第320話 あんことツキミの王都散歩
ミステリアス商会を出たあんこちゃんとツキミちゃん
大好きなご主人はいないけど、ご主人のお友達から頼まれたお使いを頑張っています。
商会を出て向かった先は昨日一昨日も行ったホテルです。
いっぱい良くしてくれたおじさんたちにはあんこちゃんとツキミちゃんも心を開いています。
『ふんふんふーん♪』
背中にツキミちゃんを乗せてご機嫌に鼻歌を歌いながら王都を闊歩するその姿に、王都に住む住人たちはもうメロメロ。
何度か直接その姿を見られている事、おバカな貴族たちを圧倒する姿、愛らしすぎる見た目、ミステリアス商会の販売しているグッズなどの影響で、実は彼女たちは王都でアイドル的な人気を博しています。
滅多にその姿を表さないので、『見る事ができたら幸運が訪れる』『ウチの店の売上が上がった』『おばあちゃんの腰が治った』『彼女が出来た』『宝くじで一等が当たった』などなど、雑誌の最後の方に載っている怪しい広告のような噂が出回っていたりする。
「あ、噂のワンちゃんと鳥ちゃんじゃない! 良かったらコレ食べてってよ!」
「あー! 抜け駆けすんなよババア!! そんなのよりウチの店の方がおいしいぞー!!」
「その様な野蛮な事を言う店は無視していいですよ。そんな事よりもこちらは如何でしょう? 私の店の新作です」
いつの間にか、あんことツキミの誘致合戦が始まったり――
「やーん、すっごい可愛いぃぃぃぃぃ!!」
「わんこ様と黒鳥様の組み合わせ......しゅき」
「少しでいいからこっちを見てぇぇぇぇ!!」
アイドルがゲリラライブをしているかのような歓声を浴びたり――
「あんこ様、ツキミ様......はぁはぁ......」
「あぁ本日も麗しい......尊い......」
「子宮がキュンキュンしゅりゅわぁ......これは、母性......? まさか、泣いているの私?」
謎の勢力が現れたりと大忙しだった。
そんな周囲の声はバッチリ聞こえていたけれど今はそちらに構う暇は無いので、サービスとしてちょっとだけ周囲に愛嬌を振り撒きながらホテルへと歩いていくあんこちゃんとツキミちゃん。
「きゅーん」
「くるるるるっ」
耐性のあるバ飼い主でも吐血待ったなしな天使による媚び媚びアクションが猛威を振るう――
耐性の無い一般人は致命傷を負うもの、ギリギリ致命傷で収めるもの、死のノートに名前を書かれてしまった人のようなリアクションをし崩れ落ちるるものと、反応は多岐に渡ったが......一つだけ言える事はそのダメージは深刻であった。
王都のお散歩で大サービスしちゃったあんことツキミなのでしたー。
『......予想外デース』
『あはは......やりすぎちゃったみたいね』
無自覚な大量破壊兵器は少しだけ反省をしてから先を急ぐ。ちょっと早足で去っていく後ろ姿がまた可愛くて、致命傷を負った者たちに追い討ちをかけたのをあんことツキミは知らない。
『ねぇ、そろそろ着くんだけど......気付いてる?』
『うん、わかってるよ』
その後も様々な人を撃沈させながら進み、目的地であるホテル近辺へと着く。......のだが、バ飼い主と共に鍛えられた異常な感覚が厄介事の気配を捉えていた。
一歩一歩近付いていくにつれ、その厄介事の全貌が当事者たちの喚き散らす声によって明らかになってくる。
『『はぁぁぁ......』』
溜め息が出てしまうのも無理は無いだろう。
その厄介事は昨日彼女たちのご主人が屠殺したヤツらと関係のある事であったようだ。面倒なのは分かりきっているが、ここに来た目的を果たす為に堂々と進んで行った。
「黙秘していても良い事はありませんよ。何より我らは貴方たちを咎めに来た訳ではありません。ただ、昨日起こった貴族の惨殺について聞きたいだけなのです」
「私共に言える事はありません。知ってる事もありません。ですのでお引き取りください」
ホテル周辺を包囲する兵士たち、その中心で嫌悪感を顕にしながら支配人に詰め寄る偉そうな男、支配人を中心に整列しながら黙秘を続けるホテル関係者たちが、あんことツキミを出迎える。
自分たちに良くしてくれたおじちゃんたちの困った顔をしながら、自分たちを見て驚きつつも逃げる事を身振りで勧めてくる。
好きな人は好き!
嫌いな人は嫌い!
邪魔なモノはナイナイしちゃいましょう!
これが従魔ズの中でのポリシーである。彼女たちの育ての親であるバ飼い主の影響を受けながら育てば、こんな思考回路になっても仕方ないだろう。
敵味方がハッキリ明確に分かれているこの状況であんことツキミは迷うことは無かった。何よりこれから用事がある人たちが、脅され、困惑した状態ながらもあんこたちを優先してくれたのを見て、ゴミの群れを排除する意志を固めた。
『殺してからお話しよっか』
『そうだねー』
『あー、でも、一応おじちゃんたちに確認してからの方がいいかな?』
『それもそうだね。じゃあワタシが聞いてくるからちょっと待ってて』
『うん』
短いやり取りで今後の方針が決まる。
あんこの上からツキミが飛び立ち、ピリピリしている現場の中央へと、気負いも緊張感なく降り立った。
◇◆◇
side~ツキミ~
『おじちゃんこんにちはっ! この状況はどうにかしていいのー?』
「なんだこの鳥はっ! オイ鳥っ! 我らを馬鹿にしてるのか!!」
うるさいの。ワタシは今おじちゃんと話してるんだから邪魔しないで!
「ツキミ様こんにちは。あーあのですね、我々は今大変困っているのが現状です。助けて頂けるのならば助けて頂きたいのが本音ですね」
『わかった! コレえーぎょーぼーがいってやつだよね? あ、あとね、今日って時間作れたりしない?』
「何だこの喋る鳥は......こちらを無視するでないっ!!」
『うるさい、黙ってて! 今おじちゃんと話をしてる最中だから......あ、もういいか。お姉ちゃーん!! 殺っちゃっていいらしいから殺っちゃおー!!』
「は!? 何を言っ......ヒィッ」
もう我慢しなくていいからさっさと終わらせちゃお。お姉ちゃんも殺る気満々だったみたいで、殺っても大丈夫だったと伝えたら直ぐに殺気を垂れ流しだしたみたい。
『あのね、偉そうなおじさん。ワタシはこのおじちゃんたちに用があるの。だから早いとこ居なくなってほしいな......
お姉ちゃーん! アレ使いたいから気をつけてー!』
「ヒッ......な、何を......や、やめろっ」
返事は無かったけど、お姉ちゃんはワタシのしたい事がわかったのか氷でどんどんおじちゃんたちを固めてくれた。
前からはワタシ、後ろからはお姉ちゃんの殺気と技を当てられて、偉そうなおじちゃんは可哀想になるほど真っ青になっている。笑いそうになったけど頑張って我慢したんだよ。偉いでしょ。
『バイバイ』
主のブラックホールを真似してたらいつの間にか出来るようになっていたの。お揃いの技で嬉しい。
「やっやめ......」
この技は難しくて上手く制御できないから皆が居ると使えないんだけど、今のように皆が居ない時ならば使えるの。
あっちの方はお姉ちゃんが逃げられないように周囲を凍らせてくれてるからワタシは安心してこの技の制御二集中できる。偉そうなおじちゃんは隣の偉そうな人にしがみついて吸い込みに耐えてるけど、そろそろ限界っぽく見える。
「ぐぅぅ......ッ! 何なんだよこれはっ! あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛......」
『他の人たちも我慢してないで早めに飛び込んだ方がいいよ。変に耐えてるとこのおじちゃんみたいに苦しむから』
両足がブラックホールに吸い込まれて消滅した偉そうなおじちゃんは、その後はもう本当に呆気なく残りを吸い込まれていった。
まだ一人しか吸い込まれてない。前が詰まってるから後ろは大混雑してるの。だからワタシが後押ししてあげるね。
『主のブラックホールだったらもう全部片付いてるよね......むー! えいっ!』
主たちとの
「ちっ、くそぉっ!! ふざけn」
嫌なおじちゃんたちがスポンスポンって穴に飛び込んでいくのが爽快で、見ていて楽しい。
今度主と一緒にこの技を練習したいな。
『お姉ちゃーん! もうすぐ終わるよー!』
『わかったー』
あ、残りのおじちゃんたちが転んだ。お姉ちゃん魔法のおかげだよね? やっぱり凄いなぁ。
最後のおじちゃんを吸い込み終わったからブラックホールを解除してお姉ちゃんと合流。制御に気を使ったから疲れちゃった。
『前より全然良かったよ。頑張ったね』
褒められた! お姉ちゃん優しい! 好き!
『お姉ちゃんありがとー! えへへ、お姉ちゃんの背中ふわふわで気持ちいいー』
疲れちゃったからお姉ちゃんの背中に乗って休憩。毛並みに自信のあるお姉ちゃんはワタシに気持ちいいって言われたのが嬉しかったっぽくて、見るからにご機嫌になった。
『休んでていいよー』
しっぽをブンブンさせてるお姉ちゃんがこう言ってくれたから休むの。頼まれた事をおじちゃんに伝えてくれているお姉ちゃんには悪いけど、今はちょっと寝転がりたい。
しっぽでワタシを撫でながらおじちゃんと話をしてくれている。
「お偉方の所為で宿泊してくれていたお客様も帰られてしまいましたし、予約してくれていたお客様はキャンセルされしまいました。ですので我々一同、ご迷惑でなければお世話になりたいと思っています」
おじちゃんたちの答えはこうだったから、これで王女に依頼は達成出来たの!!
『それじゃあ準備出来たらミステリアス商会に集合ね! やる事についてはこっちで全て準備するから何かを持ってくる必要は無いよー』
「かしこまりました。それでは急いで準備致しますので少々お時間を頂きます。お待ちの間、こちらをどうぞ......本日は本当にありがとうございました」
お礼でお肉を貰った! 待ってる間にお姉ちゃんと一緒にお肉を食べた。
これは料理のおじちゃんが作ったモノでとっても美味しかったの。
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