第315話 宴の前の平穏

「きゅぅぅぅー」

「メェェェェェ」

「ぐほっ」


 早起きして作業していた所為か、食べてすぐ眠くなるというちびっ子ムーブをかましてしまった。

 起きる順番としてはいつも後ろから数えた方が早い末っ子姉妹が本日は早起きしたらしく、お腹が空いたのか寂しかったのかは知らないが、お目当ての俺を探し当てたから突撃したと供述した。


「おはよう。お腹空いたの? それとも起きたら俺が居なかったから寂しかったの?」


『おなか!』

『へった!』

『『なんか甘い匂いする!!』』


「あっ、うん......あー、この匂いの元は後で使うからあげられないんだよ。ごめんね」


 寂しかったよと言って欲しかった。たとえ本音はお腹空いただったとしてもッッ!!


「メェッメェッ」


「......なんでしるこはつのでつく攻撃をずっとしてるのかな? 可愛い角でも尖ってはいるから少し痛いんだけど......もしかして甘いの食べたかったのかな?」


『そうだー』

『よこせー』


 角で突っつかれ、尾鰭ビンタを食らいながらこの子たちの朝食の準備を始めた。作り出しても止めてくれないのは悲しかった。よし、気を逸らしてみよう。


「他の皆はまだ起きなそうだったりする?」


『んー......見てくるー』

『るー』


 あわよくば......な気持ちだったが、思ったよりもチョロかった。すんなりと攻撃は止まり、姉妹は寝室へと走っていった。


「さ、準備準備っ」


 なんでウチの子のスキンシップは、防御力を無視して俺に痛みを与えられるのだろうか......


 不思議だなぁ。


 この日の朝食はスーパー〇ップバニラ味を溶かして卵と生クリームを合わせた卵液に食パンとフランスパンを浸して作ったフレンチトースト。

 バニラエッセンスとか砂糖追加しないでもいいから楽でいいし、何より美味しいからアッチにいた時よくやっていたもの。もし甘さが足りなければメープルシロップか蜂蜜を追加すりゃええねん。

 染み込ませるのはなんか魔法的な圧力でどうにかなるし、焼く時はフライパンだけでなくホットサンドメーカーさんを使えば二種類の焼き加減の物が味わえてお得なのだ。ビバ情熱南米h......じゃなくてビバ文明の利器!!


「きゅぅぅぅ!!」

「メェッメェッ!!」

『おはよー......』


 皆が起きているか、起きそうなのかの確認に行った筈なのに......全員を起こして連れてきたウイちゃんとしるこがでんこうせっかを使って突進してきた。


「おはよう皆。ウイちゃんとしるこはお帰りなさい。料理中は危ないから時と場合を考えて行動してねー。フライパンやコンロに突っ込む君たちは見たくないよー」


 糸でネットを作って優しーくふんわりとした捕獲をした。害獣捕獲に用いるようなえっぐい糸だったりスッパスパ切れるギザギザハートな糸モドキだけど、いつの間にかこうしたふんわりとした糸にもなるようになっていた。俺に何かあったのか......便利だからいいんだけど。


『ねぇ! もう食べれる? ねぇ!』

『いい匂い! 早くっ早くっ!!』


「はいはい、もうすぐだから大人しく席に着いて待っててね。あんこたちは顔を洗っておいで」


『『『......はーい』』』


 寝起きの悪い皆は緩慢な動きで洗面所に向かってヨチヨチフラフラ歩いていく。野性味の無い姿って本当に可愛い!! しゅき!!

 野生から見たらウチの子は腑抜けとか牙を抜かれた敗北者のように映るかもしれない......だが! 俺はかっこいい野生の生き物よりも、ゆるキャラ化した生き物の方が好きだ。うん、何言ってるんだろう俺は。


「あかん......可愛さで脳がないないされてもうた。相変わらずウチの子たちはキメすぎると人格への影響がヤバいぜ......へへへ」


 あ、帰ってきた。まだふわふわしてるけどさっきより起きてる感が上がってるな。これもまた可愛ゆし。




 ◆◆◆




 ~某ホテル前~


「おいッ! 何故こんな聞いた事もないような所に来ているのだ? 何時もの所はどうなってる?」


「お伝えした筈ですが......いえ、こちらの伝達ミスでございます。申し訳ありません......宿泊客にまで手を割けないので昨日と本日は休館にしたと......」


「何故あそこは休館してるんだッ!! 儂が泊まるという事を伝えて無かったのか貴様ら!! 儂ら以上の上客など国には数える程しかおらぬだろうが!! 何処のどいつかを調べてこいっ!!」


 長年のライバル関係だった侯爵家が突如災厄シアンによって滅ぼされ、その侯爵家が担っていた商売等を周囲と多少は揉めたが、それほど苦もなく吸収できた事でこれまで以上の権力と勢いを入手した。

 侯爵以下は勿論手を出せなくなり、公爵や王族にも真っ向から意見できる程に膨れ上がったのだ。


 有能ではある。有能ではあるのだが、元々権威を振りかざして威張る傾向が顕著であり、吸収以降はそれにより強いブーストが掛かった。

 部下の間では「決して不機嫌にさせるな。不機嫌にさえさせなければまだ御す事はできる」という言葉が広まっているくらいである。 


 今回の件はご機嫌な時に報告し許可が出たので気を抜いてしまっており、こうなる事は予測できていなかった。そして、こうなってしまえば手が付けられない。

 不幸中の幸いな事と言えば、ホテルを休館にさせられるほどの権力者が相手なので最後は大人しく引いてくれそうな事か......


 ―――そう思っていた部下一同だったが、予想は呆気なく裏切られ主は憤怒に染まる事となる。

 その憤怒を向けた相手は王以上にアンタッチャブルな存在とは露とも知らずに......




 ◇◇◇




「......んー、時間までどうしようか。お昼ご飯前には皆の仕事は終わるだろうし」


 朝食を食べた後はシアンと戯れてから個々の仕事へと向かっていった皆。あんこと鳥ちゃんズは末っ子のお世話をしてくれている。

 最新のウチの子の情報はこんな感じとなっている。


 近頃のワラビは「雷でキノコがよく育つんだったよな確か......」と俺が漏らしてからピノ農園でずっとバチバチやっている。ピノちゃんに農耕馬として駆り出されて以来ちょっと農家に興味が湧いたらしい。

 最近のヘカトンくんは牛のスパーリングパートナーの職務が増えた。俺に勝つイメージが湧かないのでって理由で挑まれてるんだってさ。でもそのスパーリングでいい感じにストレス解消されているのか牛の肉質が驚く程向上、まだ美味くなる余地があるとは侮り難し......是非ともこのまま続けてほしい。

 ピノちゃんは相変わらず農家をしている。地球産の種からハイブリッド異世界野菜に魔改造されていく野菜共......これのおかげで俺はセロリが食えるようになりました。ありがとうございます。


 ダイフクとツキミちゃんは周辺の索敵や間引きを午前にやってから午後はゴロゴロor保育係or俺の相手をしている。超感度レーダーを装備したステルス固定砲台から放たれる漆黒と純白の弾丸が寝てたり隠れたりしている獣の頭を一撃でぶち抜く。これでもまだまだ成長中とか末恐ろしすぎぃ!!

 あんこは長女なのでウチの庭全体の平和維持や把握に務めている。ファンタジーわんこだけどわんこの性質があるので、縄張りと定めたら固執するタイプなんだと思われる。あとその為に動くのは頑なに散歩と認めない。『散歩はご主人と行く事を言うの! だから違うの!』だって......可愛すぎて捥げそう。しゅき。

 今度ツキミ&ダイフクのパトロールに着いていきたいって言ってた。お見送りは任せて欲しい。


 んで、俺は専ら主夫業に勤しんでいる。肉や野菜、素材などの戦利品は大体全部俺に預けてくるから、もしかしたら従魔ズのヒモとも言えるかもしれない。

 出稼ぎとかした方がいいのかな? と思うけど、いつも思うだけに留まる。あの子たちと離れたくないからちかたないよね。


『ただいま! ご飯食べたいっ!』


 そんな事を考えていたらあんこが帰宅。一頻り撫でてから昼食を運んでいると続々と皆帰宅してくる。

 我が子を迎える親生活がめっちゃ充実してるからこれでええねん。たとえヒモと大差なくとも。

 専業主婦はヒモと思われないのに、野郎だとヒモと思われるってまだまだ意識改革が足らないね。ははは。


「さぁたくさん作ったからいっぱいお食べ」


『『『『いただきまーす』』』』

「きゅぅぅぅ!」

「メェェェ!」


 この可愛い姿を見る。これは俺だけの特権。

 ふふふ、パーティーまでまったりゆったり過ごそう。久しぶりに玩具全開放しちゃうぞー!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る