第309話 生温かったのか甘かったのか
人はやんごとなき事情が無い限り、食事を終えた後ダラダラタイムに移行するのは至極当然の事である。むしろ生きる為に必要な行いである事以外に、ガッツリ食った後ダラける為に食事をする側面もあるのではないだろうか。
「あー......この時間やべぇな」
食べたあとにすぐ寝ると牛になるなど、身体に悪いから止めなさいと古来より言われる行為である。
片付けもせずに寝転がりながら、満腹感で動きが鈍くなったしることツキミちゃんを捕獲して愛でる。
「身体に悪いからと言われる行為、身体に悪いと言われる物や臭い物とかって、決まって幸福感がエグかったり美味かったりするんだよね......若干の背徳感もスパイスになるし止められん」
※よいこはマネしないでね! よし、これで注意喚起は行ったから後の事は自己責任だ。
「メェェ」
「クルルルルル」
チラリとサキュバスの方に視線を向けてみるが、未だに身体から気泡を発しているから、身体の修復は現在も続いているのだろう。色のせいで恐ろしく食欲を刺激されないけど......なんか天ぷらみてぇだな......揚げ......いや、修復が終わったら多分だけど浮いてくるのかな? 天ぷら食いたくなってきた。
まぁいいや、後の事は修復が終わってから考えればいい。ぶっちゃけこの後どうなろうがどうだっていいサキュバスよりも、幸せそうに蕩けているツキミちゃんとしるこを愛でる方が優先度は高いからね、ちかたないよね。
可愛いは正義なのだよ。可愛いから性技みたいな生き物とは一線を画すのさ......ははっ。
「よーしよしよしよしよし。このままいっぱい食べて、いっぱい寝て、いっぱい遊んで健やかに育つんだよー。煩わしいモノからは全力で守ってあげるからねー」
それからしばらくお腹をさすっていたら、やっとこさ苦しそうに唸っていたツキミちゃんとしるこが穏やかな顔になってきた。目もトロンとしてきている。ええんやで、そのまま寝ちゃいなさい。
「ふふふっ......寝息も寝顔も可愛い」
寝落ちるまではそう時間が掛からなかった。我が子が眠ると同時にサキュバスたちの身体からあがる泡も小さくなってきている。そろそろ揚げあが......修復が終わるのだろう。
さて、ここからは大人の時間だ。パパンが面倒なのは片してくるからねー。
「......それにしても俺の性欲は何処に消えたんだろうか。日本ならば瞬く間に大人気になるであろうレベルの美人の裸を見てもピクリともしねぇ......あ、おはよう。気分はどうだい?」
サキュバスを視姦しながら年頃の男の子らしさについての考察をしていたら、目を開けたサキュバスと目が合ったので声を掛けた。
「ゴボボボッ!!」
まぁそうなるよね。まぁポーションだから飲み込んでも身体に害は無いでしょう。苦しさとかは知らん。
目を開けたと思ったら諸悪の根源と目が合ったから仕方ないにしても、緊急時にパニックになってもいい事はないからねー。早いとこ落ち着いてねー。
一応二人漬けても余裕がある程度には大きめな水槽としても、中の一人が暴れればもう一人も巻き込まれるのは自明の理。まだ起きていなかったもう片方の目も開き、同じようにパニックになる。
「......ほう、これがチマタでウワサの天丼ってヤツでいいのかな? まぁ気が付いたならそろそろ息苦しさで外に出てくるっしょ」
◇◇◇
なんかよくわからないけど物凄く酷いトラウマでも植え付けられて精神が破綻してしまったかのようなムーブをかますサキュバスが落ち着くまで待っていたんだけど、実際に精神が破綻してしまっていたようで......やりすぎてしまったな、と反省した俺はダメ元で劇物の葉っぱを三枚くらいサキュバスの口に捩じ込んでみた。
色々と治す事に特化したヤバい葉っぱなら治るかなって可能性と、もし葉っぱで治らなくとも苦味とエグ味と苦味を圧縮して蒸留してなんやかんやしたようなよくわからない苦い味で正気を取り戻す事にワンチャン賭けた訳だ。
これで治らなかったら......見なかった事にして介錯してあげようと思っていたワケよ。苦痛など感じさせずにブラックホールでシュンッと。
幸い目撃者は俺だけ......正確には俺とウチの子だけなんだけど、これなら口裏を合わせれば完全犯罪になるからね。まぁそれをやる必要なかったけど。
「......とりあえず顔上げて。君たち二人は見事に耐えきったワケだから、約束通り全快させて解放してあげるよ」
「本当に申し訳ありませんでした」
「温情に感謝致します」
土下座を止めない。やりすぎちゃったね、ごめん。
でもまぁアレだな......ウチの子を誑かしたにしてはこの沙汰は生温いのか? ......うーん、でもなぁ......どうなんだろう。
日にちが空いたからクールダウンした結果、こういう思考になったのかしら。まぁいいや、こういう時もあるさ。
「とりあえずちょっと諸事情があって少ぉしだけ来るのが遅れちゃったお詫びにこのリンゴっぽいのをあげる。味にさえ目を瞑れば栄養とかもあるっぽいし、なんかいい事もあるから食べな。
そんでこれからは俺らの事は忘れて暮らしてね。いい? 俺らの事は見なかったし知らない。これだけ守ってくれるならもう何もしないから」
「「ありがとうございます......ありがとうございます......」」
なんかずっと震えながら土下座するサキュバスを見ていて居た堪れなくなってきたから「じゃあね」と一言告げてからその場を去った。
俺の姿が見えなくなったくらいで悲鳴に似たような......なんかよくわからない声が聞こえてきたような気がしたけど、きっと気のせいだろう。
「......帰るか」
ツキミちゃんの胸の辺りのモフい部分としるこのお尻周りをモフりながらお家に向けて急ぐ。なんかとても疲れたから早く皆に癒されたい。
寄り道とか何かしらに興味を引かれるとかは全くせず、帰宅する事だけに全集中したからだろうか、一時間程で家に着いた。
未だにスヤスヤなツキミちゃんとしるこを起こしながら庭へと進んでいく。
「ただいまー」
「メェ......」
『ねむい......』
『おかえり』
『おかえりー』
「キューウ!」
お出迎えに来てくれたのは、ウイちゃんのお馬さんになっていたワラビとお目付け役っぽいポジションのヘカトンくん、ワラビに乗ってウッキウキなウイちゃん。まぁひろーい目で見ればワラビはお馬さんだからそのポジションは本望だろう。......って、ちょっ......
「キューゥゥゥゥゥ!!」
「ゴファッ!?」
可愛いなーって思ってホンワカしてたら、ロケットダイブをカマしてきたウイちゃん。
避けたら可哀想だし、両手が塞がっていて受け止められないからってんで腹で受け止めようとしたけど、勢いがありすぎて吹っ飛ばされる。この子にはそろそろ加減ってモンを教えこまないとダメかもしれぬ......
「お帰りなさいませ」
「お帰りなさい!」
「ワンッ!!」
倒れ込んだ俺にヒレビンタしてくるウイちゃん、お眠だった所を邪魔されてオコなしるこの角アタックを食らっていたら、お出迎え第二陣のご到着。
王女さんとメイドさん、あんこのトリオが走ってこちらにやってきた。倒れているのを確認したあんこが俺の顔をぺろぺろする......たまらなく癒される。どーしたのかなー? 寂しかったのかなー?
「おーしおしおし、あんこちゃんただいま。留守中に何か変わった事あったりした?」
『何も無かったよ! そっちは終わったの?』
ぺろぺろしながらもちゃんと答えてくれた。念話は口を使わないからペロりながらでも受け答えできるんだって事をこの時初めて知った。
「お留守番ありがとね。よしよし」
わちゃわちゃしてるのを生暖かく、そして羨ましそうに眺めるアラクネコンビの視線を受け流しながら、熱烈なお出迎えを堪能する。
モチモチと白蛇ちゃんが来てくれなかったのは寂しかったけど、後で聞いた所メイドに牛の世話を仕込んでたって理由だったらしいので許した。どうやら俺が居ない間にモチモチとピノちゃんに何かしてしまったらしい......イライラした表情をして話す御二方が怖くて詳しくは聞けなかったけど、聞かないのが正解だったと思う。触らぬ白いのに祟りなし。
「とりあえずお眠なツキミちゃんを寝床に運んであげたいからウイちゃんとしるこはちょーっと離れようかー。王女さんとメイドさん、捕獲お願いします」
「はい!」
「畏まりました!」
「キュッ!?」
「メェッ!?」
恐ろしく早い捕獲......俺じゃなきゃ見逃しちゃうくらいのスピードだった。そんでめっちゃ笑顔。
他の事に気を取られていたとしてもウイちゃんとしるこが驚くくらいのスピードを出すとは......こんな短時間なのに随分と成長したじゃねぇか。
「君たちには理解できないかもだけど、お前らがもがけばもがくほど抱っこしている者は幸せになるんだよ......諦めて大人しく運ばれなさい」
ジタバタして抜け出そうとする末っ子姉妹、どんどん恍惚の表情になっていくアラクネコンビ。うん、どっちも頑張れ。
「さて......あんこもおいでー。ツキミちゃん寝かすついでに俺も少し寝たいから一緒に寝よ」
『うん!!』
嬉しそうに着いてきてくれてありがとう。飯の時間までゆっくりしようねー!!
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大変お待たせいたしました。ぎっくり腰が治りかけの羊野郎です。
ジメジメムシムシ暑い中でコルセットを巻くの本当にキッツいです。無事に汗疹ができました。ド畜生!!
これから嫌いな夏が来るのにコルセット生活が待っていて憂鬱ですが、なるべくこれまでの更新頻度は維持していこうと思いますのでよろしくお願いします。
それはそうと、お見舞いで貰ったあんみつ......実は私寒天が余り好きではなかったので敬遠していましたが、凡そ五年振りくらいに食べてみたらとても美味しく感じました。クリームあんみつはゴッドでした。
食わず嫌いしていた物や苦手だった物でも久しぶりに食ったら美味しかったなんて事もあるので、人生を損しないようにちょっとずつ試してみるのもいいかも知れないですね。
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