第312話 天犬降臨

 本当にお久しぶりでございます。ようやく落ち着きました。お盆やお盆休みっていつの間にか九月になってたんですね......HAHAHA、知らなかったよ。

 待っていてくださった皆様、本当にありがとうございます。とりあえずくっそ眠いので行方不明期間のコメなどへの返信などは後日に......

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「わぅんっ!!」


 あんこちゃんが皆に何やら指示を出している......と思われる。サプライズを仕掛けたくらいだから企みを俺に気付かせたくないんだろう。


 ――我が子はしっかりと成長しているんだなぁと喜ぶと共にちょっとだけ......そう、ほんのちょっとだけだけど寂しい気持ちになる。余りにも早い成長で親離れとかパパ嫌いとかいつかされるのかなぁって......

 でもそんな気持ちは今は心の奥底に封印しなくてはいけない。この後に起こる出来事は、俺の為だけにあの子たちが考えてくれた事なんだから。

 ......一緒にコソコソと準備していた商会員や料理長たちにジェラってなんかいない。いないんだ。


「クルルルルルッ」

「シャァァァァ」

「わんっ」


 神秘的な明かりが煌めく薄暗い部屋の中で準備に奔走するエンジェルたちの姿に加えて美声も聞こえてくる。俺の心だけじゃなく目も耳も幸せにしてくれているのでしょう。俺もうこの世に思い残す事は無いかもしれぬ......へへへ。


「きゃんっ!!」

「キュゥゥゥゥゥ!!」

「メ゛ェェェッ!!」


 そんな風にトリップしていたら何やら準備が終わりに近付いたのか、「やれ!」とでも言うような鳴き声をあんこが発した後、間髪入れずにそれに追随するような末っ子ズのお返事が聞こえてきた。


 ............んー? しるこ&ウイちゃんがこちらに向けて走ってくるのが見える。可愛いけど少ぉし速度超過してるんじゃないかな? 俺じゃなきゃ異世界転生しちゃうくらいの勢いだよ。現代日本人を即死させて異世界に送りこむお仕事をしているトラックパイセンなんて目じゃないくらいのスピードですよ。


「わんっ」

「シャアッ」


 あの子たちの飼い主の意地に掛けて、我が子の殺人タックルになんぞ負けてなるものかと身体に力を込めたその時、あんこたちによる仕掛けがまた一つ展開される。

 あんこの犬の一声によってピノフレイムの神秘的な灯りが消されてしまった。


「結局何をするつもりなんだろうか......コレ、俺じゃなきゃ不幸な事故が起きてまうで......ッッ!! うぼぁぁぁぁぁ」


 最後に見えたのはモコモコをモッコモコにし、ウイちゃんを取り込みながら俺の顔面に飛び込んでくるしるこの姿だった。何故これで腹に......と言うか、全身に衝撃が来たのか全然わからないが......ただ、顔面は巨乳に挟まれるよりも気持ちよかったです。


「............」


「ッッ!? メ゛ェェェッー!?」


 モッコモコに包まれ、外界の事は何もわからない様に視覚を遮断。毛皮に取り込まれたウイちゃんも何かしてる様で聴覚も遮断されている。

 どうにもならないこの状況。モコモコフォルムのしるこを無理やりひっぺがして、カンニングするなんて勿体ない&空気の読めない行動はしない。


 ............ただ俺が出来るのは、目隠しとして生贄に捧げられたであろうモッコモコを堪能するだけだ。あ、この感触は......ウイちゃん見っけ!! 毛皮の中に入って俺の聴覚を遮断する為に何かしてるんだね。


 しるこのモッコモコ毛皮の中に手を突っ込み、ただひたすら【指先の魔術師】を発動する。......くっ、こんな事しか出来ない弱くて無力な飼い主を許しておくれ......ふひひひっ。


「メェェェッ!? メ゛ェェェェェッ!!」

「キュゥッ!? キュゥゥゥゥゥ!!」


 傍から見たらヤバい絵面になっている事間違い無しだろう。だが、そんなのはこの幸せに比べれば些事ゆえ致し方なし。


 まさにスケープゴートと化した羊のしるこは、あんこたちの準備が終わるまでずっと触られ続けた。準備が整って御役御免になる頃にはレイプ目でぐったりしていた。ウイちゃんは俺の一瞬の隙を突いて指先から逃れて以降は毛皮の海を泳ぎ続けていたので、こちらは疲労でぐったり......まぁうん、大変お疲れ様でございやした。危険手当とか特別手当の請求は雇用主にするんだよ。


 後になって聞いた所、あんこたち従魔ズ及びギャラリーの面々はこの時、準備に追われながらこの光景を見て、ドン引く者、どちらに対しての視線なのかはわからないが羨望の眼差しを向ける者、いつものか......と呆れる者に別れていたという。

 きっと従魔ズは皆、俺にモフられるしるこに羨望の眼差しを向けていたんだろう。うん。




 ◆◆◆




 王女さんにエスコートされ、商会員たちが総力を挙げて作成したと言う特別ステージへと案内される。全体的に見て和風味の強いステージが完成していた。

 何故かぐったりしてしまっているしることウイはメイドさんとメイドにそれぞれ抱えられ、従魔ズの控える部屋へと運ばれていった。この後出番があるか知らないが復活してくれることを祈ろう。


「......これ、さっきまで無かったけど、どうやって作ったの? あの短い間に建てたの?」


「はい。パーツだけ事前に作成しておいて、貴方様の視界を塞いでいる間に組み立て......という形になっておりました」


「パネぇな。皆が頑張ってくれたのはわかるけど、俺なんかの為よりも、本番である明日に注力して欲しかったぜ」


「それなんですけど、本当によろしいのですか? 明日は貴方様にとって特別な火ですよね。わたしたちが参加しても本当によろしいのですか?」


 ウチの子たちがこんな計画を立てているとは思ってあなかった俺は、もうほぼほぼ同居人と言ってもいいアラクネ王女さん御一行を明日のあんこバースデーに誘っていた。

 王女さんは俺らだけでやると思っていたんでしょうが、甘やかしまくられて完全に懐いているエンジェルたちを見れば誘わないなんて選択肢は出ない。

 それにこんなモン見せられてしまうと、以前からガッツリと協力させている商会員の皆も誘わないといけないという気持ちにさせられてしまう。


「もちろん。逆に誘わないとあの子たちが悲しむと思うし......ね。んな事は気にせず参加してよ」


「ありがとうございます。あ! 始まるみたいですよ!!」


 そんな話をしていると、舞台が煌めき始めた。

 キラキラのして光を乱反射させているのはあんこの出した極小の氷の粒だろう。メインの光はモチモチが出していて、装飾っぽい灯りはピノちゃん、無駄に明るくなりすぎないように制御しているのはツキミちゃん、所々稲光っぽいのも混じっているからワラビも協力しているな。......これ本当に俺金払わなくていいの? 全財産投げ打っても足りひんのちゃう?


 あ、まだ追加演出あるんかい!! あかん、プレミア演出が過多で脳汁がバグる......

 オブジェかなと思っていた灯籠が発光すると、透かし彫りの要領で作られていたらしく根元から先端まで素晴らしい出来映えだった。

 多分コレはヘカトンくんの担当なんだろう。


「ほわぁ......」


 隣で王女さんがトリップしている声が聞こえる。解る......理解るぜその気持ち......こっちの世界には皆無だろうイルミネーションなるモノと、探せば何処かにあるかもしれないが俺の知る限り俺の家でしか見ることの出来ない建造物のコラボレーション。それに俺を喜ばせる為にウチの子たちが作ってくれたものだもんな。感動を一入だ。

 と、そこで何やら音楽が聞こえてくる。


「キューキュキュ♪」

「メェェメメェェ♪」


 俺の知らないメロディで何かを歌っている末っ子姉妹。復活おめでとう!!

 多分だけどコレはハピバの歌異世界バージョンなんだろう。きっと多分めいびー。ギャラリーの皆も手拍子をしてノリノリになっているから正解だろう。


「ふふふ、改めましてお誕生日おめでとうございます。これからも仲良くしてくださいね!」


「ありがとう。ウチの子共々よろしく」


 そこからは再びお祝いの言葉を皆から受け、お腹も落ち着いてきていたので料理を摘みながらエンジェルたちの出し物という名の一発芸で目を潤した。

 甲乙付け難いがその中でも一番よかったのは皆がしることドッキングして、しるこコスをするという物。


 モッコモコになる皆が愛おしくて素晴らしくて萌えた。萌え盛った。もうペンペン草すら生えていない。

 しるこ毛からヒョコッと顔を出すピノちゃん......あれば特にエグかった。ついでにワラビの巨体にも対応できるしるこは凄いと思いました。



 そんなこんなで笑顔と緩んだ顔の絶えないシアンバースデーパーティーは進んでいく。名残惜しいが時間という物は有限であり、当然始まりがあれば終わりもある......とうとうこの宴も最後の催しとなってしまった。


「コホン、残念ですが次が最後の出し物になります。ここからは不肖、このプロジェクトの責任者を任せて頂いた商会の長である私が司会を担当致します」


「......プロジェクト」


 最後と言う言葉で残念な気持ちになった俺だったが、プロジェクトという言葉で気が引き締まる。まさか......まさかだよ? あのプロジェクトが成功していたのか!! ちょっ、マジかよオイ!!


「説明は後ほど、シアン様が待ちきれない様ですので先にお披露目と参りましょう。......ふぅ、ではお願いします」



 勿体つけることも無く舞台が暗転し、ピノちゃんとダイフクの合作だと思われる天使の梯子の演出と共に、余りにも自然に天使が舞い降りた。


 余りにも呆気ない天使の降臨。だが、それはこれまで見てきた物全てより美しく、綺麗だった――

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