第305話 絵本と罰
『シア太郎』
むかーしむかしでもないとある山の中に、一人の青年と九匹の動物がいました。
ある日、青年は山へトラップを仕掛けに、動物たちは畑や牧場へ仕事をしに行きました。
~中略~
紆余曲折あって青年がトラップを仕掛け終わり、家に帰ると青年の愛する動物たちが出迎えてくれましたが、青年はこれまでの疲労と心労が祟って暴走してしまいました。
初めのうちは大人しくされるがままだった動物たちでしたが、長時間続くソレに怒って反旗を翻し、青年を折檻した後に土下座を強要しました。
土下座を強要され、地面に擦り付けるまでに下げ切ったその頭にアザラシとヒツジが嬉々として乗り込んでいきました。
常人ならば屈辱でどうにかなりそうな展開だったのですが、青年はというと......なんと! その行為に喜んでいたのです。そう、その青年は生粋の変態だったのです。
一度は青年の暴挙を許しかけた動物たちだったのですが、白い鳥の指摘によって青年が反省していない事に気付いた結果、折檻は継続......青年が心からの謝罪をするまで続きました。
心を入れ替えた青年はその後、誠心誠意動物たちに尽くし、青年の家に度々訪れる招かれざる客を撃退し続け、平和な暮らしをいつまでも続けましたとさ......めでたしめでたし。
「ねぇ、なぁに......これ? 最近俺に起きた事にすっげぇ似ているクソみたいな話と妙にクオリティが高い絵の付いたコレ、どうしたの?」
パタン......と、本を閉じて物凄く誇らしげな人物に問いかけた。
「絵本っぽいナニカですね。姫様がアレを見てからコソコソと何かしていたのはコレを作るためだったのでしょう。土下座をしたシアン様の頭に乗るしるこ様とウイ様の所には、かなりの時間と労力を割いたとの事です」
「うん、まぁ見てみたらすぐにわかるよそんな事は。そこ以外はデフォルメされていて可愛い仕上がりだけど、そこだけは写真かっ!! ってくらい精巧に書かれてるもの」
それにしても、タイトルのシア太郎ってなんだろうか......まさかこっちにも桃太郎とか金太郎とか浦島太郎とかの太郎シリーズがあるのかしら。あぁでも召喚勇者とか居たし......有り得なくもないか。
それをするくらいなら砂糖とか甘味とか、そっち系を充実させればいいのに......使えねぇヤツらめ。俺? 俺はそんな面倒な事しないよ。困ってないし。
もし召喚スキルが無かったら......一生涯を賭けてこの世界にスィーツレボリューションを起こしていたかもしれないけれど。まぁそんなIFの話をしてもしょうがない......だって甘味に困っていないもの。
「姫様の意外な一面と才能を見る事ができました。ありがとうございます」
「まぁ......確かに才能だろうねコレは。でも絶対にコレは世に出したらダメだかんね」
「そっ、そんな......ではこの姫様の才能がふんだん盛り込まれたこのデビュー作は永遠に日の目を......ウゥッ......日の目を見ることはないのですね......」
......別の作品を作りゃええやんけ。処女作から出版なんていう奇跡を起こせる人の方が少数なんだってばよ。まぁ王族の威光でゴニョゴニョすればどうにかなると思うけど。
何が悲しくて俺の土下座シーンが渾身の出来の作品を世に出したいと思うねん。出すならウチの子を超リアルに描写した本にしてくれ。俺が買い占めるけど。
と言うかコレを世に出したら、俺が山の中で幸せに暮らしているのがバレる。そしてウチの子の可愛さ目当てにクソカス共が来て平穏が大破する。それは流石に看過できない。
「なぁ? コレを世に出したら此処がどうなるか理解してるのかな? アンタらがコレを世に出すのを強行するというのなら......俺はアンタらを今すぐ殺さないといけなくなるんだけど」
「ヒィッ......も、申し訳ございません。姫様の新しい才能が発掘された事で浮かれておりました」
ちょっと殺気か威圧かが漏れちゃっていたらしく、メイドさんは無事正気に戻れました。めでたしめでたし。完。fin。
「そんなに乗り気ならこういう事は続けていいけど、この場所に俺たちが住んでいるとわかりそうな物とか、この場所の秘密に関わるような事を書くのは絶対にダメ。わかった?
しかし、うちの子の可愛さを伝える為の伝道師になりたいのであれば、全面的に協力しようではないか」
「ありがとうございます。それは当然の事ですので姫様やアレにも徹底させますので」
「おっけー。それじゃあまた後で。とりあえず俺はペナルティの奉仕作業をしてくるから......」
「あ、はい。行ってらっしゃいませ」
先日、俺がモード反転裏コードを使用してビーストになった事に対するペナルティが折檻の後に言い渡された。
・一ヶ月間
・一ヶ月経過後はあのスキルを不用意に使用しない
・一ヶ月間ピノの農園の雑用(スキル使用禁止)
・お前一ヶ月間皆のパシリな
以上の四つが俺の罪過を雪ぐ為の罰である。大体の罰が一ヶ月で済んだのは大きいが、超絶マッサージが封印、封印が解けた後も使用するにはあんこたちの許可が必要となったのはいただけない。
こっそりマッサージやモフってる時に発動させようものなら、俺の心を完璧に圧し折るって言われた。どうやって俺の心を圧し折るのかはわからないが、きっとあの子たちはガチのマジで圧し折りにくるんだと思う。怖いので絶対にやらないでおく。
そうこうしている内に農園に到着。まずは刑務官兼農園の最高責任者である白蛇様にご挨拶。
「ピノちゃん様、今日も誠心誠意お手伝いさせていただきます。よろしくお願いします」
どうしてこんなに卑屈になっているのかって? そりゃあ......うん、アレだよ。何を思ってそうしたのかわからないけど、うちの子たちが模範囚制度を採用しているからだ。
頑張って働いて早くペナルティを解除したいんです。スキル禁止の農業は本当にキツいのよ......手作業のキツさと大変さを思い出した。ずっと魔法でスパスパ刈ったりだったからね......腰が痛いです。
わざわざ俺にスキル使用を禁止に出来そうな物を草野ダンジョンにまで取りに行かせてしまう徹底ッぷり。流石に俺のチートスキルの全ての封印は無理だったけど、指定したスキル三つを封印する指輪なら出来るそうなのでソレを草野に献上させてた。
【金剛精神】【指先の魔術師】【神体】を封印された。これによって俺は刑に服しているタイミングでのみメンタルが脆弱になり、身体能力がぐーんと下がり、器用さがあの頃に戻る羽目になった。
どんだけ魔術師嫌いなんだよ......刺激になれてくれよマジで......
流石に日常生活時には魔術師パイセン以外は戻してくれる。ふとした拍子に俺を肉体的にも精神的にも殺さない措置だそうです。やったね。
まぁ付けられてからわかったけど、コレ......解除しようと思えばいつでも解除できる。あの子たちはこの事には気付いてない......と思う。だって、魔術師パイセンの封印が出来た事をガチで喜んでいたから。
多分服役期間が終わっても魔術師だけは封印したままにするんだろうなぁと予想している。わざわざ不用意に使用しないってしてるから、きっと許可制かなんかにするんだろうね。
「モチモチが監視しているからサボれない。サボるつもりはないからいいけど、俺が変な行動をしようものなら全力でチクるだろう......くそっ、あのモチモチは俺にとことん都合悪いな......全力で懐柔しようとしてもヤツは絶対に靡かない。さて、どうしたものか」
モチモチの懐柔方法を考えながら作業を再開する。
しばらくすると「わんっ!」と可愛い声が聞こえてきた後、すぐに頭の上に軽い衝撃。あんこたんが激励に駆け付けてくれたんだと思う。癒しマイラブ。
癒されながらも、考えれば考える程に気持ちがブルーになっていく。今はプラスよりもマイナスの方がデカいらしい。
いい案かも! と思っても、即座にネガい憂いが出てきて、その案は却下となる。
「もうダメだぁ......おしまいだぁ......」
つくづく考え事には向かない。元の俺はこんなにアレだったっけ? あぁ......まだまだヤバいくらい作業が残ってる......最初にあの子に渡した時こんなに広かったっけ此処って。あぁ鬱だ......
......んー、そういえばなんか忘れているような気がするけど。まぁそんな感想しか出てこない程度の事なら些細な事だよね。
◇◆◇
「やっとここまで来れたか......山の中腹辺りから難易度が跳ね上がっていったぞオイ」
途中までは意気揚々と進めていた彼等だっだが、強引に直進していたシアン一行、高めな身体能力を持つアラクネがチート装備で身を固めながら踏破していったアラクネ一行とは違い、人の域に収まっている彼等では冬の山の過酷な道、冬でも活発さを失わない高レベルのモンスターとの戦闘は厳しかった。
だがそれなりに優秀であり地力もあったようで、消耗はあれど離脱者は出さずに目的地周辺まで辿り着いた。
......なまじ優秀だっただけに全員が生き残っていたのは逆に不幸だったのかもしれない。
何の変哲もないただの山中にある平野らしいこの地に、この世界に生きる者の知らない未知の兵器が埋まっている事なぞ知らないのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます