓子ですよー」


『ありがと』


 エンジェルあんこの技術を用いてあれば、ピノちゃんはきっと今浮いている。それくらいパタパタしている。そのまま俺の首筋に噛み付いてきてほしい。


『とりっくおあ』

『とりーと』


 白いゴスロリ服を着たしること黒いゴスロリ服を着たウイちゃんがアラクネ王女を襲っている。設定はヴァンパイアらしく、申し訳程度の牙が可愛いお口から覗いている。王女、そこ代われ、今すぐ。


『わたくし、この生に一遍の悔いなしですわ』


 わかる......わかるから、そこ代われ。今すぐにだ。


『おかし』

『よこせー』


 キャッキャウフフしながらお菓子を持つ腕をカプカプするゴスロリヴァンパイア姉妹。衝撃映像すぎてヤバい。なんか鼻から液体が漏れてる気がするが、動けないからどーしよーもない。


『アッ......アッ......』


 その場にヘタリ込み、お菓子を差し出した王女さん。そんなになるまでよく耐えたよお主は......語彙力が消滅するまでよく耐えたよホント。

 動けたら......俺が動けていたらッ......!! ここは任せて先に行けってしてあげられるのに......ッ!! 俺はなんて無力なんだっ......


「旦那、その、なんだ? 大丈夫なんですかい?」


「お構いなく」


 見兼ねた料理長が声を掛けてきたけど、それどころじゃないから放っておいてくれ。どうにかしたいならこの氷を砕いてくれ。


「ならいいんですが......では失礼しやす」


 うん、あんこの氷はどうしようもないもんな。気にせず楽しんでくれ......ははっ......



『トリックオアトリート』

『トリックオアトリート』


 たくさんある手と顔を一つの巨大カボチャで隠したヘカトンくんとジェイソンマスクを付けて角の所にチェンソーを生やしたワラビのコンビが料理人たちを強請っている。ここだけ対象年齢がちょっと上なハロウィンになってて笑える。


「へー、これパンプーを加工してあるんですね」

「その刺さってる武器みたいなの、大型獣の解体に使えそうっすね」


 なんかリアクションがアレだけど、ちゃんとお菓子を貰えてよかったね。美味しそうにお菓子を食べるヘカトンくんとワラビを見てほっこりした。



『トリックオアトリート』


 ビスビスビスビスビスビスビスビス......


『おら、早くお菓子よこせよ』


 ビスビスビスビスビスビスビスビス......


『あっれー? あれあれー? まさかぁお菓子をぉ用意できてないんですかぁぁぁぁぁぁぁぁあ?』


 ビスビスビスビスビスビスビスビスビス......


 ベルセ〇クの鳥面拷問執行官みたいなお面を付けたダイフクが、さっきからずーーーーっと俺の眉間をつついてくる。煽り付きで。


 お気に入りのメイドとメイドさんがゴスロリヴァンパイアに取られたからお冠なんだろう。男の嫉妬は見苦しいぞエロ鳥ィ!!

 チッ、仕方ない......食べ物を無駄にするようでやりたくなかったが、お前がお菓子を望むならやってやろうじゃないかッ!!


「ダイフク、ご所望のお菓子......ではないが、甘い物を出してやる。覚悟しろ」


『え?』


 鳥面の下でアホ面晒してんのがわかる。だがもう遅いッ!!


「オロロロロロロロロロロロロロロ」


 俺は口をカパッと開け、トロットロのチョコレートを放出した。吐いてるような絵面と音だが、実際にな口に収納の穴を開けてチョコフォンデュマシーンになってるだけなので安心して欲しい。飛び出たチョコ汁は地面に落ちる前に収納へと移すから実際には無駄にしていないが......それを食いたいかと言われればノーだろう......


『ちょっ......止めろォ......おぶっ』


 チョコもちが完成した。大丈夫、そのチョコはすぐ固まるからドロドロはすぐに無くなるからさ。


 チョコが固まり、飛べなくなった鳥は支配人に回収されどこかへ行った。女じゃなくて残念だったなァ!


『もう、何してるの! あ、とりっくおあとりーと!!』


「可愛、可愛ッ......可愛いいぃぃぃ......「パァン」あ、ごめんなさい......煽られすぎてイラッとしちゃいました......あのー、お菓子を渡したいので氷を解いてもらえたりは......」


 不思議の国のア〇スを魔女っぽくカスタマイズしたコスを披露してくれるマイエンジェルの可愛さに、再び発作が出そうになったが何とか収めて氷を解除して欲しいと懇願する。

『反省した?』「しました!」を数度繰り返すと、溜め息を吐きながらだがやっと拘束を外して貰えた。


「ふふふふふふ、我の封印がようやく解け「パァン」......はい、ご所望のケーキ盛り合わせでございます......お納めください」


 氷塊をぶつけられ、封印から解けたばかりの魔王ごっこは強制終了......いや、悪ふざけした俺が悪いなコレは。


 あんこ用のケーキ盛り合わせを出した後は、他の子にも同じ物を渡していった。悪戯もしてもらったけど、すっごい可愛かったです。半永久的にしてもらいたかったがケーキに釘付けだったので途中で諦めた。今度またやってほしい。


「衣装作りに協力してくれた皆さん、会場を貸してくれた皆さん、そして天使たち! 素晴らしいハロウィンをありがとう! 時間までこの子たちの可愛い姿を存分に楽しんでくださいっ!」


 素敵なハロウィンにしてくれた皆、一人一人にお礼を言いながらお持ち帰り用の箱に入れたケーキを手渡していく。家に子どもがいる人にはお子様用にと追加で渡した。

 ふふふ、家にいる天使に悪戯されるが良いわ!!


『ねーねー、悪戯してもいいんだよね? えへへ、私の椅子になってケーキを食べさせなさい! なんて......ヒャウッ』


 シアン椅子、抱っこ機能、アーン機能、なでなで機能付きのご注文ありがとうございます!! 当商品は返品不可となっておりますのでご注意くださぁい!!


「俺の可愛いお嬢様、はい、あーんして」


『急に抱っこしないでよ......えへへへ』


 それでは皆様、ハッピーハロウィン!! 俺はこの後あんこを愛でるのに忙しいからここまでだ。



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 日曜更新出来ないお詫びです。楽しんで頂けたら嬉しいですね。


 読んでくれた皆様、ハッピーハロウィン!!

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