第306話 ウサギとシアンの触れ合い

 どーも、刑務作業で疲労困憊な俺です。


 早く自由の身になりたい今日この頃な俺でありますが今は自由時間となっています。

 この自由時間を利用して、これから新入りのウサギ野郎にマイファミリーになる事の厳しさを教えていこうと思っている次第でございます......


「よォ新入り......ウチのボスたちに気に入られているからって調子こいてんじゃねぇぞコラ」


「モキュゥ......」


 困り果てたようなツラで必死にこの状況をどうにかしようと考えているウサギ。いちいちリアクションがあざといんだよこの野郎っ!! 俺はそう簡単に絆されないんだからねっ!!


「言葉をわかってる前提でお話します。もしダメなら通訳呼ぶから......さて、まず初めに......君はクソザコです。下手をしたらジャレついてきた末っ子姉妹に遊んでるつもりで殺されてしまいます......ここまでは理解できるかな? 出来ていたら足ダンをしてください。出来る限り可愛く」


「モキュッ」タシーンッ!


「グッボーイ」


 困惑したお顔のままだったが......、精一杯やったであろう足ダンを披露してくれた。ちくしょう、ちょっと可愛いやんけ。


「ならばどうすればいいかわかるかな?」


「......ピスピスピス」シュッシュッ!


 鼻を鳴らしながら立ち上がってシャドーボクシングを始めたポロリウサギ。案外コイツ頭が良くて器用なんだなーって思って眺めていたら首が落ちた。不意打ちはやめてください。


 首を戻してあげてから話を続けた。


「よろしい......だが、普通のトレーニングをしていたらいつまで経っても追いつけないどころか差は広がる一方です。君も見ただろう? ウチのエースであるあんこの身体能力を。どうやって捕まったかは見ていなかったが、逃げ切れるなんて全く思えなかった事でしょう」


「モキュゥ......」


 悲しそうな声を出して項垂れるポロリウサギ。そして再び首が落ちた。お前学習しろや!! いちいち話の首を折るんじゃねぇ。


「とりあえず俺はまだ君の身体能力、及び戦闘能力を見ていません。なので今から君には俺と戦ってもらいます......あ、話は最後まで聞いて。そんなこの世の終わりみたいな顔にならないでよ。てか君、なかなか表情豊かだね」


 戦ってって所を言い終わる前に、「あ、オワタ」みたいなツラになったポロリウサギ。ちゃんと戦力差は把握出来てるみたいだね。偉い偉い!


「俺からは絶対に攻撃しないし、ここから動かないから安心して最初から本気でおいで。さぁ、始めようか」


「モキュゥ?」


「ほんとほんと、ダイジョーブデース。カカッテキナサーイ!!」


「ほんとに?」って感じの視線を向けられたからニッコリ微笑みながら答えてあげた。安心しなさい。


「......モキュッ!!」


 タシーンタシーンと足ダンを数度繰り返した後、一つ鳴いてからポロリウサギは動き出した。


 その速さに一つ驚く。こちらの想定していた以上の速さで駆け出したポロリウサギは、フェイントもクソもなく俺に突進を繰り出してきた。


「いけっポロリ! でんこうせっか! からのたいあたりだっ! って所かな。うん、これならこの山でなら余裕で生き残れるだろうね......ただ、ある日山の中、わんちゃんに出会ってしまわなければ......の話だけど」


 それにしても、普段は幼児の食事風景かよってくらいポロポロと首を落としてるのに、今は全く首が取れる気配を見せていない。さすが不思議生物。


 体当たりが当たる直前に軽く手を添えて軌道をズラした。モフっとした見た目からは想像もつかないゴワゴワした感触に脳が混乱してしまう。オノレ、精神攻撃とは小癪なっ!!


「......モキュッ!!」


 すれ違いざまに頭を振り、耳ビンタを繰り出して反撃を試みたようだ。これはご褒美枠の攻撃なので大人しく喰らっておく。


 ......耳ビンタって一度はされてみたいと思わない? 俺は以前から全力で思っていた。だが、この世界のウサギはウサギしてないのでこれまでは縁がなかったのだが、此度の戦で初めてウサギってる生き物と相見える事が出来、尚且つ夢にまで思っていたあの攻撃が来たのだから......避けるなんて選択肢はねェんだよ!


「アフンッ!」


 首に衝撃がくると共にビターンと良い音がした。やっぱりゴワッとして硬かったけど、そういう種類のウサギもこの世には居るんだと己に暗示をかけて受け止める。幸せでした。

 ちなみにマイエンジェルたちから受けた枷は解除していない。ウチの子たちを相手にするならば枷付きでは厳しいが、牛以下の相手ならばレベル差でどうにかなるのでダメージは皆無だ。


「モキュッ!! モキュッ!!」


 右だぁっ! 左よっ! 中ァ!! って感じで前脚、後脚、耳での攻撃が飛んでくる。だが甘い。ひょいひょいと避けていく。......耳以外の攻撃を。


 耳だけしか攻撃が当たらず、わざと喰らっているのがバレバレだったらしく......一瞬だけムッとした表情を見せた後、ウサギらしくぴょんぴょんと反復横跳びのように自由自在に位置を変えて追撃をしてくる。

 さっきまでよりも上下左右に攻撃を散りばめながらの攻撃......だが、やはり余裕で避けられる。


「戦いだすと......アフンッ......熱くなる性格なのかなこの......アヒャンッ......ウサギさんは。うんうん、怯え......アフゥッ......コホン、怯えてたのが嘘みィッ......嘘みたいだね!!」





 そこから五分から十分といったところだろう。全力で動き続けたポロリウサギは、落とした首から荒くなった呼吸を吐き出しながらグッタリしていた。


「返事とかしないでいいからそのまま聞いてね。直のウチの子じゃないけど、紛れもなく孫......いや、ウチの子でいいか......ウチの子になった君には強くなってもらわなくてはならない。

 ただ!! それは、物凄く堅牢で複雑で鋭利な棘が蔓延る茨の道となるだろう!! だが俺は一度ウチの子になった者には死んで欲しくないから、その茨の道を突き進む事を強要する!! 覚悟はいいか? なんて聞かん!! 覚悟しておけ!!」


 なんか物凄く怯えた表情をされてしまった。なんでそんなお顔をするのさ。


「......まぁとりあえず今日はゆっくり休んでね。明日から頑張るといいよ......トレーニング用のブツはたくさん用意しておくから......ね♡」


 ポロリウサギを抱っこしてお家まで歩いていく。小刻みに震えているような気がしたけど。きっとその震えはウサギ特有のピルピルしちゃうアレだよね。うん、きっとそうだよ。HAHAHAHAHAHA。




 ◇◇◇




『あのおバカさんは......また......もうッ!!』


『どーしたのー?』

『あたまいたいのー?』


『いやぁ......頭は痛くないけど頭が痛くなる状況』


『うーん、あたまいたいんだねー』

『だいじょーぶー?』


 例の如く覗き見していたダイフクは、嬉々として耳ビンタを受ける飼い主を見て呆れ果てていた。傍から見ればネコと戯れていると思い込んでいたあの時と同じアレな状況である......が、本人に全く自覚がなく、アレと同じ状況に見えるとは全く思っていないのが、常識人であるダイフクを悩ませる。


『あのさ、新しく加わったウサギのポロリの種族って何だったかわかる?』


『......ゔぉーなんとか!!』

『それのでゅらはん? だった気がする!!』


『そうそう、ヴォーパルラビットのデュラハン......まぁ首を狩るウサギなんだけど、その名の通りに首を狩るような攻撃が主な攻撃方法なんだよね』


『だいたいあってた!』

『すごいでしょ!』


 誇らしげな末っ子姉妹に苦笑いしながらも、一応正解には掠っていたので褒めるダイフク。一通り褒めてから話を続ける。


『首を狩るってあのウサギボディでどうやるのかと思ってたけど、ウサギ耳での横薙ぎが主な首狩り方法だったらしいのよ』


『ふんふん』

『ほーほー』


 そのウサギはシアンに首狩りを仕掛けていた。もしかしたら......は無いと思いつつも、致死性のある攻撃を嬉々として首に受けている姿は見たくない。


『ちゃんとわかってる? まぁいいや。それで、何をとち狂ってるのか、身体能力を制限されたままでポロリと模擬戦をして遊んでるんだけど......その首狩り攻撃だけを避けないんだよあのバカはッッ!!』


 本人にしては自分の子との遊びの範疇という認識なのだが、従魔たちにとっては違う。

 ポロリがシアンと直接繋がっていない。ポロリはあくまでもあんこの子分なので、致死性のある攻撃も躊躇わずに撃てる。一応しっかりとファミリーと認めてはいるが、優先順位はイノシシ一家の上くらいの認識であるので、散々悪態をついている主人でも攻撃されているのを見るは嫌なのだ。ツンデレである。


『えー、首とれてない?』

『だいじょーぶなの?』


『まぁレベル差でどうにかなってるけど......とりあえずコレはあんことピノに報告しなきゃだなぁ』


『ちくるー』

『ちんころー』


『人聞きの悪い言い方しないで! はぁ......いい? あんこお姉ちゃんとピノお兄ちゃんには、あの人の首が取れないか心配だったって事を全面に押し出して報告してあげて』


『『おー!!』』




 この日、疲労困憊なポロリを抱きかかえて帰宅したシアンは、玄関で待機していたあんことピノに正座を強要されて説教された。

 説教は夕飯の用意をする時間になったのでとりあえず終わったが、まだあんこたちの怒りは収まっておらず......食後から夜が明けるまでずっと正座をさせられていた。

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