第311話 サプライズ

 ―――三月三十一日~某商会~


『ねぇ、ちゃんと用意できた?』


 愛らしい動物たちがとある商会に訪れていた。その傍らにはいつも居るはずの飼い主の姿は無い。


「はい! ばっちりです!」

「こちらが頼まれていたお品物になります。ご確認ください」


『どう?』

『ばっちりじゃない?』

『いいと思うよー』


 飼い主抜きで何か取り引きをしていたのだろう。約束していたブツを受け取り、中身を確認。

 希望通りの品が出来ていたようで、皆満足そうに頷いている。


「ありがとうございます!!」

「我らにこのような大役をお任せくださった事、真に感謝致します」

「よかったよぉ......」

「「「うぅっ......ぐすっ......」」」


 泣き崩れる者、恍惚とする者、ホッと胸を撫で下ろす者、誇らしげに胸を張る者など、反応は様々。


『ありがとね!!』

『『ありがとー!』』


「こちらこそです!!」


 愛らしい動物たちから送られる感謝の言葉にだらしなく顔を緩めている。が、それを指摘する者はいない。このような反応をしてしまうのは当然と思う者しか此処にはいないのだから......


『もう一つ頼んでた方はー?』

『問題なさそう?』


「我らの持てる力の全てを使って御用意しております。きっと満足して頂けるかと!!」


『それなら安心だね!!』

『期待してる』

『よくやったのー!!』


「そのようなお言葉を......うっ......」

「生きててよかった......」


 もう一つしていた頼み事、そちらの方も抜かりないらしい。全幅の信頼とも取れる言葉を投げかけられ止まっていた涙が再び流れ出す。


『じゃあ報酬なんだけど......本当に最初に決めたのだけでいいのかな?』

『なんかそれだけじゃ悪い気がするけど......』

『『ばっちこーい!』』


 貰う物を貰った後はお会計のお時間となるのは当然の事、愛らしい動物たちはそれぞれお支払いすべく動き出した。

 この光景を飼い主が見たら、「偉い! 可愛い!」と叫び、滂沱の涙を流しながら発狂するだろう。


「あ、あのですね......こちらとしては既に返しきれない恩があります......それを少しでも返せればと思って今回の件に臨ませて頂いたので......そこから更に報酬があるとなると、こちらとしては心苦しいのですが......」


『それはダメっ!!』

『今回だけは絶対に受け取ってもらうから!!』

『『ばっちこーい!』』


「意思は固いのですね。わかりました......では遠慮なくお支払いを受け取りましょう。貴女たち! 一切遠慮なんてしてはいけませんよ!」


「「「はいっ!!」」」

「「「きゃぁぁぁぁ!!」」」


 この日、王都の某商会でもふもふプレゼンツの宴が幕を開けた―――




 ◇◇◇




 翌日、四月一日。


 シアンは朝、いつもの時間に目を――覚ませなかった。


『どーーーん!』


「うぼぉあぁぁぁぁ」


『おはよー! 起きて起きてー!!』


 まだ日も登っていない時間に巨体バージョンのモーニングフライングボディプレスから、即座に子犬バージョンに戻って顔面ぺろぺろを繰り出したあんこ。

 彼女はこの日が楽しみすぎるあまり、ほとんど寝ていない。寝るのが大好きなだけで寝なくても大丈夫な彼女は、朝(深夜)からめちゃくちゃ元気だった。


「お、おはよう......おはよう? まだ真っ暗だけどどうしたのかな?」


『おはよー! えへへへへー』


「......ウチの天使が天使すぎてヤバい」


 あんこのテンションがどこかおかしいなとは思いながらも、寝起きの頭はあまりの可愛さにヤられて即刻思考するのをやめた。

 ここ数日、皆が素っ気なかったりコソコソ何かをやってるようで、俺はかなり寂しかったんだ。だからすぐにメロメロ状態にされるのは仕方ない。



 その後、俺はいつも朝食を用意している時間ギリギリになるまであんことイチャイチャして過ごした。ギリギリまでだ。決してオーバーしていない。

 すこーーーしだけジト目で見てくる他の子たちを華麗にスルーして朝食を食べ、片付けをした後はマッタリイチャイチャタイム。この時はいつもは滅多に甘えてこないホワイトコンビも混ざってくれてとても幸せでございました。

 皆が軽くソワソワしているように思えるのは何でだろうか......違和感はあるけど甘えてくれるのが嬉しい俺は大人の対応を心掛けて甘々を甘受した。


「くぅん」

「クルルルル」


 イチャ甘タイムが終わり、ピノちゃんとヘカトンくん、ワラビ、メイドが仕事をこなしに出ていった後も甘えんぼ筆頭のあんことツキミちゃんがベッタリくっ付いて来てくれている。

 上半身を甘えんぼ姉妹、下半身は末っ子姉妹に占拠され、王女さんとメイドさんはおやつとお茶を用意してくれた。なんだろう......何か企んでいるのだろうか。ここにワイングラスとシャム猫が追加されていればなんちゃってプチセレブという言葉がピッタリ嵌っていたと思う。


「なんかよくわからないけど今日が命日だと言われても悔いは無いわ」


 なんか今日は何もさせて貰えない日なのか知らんけど昼食時になってもこの接待モードは終わらなくて、昼はメイドさんメイドの昼飯を食べ、夕方までマイ天使ズとずーっとイチャコラして過ごした。



『むふー! まんぞくした!』

『くるしゅーない!』

『そろそろいい時間だね』

『そう? じゃあわたしたちは着替えてくるから、ご主人はカッコイイ服に着替えておいてね!!』


「えっ!? アッハイ」


 そう言って王女さんとメイドさんを引き連れて引き上げて部屋から出ていってしまった。何やねん。

 急にカッコイイ服って言われても......フォーマルかカジュアルくらいかは指定して欲しかった。まぁあの無敵スーツでいいか。


「......さっきまでとの落差やばいなぁ。喪失感的なアレがヤバくて寂しい」


 べ、別に、悲しくなんてないんだからね!!




 ◇◇◇




「......えっ!? 何これ?? 皆でお揃いのリボンを首に巻いてめっちゃ可愛くなってるやんけ。んで、あんこちゃん? お口に咥えてるのは転移石かな?」


 超絶ドヤ顔で部屋に戻ってきたマイエンジェルズ&アラクネ御一行。ドヤ顔にツッコミを入れる前におめかししてるのを褒めた俺を褒めて欲しい。ワラビと末っ子姉妹はいない。何故だ。

 それと......なんであんこが転移石持ってるん? 俺、あの子に転移石渡した事あったっけか?


『早くこっちきて!!』


「......う、うん」


『じゃあいくよー!!』


「お、おー!!」


 そして、俺は目的地を告げられる事無くどこかへ飛んだ――




「「「「ようこそいらっしゃいませ!!」」」」


「あ、どもっす」


「キュキュー」ビシッ

「メェェェェ」ビシッ


 シアンは こんらん している▽


 ミステリアス商会総出でお出迎え&末っ子姉妹がドヤ顔で敬礼している。わけがわからないよ。


「それでは御案内致します。外に馬車を待機させていますので......」


 あんことピノちゃんに引き摺られるように商会を出て馬車に押し込まれた。馬車を牽く馬はネクタイを着けたワラビ。


「ケェェェン」


 ワラビが一鳴きすると馬車が動き出した。


「そろそろ説明してほしいんだけど?」


『『『内緒ッ!!』』』

「内緒でございます」


「......ッス」


 ダメだこりゃ。諦めて結果を待つしかないな。

 王都、礼装チックな服装、皆オサレしてる......まさかだけど貴族位を得たとかじゃないよね? 商会が札束ビンタしたとかちゃうよね?


 不安だ......




 ◇◇◇




「到着致しました」


「ありがとう。んでなんで此処に連れてきた?」


「あんこ様方の指示でございます。あんこ様方の用意がございますので、申し訳ありませんが五分程馬車の中でお待ちください」


 そっかー。あんこたちの意向なら従うしかないね。

 という事で俺はワラビと共に馬車で待機。あんこは目的地であるホテルに入っていった。

 そのホテルは山賊焼きっぽいのを作ってくれた料理長の居る所。知ってるとこでよかった。


 でもなんでこんなに仰々しくしてるんだろうか......そう思っていた。五分程度はすぐに経ち、お迎えがきて中へと案内された―――





『『『『『『誕生日おめでとー』』』』』』

「キュゥゥゥ」「メェェェェ」


「......あー」


 そういえばそうだった。去年のいつ頃か忘れたけど俺の誕生日は? ってあんこに聞かれて、リアルのは覚えてなかったからあんこの誕生日の前日だよって適当に答えた気がする。


 そっかー......覚えててくれてただけでも嬉しいのに、祝ってくれるだなんて......

 俺の涙腺はここらへんからもう仕事するのを完全に放棄している。


『ほらーはやくー!!』


 服の裾を引っ張られたので進み、お誕生日席に座らされると料理が運ばれてくる。料理長自ら料理を運んできた。ヤツの顔は物凄くニヤけていた。


『食べて』


 料理が運ばれ、酒などの飲み物が全員に行き渡ると、食事がスタートとなった。

 この料理長の料理にハズレが無いことは俺とあんこはよく知っている。今回も問題無く美味しい。


 ウチの子たちのお世話は商会員とメイドコンビがだらしない顔をしながら行っていて、俺の出番は今日は無し。俺の世話はあんことツキミちゃん、商会長と王女さんだった。幸せすぎる。

 酒は異世界産の物だけだと物足りなかったので、あっちの世界のお高い酒も提供した。このくらいはさせて欲しい。



 食事が一段落したので皆と喋りながら酒を楽しんでいたら部屋が暗くなり、残ったのはピノちゃんが作った白い火の灯りだけでとても幻想的。


「わんっ!!」


 光景に浸っているとあんこが一つ吠えて現実に戻される。その間にあんこたちは部屋から出ていってしまった。寂しい。


「大丈夫ですよ」


「うん」


 ここからは何があるのかと聞いたが、メインイベントらしく何も教えてくれなかった。この先を知っているであろう皆の顔はゆるゆるになっていたので、きっと俺を萌え殺すような出来事に違いない。


「準備が出来ました」


 期待に胸を膨らませながら待っていたら、あんこたちの準備が整った事が伝えられた。あの子たちは何をしてくれるんだろう......楽しみだ。

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