第318話 ウーバー

 バカの所為で余計な時間を使ってしまった。とにかく時間が無い俺は、急いでウイちゃんと温泉に入り身嗜みを整えた。


 チートスーツに身を包み、髪をオールバックに整え、あっちにいた時に愛用していた香水を振る。

 どっからどう見てもホストっぽい完成系になってしまったがそこは仕方ない。俺には年齢を重ねる事で出る渋みや凄み、色気みたいな物は無いのだから。そしてそれはこの先ずっと望めないのだ......一切成長しないボデーが恨めしいぜ......


「お待たせ。さ、行こうかお嬢様」


『ご主人かっこいい!』

『はぁ~......』


 髪を弄った姿を見せた事無かったっけ? と思うが、自分でも心当たりがないので思い出せない。とりあえず準備を整えて皆の前に姿を見せた俺を、俺ラブ勢のあんことツキミちゃんが見蕩れてくれたので俺は満足でおじゃる。ツンデレ勢は信じられないモノを見たようなリアクション、中立勢は素直に感嘆し、末っ娘たちはテンションが高い。

 こんな反応をしてくれるなら、たまにバッチリキメた姿を見せるのも悪くないかな。


『くぅん』


 語尾にハートが付いてそうな声を出すあんこをお姫様抱っこ風に抱きかかえ、全員居ることを確認してから転移石でホテルへ直に飛んだ。煩わしくなっていそうなホテルの外にわざわざ姿を見せる必要はない。


「お待ちしておりました。どうぞこちらです」


 いつ到着してもいいようにずっと待っていてくれていたのか、到着した俺らをホテルの従業員たちが恭しく出迎えた。根が一般人にはちょっと重く感じるが悪い気分ではない。年一とかなら味わいたいかも。


「ありがとう。今日もよろしくね」


 色々あったが平和にあんこ姫のバースデーパーティーが幕を開けた。




 二日連チャンでのパーティーだったが、こうした大掛かりな催しは貴族たち限定だったらしく、従業員たちは怯える事もなくやれて楽しいと口々に感謝を伝えてくる。パーティーは二日目、俺はお得意様と言う事で従業員たちは慣れたのか、最低限のラインは守りつつ結構フランクに接してくる。

 貴族のヤツらは見下すわ、怒鳴るわ、ちょっとでも気に食わないとすぐに無礼討ちしようとするわ、備品は壊すわ......etc......もう愚痴が出るわ出るわ。だが、それよりも凄い熱量であんこたちの可愛さを伝えてくるので、この二日間はアニマルセラピーとしても優秀な催しだったのだろう。


「接客業ってストレス溜まるもんなぁ。今日は無礼講だから気楽に楽しんでくれ」


 そう伝えたら涙目になった。おっさん、おばさん、兄ちゃん、姉ちゃん、お偉いさん全員が......

 流石に俺でも不憫に思えたから後でサプライズプレゼントをあげようと思った。お疲れ様です。


 気を取り直して天使に目を向けると、ウチのお嬢様は皆にチヤホヤされて上機嫌でわふわふ言っている。他の子たちもブラッシングされたりモフモフされたり抱っこされたりで楽しそうで大変よろしい。


「あ、あの......こちらをどうぞっ!!」

「お飲み物ですっ!!」


 俺は俺で高級キャバクラかと思うような至れり尽くせりだ。商会長が言うには普段あんまり絡めない俺の知らない商会員の下っ端だという子がこの機会に顔を覚えてもらおうとしているらしい。商会の規模が大きくなったから人員もどんどん追加しているらしい。いい事だと思うけど顔と名前が覚えられぬ!!


「そ、それで......あのぉ......貴方様がこちらに来られた時からずっと気になっていてお聞きしたい事があるのですがよろしいでしょうか......」


「ん? 何?」


 顔合わせが一段落した所で商会長が何やら聞きたい事があるらしい。何やろ?


「とても良い匂いがしているのですが、どんな物をお使いになられてるのですか?」


 どうやら香水に興味があるらしい。まぁこっちの香水ってキッツいもんな。その気持ちわかるよ。

 前にワカメとフュージョンさせたアレもかなりキッツいオイニーがしてたからね。たとえ綺麗なマダムでも、可憐なレディでも、お色気ムンムンなミセスだったとしても、嗅いでたら頭が痛くなりそうな臭いを発していたらくっ付かれたくない。


「......んー香水なんだけど、多分誰も知らないよね? 欲しい?」


 問い掛けに赤べこ五倍速の如く首を振る商会長と、聞き耳を立てていたメンバーの皆様。お前らも聞いてたんかいっ!!

 飯とかの食品類ならいいかもだけど、あっちの品を流すのはどうなんだろうか......なんかの作品で化粧品をうっかり市井に流したら大惨事になったとかもよく聞く見るし............でもアレだった。よく考えたらこの商会には今更だったわ。もっとヤバそうなカメラとか流しちゃってたし。なら決まりか。


「商会のメンバーとか君たちが親しい人とか......まぁ所謂身内内でのみ流通させるなら渡すけど、商売したりしたら面倒になるから絶対止めてね。

 それでもなんとかしたいなら製品を元に研究してくれ。権力者が五月蝿かったら揉めていいよ。手に負えなかったら俺が出張る」


 延々と香水卸しマシーンになるのは嫌だ。でもこんなん使ってたら絶対権力者のに留まるのは目に見えている。

 この子たちは頑張ってくれてるし、アラクネたちと一緒にあんこの夢を叶えて貰った恩があるから、多少こっちが面倒になったとしても支援したり助けたりする気概が俺にはある。


「たとえ死んでも約束は守り通します!!」

「「「「ますっ!!」」」」


 一糸乱れぬ動きで整列しそう宣う皆様。うん、裏切りとか考えられないからいいか。


「......死ぬとかの事態になる前に俺に伝えてくれ。モノは後日渡すから待ってて」


「「「「はいっ」」」」


 羨ましそうにこっちに視線を投げかける従業員やアラクネはスルーした。君らはそんな事よりうちの子に集中してなさい!!




 ◇◇◇




 その後は一発芸大会(優勝者忍者)、ビンゴ大会(優勝? 料理長)、研究結果発表会、エセVR射撃大会(一般人の部、天使の部、商会の部)と催し物は進み、皆がいい感じの疲労感と高揚感に包まれたのでそろそろ俺のサプライズのお時間となった。

 一発芸はあの忍者があんな事をするとは思わなかったし、ビンゴは料理長がほぼストレートでビンゴ、研究結果発表は俺の目が幸せになり、エセVR射撃はとてもアツかった。いい日だぜ......へへ。


「それじゃ一旦十分くらい休憩しようか。従業員さんたちには悪いんだけど、その間に会場の真ん中らへんにスペースを空けといてくれると嬉しい」


 はーいと元気よく返事が帰ってきたので早速準備へと取り掛かる。ふふふふふ、俺のサプライズで狂喜乱舞するが良い......



 颯爽と外に出て周囲を見渡し、面倒事は起きてないと確認。裏の方が何やら騒がしいがそんなん知ったこっちゃない。


「かもーん某企業のあの不思議な鞄っぽい何か!! あーんどケーキいっぱい!! あーんど特大のウェディングケーキ!!」


 細かい指定は頭の中で行いながらどんどんお取り寄せしていく。俺がこれから行うのはこの世界初のケーキバイキングである。それもバイキング特有のちょっと安っぽい残念さが抜けないクオリティではなく、俺が美味しいと胸張って言えるクオリティのモノを取り寄せたハイグレードバイキングだ。

 あっちにいた頃はこんな夢のような事出来なかったからホント幸せだ。


「......ふむ。ブツはちゃんと要望通り、ケーキのクオリティも俺が知ってるモノと同じ......ヨシ!」


 何やら周囲が騒がしくなって来たのでブラックカーテンを展開してシャットアウト。その間に不思議な鞄へモリモリ詰めていく......ってよりも何か知らんが鞄を開けたらヤツが勝手にケーキを吸い込んで言っている不思議。

 中に入ったのが消えてないか不安になったので一度止めて確認したりしたが停止も吸引も自由自在、取り出しも恙無く行えた。楽できてよかったぜ!!


「よし、お届け開始だ」


 全て詰め込み終わると鞄を背負ってホテルへ入る。従業員さんたちはちゃんとスペースを開けてくれていた。まじ助かるありがとう。


「「「お帰りなさいませ!!」」」


「キュゥー」

「メェーッ」

「くぅーん」


 俺の帰りを待ち構えていた従業員&商会員の御出迎えに驚き、俺が抜けて寂しかったのか帰還と同時に甘えてくる三柱の熾天使を受け止める。

 ......ちょっと思ってたんと違うけどコレはコレで幸せだから何も言わない。


「よーしよしよしよーし」


 とりあえず準備のためとはいえ、寂しくさせてしまったのは事実だから甘えてくる天使たちを思いっきり慰める。その光景を見て何故かてぇてぇと零す人たちは無視した。なんでンな言葉知ってんのや!


「続きは後でやってあげるからちょーっとだけ大人しく席に着いて待っててくれるかな? ほら、皆待たせるとアレだし......ね?」


 少しだけ悲しそうにしながら頷くあんこにキスをして立ち上がる。俺の良心をフルボッコにする表情はやめてくださいお願いします......この後全力で巫山戯るつもりだったのにぃぃぃぃ!! そんなテンションじゃ無くなってもーたやん......


「......どーもーウーバーイッヌでーす」


 せっかく鞄のロゴもアレっぽく改造してきたのに地獄のような空気が辛すぎて泣きそう。主に俺の自業自得なんだけど。


「特大バースデーケーキとケーキのお届けに参りましたー。こちらがお品物デース......」


 空いた中央にクソデカ円卓を出して特大バースデーケーキを出し、その四方に縦長のテーブルを起きバイキング形式っぽくケーキを並べていった。

 俺の周囲だけにある地獄のような空気は周りには感染しておらず、ウチの子たちや他の人たちは陳列されていくケーキに釘付けになっていた。


「えー、俺からのサプライズのケーキバイキングです。従業員の皆さん、商会員の皆さん、ウチの天使たち皆の協力で最高のバースデーパーティーになりました。コレはお礼ですので業務とかは忘れて好きに取って好きに食べてくださいねー」


 蝋燭フーフーやお歌はカットした。皆さんの目がキマってて待ちきれない様子だったからだ。

 その証拠に言い終わる前にケーキへと群がっているからね。まぁ皆楽しんでくれているようで俺は嬉しいよ。


「あんこはケーキ食わないの? ん? それよりも今はギューってしてって......すりゅに決まってるよぉぉぉぉぉぅ」


 ちょっとだけ今後の予定が頭から飛んだ。つか予定とかどうせ予定でしかないからどうだっていい。


「甘えんぼ発揮であんこの可愛いがオーバーフローしてるぜ......へへへへ。じゃああんこの為に用意した特大ケーキを一緒にカットしよっか」


「わんっ」


 元ウェディングケーキのバースデーケーキをあんこと一緒に入刀して切り分けていく。ファーストバイトは君の物だよ。


「はい、あーん」


 尻尾をはち切れんばかりに振りながらケーキに食いつくあんこを見て幸せを噛み締める。


 うん、今年も素晴らしい誕生日だ。来年も再来年も、その後もずっと毎年お祝いするからね!!





─────────────────────────────


 忙しくて金曜日無理でした。すみません。

 同僚が体調崩したりコロナったりとか......まぁ変な気候だし色々解禁されたりで仕方ないんだろうけど。

これからグッと冷えるそうなので、皆さん体調管理にはより一層注意してくださいね。

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