第301話 処遇と会議

 我が楽園よ! 俺は帰ってきたぞ!


 懐かしさすら感じる景色、俺からは普通に見えているんだけど......許可されてない人たちの目には、ここはどう見えてるんだろうか。


 まぁ関係ないか。進もう。


 境目らへんから徒歩数分、ようやくマイハウスが見えてきた。


「ただいまー」


『おかえりぃぃぃぃぃぃぃ』


「あ、やべっ......」


 エグい速度でこっちへ向かって飛来する黒い影が見える......黒い影というかツキミちゃんなんだけど。

 そんな彼女からの熱烈なお帰りセレモニーを全身で受け止める体勢を取ろうとして気付く。両手が塞がっている......と。

 本来の俺ならば即座に投げ捨ててツキミちゃんをキャッチするんだけど、このデュラウサギは今現在俺の管轄ではなくあんこの管轄である。ポイしたら多分あんこが悲しんでしまう......それに一応だけど受け入れると決めたからには雑な対応はしちゃダメよね......


「............さぁこいっ!!」


 諦めて体で受け止める覚悟をした。常人及びちょっと強い程度のヤツのボディーならば容易く貫通するであろう突撃を。


 俺の体ならば大丈夫。そう、大丈夫なのはわかっている。


 でもね、自分に向かって超スピードで飛んでくる生物や物体って普通に怖いよね? 目の前にネットがあって安全とわかっていてもファールボールが飛んでくると怖い。それと同じ、人間に元から備わっている反応的なヤツだ。


『どーん!!』


「ごふっ......」


『いっぱい構って!!』


「衝撃やべェ......ゲホッ......あーうん、ただいま。寂しかった? よーしよしよしよs......」


「キュゥゥゥゥゥゥ!!」

「メェェェェェェェ!!」


 あ、やばっ......赤い弾丸と黒い弾丸が......そしてそこから少し遅れて、ちょっと受け止めるのが困難そうなサイズの弾丸がこっちに来ているのが見える......

 あーこれ避けられないわ......なんだっけ? 白黒のゴリラを呼ぶ人の気持ちがわかった気がする。


「ちょっ、ちょ待てよ!! デュラウサギを下ろすから......待って!! 一旦止まっ......ぐぼぉっ......ぬわーーーーーーーーーーっっ!!」


 しっかりとあんこやピノちゃん、それにツキミちゃんといった先に居た子たちを避けて突っ込んでくる皆は器用だなと思いました。




 ◇◇◇




「あ、あの......お帰りなさいませっ!!」

「お久しぶりでございます」

「......こんにちわー」


「......あっはい、どうも」


 ウチの子たちによる手荒い歓迎を受けて吹っ飛び、されるがままになっている俺に懐かしさすら感じる面々が挨拶をしてきた。

 なんでここにいるんだろう? どうやってここに来たんだ? まさか普通に山を登ってきてなんやかんやあって迷っていたところをウチのモチモチに発見されて招かれたとか?


 ......まぁいいか。来ちゃったモンはしょうがない。俺らがムカついてたのは王女さんたちではなかったからね。余計なのは来ていないみたいだし、このまま受け入れようか。


「またお会いすることが出来て嬉しいですっ!」


 今にも泣きだしそうな顔の王女さんたちが俺を揉みくちゃにする我が子たちを引き剥がしながらそう言ってきた。俺もまた会えて嬉しいよー。


「キュッ!」

「メェッ!」


 こらこら、デュラウサギの頭で遊ばないの。圧倒的強者を前にしてどうしていいかわからず、胴体がお願いだからやめてくださいーって感じでオロオロしてるじゃないか。


 ふむ......今度ボール系のオモチャを出してあげよう。短いあんよとヒレでボール(頭)をコロコロして遊んでるのめっさかわいいんですけどーッッ!

 見ましたか奥さん!! ウチの子はこんなにも可愛いのですよ!!


「お変わりないようで何よりです」


 ......あっ、ごめんなさい。ちょっと意識が飛んでました。お久しぶりですメイドさん。


 冷静さを取り戻したのでどうしてこうなっているのかを詳しく聞こうとモチモチに目を向けたら、サッと目を逸らして逃げ出した。面倒事から逃げるんじゃありませんっ!!


「とりあえず聞いていい? なんでアラクネ王女御一行は此処にいるの?」




 ~事情聴取中~


 ......うーん、なるほどー。そっかぁ。


 俺にベッタリくっ付いて離れなくなったマグネットツキミちゃんを全力でなでなでしながら、メイドさんから話を聞いた。

 あんことピノちゃん、ダイフクは俺から離れてどっかに行っていて寂しい。悲しい。辛い。しばらく離れていたからもっとモフに塗れられると思ったのに意外とウチの子たちはドライだったらしい......


「クソみたいな権力者や貴族、だらしない王に愛想を尽かしたから三行半を突きつけてアラクネ王国をメイド二人を連れて飛び出してきた......と。なるほどなるほど。んで、本音は?」


「......それが真実でございます」


「..................」


「真実でございますのでそれ以上は......」


「..................」


「..................」


 見つめ合う視線のレーザービームの応酬。俺はね、そんなあたかも取ってつけた感のある説明が聞きたいんじゃないんですよ。


 しばらく睨み合いが続いたが、ようやく観念したのか溜め息を一つ吐いた後に話し始めた。


「正直に話しますが......あの、怒らないでくださいね? 絶対に怒らないでくださいね?」


「念を押しすぎるとフリに聞こえるから止めた方がいいと思うよ。俺が前に住んでいた所の怖い文化だね」


「真面目に言っているのですが......」


「内容によるとしか言えないけど、まぁなるべく穏便に済ますように努力はするよ」


「わかりました......まず一つ目は、シアン様と別れて以降あんこ様方ともう触れ合えないと思うと辛くて仕方がなかった事......それはもう業務に支障が出るくらいでした。そしてもう一つは、あの......日に日に減っていくあの極上の甘味を見ていて辛くて辛くて......

 あのですね、できる範囲で私たちが何でもしますのでどうか姫様だけでも許して頂けないでしょうか」


「......そ、そっかぁ......」


 思ったよりも大分俗い理由だった。

 まぁうん。仕方ないっちゃ仕方ない。あんこたんたちは底無し沼みたいなもんだからね。一度触れ合ってしまったらもう後は沈んでいくだけだからね。

 ついでにこっちだとほぼ再現不可能なメイドインジャパンの甘味類。まぁそうなるよね。


「はぁ......だいたい理由はわかった。それでまぁ当初の目的であった俺と再会は果たせた訳だけど、これからどうすんの? ずっと此処にいる訳じゃないんだよね?」


「......うぅっ......それは今すぐ帰れ、という事でしょうか?」


「そこまでは言ってないじゃん。でもずっとは置いておけないから何かしら考えておいて。俺はあんたらは嫌いじゃないからこれまでと同じような感じで付き合って行こうと考えてるけど......どう?」


「いいのですかっ!?」


「姫様ァ......」


 俺から引き剥がされた末っ子姉妹と少し離れた位置で戯れていた王女さんが目の色を変えて詰め寄ってきた。メイドさんは呆れている。

 メイドはどうしたかって? アイツは早々に戦力外通告を受けて牛と遊んでるよ。時々悲鳴のようなモノが聞こえてくる気がするけどきっと空耳だろう。


「この王女、かなり逞しくなったなぁ。まぁいいや、とりあえず話を続けるから何かあれば意見をどうぞ」


 俺からお許しのような言葉を貰って気が緩んだのか、ペタンとその場に力無く座って嬉しそうに末っ子姉妹をモフる王女さんとメイドさん。俺の知らない間にウイちゃんとしるこがものっそい懐いていてかなり悔しい......




 ◇◇◇




『ねぇ、名前ってどんなのをつければいいのかな?』


『わかんないよ。そもそもそんな事した経験がないんだから......でもあの人が僕らに付けてる名前の感じからすると、好きな食べ物や物の名前から貰えばいいんじゃない?』


『好きな食べ物や物......ジャーキー!! ブランケット!! ピノは?』


『僕は......お餅と煮玉子、あと胸ポケット』






『......うーん、やばいよぉ......どうしよ。どうすればいいかな?』


 あんピノ会議は早くも煮詰まっていた。最初は単純に好きな物や食べ物から取ればいいんじゃないかと思っていた。


 だがしかし、当初の思惑通りにそこにはとても大きな落とし穴が感知しにくい形で存在していたのだ。

 一応別の生き物であり相当に高度な知性を持つあんことピノだったが、悲しき事にあんこにはベースとなった動物の本能とも言えるモノの存在が確認されてしまった。それはいつもクールなピノも例外ではなく、話が進むにつれてあんこ同様、ピノにもその本能と言えるモノが備わっていたと判明したのである。


『どうしよう......まさか好きな物の名前を聞いていたらお腹が空いてきたりソワソワしちゃうなんて』


『僕もまさか自分がこんなんだとは思わなかったよ......』


 この会議の様子を見ていたらシアンはきっとその可愛さにヤられて理性を飛ばしていただろう。


『名前つけるのって難しいんだね......』


『うん......』


 開始時のようなテンションは消え去る。そしてその暗いムードになったまま、ローテンションで会議は続いていく。

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