第287話 閑話~バレンタイン~
正確な日付けなんてわかんねぇけど、俺の感覚で言えば今日はバレンタインデー。今日は皆に俺の愛を伝える日だ。
今俺はキャンピングカーの中であの子たちに贈るためのチョコを頑張って制作しようと準備している最中である。モノホンのわんこにチョコは絶対NGだから近付けれもしないけど、あの子はわんこの形をしたファンタジーな生き物だからセーフ。
他の子も嫌いな物はあっても食えない物はここまで一緒に住んできて見たことがない。まぁダメなら気持ちだけ......いや、俺の愛だけを送らせてもらおう。
さぁレッツクッキングターイム!!
はい、という訳でシアン特製のチョコレートを作っていきましょう。
「......まず最初は板チョコを細かくしたり細切りにしたりするんだよね、確か」
まな板の上には銀の衣服を剥ぎ取られて全裸に剥かれた沢山の板チョコがゴロゴロ転がっている。ふふふ......さぁどう調理してやろうか。
と、変なテンションになりかけたりもしたがやる事はソレらを地味に刻んでいくだけ。愛を伝える......いや、愛を込める為にも魔法は使用しないで包丁でセッセと切り刻んでいく。
「......よく手作りチョコなんて言うけど、ただ溶かして再び形成しただけの企業のチョコなんだよな。一からチョコ作りなんてやるのは無理だから仕方ないけど。それにしてもチョコの甘い匂いが凄い......つまみ食いしないで作るなんて無理だな」
作り始めて一分も経たずに俺の手は無意識にチョコに伸び、そのチョコを口の中に放り込んでいた。いやね、これはもう仕方ない事なのだよ。うん。
「チョコおいしい......」
つまみ食いをしながら考える。
あの子たちからチョコを貰えるなんて思っていない。そもそもこっちでカカオやその代用品がそう都合良く見つかるなんて思ってないし、あの子たちがチョコを作れるなんて思っていない。まぁ貰えるものなら貰いたいんだけどね......これは仕方な......ハッ!!
......そうだ!! 完成ちょっと前の半固形状態のチョコにあんこたんの肉球スタンプを押してもらえば、そのチョコはあんこたんからの愛のかたまりと言えるだろう。他の子たちからも体の一部を拝借してチョコをポチればええんや!! ......と。
「やばっ......もしかして俺って天才!?」
圧倒的閃きを得てテンションがぶち上がった俺はつまみ食いを止めてチョコ作りに専念し始める。
テンションが上がれば当然モチベーションも上がる。モフテクだけの為にある訳じゃないという所を見せようと指先が唸りをあげていく。
「おっふ......やはり俺は天才だったらしい......マーベラスすぎてやばい」
五分かそこらで完成したブツは本物と見間違えてしまいかねない程のリアルさを兼ね備えた五分の一スケールの超リアルあんこちゃんチョコフィギュア。
「色がチョコレートの色じゃなければ飛びついてモフってしまっていたかもしれない......フハハハハハッ!! 俺のチートっぷりパネェ......よし!! この調子で残りの子の分も作ってしまおう!!」
こうして俺はネクストのピノちゃんチョコフィギュアの制作に取り掛かり始めた。
途中で全身にチョコを塗りたくって皆の前に姿を現して、皆にチョコボディをぺろぺろしてもらおうという考えが一瞬頭をよぎったが、その変態的な思考を頭を振って消し去る。好意的なリアクションなんてされる気が全くしないし、せっかくのこんなイベントデーに凹みたくはない。嫌われたりでもしたら泣く。
「............まぁそんな事を頭の中で思おうが自由だけど......止めた理由の本当の理由はコレなんだよなぁ......」
完成したあんこたんチョコとピノちゃんチョコのピュアで曇りのないつぶらな瞳が俺を見ていた。目を逸らす事無く、ジィッと変態を見ていたからだ。
「......さて、残りの子たちを頑張って作っていきましょうか」
ぶち上がっていたテンションがいい具合に落ち着いたので残りのチョコの制作には狂うことなく取り掛かれた。
◇◇◇
「......ふぅ......終わった」
机の上に並んだマイエンジェルたちのチョコレートを見て、達成感と共に嬉しさが押し寄せ顔が緩む。これはもう世界遺産認定確実でございますよ。
ヘカトンくんチョコフィギュアは細かいし細工が多いしでとても大変でした。なんであの子はあんなに腕と顔が多いのだろうか......お願いだからもっとスッキリしてほしい。
「ナニはともあれコレで............いや、まだ終わりじゃないなコレ。世の中にはデコるという文化があるのを忘れていた......テキ屋のチョコバナナに付いているようなあの変なのを使ってこそ真の完成系に到達できるのではないだろうか......」
そう......これだけではただの食べられる精巧なフィギュアでしかない。ここに飾りや色を付けてこそ、真のマイエンジェルズチョコレートの完成なのである。
「妥協していいのは自分の事だけ......俺はあの子たちの事についての全ての事柄にだけは妥協したくない!! やってやろうじゃねぇか!! 可愛くて美味しくて映えそうなエモいモンを作ってやるぜ!!」
色付けやデコレーションでチョコフィギュアに生命を吹き込み始めた。果てしない作業になる気がしまくっているがそんなの関係ねぇの海パン野郎メンタルで突き進んでいく。終わる頃にはきっと精根尽き果てた野郎の成れの果てになっている気がするがあの子たちの驚いたお顔が見たいので頑張ろうと思える。
「ふふふふふ......ふははははは......はーっはっはっはっはー!!!」
カカオーズハイになった漢がそこに居た。
◇◇◇
「.........ふふふふふ......ようやく納得のいく出来栄えのモノが完成したぞ......完璧だ、今すぐにでも動き出しそうではないか!! うん、もう夜になってるけどこれは仕方ない。中途半端な出来のモノを渡すのは俺のなけなしのプライドが許さないからな......あと俺用にスタンプ押してもらう用のチョコも準備できている......さぁ行こう。あの子たちの元へ......ッ!!」
締切間際に原稿を仕上げた漫画家のような疲弊度だが、この後すぐラストエリクサーをオーバードーズできるとわかっているので足取りは軽い。俺はノウミサンにならない。使ってこその道具だ。
「............」
皆のいる部屋の前に到着した俺に、ここで今世紀最大の試練が襲いかかってきた。
「やべぇ......これはやべぇよ......どうすりゃいいんだよォォォォォ(超小声)」
叫び出しそうになる気持ちを意地と根性で押さえ込み、目標達成まであと少し......ほんのあと少しの所で目の前に現れやがりやがった難敵と相見える。
「野郎からのバレンタインプレゼント......果たして俺はあの子たちの前にどんなテンションと衣装で行けばいいんだろうか......
女の子なら照れながらとかあざとさとか可愛さを全面に押し出していけばいいんだろうけど......衣装も勝負服や制服とか......クッ......俺は......いや、野郎が......バレンタインを渡す時にはどんな感じで突撃するのが正解なんだよォ......」
............
........................
部屋の前に佇む事数分、考えが纏まった俺は恥も外聞もかなぐり捨ててあの子たちが待つ部屋に、特攻隊のような気持ちで突撃していった。
結果はどうなったのか? それは聞かないでほしい。かなぐり捨てたと思っていた物はまだ残っていた......とだけ言っておこう。
「......グスッ......ハッピーバレンタインだよ皆ァ......はいコレ......頑張って作ったので食べてくれたら嬉しいな......あ、ちょっと俺は着替えてくるね......」
チョコフィギュアにはとっても素晴らしいリアクションをして喜んでくれたからヨシとしよう。早く着替えて気持ちをリセットだ。
後今イベント残りミッションは、俺の野望であるエンジェルスタンプチョコレートを貰うだけ。
「......さっきのアレは忘れて。いいね、さっきのアレは不幸な事故だから忘れようね。あ、俺からお願いがあるんだけど、この茶色のに皆の足跡とか特徴的な部位を押し付けて欲しいんだ」
俺からの意味不明なお願いに一瞬不可解なモノを見た時のような顔をした天使たちだったが、二つ返事でOKを出してくれた。みんな優しい。好き。
あんこの肉球
ピノちゃんのデスマスク
ダイフクのクチバシ
ツキミちゃんのキスマーク
ヘカトンくんの手形
ワラビの蹄
ウイちゃんの尻形
しるこの角形
これらのスタンプされたチョコレートの板は俺の宝物になった。スタンプの押されていない部分を一年かけて少しづつ食べていこうと思っている。
皆さんもよいバレンタインになるといいね! 甘い物を沢山食べて暗い気持ちを吹き飛ばそう!!
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皆様お久しぶりでございます。
コロナ大流行で無事に私も流行に乗っかりコロナを貰ってしまいました。症状はそうでもなかったんですが味覚が死んだのと、治った後に味覚が変わった事でもうこの世の終わりかと思うほど絶望しました。
大好物のサバが食べられなくなったのが死ぬほどキツくて......サバのアブラの乗った部分が特にダメになっちゃいまして、これからサバ塩やサバ味噌とはもう会うことは無いでしょう......何故かサバ缶だけはイケましたが。味覚って戻るのでしょうか?
さて、リアルの方が少しづつ落ち着いてきているのでまったりとなりますがこれから更新を再開していこうと思います。
長い間放置してしまい申し訳ありません。またよろしくお願いします。
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