第292話 三者三様

 うむ......やっぱりコレはおかしい...‎...いや、この素晴らしい時間は物凄く嬉しい。だが、いくらなんでもここまでのベタ甘にピノちゃんがなるのはおかしい。とても嬉しい事なんだけれども。


 猫にマタタビ、甘党に糖分、酒飲みにアルコール。なんかそんな感じの絶対に抗えない力が働いているのではないだろうか。

 俺だけ正気を保てているのはスキルが仕事をしてくれているお陰なのだろう。ある意味では正気ではないが............うん、特に害は無いな。あんこもピノちゃんも俺とイチャイチャできて幸せ、俺もあんことピノちゃんに好き放題されて幸せ......もうコレは完全にウィンウィンの状態ではないか。


「くぅーんくぅーん」

「しゅるるるるる」


 ......しゅき。あんこもピノちゃんもだいしゅき。あっ、そうだ。この今を動画に残しておこうではないか。成人男性と巨大わんこと蛇の絡み合いだ。裏モノも真っ青なAVアニマルビデオの出来上がり。寝る前に毎日コレを見なくては......よし、撮影開始だ。うへへへへへへ......



 ............はっ!? おのれぇ!! 卑怯だぞ!! 俺の脳みそを溶かそうとしやがってぇぇぇ!!


 ぐぬぬぬぬ、真面目に思考したいのに愛娘たちが俺を正気にさせてくれない......あっ......らめぇっ! そこをぺろぺろしたらぁぁぁぁ!! あぁんっ......




「うっ......ふぅ。人は何故こんなにも愚かなのだろうか......人類皆甘い物や美味い物を一人で食べたり、それらを仲のいい者と食べたり、もふもふに癒されたり、美しい景色や物を眺めていれば......そう、ただそれだけの事をしているだけで争いなんてする気は無くなるのに......」


 何が起きてようとどうだっていいじゃないか......今がこんなにも幸せなのだからっ!!

 今後の事については後で考えよう。何か起きてからでは遅いが、何か起きそうになってから考えよう。思考回路はショートしてるから今考えろとか言われても無理だよパト〇ッシュ......僕もう疲れちゃったよ......




 ◇◇◇




『おいしかったー!』

『おなかいっぱいー!』


『それはよかった。それじゃあちょっと休んでから蜘蛛の人の所に行こうか』


『うんー......ちょっと寝てもいいー?』

『ダイフクまくらになってーおひるねー!!』


『えぇぇ......あーもう! そんなにキラキラした目で見ないでよ! わかったよ! わかったからっ!』


『やったー』

『ダイフクすきー』


『しょうがないなぁ......はい、おいで』


 両羽を広げて幼女に羽枕をしてあげる優しいダイフクお兄ちゃん。きっとシアンがこの光景を見たら、俺にもやってと言うか、ズルいと血涙を流していただろう。


『やったー! ダイフクきもちいー!』

『この羽根でお布団つくってほしー!』


『ちょっ......やめてよ! 絶対にやめてねソレ! 羽根を毟ったりしたら許さないからね!! ほら、早く寝なさい』


『はーい......』

『うん......』


 末っ子姉妹から少しだけ恐怖を感じたダイフクは自身のモチモチ羽毛をフルに活用し、全力で寝かしつけにかかる。

 おなかいっぱいだったのが功を奏したか、両名がモノの数分で寝息を立て始めたのを見て安堵する。


『......はぁ、起きたら忘れてくれてるといいな。絶対に羽根は死守するからね』


 頑張れダイフク。末っ子姉妹の魔の手から自身の羽根を守りきるんだ。




 ◇◆◇




「私は二切れだったのに姫様はまるまる一本......」


「貴女......自分がメイドっていう身分なのを理解していますか? この頃貴女の図々しさがヤバい領域にまできてますよ。姫様がフランクすぎて最近は結構忘れがちですが、王族の方と同等の扱いを受けようだなんて烏滸がましいのですよ」


「......はーい」


「理解しましたね? それでは先程その懐に隠した羊羹を出しなさい。ぶち殺しますよ?」


「はっ......はいぃぃ」


「......旅の中では身分なんてあってないようなモノですし、わたしも余り気にしていませんでしたが......羊羹をちょろまかそうとするなんて......」


「ひ、姫様!? 何時からそこに!?」


「今来たら何やら聞き逃せない事が耳に入ってきましてね......ふふふ。メイドを首にして身ぐるみ全てを剥いで縛り、この場に捨てていきましょうか......ふふっ」


「ごめんなさぁぁぁぁい......お許しくださいませ......もうしません......仕事も頑張りますからぁ......」


「次は無いですよ......ふふふ。さぁ行きましょう。今日中に何かしらの手がかりは見つけますわよ」


「ぐずっ......姫様の目がマジで怖かったです......ううっ......頑張りますから捨てないでぇぇぇ」


「いい感じに纏まりましたね。貴女はこれからは心を入れ替えて誠心誠意尽くしなさい」


「はいぃぃぃぃ......ぐすんっ」


「もう泣き止みなさい」


「うわぁぁぁん......無理ですぅ......」


 これまでの長旅や、国で色々あった事で多少スレてきた王女様。テキパキと片付けをし、シアン探しを再開した。


「......泣き止まないと涙が凍りますよ?」


「涙って凍るんですか?」


「水分なので凍るんじゃないですか? 泣き止みそうにないのでこのまま検証しましょう」


「待ってくださいぃ」


 王女様御一行がシアン一家に再会するまであと少し......




 ◇◇◇




『......ウイとしるこのヨダレが凄い......しるこに至っては羽根を噛んでるし......はぁ......それにしても蜘蛛の人ってどんなのなのかな? ......あれ? もしかして蜘蛛の人ってアラクネさんだったりする? あれも蜘蛛と人がミックスされた容姿だし......』


 べっちゃべちゃにされた羽根から目を背けようと考え事を始めたダイフク。蜘蛛の人というワードを聞いてすぐにアラクネに辿り着けなかった自分を恥じる。


『最近会ってなかったからすぐ思いつかないのは仕方ないよね......王女さんとメイドさんかな? こんな所までくるとしたら』


 思い立ったら即行動。今自分に起きている問題から全力で目を背けて千里眼で王女さんをロックオンし観察を開始した。


『......んー。予想が合ってたみたい。王女さんとメイドさんたちだ......でもなんで一人は泣いてるんだろう......うわぁ......もう一人のメイドに糸で縛られて引き摺られてる......マジ泣きしてるじゃん』


 覗き見を始めてすぐに衝撃映像を見てしまい、ドン引きするもウォッチングは継続。いい感じに自分に起きている惨状から意識を逸らすことが出来た。


『何かあったんだろう......まぁあの人はよく怒られてたから今回もなんかしちゃってその罰なんだろうなぁ。でもなんか全く容赦ない引き摺られっぷりが不憫に思えてきたからこの子たちが起きたら迎えにいってあげよう............あ、でも行く前にお風呂いってからになるなぁ』


『んんん......ダイフクうるさい』

「メェェェェ......」


 独り言がうるさかったのか叱られてしまった。しるこはまだまだ眠いのか抗議の声をあげるだけだった。


『そろそろ起きようか。君たちのヨダレでべっちゃべちゃだから一旦お風呂に入りたいんだけど』


『んー......わかったぁ......行ってらっしゃい......でも羽根だけ置いてってぇ......』

「メェェ......」


『やだよ......ほら行くよ。蜘蛛の人は知り合いだったのがわかったから迎えにいってあげないとずっと雪山を彷徨うハメになるからね』


『んむぅぅ......運んでってぇ......』

『うごきたくなぁい』


『もぉぉぉぉぉ......はぁ......どうやって運んでも文句言わないでね。濡れてるから飛びにくいし』


 先程見たメイドの惨事を参考に+自慢の羽根をべちゃべちゃにされた恨みを込めて寝ている末っ子を引き摺って連れていく事にしたダイフク。


『やーだー! なんでこんなのなのー!』

「メェェェェ!!」


『............』


 引き摺りだしてすぐ、覚醒したウイとしるこが抗議するも華麗にスルー。無事に風呂まで辿り着いた。


『ダイフクひどい!』

『なんで飛んでいかないの!』


『君たちのヨダレのせいだよ。ほら早く入って入って。早く蜘蛛の人の所に行かないとだから』


『『むー......』』



 ――邂逅まで残り後もう僅か......

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る