第313話 ガンギマる夜会
あの森から出て、そこからアラクネ王女御一行と出会い、確か......宿で打ち立てた一大プロジェクト。
それが遂に成就して俺の目の前に舞い降りた。何だこれは......あぁ、ただの天使の降臨か。新装備の羽衣を装着し、ドヤ顔で氷の翼をパタパタしている姿はもう......たまらん!!
網膜に焼き付けて目を閉じればエンジェルあんこが見えるって状態にまで持っていきたいのに、何故か視界が滲む。くそっ!! なんで俺は瞬間記憶能力を持ってないんだ!!
とりあえず無意識下でビデオカメラを構えていたこの時の俺を褒めてあげたい。お前がNo.1だ。
「おぅ......びゅりほー......あめーじんぐ......」
語彙は突然の天変地異により滅亡していた。死んだものは二度と戻らないのが世の常。ははっ......惜しい奴を亡くしてしまったぜ......
エンジェル降臨からどれくらいの時間が経ったのかなんてもうわからないが、興奮しすぎて人としての機能が減衰してきたので一旦クールダウン。理由不明な視界の滲みを服の袖でどうにかして周りの反応を見てみる。
アラクネ王女御一行はなんか知らんけどスクラムっぽいのをしていた。多分抱き合って喜んでいるんだろうけど、種族的な事はよくわからないので放置推奨。
商会メンバーはお祭り騒ぎ。泣き崩れている子たちはきっと、このプロジェクトをめっちゃ頑張ってくれた子なんだろう。ありがとう。
遠い目をしながらしみじみと何かを思い出しているような子たちは、物資の調達やらスケジュールやらで苦労したんだろう。お疲れ様でした。
肩の荷とプレッシャーからの解放で酒を浴びるように飲み続ける子たちもお疲れ様。酔い潰れて前後不覚になったら、君たち思い出の葉っぱを食わせてあげるから安心して潰れるがいい。
ホテルメンバーは......アレだね、エンジェルあんこの可愛さにヤられてたけど、プロジェクトに加担していた人たちのはっちゃけ具合いにドン引いてる感じ。
わかるよその気持ち......感情ぶっ壊れ担当の俺ですらあの子たちのテンションや言動を見て冷静になれたもの。まぁしゃーない事だが付き合いの浅い君たちでは着いていけないだろう......俺ですら着いていけてないから安心したまえ。
そしてウチの子たちはと言うと、羨ましそうにあんこを眺める子、あんこは儂が育てた! みたいな雰囲気を醸し出している子、俺の視線に気付いてサムズアップっぽい事をしてくる子、ホッと一息つく子など様々な反応をしていた。すげぇ可愛い......しゅき。
色んな反応を見て心が落ち着いたので、これから本丸に攻め込むぞという心構えであんこに視線を向ける。
うん、エンジェルあんこはめっちゃご機嫌に舞台の上をひたすらパタパタと翼としっぽをはためかせて飛び回っていた。
羽根は動かす必要は無いだろうに......きっとアレなのかな。しっぽと連動して動いているんだろうな。そう思い込んでから見てみると、もうダメだった。見た者が血反吐を吐き散らかしそうなほどの可愛さがチョコレートフォンデュのアレみたいに溢れている。
「ふっ......死因はあんこの可愛さで心臓が異常なまでに活性化し破裂して死亡......か」
俺のハツはもうダメなのが理解る。痛いくらいにバックンバックンしている。すっごいね人体って。
どっかの麦わら帽子を装備したゴム人間のように、身体全体をゴムにしなければ身体のギアをセカンドに入れられないらしい。俺の体は湯気とか蒸気を出せないから身体能力は上がらずに負担だけ掛かる。
「我が生涯に一片の悔い無し!! 今日は死ぬにはいい日だ......さぁ逝こうか。釈由〇子さんにお逝きなさいって言われてる声が聞こえている」
このまま見ただけで満足して逝くか、それとも堪能して逝くか。
堪能して逝く!! これ以外選べないだろう!!
覚悟完了。逝こうぜ! ピリオドの向こうへ......
「あんこたん! 抱っこしたいからおいで!」
俺からの声掛けを待っていたのか、声を掛けた瞬間あんこたんが笑顔になり、そのままパタパタと手を広げて待ち構える俺へと飛んでくる。
ここまででもう残機が二個減った。対シアン特攻が強すぎて笑えないぜ......ゲームバランス悪すぎるからナーフして......いや、しなくていいや。可愛いは大正義だったわ。
「わんっ!!」
俺の最愛が胸元に飛び込んできたので優しく受け止めてから抱き締める。あんこの感触が、夢のような出来事が全て現実だったと実感させてくれる。ふわもこでさらさらな毛が俺の首筋を擽るのが心地よい。
「飛べるようになってよかったねぇ。めっちゃご機嫌で可愛いよーしよしよしよしよしよし......はっ!? 手が勝手に......まぁコレは世界の理だから抗えないししゃーない。
そうそう、素敵な誕生日パーティーありがとね。まさか皆に祝ってもらえるとは......生きててよかった。それで......あー......費用とか大丈夫だった?」
『えへへへへへ......』
幸せの絶頂にいるらしく、この子の耳には何も届いていないようだった。だがそんな事はこの子の可愛さの前では些事だ。幸せならそれでええねん。
パタパタとしっぽと羽根が揺れて俺を殴打してくるんだけど、氷の方が何故か俺の防御を突破してきてかなり痛い。柔らかふわモフしっぽとあん氷のカッチカチ具合いでいい感じに飴と鞭を表現しているのだろう。意図せずに俺を調教しようだなんて......この小悪魔さんめぇ。
「..................」
ダメだ。俺には無理だ。こんなあんこにすげぇ痛いから羽根の動きを止めてなんて伝えられない。
しゃーない。俺はこの子たちのパパだから我慢出来る......ただの一般人や普通の男だったら耐えられなかったかもしれない。
「くぅーんくぅーん」
「あいらぶゆぅ」
このイチャイチャは呆れ果てた顔のピノちゃんが止めにくるまで続いた。
正気に
脳内でアブない成分が出まくっている。俺だけじゃなく、参加者の殆どに。一人だとアレだけど、皆でキマれば怖くないね。
「何故正気を失っていたのだ......ちくしょうッ!! だがまだ間に合う......いや、まだ助かる......まだたすかる......マダガスカル......そーれっ☆」
再びトリップはせずにテンションを急上昇させるに留めてもふもふの海に沈む。我が覇道、止められるものなら止めてみろ!! ふはははははっ!!
「しゅき!! ちゅーぅぅぅぅ!!」
分類上のオス以外の子にキスの嵐が降り注ぎ、オスの子にはソフトタッチが襲う。正気を取り戻したダイフクが逃げ出そうとするが、もう遅い!!
『止めろぉぉぉォォォ!!』
ちょっと何言ってるか分からない。さーせん。
時折り商会メンバーやアラクネがウチの子たちの中に混ざってモフられていたような気がしたけれど、それは気のせいって事にしておいた方が良さそうだからソッとしておこう。
『ねぇねぇ』
「なーにー? どーしたのかなー?」
あんこたんの上目遣い!
シアンのきゅうしょにあたった!
何度目かわからない心臓破裂の危機をギリギリ致命傷に留め、乗り越えた俺は平然を装って聞き返す。
『いつもありがとうー! すきー!』
「ふぐぅっ......」
......何かもう
産んでくれてありがとう。遺伝子的な繋がりしか無い両親よ、それだけは感謝してあげるよ。
「俺も好き!! 皆大好き!!」
これで俺の誕生日パーティーでのイベント事は終わり、後はフリータイムとなった。上機嫌な俺はガチの無礼講を宣言し、普段は俺を異様なまでに敬う商会メンバーを労う。
―――そう、労う予定だった。本当に。
だけど宣言しても彼女らは動かなかった。
あんだけ浴びるように酒を飲んでたヤツら、泣き崩れていたヤツら、どさくさに紛れて俺に撫でられてトリップしていたヤツら。
全員、一人の漏れもなく全員が膝を付き、頭を垂れて祈りを捧げていた。泣きながら......
「......えっ!? ちょっ......なに? え、何これホントに怖いんだけど」
「...............」
なんかボソボソと言ってる感じがしたけど、声は出てなかったようで聴覚をガッツリ強化させて聞こうとしたが聞こえないかった。
読唇術とか無いしスルーしておこう。聞き取れたら聞き取れたでヤバい気もするし......放っておいて、こっちで楽しもう。
「さぁ、あっちでも滅多に飲めない酒や肉を出すから飲めや! 食えや! 騒げや! 皆ァ素敵な誕生日パーティーをありがとう!!」
「「「うぉぉぉぉ!!」」」
「「「「はいっ!」」」」
ザキヤマさんやヒビキさんなど国産ウイスキーの年代物やポン酒のお高いの、よーわからんけど高くて手の出せない泡や当たり年とかでクソ高いワイン、それからストロングなゼロさんやプレミアムなモルツさんなど色んな種類の酒を出した。
肉は三大和牛さん、ブランド豚さん、地鶏さん、ウチで放牧してる牛さん、食いきれずに収納していたお魚さんたち......まぁ、大盤振る舞いをした。
料理長や料理人は今日一でテンションぶっ壊れてたのはちょっとアレだけど、料理人ならしゃーない......うん。しゃーない。
「おっ、これ美味っ! あんこたんもどーぞ。はい、あーん」
「きゅんっ」
最高だったよ。本当にありがとう皆。
こうして俺のバースデーは特に問題はなく終わった。
ホテルに追加で金も払い、商会には素材を沢山置き、酔い潰れたヤツらには葉っぱを食わせてからマイハウスへと帰った。
......まぁ明日も使う予定なのを忘れていて、払った瞬間、既に先払いでかなりの額を貰っていて、もうこれ以上貰っても......と、微妙な表情をされてしまったけど強引に渡してきたさ。ははは。
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