第295話 先人の知恵を拝借

「ふふっ......ふふふふふふっ」


 人間、ブチキレ方は人それぞれ。何パターンかある。そう、何パターンかあるが、最も怖いブチキレ方は完全に感情が抜け落ちるタイプ、もしくは薄ら笑いを浮かべながらキレるタイプでしょうか。

 今の俺は内心では激しく怒りが燃え盛っているが、脳内は驚く程にクリア。そして笑おうともしていないのに笑いが溢れてきている。


「ふふふっ......ぶち殺すのは簡単だよね。だけど、そんな事では俺の気が収まらないよ。さてと......いっちょアレをやってみようか」


 いきなりだけど、拷問とはざっくり言えばこの三種類がある。


 ・肉体を責める拷問

 ・精神を責める拷問

 ・肉体、精神どちらも責める拷問


 どれも全て自由を奪った上で肉体的、精神的に痛めつけ、意思や尊厳を破壊するっていう......まぁえげつない事をする。自白や秘密の暴露を目的としていた部分が大きかったから、こういった進化していくのは仕方がない事だろうけど......


 よくもまぁこんなやり方を思いつけるなぁと、思わず感心してしまうほどに世界中で多種多様な拷問が行われてきた。

 傷痕を残す事を前提としたもの、痕や痕跡は残さないようにしたもの、ただただ苦痛を与えるだけのもの、苦しめた末に殺すもの、人格を破壊するもの、尊厳を徹底的に貶めるもの。

 他にも生理学や心理学を悪用して行われたものもあったり、SMの原型と思しきもの、宗教的な儀式っぽいものに使われたりと、まぁ本当に数えあげればキリがない。


 使う道具もこれまた多種多様でバリエーションがものすごい事になっている。

 どれもこれも見た目がエグい。見ただけでコレやばいと思わせるヤツで威圧感たっぷりの見た目になっている。心を折る為の物だから仕方ないだろうけど。

 皆ご存知であろう鉄の処女......これはまぁクパァさせて中身を見せられたら、例えやっていなくてもやりました刑事さん......と自白してしまいそうなモノだ。俺の持っているユダの揺籃もそう思わせるには十分なモノだ。冤罪ダメ絶対。


 処刑器具に改名しましょうと思えるものが多数。


「まぁ早い話がまずはサクッと心を折りましょうという事ですね。心が折れてからが本番デース......さて、俺も偉大で異常な先人の知恵にあやかろうと思います」


 拷問台をお取り寄せし、失禁しながら気を失っているサキュバス一人一人を丁寧に拷問台へ設置していく。絶対に外れないように確実な拘束を心掛け、最後は糸を保険として使って拘束終了。


 と、ここで少し冷静さが戻る。


「............絵面がウルトラヤバいけど、ここには俺しかいないからセーフ......ん?」


 そう独り言ちた後、続きをやろうとした所で変なギミックを見つけた。


「なんだろうコレ......タイマー? まさかっ!! セットすれば指定した時間に刑が完了するとかそういった類のアレか!?」


 数字をセット出来る最大数は168。コレはまぁそういう事なんだろう。やべー器具だコレ。


「......168時間かけてゆっくりと四肢を引き伸ばしていくのか......ヤバっ。だが、俺はここで止まるわけにはいかない......更にレイズだっっ!!」


 アホみたいにデカいタンクと蛇口をお取り寄せし、拘束した四人の上にくるように糸でセット。そしてタンクに蛇口を取り付けた。ここでも糸さんが大活躍。万能すぎるぜ糸さん!! いつもありがとう!!


「拷問台&水責め......気が狂うのが先か、痛みに耐えきれなくなるのが先か......うーん、まだ少し弱いかな? あ!! そうだ、アレを追加しよう!! そうと決まれば善は急げだ」


 失禁バスたちを放置し、あんことピノちゃんを抱えて草野ダンジョンへと飛んだ。




 ◇◇◇




「な、何があったのですか? 今何か凄く恐怖を感じたのですが......」


「キュゥゥ......」

「メェェ......」


 メイド二人は震え、王女は辛うじて話ができる程度の状態になっている。そして本気で怒ったシアンの殺気を初めて感じた末っ子姉妹は可哀想なくらい毛がペッタンコになっている。


「......ぁぁ」

「......うぅ」


 メイド二人は手の中にいるダイフクとウイを抱きしめ、ギリギリ耐えた。本当にギリギリの所で耐えた。


 アニマルセラピーの力ってすごい!


『......なんか悪魔っぽいヤツらにあんことピノがハメられたっぽくて、それに気付いたあの人がブチキレたって感じ......だと思う』


「......あんこ様とピノ様を毒牙に掛けられてしまったのならそうなってもおかしくはないですね。それにしてもシアン様が怒るとここまで凄まじい事になるのですね......」


『それにしては、そうなる前まではすっごい幸せそうにしてたけど......僕ら以外の存在があの人怒らせてはいけないんだよ』


「本当にシアン様に何があったんですか......あの時国の愚か者があんこ様たちに直接何か仕掛けなくて良かったです......最悪すぎる事態だけは避けれました」


『......よくわかんないけど、何かされたあんことピノに群がられて気持ち悪い顔をしてたよ。本当になにがあったんだろうね......ちょっ、そろそろ離してくれないかな?』


 後半は本当にボソッと呟いたのでダイフクは聴き逃していたが、直接あんこたちの誰かに仕掛けようものならば、アラクネ国は少し前に滅びた教国と同じ運命を辿ったであろう。


「あぁ......ダイフク様ぁ......」

「ウイちゃぁん......ウイちゃぁん......」


 メイド二人、モフモフの沼に頭までドップリ浸かる。もう抜け出せないレベルにまで達してしまった。


「メェェェ......」

「......よしよし、もう怖くないですよ。ふふふっ、本当にシアン様の所に居る子たちは可愛いですね」


 王女は王女でしるこに癒され、今回のシアンショックを全員なんとか無事乗り越える事ができた。

 そして各々が癒されている所に追加のモフモフがやってくる。


『ダイフクー! なんかすっごいの感じたけど何があったかわかるー? ......あれ? アラクネさんたちがいるー!!』

『ウイとしるこは大丈夫?』

『うしといのししがおびえた』


「あぁ! ツキミ様とヘカトンくん様! と、そちらの鹿......鹿? ......コホンッ、そちらの方ははじめまして」


『ひさしぶりー』

『お久しぶりです』

『きめら、わらび、よろしく』


「ふふっ、お久しぶりです。キメラのワラビ様ですね。わたしはアラクネの王女です。よろしくお願いしますね」


 主人とトップ二人抜きだが、シアン一家と会えたアラクネ王女御一行。そしてそのまま何があったかの報告会兼親睦会へと移行していく。


「......そろそろ貴女たちは正気に戻りなさい。お菓子は用意してくれるそうなので、お茶はこちらで用意しますよ」


「......あっ......失礼しました。すぐにご用意いたします」

「あーっ! いつの間にかいっぱいいる! みんなーひさしぶりー!」


「貴女は......早く用意を始めなさい!!」


 まだ軽く震えてはいたが、メイドたちも無事に再起動を果たしたようだ。




 ◇◇◇




「サキュバスよ、覚悟はいいか......ククククク」


 草野ダンジョンへ行き、サクッと欲しいものを調達して帰ってきたわたくし。完全に悪役ムーブ......だがそれがいい。これから行うことは完全に悪だから。

 サキュバス共は短時間では流石に正気に戻っていない。未だに虚ろな目をして震えている。


「はーい、起きてくださーい。今から皆さんには殺し合いをしてもらいまーす」


「「「「............」」」」


 断じてスベってはいない。まだヤツらが起きていないだけだ。


「起きろー!!」


 古来より人を正気に戻すには水をぶっかけるか、ビンタをするかの二択だ。ビンタだと無意識に力加減を間違えそうなので、今回は水をぶっかける。

 あんこたんの作り出した聖なるお水だ......ありがたく受け取るが良い。


「......っっ!!?」


「起きましたかー? 目的とかは何となく想像出来たから聞かなくていいや。これから俺はアンタらを一週間放置します......見事耐えきれば無罪放免、完全回復させてから放逐しまーす。耐えきれなかったら残念......ってなワケでよーいスタート!!」


 唖然とした表情のサキュバスを無視して説明を続ける。ここに異世界一過酷な耐久レースが幕を開けた。


「まず最初は貴女たちの寝ているその台を起動、次にこのちょっと甘い匂いを発する液体をぶっかけ、そして蛇口をちょっとだけ捻ります。最後の仕掛けは起動してからのお楽しみ......それじゃあ、一週間後にまた会いましょう!!」


「――ッ!! ――ッ!!」


「ハハッ、ちょっと何言ってるかわからない」


 彼女らの台の下に一つずつ籠を置いてから立ち去る。籠の中のには黒ごまのような物がたくさん。


「大丈夫、俺は約束は守る男だ。じゃあな! さて、今日は疲れたしゆっくり温泉にでも浸かろう......露天風呂にしてポン酒で一杯やろっと」


 洞窟から出ると即座に露天風呂作りに取り掛かる。もう何度もやっているので慣れたものだ。

 並行して今日の宿であるテント作りも行っていく。早くちゃんとした所で寝かしてあげたいからね。


「......アレで生き残れたらそれはそれで凄いから素直に解放してあげるよ......さぁアンタらは何日耐えられるかな......ふふふふ」


 邪神もびっくりな黒い笑顔を浮かべながらテントの設営を続けていった。

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