第291話 温度差

「ねぇねぇあんこちゃん。どうして君はそんなに可愛いのかしら‎‎......時代が時代で、俺が一国の王ならばその可愛すぎる可愛さで国が傾くレベルだよ。まったくもう......この美姫さんめ」


 ハイパー甘えんぼ期に入ったのか、今日は朝起きてからずっとあんこ姫がまとわりついてきて離れない。俺が悪いトゲの生えた亀だったならば音速で攫ってるトコだ。赤と緑の配管工が絶対に攻略できない難易度シアンのステージを用意は当然。

 そしていつもはツンツンクールなピノちゃんだが、俺とあんこのイチャ甘な雰囲気に充てられたのか、こちらも貴重なデレモードに入っているらしい。


「‎......そっか、今日俺は死ぬんだな......うん。こんなに幸せが溢れていたら仕方ない。あんピノを抱いて溺死かな。死あわせだなぁ......

 よーしよしよしよしよしデレてるんですねー。可愛いが過ぎますねー。あははははうふふふふふふっ」


 このまま溶けてこの子たちと一つになれそう。やばいなぁ......コレ、幸せすぎる......そうか、コレが人類補完計画だったんだ......そりゃあ、あのグラサンヒゲも全人類を溶かそうとする傍迷惑な事を全力でやり出すワケだわ......

 今日はわたしたちにだけ構ってればいいんだよ! という強い意志を感じる甘えっぷりに全てがどうでもよくなる。たまらんばーい。


「ピノちゃんやーい。普段はツンツンしてるクセに今日はどしたーん? よーしよしよし今日も美肌ですねー。このフォルムも綺麗ですねー」


 俺の身体を全て覆えるサイズにまでなっているあんこは、俺を押し倒してスリスリグリグリぺろぺろはむはむ。ピノちゃんは俺の手に巻き付きながらスリスリぺろぺろガジガジ。

 こうなってくると思うことがある。それは手が足りないという事だ。片手はピノちゃんに占拠されている故に残った片手であんことピノちゃんを愛でなくてはならない事態に陥っている。

 あんこの事もピノちゃんの事ももっと愛でたい......こんなチャンスは滅多に無いのにっっ!! 人間の身体っていうモノはすぐに限界が訪れてしまう......悔しい......口惜しい‎のよぉ......


「くぅーん」

「しゃぁぁぁ」


 ......考え事をするなんて失礼だったね。やれる範囲でやれる事をやるべきだわ。所詮人間なんて配られた手札をどう使っていくか......その配られたデッキと手札を用いて一生を戦い抜くの難易度ヘルのカードゲームなんだよ......

 ピノちゃんのシャーも今までよく聞いたような威嚇するようなアレではない。なんとなくだけど甘さが含まれている......ように感じる。


「俺のターンが来ない......だがそれがいい。ずっとあんことピノちゃんのターン!! 甘えるのをやめないで!! シアンのライフは全く減ってないよ!!」


「あぉーん」

「しゃぁぁぁ」


 まだ朝だけど......これは取り切れずの閉店コースだと思います。設定12くらいあるよコレ。それではじゃんじゃんバリバリ出していこうと思います。誠にありがとうございます。ありがとうございますッッ!!!




 ◇◇◇




『ねぇねぇーあのねー聞いて聞いてー』

『誰か知らない人たちがこっちの方に向かって進んで来てるよー』


 現在あんこ、ピノ、シアンのスリートップの抜けている現状、この楽園での最高責任者......と、勝手に皆から思われているダイフクに、末っ子姉妹から報告が入る。


『えっ? あの人たち一行じゃなくて?』


『違うよー』

『三人組のー』

『『蜘蛛の人ー』』


『蜘蛛の人......? わかった。ありがとうね』


『倒すー?』

『殺すー?』

『『半殺すー?』』


『コラコラ、物騒なこと言わない。全く......一番幼いこの子たちがこんな事言うようになるとは......全くっあの人の教育はどうなってるんだよ』


『えー......じゃあどうするのー?』

『こっちに来ちゃうよー?』


『とりあえず僕が見てくるからウイとしるこはワラビに遊んでもらってきな』


『えぇぇぇー!! やだー!!』

『わたしたちも着いていく!!』


『そう言われても......んー......』


『ねぇねぇいいでしょ!!』

『ダイフクーおねがいー!!』


『えぇぇぇ......』


『ダイフクおにいちゃーん』

『ねぇねぇいいでしょ? ね?』


『おにいちゃん......だと......!? はぁ‎......わかったよ。着いてきてもいいけど、僕がいいよって言うまで攻撃はしない、危ない事はしない、ヤバそうな相手だったらすぐに逃げる。この三つを守れる? 守れるなら来ていいよ。守れないならダメ』


『やったー!』

『大人しくしてるから大丈夫ー!』


『うん。それじゃあ行こう』


 突如楽園の近くへとやってきた謎の蜘蛛人三人組。それを警戒して偵察に向かう愛らしい動物たち。

 奇しくも三対三の状況になったが、これが後にどう影響するのか......


 この時は誰もこの後に起きる惨劇、降り注いだ血の雨が雪原を赤黒く染めるとは予想していなかったー......


『変な事してないで行くよ! と言うか、こんな難しい言葉今まで使ってなかったよね? どうやって覚えたのさ!!』


『バレたー』

『さぁ行こうー』


『ちょっ......』


 末っ子姉妹に振り回されるダイフク。しっかりお兄ちゃんしてください。




 ◇◆◇




「此処に来る時はいつも転移で飛んできていましたから、目的の場所の正確な位置がわからないのは辛いですね......と言うか何なんですかこの山は!! なんで真冬で雪がたくさん積もってるにも関わらず、食虫植物や虫が活発に動いているんですか!!」


 悪辣な山から洗礼の一撃を浴びせられ、若干精神に異常をきたしているアラクネさん御一行。山登り自体はアラクネの種族特性やメイドインアラクネ装備のお陰で大したことはなかった故に、山登りに関係ない部分のエグさが精神を虐め抜いた。


 そろそろ目的地に到着してもいい頃合いだが、一向に目的の場所は見つからず。頼みの彼らの魔力や気配も全く感じられずに八方塞がりの現状。


「姫様、落ち着いてください。登山自体は順調すぎる結果でしたし、まだ山に入ってそんなに経ってません。今日はここらでゆっくり休んで明日から頑張りましょう!! 姫様はとても頑張っておられましたから今日は特別に羊羹を丸一本食べてもいいですよ」


「なら私にm......なんでもないです......」


 ご褒美羊羹に便乗してこようとしたアレなメイドを一睨みで黙らせ、ご乱心しかけている王女の精神の引き止めにかかるメイドさん。


「......えっ!? いいのですか? 最近ずっと厳しく監視して制限させていましたのに‎......」


「疲れた時は甘い物を食べてゆっくり寝るに限ります。きっと今の姫様を見たら、あの御方もそんな風に仰って食べきれない程の羊羹を姫様に渡してくれると思いますよ」


「そ、そうでしょうか......えへへ。それでは用意をお願いしますね」


「すぐにご用意致します」


「......私にもぉ......」


「後であげますから貴女も準備しなさい」


「はーい......」


 某王女さんはティータイムに突入した。




 ◇◇◇




『ねぇ、ウイにしるこ。どうやって僕たちの誰よりも早く誰か来たことを察知したの?』


『ふふーん』

『すごいでしょ!』


『うん、凄い凄い。それで......どうやってるの?』


『なんかねー声を飛ばせる範囲が増えたから、かなり遠くの方まで調べられるようになったのー』

『ウイちゃんすごいよねー』


『声飛ばしてたら僕かツキミならわかるハズなんだけどなぁ......この子やばくない?』


『ねーねー、なんか蜘蛛の人今おやつたべてるよ』

『おやつ!! おやつ......』


『そんなキラキラした目で見ないでよ......はぁ......まだ隠蔽の外に出る前だし一旦戻ってオヤツ食べてからにしよっか』


『わーい!!』

『やったー!!』


 何をするよりも優先させなくてはならないオヤツタイムが超速で割り込んだ事により、ダイフクパーティと王女様御一行の邂逅はもう少し先の事になった。

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