第317話 検証してみた

「......キュッ」


 あかん。


 シアン殺人未遂事件を起こしてしまったウイちゃんの贖罪ご褒美タイムが邪魔されてしまった所為で、ウイちゃんがこれまで聞いたことがない不機嫌な声をお出しになられたっ!


「おーよしよし、空気の読めないクソ野郎とエンカっちゃったねー。こんなのの為に可愛くて優しいウイちゃんが怒ることないんですよー」


「......グゥゥ」


 とりあえず秒で宥めた。すっげぇ納得いってなさそーな声出してるけど。


「無礼なっ! この変態を不敬罪で処刑する! 引っ捕らえいっっ!!」


 なんだコイツ......さっきから変質者だの変態だの失礼すぎやしねぇか?


「変態? 変質者? こんな普通の一般市民をそんな風に罵るとか生ゴミ貴族ってやっぱ頭おかしいわ。まぁそんな事どうでもいいけどマジなんで絡んでくんの? このホテルに俺は真っ当な手段で半年前くらいに予約入れてたんだけど」


「半裸で何を言っておるッ!! 目に毒だ!! 早く捕らえろォォ!!」


 ......やけにウイちゃんが気持ちいいと思った。そうだったわー着替えてなかったわー。まぁモザイク処理が必要な事態ではないからいいよね。


「まぁまぁ、店の中で暴れると迷惑だから外に出ましょうか。とりあえず俺は外に出るから続きはウェb......外でやろうねー」


 今日はなんてったって世界の祝日になってもおかしくない日だからね。その記念すべき日に使用する会場が血腥いとかありえんてぃ。


「構うなッ!! 殺れッ!!」


 捕らえるんとちゃうん? なんか物騒な感じの言葉が聞こえた気がする。やだわー、蛮族怖いわー。

 ............我慢だ。今すぐ消したいけど外に出るまでは我慢。ゴ〇さんを壊したい気持ちを我慢してる時のヒ〇カもこんな気持ちだったのかなぁ。


「......ウイちゃんは我慢しててねー。ほらむくれないの! よーしよしよしよしよし」


 避けても問題ない攻撃は避け、避けたらフレンドリーファイアしそうな攻撃は弾きながら外へ出てホテルの裏へ進む。表でやるとこの後のエスコートの時に不快になるからね。

 呆然とした表情の取り巻きトカゲ共だったが、ウイちゃんを撫でながら中指を立ててやったらすぐに外へ出てきてくれた。


「待てやゴラァ!!」

「もう逃がさねぇぞ!!」

「死ねェ!!」


 野盗の方がまだ上品じゃねぇかって形相と言葉遣いで襲いかかってくる。俺が頑張って我慢してるのにコイツらはちっとも堪えてくれない。

 なので喧嘩を売った相手の力量の一端を先頭のヤツを生贄に見せてあげよう。


「我が天使様であるあんこたんの誕生日にわざわざ喧嘩を売ってきたアホ貴族がいるんですよー!」


 取り巻き共はわざわざご丁寧に抜刀してくれている。目撃者もいっぱい居るし正当防衛成立だよね。


「なー......にーーー!? やっちまったなぁ!!」


 大声で寒い一人芝居を続けて目撃者を増やす。ほらお前らもっと注目しろ!!


「漢は黙って......正当防衛ッ!!」


 金切り声と怒号、囃し立てる声。

 周囲は順調に騒がしくなっていてとてもいい感じ。機は熟した。


 収納に手を入れ得物を掴み引き摺り出し、目を瞑りながら振り上げ、思いっきり振り下ろす!!


 ―――パァァァンッ


 やってから先に緑のペンキをぶっ掛けてからにした方が良かったなぁと反省した。


 格好も格好だしスイカ割りでもしようと思い立ち、頭部をスイカに見立てて割ってみた。中身スカスカそうな言動をしていたスイカだったが意外や意外。

 果肉がぎっしり詰まっていて良い音を出しながら炸裂してくれた。


 すんごい久しぶりの登場であるバール君、君はとてもいい仕事をしてくれたよ。ありがとう。


「さぁ次のスイカは......君に決めたっ!!」


 ......杵でも良かったな。冷静なポコさんを真似するならそっちだったわ。師匠と呼ばれるにはまだまだだったらしい。

 そんな事を考えている間にも事態はドンドン動いていき脳漿や血肉が地面に飛び散り赤い華を咲かせ、頭髪付きの頭皮が植毛されていく。首から下は綺麗に残っているので後で片付けをしっかりしないといけない。あんこのエスコートにレッドカーペットは必要だと思うけどこんなレッドカーペットはノーセンキュー。


「キュウゥゥゥゥゥ!!」


 ポンッ! ポンッ! ポンッ!


 夏の風物詩と言えば花火もあったな。忘れてたわ。

 俺の不手際を叱咤するようにウイちゃんも参戦し、王都に汚い花火を咲かせていく。結構なお手前ですねぇ。


「お前らは魔法で手抜きしないで一匹一匹ちゃぁぁぁんと物理で始末してあげるからねぇ。それに、ここまで派手にやれば貴族連中も流石に気付くでしょ? 動物を連れた男に絡んだ貴族が一夜にして滅びたとか何とかって......なぁオッサン、聞いた事ない? それっぽい噂」


「な、なんでこんな事に......はっ、いや......まさかそんな......」


 心当たりがあったのか大人しくなった生ゴミ。そうそうそれでいいんだよ。異世界ではどうかしらないけど普通の生ゴミは喋らないからね。

 俺? 俺はそんな噂は知らないよ。なんとなく適当に言ってみただけ。適当に暴れた過去をそれっぽく言った。


「まぁいいよ。この後予定詰まってるから巻きで行くよ! 人様を雑な理由で殺りに来たって事は、返り討ちで殺られる覚悟を持っての事だろうし......ね」


 ニッコリと微笑んでからスイカ割りを再開する。慈悲は無い。


「......ハァハァ......素敵です......ンンっ」

「嗚呼、流石でございます」

「あの御方の芸術的な肉体を拝める機会を与えて下さった事を感謝致します......ァンッ」


「誰か! 誰でもいい! 金はやるから助けろ!!」


 今更焦ってももう遅いんだよお貴族様。さぁ仕上げだよ......あと、うん。多分商会の子だろうけどイきかけてない? こんなとこでビクンビクンするのは止めようか。


「杵さんかもーんぬ」


 ▼冷音の杵

 氷属性を持ち、撞けばクールな音を出す頑丈な杵

「なーにー? 殺っちまったなぁ!!」▼


 禍々しい魔法陣から出てきた武器さん。久しぶりに武器をお取り寄せしてみたけど、何これぇ?

 ......深く考えたりツッコんだりしたら負けだろう。ピコピコハンマー亜種って事にしておく。


「商会の子、いるよね? コイツの家の場所を調べておいて。報告はこの後のパーティーの時にお願いね」


 独り言を呟くように言った言葉だったが、しっかり忍者みたいな子に伝わったようで言い終わると同時に気配が遠ざかっていった。ちょっとアレだけど皆優秀でいいね。


「さぁお待たせ。安心していいよ仲間はずれは作らないから......誰一人として生きて返さん」


 ―――キィィィィィン


 杵が何故こんな音を出せるのか不思議で仕方ないが、握りやすさと振り心地が手に吸い付く様に気持ちいいから気にならない。

 インパクトすれば火薬を仕込んであったかの様にパァンと綺麗に炸裂する人間の胴体、四肢、頭部。真っ赤な絨毯が広がっている。貴族の血は青いとか嘘もいいとこだよね。

 フヒヒッ、クソ貴族......お前はメインディッシュだからそのままそこで大人しく腰抜かしてろ。





 楽しい時間はあっという間で、ウイちゃんと俺の王都汚ぇ大花火大会は残弾が尽きて終了間際となってしまう。ギャラリーは終わりが近付くにつれ減っていき、現在フィナーレを待つのは見知った顔がチラホラとこういうのに耐性のある人だけとなっていた。

 騒ぎを聞き付けてやってきた衛兵は半分が地面の染みに、もう半分は呆然と立ち尽くしている。仕事しなくていいのか税金泥棒。


「えーお集まりの皆様、宴も酣ではございますが次が最後の演目となります。この名前も知らないお貴族様が本当の貴族か......はたまた貴族を僭称する不届き者か......この場で暴いてみせようと思っておりますので是非とも御観覧くださいませ」


「ふっ、不敬なっ!! 貴様ァァ!! 儂は本物の貴族であるぞっ!! 巫山戯るな!!」


 笑い声がギャラリーに広がり、血塗ろな現場には似つかわしくない和やかな雰囲気となる。何処からも擁護の声が聞こえない事から、こいつは消してしまっても問題の無い輩だと再確認できた。


「おい兄ちゃん! どうやって確認するんだ?」


 最初っから最前列で酒瓶片手に鑑賞していたオッサンが声を上げた。


「おっ、いい質問だねオッサン。まぁ簡単な事だよ。普段からコイツらは貴き血とか青い血とか言ってるでしょ?」


「ガハハハハ! そういう事か! いいぞ兄ちゃん!」


「だろ? でもオッサン、それにギャラリーの皆......本当にやっちゃっていいのかい? コイツが本物だった場合俺らはヤバい事になるぞ?」


「いいんだよ! たまに王都に来ては無茶苦茶やっていくソイツは恨まれてっから。俺の親友の店なんてぶっ壊されちまったしな」


 ......なるほど、似たような事よくしてんだね。オッケー、この俺が月に代わってお仕置きしてやるよ。


「それでは皆様カウントダウンをしていくんでご唱和ください。いくぞー! さーん!」


『『『『にー! いーち!』』』』


 皆さんノリノリです。ギャラリーもオッサンと茶番を繰り広げている間にいつの間にか戻ってきていた。


「や、やめっ......」


「ドーーーーーン!」

「キュゥゥゥゥ!」


 一で構え、二で振りかぶり、三で振り下ろした。嬉しそうに一緒に声を出すウイちゃん可愛い。


「ぎゃぁぁぁぁあ」


 振り下ろした血塗れの杵の先、左足からは青い色流れ出ておらず、よく見る赤い血が流れていた。


「おいおいおいおい、お貴族様よォ!! なんで赤い血ィ出してんだオイ!! 貴族を僭称した一般人じゃないですかーやだー」


「ぐぅぅぅ......貴様......許さん......許さんぞ」


 爆笑するギャラリーと青い顔で震える衛兵&お貴族様との温度差が凄い。お祭りよりも盛り上がってんじゃね? 王都の祭り知らんけど。


「......あーまだ確定じゃない感じ? んー......右足からなら青いの出る? それとも右腕左腕? はたまた心臓から直接だったらどうなるのかな? 試さないとダメだね。たった一箇所違っただけで詐欺師って言われても可哀想だもん。しっかり検証しなきゃ」


 脚を抑えて呻く貴族様に追撃をかますと、青を通り越して真っ白な顔になった。「や、やめ......」って言ってるけどしっかりした証拠を突き付けないと冤罪を生み出してしまう。冤罪ダメゼッタイ。


「大丈夫、俺はお前らお貴族様みたいな気分次第の処刑とかしないから。しっかりお貴族様の皮を剥いで詐欺師の中身を露わにしてみせるよ!」


「さ、詐欺師......詐欺師です......だから命だけは......」


「衛兵さーん、聞いたね? この詐欺師は貴族と偽って好き放題やらかし、一般人に向けて強盗未遂、殺人未遂、恐喝、暴行などをカマしてきたから返り討ちにしただけですよー。俺は何も悪くないよね☆」


 これまでのいざこざと違ってこの後に王都で用事があるから絶対に邪魔されたくない。これでダメなら目撃者をナイナイしちゃわなければいけなくなる。


「い、いや......だが......」


「衛兵さん......まさか衛兵さんも衛兵を僭称する野盗という事か。ならコレも片付k「いえ! 違います!」......そっか。なら俺はお咎めなしだね。じゃあこれで因縁は無し! サクッと終わらせるね!!」


「あっ......待っ」

「助け......」


 パァンッ―――


 なんか面倒な事を言い出しそうだったから急いで腰から上を吹き飛ばした。これにて一件落着ゥ!


「あー疲れた......それでは皆様、『貴族の血は本当に青いのか検証してみた』に御付き合い頂きありがとうございました! ではではさようならー」


 見ていた商会の子とオッサンに手を振って速やかにその場を後に来た。色々ありすぎた今日だけどメインはこれからだ。さっさと帰って準備しなきゃ!




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 よくテレビとか見れていたあの頃、ク〇ルポコとヒ〇シが好きでした。最近のお笑いは見てないのであんまわかりません。

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