第289話 膨らみがあれば触るのが漢
粉モンとお餅......片方はとても腹に溜まり、もう片方は腹の中で膨れる。これらは食後の満足感、満腹感が異常とも言える。
さて、そんなブツをたらふく喰らった俺ら一行はと言うと、あんこちゃんはヘソ天で苦しそうに舌を出しながら転がっていて、ピノちゃんはイカめしの様に膨れ微動だにしていない。
今ピノちゃんにツンツクしたら、パンパンに膨らんだ巨大風船の如く破裂する。変な刺激を与えても大雨の後のダムの放水の時の様な有様になる。
「......まぁこの子たちに何かイタズラを仕掛けようにも俺も動けないんだけどね。うぅぅ......粉モンがおビールをお吸いになって胃の中でこれでもかと膨張してやがる......」
調子に乗って食べすぎた者の末路。暴飲暴食ってしてる時は楽しいんだけど、その後がダメよね。
「......おーい、あんこちゃーん、ピノちゃーん......動けそうですかー? お布団出しとくから動けそうならお布団で横になりなー。無理そうなら大丈夫な時に移動するんだよー......」
この俺の呼びかけにあんこは力無くしっぽを上下に振ってお返事し、ピノちゃんはノーリアクションだった。ピノちゃん死んでないよね? 死因が過食とかシャレにならんぞ......あ、探知に生体反応はしっかりある。無事で良かった!!
そういえば蛇って体のラインにくっきり浮き出る程の獲物を丸呑みしてる映像とか見た事あるし......この子にもソレらしきアレは備わってるよね。きっと。
「なんかまじまじと見ているとツチノコみたいに見えてきてる......あっちにいた時にこの光景見てたらテレビに送ってたかもしれぬ......なんだろ......丸々してるヘビって可愛いなおい。撫で回したいけど動けないし、ピノちゃんにも刺激は与えられんし......くっ......あっ!! 今思いついた悪魔的な考え、もしやれたとしたら......試す価値はあるな!! 失敗したらどうなるかわかんねぇけど」
胃の中で膨らんだブツを分解するイメージで崩魔法を発動させていく。これは消化魔法と名付ければいいのだろうか。
成功すれば「俺の胃袋は宇宙だ」がリアルで出来ることになる......だがもし失敗したのならば俺の内臓が深刻なダメージを受けてしまい取り返しのつかない事態に陥ってしまう。
「目の前で苦しんでいる俺の天使たちをこのまま床に寝かしつけておくわけにはいかねぇもんな。シアン動きます」
目の前で動く事が出来ない我が子を、少しでもいい環境で寝かせてあげたい気持ちが俺を突き動かす。
あわよくばパンパンに膨らんだ蛇ポンポンを触りたいとか、同わんこポンポンを触りたいとかは思っていない。膨らみには男の夢が詰まっていると言うが、これは100%善意からの行動であり、邪な考えは頭の中に全くあったりはしないんです。本当ですよ、見よ! この曇りなきピュアッピュアでクリアなお目目を。
「ふぅ......行こう......胃の中身を分解......分解......分解......消してはいけない。食事で摂った栄養はキチンと俺の血肉にしないといけない。大食いして吐いたり、胃の中身を抹消するなんてのは論外だ」
初めての行為の為に時間が掛かったが、十分ほどあーだこーだしていたらお腹の中がすっきりしてきた。体には不調な部分や痛む部分はない。
「くっくっく......悪魔的だァ!! 悪魔的な発明だぜコレはァ!! 頑張れば脂肪のみを分解とか悪性の腫瘍のみを分解とかの夢のような事が出来るようになりそうだけど、他人の体でやるのは責任が持てねぇから却下だ......ふひひひひ、さぁ動けない我が子の救助に向かおうではないか!!」
さぁ行こうか、特殊救難任務へ......っ!!
最初の要救助者はシベリアンハスキーっぽいわんこのあんこちゃん。雪山の洞窟の中でご飯を食べすぎて動けなくなってしまったみたいです。
「......かっ......かわいいっ......見た目はシベリアンハスキーなのにフォルムはポメラニアンみたいになっています。どうなっているんでしょうか。この子の内臓の構造は全くわかりませんが一つだけ言えることがあります。ものすごく可愛いです!!」
やさしーーーくふんわりと抱きかかえ、あんこお嬢様のお気に入りのブランケットを敷いた特製寝床へと運んでいく。揺れゼロの最高の運び屋の俺です。
なんでコイツ動けんの!? って顔をされましたがお兄さんはちょっとだけズルをしました。その苦しみからはひと足早く脱却してしまいましたごめんなさい。
「苦しそうで可哀想だけど美味しいモノをたらふく食べるのは幸せだからね。美味しそうにご飯を食べているのを見るのは料理人冥利に尽きるからストップ掛けられないんだよ......ごめんよ」
運びながらモチモチスベスベの膨らんだポンポンをソッと撫でる。思った通りのエグい触り心地で昇天しそうでございます。
「............やばっ(小声)」
圧力をかけることの無いようにしながらもガッツリ触る。これは俺だけの特権。誰にも譲る気はない至福のひととき。
「はい、とうちゃーく。ここでゆっくり休むんだよ。なんかして欲しい事があったりしたら呼んでねー。音速で駆けつけるから」
「くぅん......」
しっぽをパタンパタンさせてお返事するあんこお嬢様をパシャリ。ご馳走様でした。
さて、もう一人の要救助者の救助へと向かおう。
白蛇から白ツチノコへと突然変異してしまった元宝石付き白蛇のピノちゃん。この子も雪山の洞窟の中でご飯を食べすぎて動けなくなってしまったようです。こんな最低な環境でも何故か美味しいご飯がたくさんあったんでしょうねー(棒)
「はーいピノちゃーんお布団まで行きましょうねー。まさかこんな事になるなんて思わなかったけど俺は君がご飯をもりもり食べてくれて嬉しかったよ」
こちらも優しくふんわりと抱っこ......はし難いので両手で掬うように持ち上げてお布団が敷いてある場所まで運んでいく。
パツンパツンに膨れ上がったこのツチノコちゃんは元のスベスベの蛇肌に、何故か手に吸い付くようようなしっとり感と不思議なモチモチぷにぷに感が絶妙なバランスで同居している。
「なっ......なんだこれはっ......!? 何時までも......いや、四六時中サワサワしていられる不思議なモッチリしっとりぷにサラ触感......これは人をダメにする蛇肌やー」
きっと意識はあって、この胡散臭いグルメレポーターのような独り言はガッツリ聞かれているんだろうけど口は自重してくれなかった。この子が動けるようになったらきっと、俺はこの子から絶対お叱りを受けるんだろう。
「生きているのはわかってるし、ちゃんと温もりもあるんだけど......この微動だにしなさは心配になってくる。ヘビの生態や特徴について知識を付けておくべきだったなぁ......爬虫類の可愛さはこっちでピノちゃんに触れ合うようになってから理解したからなぁ」
手に吸いついて離れないツチノコ肌をお布団までの短い移動距離をゆっくり移動しながら楽しみ、涙を堪えながらソッと布団に寝かしつける。
丸っこいわんこと丸っこいヘビが並んで寝ている光景が愛おしすぎて尊い。ずっと見ていたい気持ちに駆られたのであんことピノちゃんの枕元に座布団を敷き、その上に座って寝顔を眺めながら頭を撫でる。
「俺は幸せ者だなぁ......なんかこの子たちを見ていたらイカめしが食いたくなってきたから今度暇な時にイカめしを作ろう。煮汁をたっぷり吸ったイカと、イカの旨味とおつゆの旨味をたっぷり吸ってモッチモチになったもち米......うん、食べたい」
苦しそうにしながら寝ているのを見てニヤニヤしてるのを申し訳ないと思うが、幸せすぎて止まらない。ごめんねダメな飼い主で。
「ダメだ......いつまでも触っていられる......この子たちがマグネットすぎて俺の手が離れなさすぎてやばい。シアンホイホイだよコレは。傍から見たら気持ち悪いんだろうけど、目撃者は居ない。せめてものアレで手つきだけは慈しみを込めて全身全霊で無でるから許してくれ......」
この後俺はこの子たちが動けるようになるまでずっと、ただひたすら撫でることだけに全てを費やした。
◇◇◇
「ようやくここまで来れましたね......ようやく山の麓まで辿り着きました。あともう少しですっ!! 頑張りましょう姫様!!」
「えぇ、まさか旅がここまで大変だとは思いませんでしたが、ようやくここまで来れました。真冬の雪山を登るのは普通は自殺行為ですが、私たちにはアラクネ産の全身装備があります......さぁ行きましょう!!」
「姫様......ご立派になられましたね......もう王位簒奪して女王になっちゃいましょうよ」
「い・や・で・す!! 王位なんかよりも大事なものが此処にあるんです。一国の主になって国家運営なんて面倒なモノは野心や熱意のある人に任せておけばいいんです」
「......仮にも王族の者が言っていいセリフではないと思うんですが......でもそうですよねぇ......今の王様とか見てると王位なんて就きたいと思えませんよ」
「はいはい、無駄話はそこまでです。行きますよ!!」
とうとう山まで辿り着いた某王女一行。無事に雪山を越えてシアンの楽園まで辿り着くことが出来るだろうか......
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます