第288話 消臭と粉モン
鼻が麻痺していなければもう大丈夫......って思えるぐらいまでガンガン身体を洗い倒した。ここまで全力で洗い尽くしてもダメならば、もうこれ以上はファブ〇ーズ風呂に数時間浸かるしかないだろう。
ものすごく固くて強いマイボディでも擦りすぎればヒリヒリする。俺の攻撃力と防御力がせめぎ合った結果、表面だけダメージが通っているという厄介な結果になっているご様子であろうか......頑張れよマイ皮膚。こんな情けない事でダメージ受けるんじゃありませんよ。
洗っては嗅いで洗っては嗅いで洗っては嗅いで......何度も何度も繰り返し洗い、異臭は消えたと思われるまでにはなれた。鼻が麻痺してしまっていて何も感じなくなっている可能性も無きにしも非ずだろうけど、まぁここまでやった努力だけは認めて欲しい。
「......繰り返す。私は何度でも繰り返す。同じ箇所を何度も洗い、たった一つの消臭を目指す。体を、絶望の悪臭から救い出す道を......」
これくらいでいいかと思ったけれども臭くて拒否の二回目をされてしまったら心が砕ける自信しかないので、洗浄を続行。
「私の洗浄はここじゃない......」
その後、結局二時間以上の時間を浪費し、身体を洗いきってから風呂からあがった。
「......だよねー、知ってた!!」
お風呂から上がり、あんこちゃんとピノちゃんの待つ場所へと戻ったら案の定スヤッスヤ。ガッツリ寝ておりました。
主の帰還を待っていてくれてもいいじゃないかと思ったけれども、めちゃくちゃ可愛い寝顔と安心しきっただらしない姿を見せてくれたので良しとする。むしろありがとうございます。
「できれば臭いチェックをしてほしかったけど、待たせすぎたから仕方ない......肌がズル剥けるんじゃないかという程度には擦り洗いしてきたから大丈夫だとは思うけど。寝起きに臭いリアクション取られない事を祈るしかないなァ......」
蓄積したダメージで服が擦れるだけで痛いレベル。暖簾に腕押しレベルの意味のなさだろうけど最上級のポーションを刷り込んでから俺も横になる。
............あんことピノちゃんから少し離れた位置で。
「おやすみなさい」
色々ありすぎた濃すぎる時間にさすがの俺も疲れちゃたらしい。ヒリヒリはしていたけど横になるとすぐに夢の中へご招待された。
◇◇◇
『......んんん......? あっっ!! ご主人戻ってきてる!!』
お昼寝から目を覚ましたあんこちゃんは大好きなご主人を見つけました。
なんで自分たちから離れて寝ているんだろう......抱っこして寝て欲しかったなぁ......と、自分たちが彼を臭いと言って傷付けた事を寝てしまった事ですっかり忘れたあんこちゃん。少し悲しい気分になりながらもご主人の元へと寄っていきます。
ピノちゃんはそのまま寝かせておきます。ご主人様を独り占めしたかったのでしょう。
『んふふー......ん? ご主人の匂いがいつもと違う......むぅぅぅ』
寝ているご主人様の腕に頭を乗せて腕枕状態になって御満悦だったが、ご主人の匂いが石鹸やボディソープ、消臭スプレー、制汗剤などなど......あらゆる臭いケアと洗体によって塗りつぶされており、若干不機嫌になる。
『......うぅぅぅ......それなら......』
グリグリとご主人様の身体に自身の身体を擦り付けていく。彼が起きていたら鼻血モノの光景だったであろうが残念ながらぐっすり寝ている。
『......フンフン......むふぅ!!』
たっぷりと自分の匂いを付けた事で満足し、そのまま抱きついて再び眠り始めた。あんこちゃんが寝付くまでそのしっぽはブンブン振られていました。
◇◇◇
「......ん、んんんん......ん? あっ!? マジか!! 良かったぁ......ふふふ、幸せそうに寝ちゃって......よーしよしよしよし......お腹のお肉気持ちいいわぁ......肉球もプニップニ......ぐへへへへへ、好き放題されちゃってるけど悪い男にホイホイされちゃった自分が悪いんだよ......フフフフフフ」
腕の中にすっぽり納まって寝ていたあんこを発見し、これまでの寂しさを晴らすかのようにこれ幸いと気持ち悪い表情を浮かべながらモフりだす。お腹、太もも、肉球を筆頭に身体中のありとあらゆる所を触りまくっている。もちろん寝ているあんこを起こさないように細心の注意を払いながら。
「......たまらんのぉ......ふひひっ。なんでわんこってお腹をわしゃわしゃしてると後ろ足がピクンピクンするんだろうね。なんかそういう反応する子って多いよねー。なんでそうなるのかわからんけど、この反応めっちゃ好き!! あぁたまんねぇわコレ............はっ!? ピノちゃん......あーその、これは......」
少々イキすぎたスキンシップをしていると視線を感じ、視線を感じた方へと振り返るとドン引きの表情を浮かべている白い蛇がいた......
『......来ないでっ!』
あんこを抱きかかえてモフモフを継続したままピノちゃんの方へ向かおうとすると、臭かった時よりも強い拒絶が待っていた。
「いやその......拒絶されて悲しくて......でもさ、ほら......起きたらあんこが腕の中に居たから嬉しくなってテンションが振り切れて......ね? だからそのー、これは仕方ない事なんだよ!!」
『......なにも見テナイヨ......』
開き直ったら折れてくれた。さすがピノちゃん空気を読める賢い子っ!!
「だよねー!! うんうん。あ、そうだ!! あんこたんが起きたらご飯にしよっか。ピノちゃんは今日何を食べたい気分ですかね?」
『えっ......えぇぇ......はぁ......じゃあお餅を使ったモノがいい』
「よっしゃ任せて!! とっても優しくて賢いピノちゃんに満足してもらえるようなものを作るから楽しみにしててね!!」
『う、うん......』
「よーしよしよ......あ、触られたくはないのね......」
勢いで押し切ったからこの勢いでお触りも解禁になるかなーっと思ったけど、そこはまだお許しを頂けなかったらしくひらりと身を躱されてしまった。チッ!!
まぁいい......まだチャンスはある。あんこたんを定位置に入れてご飯を作るかね。
餅を使った料理といえば......焼き餅、お雑煮、餅巾着......パッと思いつくのはここら辺であろう。だが今日の俺は冴えている。
「餅を美味しく食える料理といえばコレがあるのだ。さぁピノちゃんよ......この組み合わせに恐れ慄くがよい......ふふふふふ......この沼にハマってしまったら二度と抜け出せないぜ......」
用意したのはコレら。察しのいい皆さんならもうこの具材を見たらすぐに理解するであろう。
・たこ焼き粉
・お好み焼き粉
・キャベツ
・白出汁
・明太子
・餅
・チーズ
・紅しょうが
・ベビース〇ーラーメン
・天かす
そう、某地方のソウルフード。粉物である。
たこ焼き、お好み焼き、そしてもんじゃ焼き。今回はたこ焼きではなく明太餅チーズ焼きになるが。
粉物って楽でいいよね。洗い物だけクソ面倒なんだけど、具材を切り刻んでソレらを混ぜて焼くだけ......しかもなんかワクワクして楽しい。
炭水化物の塊で栄養バランスとか皆無だけど罪悪感のある物は美味いからね、仕方ないよね。
切って混ぜて焼く
切って混ぜて焼く
切って混ぜて焼く......
たこ焼きとお好み焼きは同時進行で焼いていく。器用さがあってよかった......もふもふする為だけにあったんじゃなかったんだね。
たこ焼きをクルクル回し、お好み焼きはひっくり返す。焼けたらすぐに収納に入れてまた追加を投入。
途中でこっそり豚玉や牛スジネギとかも焼いた。これは俺の晩酌の時用に。
「......くぁぁぁぁー」
「あ、起きた? もうすぐご飯出来るからねー」
「あふっ」
まだ半分夢の中のあんこに癒されていると、あんこが起きたのをどうにかして察したのかピノちゃんがこっちへやってきた。
「来たね、じゃあ本日のメインを焼いてくから待っててね」
たこ焼き粉とお好み焼き粉をミックスし、シャバシャバになるまで出汁と水を加えた家もんじゃ用の液。
具を焼いて液を流し込んで、ちょっと放置して混ぜる。これだけで出来て美味しいもんじゃ。
『何これ?』
「わふっ」
アレに似たモノがいい匂いを出しながら焼けていく様子を訝しげに眺める天使たち。脳が混乱するよね。
「もんじゃ焼きって言う不思議な食べ物だよ。このコテを使って......ソレ使って食べれそう? 難しそうなら違うの用意するけど」
『大丈夫』
『うん』
糸を使って器用に使いこなすピノちゃんと可愛いあんよで挟んでブンブンしているあんこ。食べ方のお手本を見せると頷いたので大丈夫だろう。
「焼けたからどうぞ! アッツいから火傷しないように気をつけて食べてねー」
『......あっ、美味しい』
『あついっ!』
「あーコレコレ、店とはクオリティ違うけどそれっぽく家でも出来るのはいいね。明太餅チーズの相思相愛っぷりやべぇ......あ、お好み焼きてたこ焼きもあるからどんどん食べてね」
鉄板に向き合い、アッツアツの粉物をハフハフしながら食べるわんことヘビと人間。美味いものを食えば種族が違えど同じようなリアクションになる。
「おビールが美味しいですわ」
『丸いのも平たいのも、中の具は一緒なのに全然味違うんだね』
『あつい......美味しいっ!』
全部を満遍なく食べるピノちゃんともんじゃがお気に入りのあんこ。
「まだあるからたくさん食べるんだよ」
異世界での鉄板焼き屋はとても繁盛した。お家に帰ったらまたやろうと思う。今度は全員で鉄板を囲もうじゃないか!!
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