第294話 ロリじゃないババァはただのババァ
挨拶が済むや否や、シアンでも見逃しちゃうほどのスピードで動いてウイとしるこを確保する王女とメイド。
ダイフクとメイドさんは呆気に取られ、何が起きたかを理解するとお互い顔を見合わせて苦笑い。
「ウチの姫様とバカがすみません......ほんっっっとーにすみません......」
『あの子たちが嫌がる事をしなければまぁ......もし今の行為をあの子たちが嫌がっていたらあの二人死んでたよ......一人は全身を穴だらけにされて、一人は頭か全身が破裂して......』
「えっ......あの可愛らしさでそんな凶悪な攻撃するのですか? ......さすがシアン様の従魔ってところですね。まぁそれはそれとして......あの、私も手元が寂しいので抱っこさせて頂いてよろしいでしょうか?」
『えぇぇぇこの流れでそう来る? ハァ......まぁいいけど。あの二人に一応注意だけしといてね』
呆れたような言動をしつつも、澱みない動きでメイドさんの広げた腕の中に飛び込んで行ったダイフク。躊躇いなく飛び込んできたダイフクに嬉しそうなメイドさん。
「うふふふふ......少し大きくなられましたか? 羽根もより美しくなりましたね」
『そっ......そう? 毎日しっかりお手入れする自慢の羽根だから当然だよ』
「ふふふ......可愛いですね。ずっと抱いていたいくらいです」
羽根を褒められて満更でもないダイフクは、メイドさんの追撃のなでなでによってシアンには見せられない状態になっている。
「姫様ー! その子たちが嫌がるような事をすると致死性の反撃をされる恐れがあるらしいとダイフク様からお聞きしましたので十分に注意して触れ合ってくださいねー」
「えっ......!? は、はい!」
「こんなに可愛い子が凶悪な攻撃なんてするはずないですよー。んもぅ、ダイフクちゃんったらもしかして私に抱っこされなくてヤキモチですかー?」
ほんの少し前に死を覚悟する程の魔力を感じたのを既に忘れているらしいが、こんなにも愛らしいナリをしていてもウイやしるこはアラクネが種族単位で挑もうとも勝てないほどの魔力量を保持している。
『......チッ。もし反撃されたとしてもあの子たちを止めない』
「それで構いません。この旅の最中に何度あの子を捨てていこうかと思った事やら......あっ、お茶が途中でしたね。一緒にお茶でもして落ち着くのを待ちましょう」
『うん、そうだね。そうしよう』
死の危険性があると通告されても触ることを止めようとしない二人を放置してお茶会を始めるダイフクとメイドさん。あーんしてもらったりと至れり尽くせりのおもてなしを受け、先程のイライラが抜けて上機嫌になっていくダイフク。
「甘いものとか食べ物はシアン様に絶対に敵いませんが、お茶だけは自信があります。このお茶はとっておきのモノなのですよ。どうですか?」
『あっ、コレ凄く美味しい』
「よかったです。おかわり欲しくなったら言ってくださいね」
『うん』
女の人に相手してもらっているからなのか、もう誰がどう見てもウッキウキなダイフク。穏やかな時間が流れていく。
「キュゥゥゥ......」
「メェェェェ......」
一部を除いて。
◇◇◇
「......うふふふふふ。エクストラサービスが止まらないぜ。ずっとリールが逆回転してやがる......うふふふふふ」
確変が止まらない。ART、ATが終わらない。ループが止まらない......そんな夢のような展開が続く。有利区間? そんな子は知らないですね。
「俺の事が大好きなあんこだけじゃなく、ツンツンなピノちゃんまでメロメロになっているのはおかしいんだよなぁさすがに。夢の時間を終わらせたくないから現状を受け止めてたけど......もしこの子たちに自我が残っていたら、この後に地獄が待っているのは言うまでもないんだよなぁ......」
べろんべろん、しゃーしゃーされている最中にフッと脳裏を過ぎった“もしこの子たちに自我が残っていたら”という一抹の不安。一度考えてしまったらもう不安は膨れ上がる一方でしかない。
一気に血の気が引き冷静さが優勢になっていく。
「うん、俺的には未来永劫、無限に等しいこの寿命が尽きるまでこの幸せを甘受していたかったけれど......ダイフクではない無粋な出歯亀もこの場にいるみたいだし、終わらせないといけないよなぁ。はぁ......まさかこの夢のような時間は自然発生じゃあなかったとは......クソガッ」
冷静→理性崩壊→冷静→理性崩壊のループを繰り返す中、戻ってきた貴重な冷静さんのターンをフルに活かして現在自分たちに起きていることを把握していく。
「ハァ......あーはいはい、そういう事ね。うんうん。オーケー理解した。漢の純情を弄んだ罪は重いからな......覚悟しやがれファッキンクソ野郎」
普段は禁忌として封印しているイかせる為の指使いを解禁し、見た目上は理性が吹き飛んでいるあんことピノの両名を即座に
「なべて世はこともなし......世はなべてこともなし......この子たちが起きたらどうなるか。何も覚えてない事を祈るしかない」
寝ちゃった子たちを毛布に包んで立ち上がり、単純にただただ殺気だけを撒き散らす。
「......異変に気付いて慌てて逃げようとしたみたいだけどざーんねーんでーしたー。俺はお前らを逃がさないよ......この殺気の中でも動けて逃げようとしていたら楽しめたんだけど、全然大した事のないヤツらのようだわぁ......チッ」
探知に反応があった場所まで歩いて進むと二人組が二組、身を寄せあって失禁しながら震えている若い女の人型魔族を発見する。
こんなに怯えて可哀想だとか、女の子だからとかは全く思わない。悪意を向けてきたのなら殺意をお返しするのがこの世界に来て定めた唯一のマイルールだ。
「......会話はできるのかな? なんで俺たちにあんな事をした? 理由だけは聞いておいてやる」
なるべく無感情になる事を心がけながら笑顔を作成する。笑ってるのはずなのに全く笑ってない笑顔って怖いよね。
あ、一応鑑定しておこうか。
▼エルダーサキュバス
1000年以上の永い時を生きたサキュバス▼
「............なんだ、ババァなのかコイツら」
一体だけサキュバスが居たけど、きっとコイツも俺より歳上だろう。ロリっぽさが皆無なのならば需要は全く無さそうだ。うん。
「......ババァって言う......な......っ!」
まだ元気があるサキュババが一体居たようだ。
「ほらほらおばーちゃん、ちゃんとオムツしておかないとダメだって言ったでしょう。もー、お漏らししちゃって......誰が掃除すると思ってるのよ」
「......グッ......失礼なヤツじゃな!!」
「アァン? いきなり術か何かを俺らに使ってきたヤツが言えるセリフじゃねェよなァ?」
今回の俺はマジでオコです。普段なら確実に見れない実感を伴った良い夢を見れたって所だけは感謝してるけど、生命よりも大事なこの子たちを巻き込んだ事は絶対に許さない。......そう、絶対にだ!!
「ヒィッ......」
あらーおばあちゃーん、まだ膀胱に残ってたみたいですねー。せっかくだから最後まで出しちゃいましょうねー。
◇◇◇
「なんかアレですね。心做しかウイ様としるこ様の目が死んできているような気がするのですが......」
『......多分だけど、優雅にお茶してる僕たちが羨ましいんだよ。きっと。まだこのまま放っておいて大丈夫だよ。多分きっと』
今日一日振り回された事に対する恨みなのか、ただこの居心地のいいアラクネメイドの抱っこを止めたくないのか......少しだけ末っ子姉妹に冷たくなったダイフク。
そしてその幸せそうな姿を羨ましいそうに、恨めしそうに、そして助けを求めるように見つめる末っ子姉妹。
『たまには誰かに弄り倒されるって経験をした方がいいよ。振り回される側の心境も知っておくべき』
そんなぁ......という顔をするウイとしるこ。これもまた教育の一環か......和やかな時間が流れていく――
――と、思われたその時......物凄い衝撃が従魔ズと王女御一行を襲った
『うわぁっ!?』
「キュッ!?」
「メェッ!?」
「きゃっ!」
「ひゃぁ!」
「にゃぁっ!」
サキュババたちに向けただけのはずのシアンの殺気が届いたのだ。怒りで調整をミスしたのか......この日この時、山に生きる全ての生物たちがシアンの殺気に晒された。
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