第290話 逆転しない裁判
「............おはよう。あんこ、ピノちゃん」
朝になりました。清々しい朝です。
まぁね、洞窟の中なんで外の天気とか全くわからないから適当に言ったんですけど。どうせ今日も雪でしょう。
「なんであんこは俺の頭をペチペチしてるの? いや、すっごい気持ちいいし嬉しいからもっとやれって思ってるけど......なんか顔が怒ってるなーって思って......そしてピノちゃんはもうなんかブチ切れてるよね。痛くはないけどなんかめっちゃ強く噛まれてるなーって事はわかるよ。うん......とりあえずさ、眉間を噛むの止めようか」
目が覚めたらクイズ番組の早押し問題の時のボタンか!! ってくらい頭に肉球パンチのラッシュを喰らっていて、それでいて眉間をガジガジされているこの状況......なにがどーしてこーなっているのでしょうか。全く心当たりがございません。
寝てる時に俺の寝相の悪さで何かしてしまったのでしょうか。寝てる間の事については無意識なので改善のしようがないのが悲しいですね。
「......肉球パンチ目覚ましは流行るな。どこかの勇気のある企業の方、是非とも商品化を検討して欲しいですね。事故や怪我がないように肉球の素材に拘りを持って作って欲しい所存で御座います。あー......振動と気持ちよさで脳が溶けそう......」
寝起きの頭では残念な事しか出てこないので、思考を放棄しつつ肉球パンチの堪能に全身全霊を注ぐことにした。
「ほっぺとかもペチペチしてくれていいんだよ。こう一息にムギュっと押し付ける感じにしt......あ、ダメ? そうですか......残念でうぷぷぷ......」
もうテメェは喋んじゃねぇとでも言いたいのでしょうか。ピノちゃんが闇糸を使って俺の口を塞いだ。ひどーい。
「シャァァァァァッ!!」
はい、ごめんなさい。何に怒っているのかわからないけれど一応謝罪をいれておく。これでピノちゃんがクールダウンしてくれる事を......
「シャァァァァァ!!」
謝意は伝わらなかったみたいですね。とりあえず説明をお願いしたい。どうしてこうなったのでしょうか。
『......はぁ......ねぇ、本当にわからないの?』
モゴモゴしながら考えていると、あんこから溜め息混じり、呆れ混じりにこう言われてしまった。
イエスと言いたいが言えないので頷いておく。ごめんなさい。
「シャアッ」
あ゛!? って感じの鋭い視線が飛んできた。怖っ!!
『......昨日、ご飯食べた後何をした?』
............この子たちを布団の所にまで運んでぇ......撫でてぇ......うん、それくらいしかしていない。怒られる謂れは全くございませんね。
ここまで心当たりがないと無意識下で俺が何かを仕出かしたのかもしれないけれど、無意識下だから全くわかりません。以上!! わたくしは無罪を主張致します!! ......と、あんことピノちゃんに念話を送ってみた。わかってくれたら嬉しい。
『......はぁ......ギルティだよ』
だがっ!! 俺に下された判決は無情にも有罪判決。何も心当たりがございません!! 裁判長っ!! 裁判長ォォォォォォ!!
必死に控訴するも覆らず、鼻からピノファイヤーを注入されてしまった。鼻毛が焼け、鼻腔中毛の燃えた時のイヤーな臭いが満ちていく。
そして炎をぶち込まれると同時に口の拘束が解かれた。タネも仕掛けも無い人間火炎放射です。ヒャッハー!! 汚物は消毒だぁー!! ってまぁ消毒されている汚物はきっと俺なんだろうけれど。
「......ゲホッゲホッ......あ、あー。うん。鼻毛が無くなった以外に何も被害は無いな。改めて人間を辞めた事を実感するわぁ......どんな構造をしてるんだマイボデーは。
さて......いい加減説明してくれるかな? 一発実刑に加えて俺以外にやったならばエラいことになるような刑罰だったけど......」
相変わらずの人間の辞めっぷりに自分でヒキながら説明を要求する。わたくしには本当に心当たりがないんです。
『なんでなんともないのさ......』
『やりすぎだと思ってたけど......えぇぇぇ......』
なんか知らないけれども、やった本蛇と有罪判決を下したわんこ裁判長がドン引いているのが納得いかない。もし俺に、こうかはばつぐんだ! をしていたらどうしてたのさ!!
「......ねぇ、ヒかないでくれるかな? ねぇ......」
『あっ......うん......』
お耳としっぽと体毛が心做しかペタンとしているあんこちゃんがようやく口を開いてくれようとしている。なんだろう......とても納得がいかない。
『苦しくて動けないわたしたちに好き放題してくれたよね? 運ぶフリをしてサワサワサワサワって......ピノは動けなかったけど、その時ちゃんと意識はあって、目を覚ました後にわたしに泣きついてきたんだよ!!』
『ほんと......さいてー......』
「待って!! ちゃんと説明させて!! 俺の言い分を聞いてから判断してほしいんだよ!!」
『......いいよ、聞いてあげる』
『早く言え』
「......うん。あのさ、今の季節は真冬やん? そんな時に洞窟の地面の上で寝かせておくのは忍びないと思ってお布団まで運んだんだよ。その時に触れたピノ肌とあんこ肌が......すっごい気持ちよかったんですよ」
『............』
『............続けてどうぞ』
「やだっ......この子たち目に光が無いっ......」
『はやく』
やだ本当に怖い......よし、なんかもう勢いで誤魔化そう。きっと勢いで押し切れる......はずだ!!
「アッハイ......それでですね、運ぶ事に細心の注意を払いつつも手に吸い付くようなお肌が気持ちよすぎて脳内がフィーバーしちゃったの。遅刻した友人を待ってる時にフラッと入ったパチ屋でオスイチからの確変が止まらなくなって結局友人を待たせてしまうあの現象みたいな......なんて言うか止められなくなって結局打ち切っちゃった的な?」
『ちょっと何言ってるかわからない』
『わかる言語で話して』
「あるぇ伝わらない......言いたかったことがふんわりとでも伝わるかと思ったのに......」
『よくわからないこと言って誤魔化そうとしてるでしょ?』
「......ちゃうねん......ソ、ソンナツモリナイヨーヤダワー」
看破っっ!! 圧倒的看破っっ!! やだ、この子たち絶対金特持ってる......心眼、看破、読心術は確実っぽい......
『......さっさと吐け』
「うぃ」
はい、ゲロりました。圧が凄いんですもん。この子たち普段はキュートさとプリチーさと愛狂しさにポイントを全振りしてるからね......怒ると怖いんです。
人間を辞めている俺でもあんピノ人間爆弾になって爆発したらきっと死ね......るか?
死ねるかもしれないし、重症もしくは軽傷で済んでしまうかもしれない。あれ? 俺こう考えると本格的にやばいな......
今回の罰として今日一日中、茶色の全身タイツを装着してお馬さんになり、雪山を歩き回らされましたよ。あんことピノちゃんからお許しが出た頃には手と足の感覚が消失したけど、案外温情のある沙汰が下されたと思われる。俺の予想ではもっとヤバい刑罰が下ると思っていた。
ついでに白い出歯梟がきっと、俺のこのクッソ情けない姿をウォッチングしている気がして悲しくなった。と言うか視線をずっと感じていた......貴様、見ていたなッッ!!
◇◇◇
side~???~
『ねぇ皆、あの人が馬鹿なことしでかしてあんことピノに怒られてるよ。なんか今ワラビみたいな感じで上に二人を乗せて雪山を走り回っててすっごい面白いよ!』
『なにそれ!』
『おもしろそう!』
『ぶふっ......顔面から雪に突っ込んでる。ウイとしるこはあの人が帰ってきたら、やってよってオネダリしてみるといいよ。きっとやってくれるから』
『ほんとにやってくれるかなー?』
『おねがいしてみようー!』
『そうしてみな。ふふふっ......ダメだコレ、めっちゃ面白い......』
『その時はワタシも上に乗る』
今日も楽園には平和な時間が流れていた。
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