第302話 爺になる

 とりあえず王女さんたちの処遇はいくつかの約束をさせたくらいで、あの一件が起こる前とそう変わらない扱いに決まる。


 その気になれば力技でどうとでもなるけど、王族、貴族絡みの面倒は極力避けていきたいので常駐は認めない。これは絶対に守らせる。


 変更した点は以前までは喚び出すだけだったものが、来たい時にいつでも来れるように転移石をあげたという点のみ。

 約束させた事は来る時はソロでは来ない事、政治的な何かを持ち込まない事、次に面倒事が起きたら王の首と首謀者一派の首を王女に取らせると約束させた。

 最後の約束はゴネるかなんかするかと思っていたけれど驚く程すんなりと了承した事にビックリした。それ程の覚悟があるなら俺から言う事はない。

 後はまだ内緒にしてるけどミステリアス商会と合同で前に計画していたプロジェクトを進行させて貰おうとも思っている。


 だけどさぁ......


「キュゥゥゥゥゥゥ!!」


「くすぐったいですよ。えへへ、可愛いですね」


 コレちょっと見逃せないですね。もしかしたらなんだけど俺よりもウイちゃんに懐かれてない? ねぇ、おじさんちょっとジェラっちゃうよ。ハンカチを噛むどころか噛みちぎっちゃう勢いで悔しいよ?


「メェッ! メェッ!」


「ふふふふ、ふわふわモコモコの突進......」


 モフッ、モフッとメイドさんに体当たりをカマしているしるこ。突進して弾かれて転ぶ、起きて再び再突撃......なにそれ死ぬほど羨ましいんですけど!! 本気の突進をされたら多分メイドさんは余裕で肉片になるだろうから、メイドさんにじゃれついているだけなんだと思われるその遊びが憎い。


『......むぅぅぅ』


 悔しさと嫉妬心でどうにかなりそうな所を、ツキミちゃんがビスッと喉仏を突っつく事で正気に戻された。


「ごめんごめん。ツキミちゃんは可愛いなぁ......大好きだよ。そんなにむくれないで。今日は寝るまでずっと一緒に居ようねー」


 そうだよ、俺にはこの子がいる。ずっと俺を大好きでいてくれるこの子に報いなくてはならん。

 自分だけを見だした事に満足したのか不機嫌さを消して甘えだしたツキミちゃんが可愛い。君の好きなソーセージあげちゃう!!


「はい、あーんして」


「クルルルルルッ」


 嬉しそうに喉を鳴らすツキミちゃんが可愛い。この子あんまり鳥っぽい声を聞かせてくれないからなんかこういうの嬉しい。


「あー......めっちゃ癒されるぅ」


 こう、デレッデレな子っていいよね。ていうかツンデレが許されるのは二次元だけだと思うの。ツンデレな子とデレデレな子が居たのだったら、俺は確実にデレデレを選ぶでしょう。

 たまに出てくるデレがいいって言う人がいるけど、そのデレが引き出されるまでに何度心を折られると思っているんだ! ドMか貴様らは!!

 ......俺が溺愛しているウチの子にもツンデレはいるけど片方は性別不詳、片方は野郎だから気にしない。誰も野郎のツンデレには興味はないと思うの。


「......お願いだからツキミちゃんはずっと変わらず、そのままの可愛いツキミちゃんで居てね」


「???」


 俺の突然の言葉に可愛く首を傾げるツキミちゃんに何でもないよーと伝えて誤魔化し、お詫びの意味も半分くらい込めて全力でそのふわふわボディーを撫でくりまわした。




 ◆◇◆




「ったく、なんで俺らがこんなクソみたいに広い山の調査をしなきゃいけねーんだよ!! しかもこんな真冬によォ......クソっ!!」


「落ち着けや、仕方ねーだろ......お前が後先考えずにあんな場所でブチ切れて、貴族相手に暴れまくったペナルティなんだからよ。切れたいのは連帯責任で巻き込まれた俺らだっつーんだよ」


「あーあーあー、悪ぅござんしたよ。だがなァ、そーゆーお前らだってあん時煽ってたから今こーして連帯責任になってるんじゃねーのか!? それに俺ァ知ってんだぞ、お前らが倒れたクソ共に追い討ちかけてたのを」


「あんだとコラ!」

「今のは聞き捨てならねーなオイ!」

「元を正せばアンタがあのクソ共をぶん殴るのを我慢してりゃあよかったで済む話じゃねぇか」


 互いに罵りあいながら悪路を進んでいく冒険者らしき五人組。力はあるが素行が悪く、なんとも扱い難いパーティである。

 そんな彼等はあろうことか男爵と揉めてしまい、男爵の私兵を殴り倒してしまった。

 非がどちらにあろうとも、普段から素行の悪い者が貴族と揉めてしまった事実をギルドは重く受け止め、ギルドマスターは管理不行き届きという事で謹慎及び減給、サブマスターは減給、当事者は連合軍壊滅以来災厄の山と呼ばれるようになった場所へ調査に出される事となった。


 これは実質は死刑相当であり、もし彼等が生きて帰り、情報を持って帰って来れたら大金星とも言える場所へと派遣された。無事に帰れば恩赦を与えると言われて送り出されたのだ。


「はんっ! こんな温い山を調査するだけで貴族の私兵をボコしたのが許されるなら毎回やってやってもいいぜ!! 行き来が面倒なだけでアイツらが恐れる程の難易度じゃねーじゃねぇか」


 まだ序盤も序盤、しかも真冬でかなり悪辣な魔物や動植物の動きが鈍くなっているのだが、その事実に彼等は気付いていない。

 そして、さすが実力だけはあると称されるだけあって悪路の中を難なく進んでいけている。


 この二つの要素が重なった結果の現状、それを見て余裕と判断したのか意気揚々と奥へと進んでいく。


 まぁ山自体は相当面倒なだけでありイレギュラーな出来事が無ければ、実はある程度の実力と物資、根気さえがあれば登っていける難易度ではある。

 彼等程度の実力があれば山の天気と魔物の動き、方向感覚の狂いにさえ気をつければ各国が知りたい真実シアンのお膝元までは辿り着けるだろう。



 辿り着いた結果、犬が出るか蛇が出るか......はたまた他の梟、海豹、羊、鹿、兎、不思議生物、イカれたラスボスが出てくるかはシアンのみぞ知ると言った所か......


 最も、目的の場所へと辿り着いた所でソイツらが生きて山を降りれる保証などはどこにも無いのだが。




 ◇◇◇




 わんわんわんっと遠くからマイスィートあんこの鳴き声が聞こえてくる。どんどん声が近付いてきているからどうやら走ってこっちに向かってきているようだ。こうさ、無邪気なわんこスタイルっていいよね。とってもほっこりする。好き。

 そして手の中にいるツキミちゃんはシュンとしている。もう終わりなんだと悟ったみたい......悲しませてごめんね。


「この時間も終わりかーって感じでしょんぼりしないの。今日はツキミちゃんとずっと一緒にいるからあんこが来てもこのまま続けるよ」


 俺の言った言葉が意外だったのか、梟系特有の首がグリンッとするあの動きで俺の目を見つめてきた。

 愛らしさと可愛さの塊といっても過言ではないツキミちゃんだが、この首グリンだけは慣れない。


『......いいの?』


 恐る恐るそう聞いてくるツキミちゃんをとにかく撫でて安心させる。ふふふ......俺に二言はないのだよ。


「さっきも言ったけど今日は寝るまでずっと一緒だからね。トイレの時以外はずっと一緒にいるから安心していいよ」


『うんっ!!』


 ウチの子になってから一番と言えるような超ご機嫌具合のツキミちゃんが摩擦熱を起こそうかという勢いでスリスリしてきて可愛い。


「よーしよしよし、でも他の子と話すのは許してね。他の子も大事なウチの子だから」


『しょーがないなぁ』


「ツキミちゃんは優しいなぁ。ありがとうね」


 結構遠くにいたらしいのと全力疾走じゃない事も相俟ってそこそこ時間をかけてあんこが俺の所までやってきた。ありのままの姿を見せるあんこもいいけど、普通のわんこムーブをするあんこもいい。一粒で二度以上に美味しい。あ、頭にピノちゃん乗ってる......もう可愛さが天元突破しすぎてエグいっすわ。


「わんっ」


「おっと、よーしよしよし。どうしたのかなー?」


 飛びついてきたあんこを優しく受け止めてから訊ねる。純粋に甘えたいだけならピノちゃんを乗っけてないはずだから、きっと多分あのデュラウサギの事だろう。


『あのね! あのね! ウサギの名前決めたよ!』


「おー、そーかそーか。......あれ? そのウサギはどうしたの?」


『姉さんの移動スピードに耐えられなかったからワラビに預けてきた』


「あーうん、首が取れちゃったのね。俺も体験してるけどアレはしゃーない......それで、あんことピノちゃんはあの捥げウサギにどんな名前を付けてあげるのかなー?」


『いくよ? せーのっ』


『『ポロリ!!』』


 ......なにこれ!! 可愛すぎるぅぅぅぅ!!

 示し合わせるようにお互いを見つめ合った後、わざわざ「せーのっ」って言ってからドヤ顔で名前を発表したァァァァァ!!


 それにしても......ポロリかぁ......怒られないかな?

 ふくろ〇うじさん、ふぉるて〇もさん、カジ〇アッチ三世さんの山猫、ペンギン、ネズミトリオのイメージしかないけど......まぁウサギはアレとは似ても似つかない生き物だからセーフだな。うん。


 あっちから拝借したんじゃなくて首がポロリする所から取ったと思うしセーフだなセーフ。うん。


「そっか、じゃあそれで決まりだね。形式的には俺の子扱いじゃなくてあんことピノちゃんの子って扱いにするか......ら......アレ? そうするとあのウサギが俺の孫になる......で合ってるのかな? つー事は俺、未婚のままお爺ちゃん......」


 少しだけ衝撃を受けたがすぐに回復した。

 だって俺は誰とも結婚する気ないし、俺基準ではあと三~四十年も経てば年齢だけは立派な爺になる。


「くぅん?」


「あー大丈夫だよ。衝撃の事実に気付いてちょっと呆けてしまっただけだから。さ、あのウサギに名前をあげておいで。それに......そうだね、今日はポロリとアラクネさんたちの歓迎会やろうと思うからピノちゃんは名付けの後に野菜を取ってきてくれるかな?」


『うん! 行ってくるね!!』

『わかった!』


「行ってらー」

『いてらー』


 ソワソワしだしたからウサギの所へ行っておいでと促し、すぐに駆け出したその後ろ姿をガン見しながら見送りながら、やる気の感じられない送る言葉を真似したツキミちゃんに癒される。俺はなんて幸せなのだろう。


「かわいいねー。あ、今日は鍋にしようと思ってるんだけど、どんなのが食べたい?」


『皆の好物入れればいいよ!』


「それもそうだね。まだ夕飯の時間までは結構時間あるし、風呂でもいかない?」


『いくー!』


「おけ、じゃあ風呂でゆっくり暖まろう」


 久しぶりの家族団欒。楽しみだなぁ。

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