第286話
隔離空間で臭いをシャットアウトしながらエンペラーさんが起きるのを待つ。臭かったからか俺の服にくるまって出てこないあんこちゃん。
ピノちゃんはラーメンどんぶりに入れた温泉に浸かってふやけている。目玉のオヤジさんスタイルをやってみたけど可愛い。
「......このちっちゃい手ぬぐいを頭に乗せてっと......うん、可愛い。やばいねそれ」
唐突に訪れた癒しタイムに俺の心がギュンギュン癒されていく。たまらん。
「ほーらあんこちゃんも出ておいでー......一緒に臭い消ししようよー」
「......ウゥゥゥゥ」
あんこちゃんを引っ張りだそうとするも、全く出てこようとしない。全力で動くのを拒否していて悲しい......
なんて言うかアレだね。お散歩で帰り道に差し掛かったのに気付いて動こうとしない柴犬を彷彿とさせる微動だにしなさ。
「これ、タオルを口に咥えさせたら野生に目覚める気がする......ちょっと咥えてみてくんない?」
「ヴゥゥゥゥ......」
「ごめんなさい......大人しくしてます」
唸り声に殺気が混ざっていたから大人しく撤退。そんな声出さないでください。心が折れてしまいますのでどうかご勘弁を。
白蛇ちゃんの入浴シーンを見ながら心の平穏を保ちながら時間を潰していく。不自然な光や湯気の無い入浴シーンはとてもいいものだ。
「はぁ......なんかに外出たく無くなってきちゃったよ。あんこちゃんはエンペラーさんが復活してもこのまま隔離されとく?」
「わふん!」
「さっきまでドギツイ唸り声を出してたと思えない程に良いお返事してりゅ......うん、じゃあお外には俺とピノちゃんだけで行......あ、勝手に決めちゃまずいかな、ピノちゃんはどうしたいですかね?」
「シャァァァ」
「おけ、俺だけで行ってきます」
ピノちゃんにも拒否の姿勢をされたので諦める。俺だって外に行かずにこのままハートフルな光景を見ていたいんですよぉ......
「......あーあーあーあー、もう、気持ち良さそうに入浴してるから俺も入りたくなってきちゃったよ。浴槽......久々に出して入っちゃうかなぁ」
やる事がとても少ないのでピノちゃんに便乗して入浴を開始した。あわよくば不貞腐れわんこの乱入も期待してたりしてなかったり......
「ふはぁっ......いい湯だなぁ。もうここは臭くないのになー、一緒にお風呂に入ったらとても気持ちよくなれるし、さっきまでのくっせぇ臭いとか忘れられるだろうなー。ピノちゃんはラーメンどんぶりから出てきてこっちにきたりしないー?」
凄まじく棒読みな気がするけどそこは気にしたら負けだろう......うん。駄々っ子に語りかける時はやべーくらい棒読みになっちゃうのは仕方ないんだよ。はははははははー。
チラチラと俺の服から顔を出してこちらを伺ってるのには気付いてないフリをしてあげよう。だからね、もうそっから出ておいで。一緒にお風呂へ入ろうじゃないか。
「............あ、ピノちゃんはアレなのね。ラーメンどんぶりがベストフィットスポットなのね。体にジャストフィットしちゃう場所を見つけると動きたくなくなるのはわかるけど、ほらほら、大きな浴槽で優雅に入浴を楽しむのも乙なモンなんだよー」
「............」
「あーそうですか、そうですか。華麗にスルーしやがってこんちくしょう......いいもん......きっとあんこちゃんが一緒にお風呂入ってくれるから......」
雨の日に偶然見つけちゃったダンボールに入れられて捨てられている子犬のような目で駄々っ子わんこに目線を向けるとバッチリ目が合った。
行きたい......けど、素直になれないっっ!!
そんな目をしてバツが悪そうなあんこちゃんがいた。いいんだよ......俺は全てを許してあげる。だからもう意地を張らないで......
「ほら、おいでおいで。今なら特別に冬の醍醐味である柚子湯にいてあげちゃうよ。ほーれほれほれ、柚子がたくさん浮かんでるよー......そして、今日は追加で特別に御奉仕しちゃいます。追加の商品はこちらです......じゃじゃーん、かき氷ぃぃぃぃ!!」
カピバラさん大好きな柚子湯をスタンバイした。もちろん俺も大好き。さぁ今までのことは全てお湯に流して一緒にお風呂入ろうじゃないか!!!
それにプラスしてかき氷を追加プッシュ......さぁ、これくらいの掛け金ならばそろそろわんこの一本釣りが出来ても良さそうなのではないだろうか。
「............くぅん」
あ、釣れた。ちょろかわいい......あかん、この子大しゅき♡
弾丸のようなスピードで突っ込んでくるあんこを人外じみたムーブでフワッと優しく受け止め、お湯に浸けてあげると顔面が蕩けてふにゃふにゃしてる。
「......どうかな、引きこもりしてるよりも良いでしょ。十分温まったらかき氷にするから氷出してね」
お湯の中でブンブンしてるしっぽがお湯を掻き回している。濡れた所為でペトーンとしてボリュームが足りなくなっているけど可愛さは損なわれていない。
五分くらい浸かったら駄々っ子わんこたんが氷を出してきたのでゴリゴリ削る。
「......何味がいいかなー?」
『青いの!!』
「うぃ......ピノちゃんはどーする?」
『いらなーい』
「............変温動物だもんね。温度調節出来るようになっても冷たいのは苦手か、りょーかいでっす」
と言うことで、ブルーハワイを二つ仕上げて一緒にお風呂に入りながら食べる。
冷温冷温の変則的なループでそれはそれはもう、スプーンが止まらず......キーンとしながらもシャクシャクとかき氷を食べ続けた。
「......わふぅぅぅぅ」
頭がキーンとして悶えているあんこたんが可愛い。............あ、耐えきれずにお湯に潜った。強引に頭をあっためるあんこちゃんおバカワイイ!!
こーして俺らは束の間の休息を楽しんだのだった。
◇◇◇
「......あ、そろそろ一度外見てこないとだなぁ。悲しいけど一度外を見てくるね。ついて......きてはくれないよね。知ってた」
外に出るフリをしても微動だにしない愛娘たちを見て絶望する......悲しいけど、パパ頑張ってくるね......
「......い、いってきます......」
目から流れ落ちる汗をそのままに、隔離空間の外へと歩き出した。単身赴任はいやぁぁぁぁぁ......
............あ、はい。
外に出たらエンペラーさんがエンプレスさんに膝枕されていました。......いや違うな、大腿骨枕をされておりました。リッチってアレよね、作品によっては肉が付いてたり腐ってたり骨だったりとバリエーションがとても豊富よね。
俺は何を見せられているんだろう......
とりあえずアレだ。夫婦でイチャイチャすんのは後にして欲しい。俺は単身赴任してきてるのに......恨めしやぁ......
「はい、起きてんならイチャイチャすんのは後にしてねー。で、移住の件はどうする?」
『メオトノジカンヲジャマスルトハ......ブスイナヤカラメ......』
「公衆の面前でやんなや。人前で脱いだりイチャイチャすんのに躊躇いがねぇなぁ......これだから高貴な奴らはアレなんだよ」
『フハハハハ、ユルセワカイノ。ヒトツキキタインダガ、ダンジョンヘイクトシタラワレハオマエノハイカニナルノカ?』
「いや、配下とか要らんし普通に過ごしてもらって結構です。血生臭い事が好きなら修羅の国みたいにダンジョンを改造したりしてあげるけど......」
『ナルホドノ......ワレニイロンハナイ。コノバショヲアタラシクツクリナオスノモツカレテキタトコロダ。ソノダンジョンヘトツレテイッテクレ』
「おけ、じゃあちゃっちゃとやっちゃいましょうか。それじゃ皆さん、手ぇ握ったり体に触れてたりでいいから全員繋がってねー。まぁちゃんと繋がれてなくて置いていかれてももう一回やるから気にしないでいいよん」
アンデッドだからか肉が落ちたり骨が外れたりしたのがいて、結局三往復もする羽目になってしまったがなんとか無事に全てのアンデッドをダンジョンに送ることが出来た。
何階層くらいがいいのか、どんなフロアがいいのかとエンペラーさん達からリクエストを聞き、草野にその要望を伝えて要望通りの洋風のお化け屋敷風フロアが完成した。
「んじゃ普通に過ごしてくださいな。この上下の階はモンスターがワラワラ湧くようにしてあるから鍛錬だったりストレス発散だったりに使ってね」
『オォ、カンシャスルゾ。ワレラヲトウバツシニクルニンゲンニイヤケガサシテアノバニヒキコモッテイタカラナ。イイバショデワレハマンゾクダ』
「おーそれはよかった。んじゃ末永くお幸せにー」
アンデッド軍団と別れて一人寂しく元の場所へ戻る。このまま戻ると臭いで顔を顰められそうだからファ〇リーズさんをガンガン吹きかける。
......ちょっと違う意味で臭くなったけど、腐臭よりはいいだろう。さ、早く癒されよう。
「ただいまー。お待たせ、臭くない所に行ってご飯食べよっか」
骨格標本みたいなのをいっぱい見てきたから、あんことピノちゃんの姿に癒される。
「シャァァァ」
「キャインッ」
あ、臭かったみたい......はい、ちょっと風呂入り直してきます。さーせんっした。
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お久しぶりです。
忙しさの反動で昨日は20時間以上寝てしまって何も出来なかったアホです。
読者の皆様には今年一年大変お世話になりました。来年もまたよろしくお願いします。
帰省するので三賀日の更新は余裕があればになります。本当にすみません。
それでは皆様良いお年を!!
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