第300話 ウサギの生態
「......えーそれではデュラウサギ(仮)を飼うことになりました。責任者はあんことピノちゃんになりますので頑張ってお世話してください。まぁそうは言っても俺もちゃんと援助はしますので安心してください」
『はーい!!』
『えっ!? やっぱり僕も巻き込まれて責任者になるの!?』
「はい、あんこちゃんいい返事ですね。ピノちゃんもオレの説得に加担したんだから諦めて頑張ってくださいねー。......えーと、まぁ生き物をぶち殺しまくってたり、たくさん家族をお迎えしている節操無しな俺が言ってもあんまり説得力が無いかもしれないけれど......これだけは言わせてね。
毒を食らわば皿までじゃないけど、一度そうすると決めたのなら最期の瞬間までキチンとお世話しましょう。血の繋がりなんてモンは無くてもお迎えしたのならその瞬間から家族なのです。一時のテンションだけで飼ったはいいけど、途中で飽きて放り投げるなんてことは絶対にしないようにしてください」
『もちろんだよ!!』
『あー、うん。頑張るよ』
これまでの生活で家族は大事にしているのは理解していたけど、この子たち主体でこういう事をするのは初めてだから一応釘を刺しておく。どうしようもなくなってしまい、手放すという選択肢を選ぶしかなくなったとかじゃない限り、最期の瞬間を看取るまでが飼い主の責任です。
約十年から十五年......長くても義務教育+大学を卒業するまでの期間くらいすら面倒見きれないのなら最初から飼うなと言いたい。お世話する事を放棄したり、虐待したり、捨てたりとかを見たくないし、聞きたくない。ダメ、ゼッタイ。
おっと思考が脇道に逸れてしまった。
「じゃあ先ずはその子の名前を考えるところから始めようか。あんことピノちゃんで今決めてもいいし、お家に戻って皆と相談して決めてもいいよ。一生物だから適当に考えた名前はダメだからね」
『うん!!』
『わかった』
ネーミングセンス? そんな子は知らない。
お前は安直な名付けしてるって? 一生懸命考えたんだからええんや。
ウチの子たちに適当に決めた子なn......うん、ヘカトンくんはノーカンだ。仮称がいつの間にか定着してただけだ。俺らは何も悪くないし、あの子はその仮称を名前として受け入れる程度には気に入ってくれているから無問題。
......いつの間にか首を嵌め、起き上がっていたデュラウサギ。オロオロしているけど諦めて受け入れてくれ。
何となく自分に起きている事態は把握できているようだ。嫌ならなりふり構わず逃げてくれ......この子たちは俺が責任をもって追いかけないように止めておくから......うん、既に試していて逃走不可と結論が出ているのかもしれないけど、諦めんな。
もっと熱くなれよ! 逃げようとすれば逃げれるよ! 気合いだ! 気合いだ! 気合いだー!
必死に念を送るも通じず、とても大人しいデュラウサギ。残念だ......
「さて、それじゃあ一旦風呂にでも入ってその子を洗ってあげよう。キレイになってからご飯にしよう......お腹はまだ大丈夫かな?」
『大丈夫! おふろー!』
『平気』
おふろ? って感じで首をコテンと傾けるデュラウサギ。......くそっ、一瞬可愛いと思ってしまった。次の瞬間には傾けすぎたからか首が落ちていたけど。
「首ィ......もう少し吸着力上がらないの? うわぁ、断面はリアルだよ......これは慣れるまではホラーだわ......はぁ、風呂行こうか」
せめて断面はなんか異空間チックな表現にしてほしかったよ......断面がリアルだとデュラハンっていうより人体模型とかそっち方面のモンになるだろ。
......
............
..................
入浴シーンは必要ないでしょ。うん。
デュラウサギの毛質は剛毛の一言。
すげー硬かった。多分進化の過程でなんやかんやあって鎧がウサギに擬態する為に毛のように変質していったんだろう。水に濡れてもペターンってならない時点でお察し。
水に濡れてスリムになる動物は結構俺の嗜好にどストライクなのにそれが無かったのは悲しかった。
次いでウサギの断面について。
断面はなんと異空間みたいになっていた。中身があるように見せかけて空洞。洗っているうちになんか重くなってってね? と思って血抜きする時のように逆さにしてみたら、中に溜まった温泉がダバーッと出てきて本物の血抜きのようになった。
首からは手は突っ込めるし、中にはお湯が溜まっていた事から、あの断面はカモフラージュで敵を油断させる為にああなったんだろうと推測できる。ほんと、可愛くないウサギだよ!!
鳴き声はモキュ。可愛さを追求したのかしらないが首をよく傾げるポーズを取る。そして首を落としている。世界のアロンア〇ファ大先生や木工用ボンドを使ってくっ付けようとしたが、ファンタジー生物にはジャパニーズクオリティは通用せず......ボロンッと首が落ちた。ギルティ。
最後の手段として溶接しようとしたらあんことピノちゃんに全力で止められ、ガチ説教を頂戴した。だって首がデュラるのを見たくなかったんだもん。
最後にデュラウサギの名前について。
これはお家に帰ってから皆と相談して決めるらしい。それまでこの子はウサギと呼ぶと結論が出たと報告されました。
さて、そんなこんながあったお風呂から上がり、皆がキレイキレイされた所でお昼ご飯の時間になる。風呂に入った事で時間がズレたから腹が減っていたのか、いつもよりあんことピノちゃんの食い付きがいい。
俺の料理の腕が上がったのかもと自惚れてもみる。もりもり食べる姿を見るのはやはりいい物だ。
ダイエットだとか少食アピールとかしないでいいと俺は思っている。日本人はモデル体型を追い求めすぎて痩せすぎなんだ。
俺はムチムチしたわんこのお肉部分にも萌えるから、女の子もムチムチさがあってもいいと思っている。意地悪とも取られたりするが、衣服で締め付けられて布にちょっと乗ったお肉を触るのが好き。
......むぅ、そんな事を考えていたらモニュ欲が溢れてきてしまった......あとであんこのお腹をモニュモニュして解消しよう。あんこも俺と戯れて幸せ、俺もあんこをモニュモニュできて幸せ。まさにウィンウィンの関係だ。
『これもっと食べたい!』
「うぃ」
お嬢様からおかわりを頼まれたので思考終了。さぁもりもり食べなさい。
ちなみにあのデュラウサギが何を食べるのかわからなかったので、とりあえずピノ農園産の人参を与えてみたところ凄い勢いで食べ始めたので一安心。
やはりどの世界でもウサギは人参なんだなぁって納得し、それ以外の事象からは目を逸らした。
首が胴体から離れているのに人参をモリモリ食べていく姿にはツッコみを入れたくない。どーなってんのかとか考えるのも面倒だ。
◇◇◇
予想以上の食欲のせいで皆動きたくなさそうにしていたので長めに食休みを取ってダラけた。
俺はお片付けタイム。
餌付けのおかげか、デュラウサギが俺に懐いた様子を見せてきた。首を置きざりにして身体が俺の足に擦り寄ってきている。
でもね、まだ俺は君にホラー以外の感想を抱けないんだよ......
「ほら、あの白い蛇がいるでしょ? さっき君が食べた人参はあの子が育てたんだよ。お礼を言いに行っておいで」
俺が聞こえてなかったら二度手間だなぁと思いながら胴体に向けてそう言うと、離れた位置に置いてあった首が頷き、身体がピノちゃんの方へと向かっていくのをちょっとヒキながら見ていた。
「言語は理解している......首さえ繋がっていれば見た目は普通のウサギ......か」
焦げ茶色の体毛、クリッとした黒目、垂れ耳と思いつつも最後まで垂れきってない長めのお耳、プリッとした下半身にアクセントのウサしっぽ。
可愛いウサギ。そう、見た目だけは凄く可愛いんだよ。それはわかっている。ただ、首と胴体がセパレートするというのがなぁ......それに生前のウサギを模した鎧という点、あと毛がモフみがないゴワゴワな点......ゴワゴワでもいいんだよ? いいんだけど、なんか見た目と肌触りが一致しないのが脳を混乱させるんだよ......
うーーーーん......
慣れれば、そう、慣れれば大丈夫になるとは思う。ヘカトンくんも今では可愛さを感じられるようになったという実績もある。
ピノちゃんは完全に受け入れている、拾ってきたあんこもそうだろう......あ、耳を咥えて胴の方へ頭を運んでいってる......や、優しいなぁあんこは。
はぁ......頑張って慣れよう。うん。
「はーい、じゃあ家に帰るよー!! やり残したことは無い? 大丈夫? じゃあ出発するから集まってねー」
長かった初期メンバーとの旅行はこれでおしまい。
懐かしの我が家へれっつごー!!
............皆を抱えて走っていたらデュラウサギの首が走る速度や振動に耐えられず落ちた。それを見て何かを察したのかあんことピノちゃんが定位置に入っていく。
「......うん、お気遣いありがと」
右手にウサギの生首、左手に胴体を装備して再び走り出した。
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