第308話 サキュバス再び
「えーっと......確か、ここら辺だった気がする」
まさかこんな完璧に頭の片隅にすら残っていないとはあの時思ってもみなかった。だからこれはしょうがない事なの。
はい、そうです。残念なお知らせなのですが、わたくし今......雪山で迷子になっています。
『ねーぇー、まーだー?』
しるこがまだ目的地に着かないのかと急かしてくる。ごめんね、頼りなくてダメな保護者で......
『迷ったの?』
火の玉ストレートを頭部に投げ込んでくるのはやめてください。ごめんなさい迷いました。この一行に蝸牛の少女追加して一緒に迷いましょう。
『たんちだっけ? それはしないの?』
「そ れ だ!!」
火の玉ストレート第二弾が投げられました。こんなまだ産まれたてっていっても問題のないくらいの幼児に教えられるなんて......生きててごめんなさい。
反省してるからね、お願いだから冷たい視線を投げかけるのはやめてください。心が死んでしまいます。
「............あっ、見つけた! 見つかったから早速行こうじゃないか!」
平和ボケしすぎた弊害だろうけど、平和ボケした世界はとても尊いモノである。山を降りればそんなの望むだけ無駄だろうけど、その代わりに俺ん家の周辺だけは永遠に殺伐としないで欲しい。
『どっちー?』
目的地が無事に見つかったから歩きたいのか腕の中でジタバタするしるこ。危ないから止めなさい、言えば下ろしてあげるから。
「メェェェェッ」
雪の上にちっちゃい足跡を付けながら早歩きくらいのスピードで進むしるこ。サクサクと音がしているのに何故かポフポフと聞こえてくる気がする不思議。その後ろにはしるこを見守るように飛ぶツキミちゃんがいて微笑ましい......好き。
偶然なんだけどお供のツキミちゃんとしるこはどちらもすっごい綺麗な黒色。一面ほぼ真っ白な中にこの子たちが映えていてとても美しい。
「しるこー! ツキミちゃーん!」
声をかけると振り向いてくれる。狙い通り!!
自然な姿を撮りたくて、こっそりバレないように取り出したカメラでパシャリ。
『なんでとったのー?』
「なんか撮りたくなったから......としか言えぬ!」
しるこはそっかぁと一言だけ残してまた進み出した。撮れた写真を確認してから収納にカメラを仕舞って後を追う。
家に戻ったらもっといっぱい写真を撮ろう......あんことヘカトンくん以外の子はこれから時が経つ毎に成長していくからね。この一瞬一瞬を大事にしないと。
あんこはいつでも子犬から成犬、果ては超大型までと一粒で何度でも美味しいお得な果実のような存在。帰ったら写真集作ろう。他の子はある程度成長記録を取れてからだな......あぁ、楽しみだ。
◇◇◇
「ヒ、ヒヒッ......ヘヘヘッ」
「殺してェ......殺してよォ......アハァ」
「......メェェ」
『うわぁ......』
「......あっハイ」
生き残っておられる方が居たのに驚く。そして、無事に生き残っておられた方は残念ですが正気を失っていらっしゃるご様子......
生きていたサキュバスは二人、どちらも四肢は無事って訳ではないが繋がっている。逆に死んでいたサキュバスは腕と脚が千切れていたので......多分だけどサキュバスの死因は多分きっと失血死なんだろう。
サキュバスという種族は肉体的にも精神的にも相当タフな種族なんだと思いました。本当に忘れててごめんなさい。
「......蟻と汚物だけを吸い込むル〇バってイケるかな? ............あ、凄い。出来たわ。という訳でル〇バさんお行きなさい!」
俺が持ってきた時よりも一回り大きくなり、そして黒光りが強くなっているアリさんの群れ。そいつらが俺の放った三つのル〇バパイセンにギュンギュン吸い込まれていっている。
ぐったりしているサキュバスの身体に突っ込んで行ったけど、サキュバスの身体は無事でいて身体に群がっているアリだけが消えていっている。何あれ凄い。
「............ソワソワしてるけどどーしたしるこ? もしかしてアレに乗りたいの? んなキラッキラした目で見つめながら頷いてもダメだよ。なんか謎制御で今は上手くいってるけど、下手したらお前、アレに吸い込まれて消滅するか、身体をごっそり削られて死ぬからやめてくださいね......乗った時にふとした拍子で俺の制御下から外れて、周りのモノを無差別に吸い込みだしたらマジでヤバいねん」
「メェッ!! メェェェッ!!」
念話じゃないけど言いたい事は何となく伝わってくる。だけどダメったらダメ!!
「自分なら大丈夫って言いたいんでしょ? どっから来てるのさその自信はァ......あーほら、家に帰ったら本物に乗らせてあげるからね? 今は我慢して」
「メェェェェ......」
今乗りたいのにぃ......ってこの子は言ってるんだろうね。ちょっとそこのお姉ちゃん出番ですよ!! 妹を宥めるか、妹を窘めるかするのはお姉ちゃんの役目でもあるでありんす。
『......なんでこっちにフってくるの?』
神様仏様ツキミ様......どうか黒羊を鎮めたまえー。
「......ジィィィィィィ」
『なんか言ってよ!! あとソレ、口で言うものじゃないでしょ!!』
拝みながら凝視しても効果は無かった......残念。
だけど、そーこーしてる内に片付いたみたい。汚物は消滅だーヒャッハー!!
「メェ......」
『......ほっ』
「あーうん、帰ったら好きなだけ乗せてあげるからそんなあからさまに落ち込まないで」
ホッとしているツキミちゃんを強めに抱きしめながら、消えてく〇ンバを悲しそうに眺めるしるこを慰めた。ウイちゃんとしるこの興味を引くモノが何かわからない。なんか法則とかあるのかしら......この辺は要観察だろうなぁ。
『ねぇ、そんな事よりも......アレ、どうにかしなくていいの?』
「あっ......ハイ」
まだグズッているしるこに人をダメにするクッションを与え、なんかもう色々ギリギリなサキュバスに向き合う。コレ......元に戻れるのかなぁ......
あの時はブチ切れてたけど冷静になった今だと、ヤリすぎたかなぁとは思っている。まぁ最悪、洗脳的なアレを施してから野に放てばいいか。
「とりあえずアレだ。先に身体を治してしまおうそうしよう」
巨大な水槽を呼び出してソコに大量にあるポーションをこれでもかと注いでいく。俺が今からやろうとしている事のイメージとしては、培養液っぽい中に浸かって身体を治すベ〇ータさんを思い浮かべて欲しい。そんな感じでだから、とりあえずサキュバスのポーション漬けだね......
「......うーん、息は出来......ないよね。LCLだったら呼吸出来るのに......酸素ボンベとか使うのもったいないからぁ......あ、そうだ! シュノーケルでいいや。そこまで深くないし」
サキュバスの口にシュノーケルを咥えさせてからポーションに浸していく。だけどそのままだと浮いてきやがったので腰と足に重りを付けた。
「......水遁の術的なアレっぽくなった。これが水槽じゃなくて咥えてるのが竹だったら、御屋敷の池に忍ぶ忍者だ」
それにしては身体中から気泡が出ていてジャグジーで忍者ごっこしてるようにも見えるけど、そんなことは些細なことである。今の俺にやれることはもう無い。やれるだけのことはやったから後は修復待ちだ。
「飯でも食おうか。何か食べたいものある?」
『なんでもいいよー』
「メェェェェ......」
何でもいいが一番困るってよく言うけど、これは本当にそう。出来ればでいいから肉か魚か野菜かだけでも伝えてほしい......さらに欲を言うならば、和洋中、ご飯orパンor麺、あっさりこってり、冷温などを言ってくれると非常に助かるのだ。
一番良いのが食べたいものをピンポイントで伝えてくれる事だが、ざっくりとした事でも全然助かる。世の主婦や主夫の方、毎日献立や栄養バランスやらを考えての料理本当にご苦労さまです。
「しるこは溶けてるなー......羊もダメにするとは中々やりよるぜよ。リクエスト無かったから俺が食いたいモン作るけどいいよね? 意見するなら今のうちだよ?」
「メェェェェ......」
はい、君はもうそのまま蕩けててください。
『もんだいなーい』
はい、ありがとう。君もゆっくりしててね。
「じゃあまた後でー」
とりあえず俺は今しゃぶしゃぶが食べたい。けど、あの子たちはしゃぶしゃぶするのが得意ではないだろう。なので蒸ししゃぶにする予定だ。
「美味牛のロースとピノ野菜。普通に食うだけでも美味いのに蒸ししゃぶにしたら楽だし神だよね。俺はポン酢派だけど、ゴマだれとポン酢の両方を用意しとけばあの子たちの好みでやれるしいいよね」
蒸籠を取り寄せて野菜と肉を置いていく。後は数分蒸すだけの楽美味料理。
あんまりゆっくりさせてあげられなかったけど、すぐに出来上がっちゃったからしゃーない。
「できたよー! さぁ食べよう!!」
蒸ししゃぶはしるこ、ツキミちゃんの両名に物凄く好評だった。また家でもやって! と可愛くせがまれたのが嬉しかった。
あ、人目線でも味は申し分なかった。それなりな品質でもバカみたいに美味くなるのに、最高級の肉と野菜を使えばそれはもう至高の一品になる。
サキュバスはどれくらい漬けとけばいいかわからないから放置。気がつけば何かしらのアクションがあるだろう。
「口の周りベッチャベチャやんけ......ガッついてくれるのは嬉しいけど、もう少し大人しく食いなさい」
まだまだ手のかかる子どもの世話を焼きながら、美味い飯を食って美味い酒を飲む。
嗚呼、こんなの幸せでしかないじゃん......
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