第284話 エンペラーさん

 えっと......どうしよっか。コイツらは日の光の当たらない場所にいる者。外に出ろと言っても素直に出ていかないだろうしぃ......うーん......


「とりあえずさ、アンタらアンデッドの軍団は此処で何をしようとしているのかな?

 此処は俺らの庭の敷地内でもあるとも言えるからさ一応ね、聞いとかないとなぁって」


 話し合いをしようと歩み寄る姿勢を見せるからさ、そっちも臭気とオーラを抑えてほしいなぁ。これは割と切実に。


『ココハスウヒャクネンマエカラ、ズットワレラノトチダ。キサマニドウコウイワレルスジアイハナイ』


 ふぅ............正にその通りだ。でもなぁ、一番のご近所さんがアンデッドの集団ってちょっと気持ち的にアレだ。相手からしたらふざけんなって思うだろうけど。


「まぁそうだろうね。でさ、絶対に此処じゃなきゃ嫌だっていうこだわりがある感じかな? 特にそれが無いんだったら他に良さげな場所を紹介できたりするんだけど......どうかな? 見た感じ住む場所を改造中に思えるからさ」


『フム......ナンカゲツカマエニマエノスミカガホウラクシテ、アタラシクツクッテルサイチュウダガ......』


 おー、悩んでる悩んでる。移動する気があるんなら、アンタらを草野ダンジョンにご招待してあげようではないか。

 コイツらの住処を何かの拍子でぶっ壊してしまう可能性もあるかもしれないし、もしコイツらが蜂起して楽園に攻めてくるかもしれない。アンデッドが攻めてくるとか、後処理が大変そうだからね、嫌な事が起こる可能性は早いうちに潰しておきたい。


「侵入者が来る可能性がほとんど無い俺らのリゾート地みたいになってるダンジョンがあるんだけど......リゾート地化してる所以外なら好きに使っていいよ。100階層中5階層くらい使ってるから残りの95階層のお好きな所に住んでみない?」


『ソノハナシガホンモノナラナ。サスガニハナシガウマスギル......』


「別に騙そうとか思ってないんだけどなぁ。俺らが力加減ミスったら此処とか軽く吹き飛ぶんだよ、んで、ご近所さんをミスで吹き飛ばしてしまったり、強引に力で立ち退きしろって迫るとか、ここにいる生き物を全部コロコロしちゃうとかはしたくないからっていう気持ちからの提案なんだけど」


『ヤルキナラバゼンリョクデタチムカワセテモラウゾ!』


「悪いけどアンタら全員でも掛かってきてもここに居る可愛いわんちゃんやヘビちゃんにすら勝てないからね。別にアンタらをナメてる訳じゃないよ。まぁこの話を信用するでもしないでも、この話自体はアンタらにとっていい話だろ?」


『ナメヤガッテ......ワレラヲシタガワセタイナラチカラヲシメシテミロ!!!』


 カタカタカタカタカタカタカタカタ......


 一斉に大量の骨がうるさい音を立て始めた。どっかの厨二病的な振る舞いが大好きな刀を思い出す音だなぁ......ナメられたと感じて怒っちゃったんだろう。


「えっ......うーん......一つ聞いていい? アンタらはもし死んだりしてもすぐに生き返ったりするの? 簡単に消滅しちゃったりとかしない?」


『ワレラヲナメルナヨコゾウ!! ワレハリッチエンペラー!! ソコラヘンニウヨウヨトイルヨウナザコアンデッドトワレヲイッショニスルデナイ!!』


「......んー、じゃあアレか。ご近所付き合いの一環として。殴り合いとかでいい?」


 ガンガンガンガン!!

 カタカタカタカタ!!

 ドスンドスンドスンドスン!!

 ヴァァァァァァァ!!


『うるさい......くちゃい......』

『......同じく』


 殴り合いするかと問い掛けた途端騒がしくなるアンデッド軍団。腐ってたり骨だったりながら色んなバリエーションで音を出しているが、とにかく五月蝿い。

 とりあえず戦闘準備としてマイエンジェルを泣く泣く手放す。悲しみが俺のハートを容赦なく攻撃してきて、本戦闘の前に膝を折りそうだ......


 家賃+ライフライン+もやし代を残した全ツッパ勝負で最低ランクの最後の人柄の紙を飲み込ませた後、金の襖とか金のセリフとか喫煙用具とか考えうる限りでアツい演出がこんもり出た後に、絶対に笑ってはいけない鉄面皮の女が出て......案の定笑わなかった時くらい心が折れている。

 アイツはどんだけ打ち込んでも、甘いヤツになっても最後まで笑う事はなかったし、プレミアムが出ても笑わずに復活に行くほど笑う事を拒む女。雑誌や動画、他人だと笑うクセに......


 おっと、笑顔を見せなそうなアンデッド女を見てトラウマが呼び起こされてしまった......アレ? これは誰の記憶だろうか......


『ジュンビハデキタカ?』


「......うん、いつでもどうぞ......」


『ドウシタ? カカッテコナイノカ?』


「......え? 攻めてこないの?」


『......ナメヤガッテ、ガキガ......ッ!!』


 なんかナメてると勘違いされたのかエンペラーさんに怒られてしまった......解せぬ。

 エンペラーさんはやっぱり見かけ倒しなオーラを纏うだけで、俺はゾーンに入ってしまったかのようなゆっくりした時を楽しんでいる。外野の大声も同時にスロー再生されていて非常に鬱陶しい。


「......あ、やべっ。俺、今からアイツに殴られる必要があるんだけど、これは怒らないでいいからね。............うん、ありがとう。もしアイツが俺に効く打撃を放ってきた場合は素直に相手を誉めてあげましょう」


 ネコ科のアレに襲われたあの時とか、トカゲの時とかにブチ切れてたからね。ウチのトップ2が納得している様子を見れば、覗き見しているだろうモチモチとか、報告待ちな子たちも納得してくれるでしょう。キット......

 ちなみにシアンファミリーのトップな御二方はすんげぇ嫌そうな顔をしたモノの、了承の意を示してくれた。


「............退かぬ! 媚びる! 省みぬ!」


 やっとこさ目の前まで迫った拳を前にお気持ちを表明させてもらった。媚びはする。俺のプライドなんてあってないようなモンだからね、あの子たちには媚びないといけないからちかたないよね。


 ドゴォッ!!


 人が殴られたとは思えない物騒な音が響き渡った後は、歓喜に震えながら騒ぎ立てるアンデッドの集団と感情が欠落していると言われてもなんら不思議ではない表情をしているわんことヘビがいた。


 一方は自身の主の勝利に加えて圧倒的な力を見てしまった衝撃で何も行動を起こせなくなったと勘違いしていた。

 一方は......自信満々で彼女らの主人に挑んだ挙句なんの痛痒も感じない一撃しか与えられなかった事への失望、自分らの主人がそこら辺のゴミカスに殴られた事への不快感、早くこんな茶番を終わらせろというどうでもよさを隠すように無感情でいる事を頑張っていたのだ。


『クククク......ニンゲンゴトキガワレノイチゲキニタエラレルハズガナイ。バカショウジキニケンカヲウッテキタコトヲコウカイスルガヨイ』


「............はぁ」

「......くあぁ」


 はいそこ! 溜息を吐かない!! 欠伸をしない!!


「......なんか寂しい。安心と信頼のシアンボディと思ってもらえてるのは嬉しいけど、そこまでどうでも良さそうにしなくてもいいじゃないか......しょぼんぬ」


『......ハァ!?』


「こういう力を試すような場面の時は一発与えるだけじゃなくて相手を戦闘不能な状態にさせるまで殴りまくるべきだと俺は思うの。もしかしてアナタ、前世はゴリゴリの脳筋野郎だったりするのかい......ふぅ、じゃあ今度はこっちの番だね」


 さっきまでお祭り騒ぎ状態だったアンデッド軍団は活け締めされた魚のように静まり返っていた。

 リッチさんなんて目が飛び出しそうな程目を見開き、顎が外れそうな程に口をあんぐりさせていた。某ゴロゴロ人間が某ゴム人間に攻撃が効かなかった時のような顔と思ってくれていい......まぁ目の部分は空洞なんですけど。眼窩の奥の方の謎の光が大きくなっていたからそう思ったんです。


『............ハ!? オマエホントウニニンゲンカヨ......』


 困惑しているエンペラーさんは放っておいて、威嚇の為になんちゃって黒炎をオーラのように纏いながら細心の注意を払って彼を殴った。


 音を置き去りにしない程度に......物凄く繊細な作業をするように、丁寧に殴った。ぶっちゃけると今日一番疲れる作業だった。


『......おー』

『......あっ』


 わんこたんの『おー』とヘビたんの『あっ』にはどんな感情が込められていたのか。


 エンペラーさんはその場で糸が切れた操り人形のように膝から崩れ落ちていった。ボクシングで言われる一番ヤバい倒れ方というヤツに酷似していた。


「............エンプレスさん、アンデッドはこれくらいで死なないんだよね? とりあえずコレでエンペラーさんの依頼は完遂と見てよろしいでしょうか」


『............』


『『『『『『............』』』』』』


『お疲れ様!!』

『力加減間違えてない?』


「少し待って起きなかったら......効くかわからないけど回復薬ぶっかけよっか。これでも物凄く繊細な作業をしたんだけどねぇ、能力値抑制の魔道具とかあったりしないかなぁ」


『そんなことより中に入れて!!』


 定位置に急いで戻っていくあんこたん。


「あっ......好き」


 こうして茶番は呆気なく終わりを迎えた。




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 お久しぶりです。忙しさでヤバいです、申し訳ございません。学生時代は好きだった年末が本当に嫌になっております。

 忙しさで心がヤられてるのか、全身の骨を末端から順に脱臼させられていく夢を見たり、四肢の骨を折られた後に高速道路を走る車から投げ落とされたりする夢を見ます。最悪の夢見です。何これ、呪い?


 それはさておき、また少しづつコロナの猛威が復活しているらしいので、皆様体調を崩されませんようお元気でお過ごしくださいませ。

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