第282話 超ラージヒル
ガウガウガフガフ......
シャァァシャァァァ......
レースが終わり、帰宅した俺らは飯を食い、風呂に入り、そのまま就寝。
優勝者のしるこは賞品である権利をいつ使うんでしょうか。早めに言ってくれたら予定を開けておくのに......
んで、起きた俺らは朝飯を食い終わり、これからは自由時間。普段ならばここで農園のお世話に行くんだろうけど、今日はいつもと違った。
ピノちゃんは俺の肩に噛み付いて威嚇するような素振りをし、あんこが俺の頭に噛み付いて何か知らないけど唸っていた。
「............ねぇ、今日はどうした? 何かあったの?」
「......ガウガウガウ」
「シャァァァァァ」
なるほど、全然わからん。
「......可愛いからいいんだけど、なんでそんなに喋ろうとしないのかな? なんか悩み事とかあったりするん?」
「............」ガジガジガジ
「............」ガジガジガジ
「痛ッ......くはないね。でもなんか反射的に痛いって言ってしまうくらいの噛みつきは止めようか。ねーえー、何があったのー?」
「「プイッ」」
「そっかー......言いたくないかー。さて、どうしましょうか」
幼い子みたいな反応をするからどうしていいかわからなくなる。まぁまだリアルに幼児な年齢なんだろうけど......あ、そうか俺のせいで、旅をしたり虐殺したりで子どもらしい生活をさせてあげられてないんだよね。ははっ、俺はそんな初歩の初歩的な事すら忘れていたようだ......
「仕方ないなぁ。よーし、今日はお父さんと一緒に行動しようね......」
......あれ? 所により血生臭い生活をしているけど、かなり育児にはいい生活をしている気もしてきた......
まぁいいや。この子らに臍を曲げられてしまうよりは全然いい。自由に伸び伸びと成長しながらいつまでも俺に甘えてくれるのが一番いいのだから。
「久しぶりにまだ三人だけだった頃のように過ごそうか」
反応を示してくれないので何が正解かわからないから俺は自由にやりたい事をする。それが気に食わなければ好きなだけガジガジするがよい......何か言いたくなったらその時に喋ってくれ。
「グルルルルル......」
「シュルルルルル......」
なるほど、正解が全くわからん。二、三日家を空けると書き置きしてから家を出た。
◇◇◇
噛み付き機能のあるふわもこニット帽とツルスベ肩パットを装備したまま、俺は雪山を進む。
俺が行こうとしているのは、ピノちゃんが脱皮したあの御神木っぽいのがある川。
雪山を徒歩で下るのはとても面倒なので、スノボを召喚して滑り下りる事を選択。スノボを出してから少しニット帽からの圧力が強まった気がするが、何も言ってこないので無視をする。
久しぶりのスノボだけどきっとこの超絶ボディなら何の問題もなく滑れるでしょう。顔面とニット帽と肩パットの保護の為にマフラーを巻いてから、滑走スタート。
滑り始めると肩パットの締め付けが緩み、ニット帽の締め付けが強くなった。
「久しぶりにやったけど案外滑れるモンだなぁ......楽しいなぁ。誰か俺と一緒にやってくれたらもっと楽しいんだろうなぁ......」
ガゥゥゥ......と、ニット帽から聞こえてくる。どうしたのかなー?
「......今ならエクストリームな技も決められる気がする......しっかり俺に掴まっ......外れないようにしっかりと装備しておかないと危ないからね。なんか独り言が多いなぁ今日」
噛み付かれるような締め付けから、しがみつくような締め付けに変わる。そうそう、コレよコレ。やっと気持ちよくなったわ。
「おっ、あの不自然に盛り上がった場所がちょうど良さそう......技名なんて分かんねぇし何言ってるかわかんねぇけど、とりあえずクルクルしておけば問題無いはず......よし、行くどー!!」
スノボとかスケボーの技名ってなんであんなにゴチャゴチャしているんだろう。せめてフィギュアスケートみたいにわかりやすくして欲しい。
超スピードのまま盛り上がった場所に突入すると、そのまま射出されたかのように飛び上がる。結構怖いけど気持ちいい。
「目ェ回さないようにねー。うわ、やっべ、怖ァ......スキージャンプの選手って生身でコレやってんだよね......正気の沙汰じゃねぇよ......」
競技レベル以上のジャンプを決めてしまい、回転とか技とか言ってる余裕は無くなった。どうしよ......ハイパー怖ぇ。
着地......着地ってどうすんの? 膝とか壊れない? 埋まらない? やばっ......
『『おぉー!!』』
......今日初めて出した声がソレって......いや、楽しいんならそれでいいけどさ......
ちょっとパパね、今ピンチなの。ソロならばミスっても笑い話で済むんだけどね......そっか、ヤバそうならニット帽と肩パットをパージして優しく避難させればいいんだ。
「それなら気負う必要ないな......楽しもうじゃないか!! フハハハハハ!!!」
飛び上がった勢いが無くなり、落下を始めていくマイボディ。
臨海公園みたいな名前の人のようにムササビポーズをキメながら滑空していく。マフラーをしていなかったら風圧で顔面崩壊していただろう。ニット帽の後ろの方が揺れているのを感じる......きっとテンションが上がってきているんだと思われる。そのままニット帽を卒業してわんこに戻ってくれ。
「ひゃっはぁぁぁぁぁぁ!! ......って、あ、ちょっとそれはあかん。だめよーだめだめ!!」
テンションが上がって肩パットが背中側にジェットエンジンっぽくエネルギーを放出し始めた。
片側に高出力のエンジン。
それを起動させればどうなるか......
「ちょっ......無理、加速がやばいしバランス取れへん。止めてっ!! それ止めてぇぇぇえ!!」
空中でバランスを崩し、錐揉みしながら墜落していく。ついでに加速しながら。
『あはははははは!!』
『ふぅぅぅぅぅぅ!!』
「らめぇぇぇぇ......無理ぃぃぃぃ!!」
人は飛べるように作られていない。訓練していない人は高速落下しながら体勢を立て直せない。人は本能的に落ちることに対して恐怖を感じる。
「糸を射出しようとしても刺さる場所が地面しかないから無理ぃぃぃぃ!! いやっ、怖い怖い怖い怖い怖い!!」
漫画でよく見るような魔力を放出して落下の衝撃やスピードを逃す方法をやればいいだろって? 俺がそんなんしたら辺り一帯が消滅してしまうから無理だ。
それに上下左右がわからない状態でそれをやるのは無差別テロと変わらない。下手したら楽園が崩壊してしまう。
「普通に落ちていくならどうとでもなるけど、これは無理だって......助けてぇぇぇ」
『もっと勢いよくやれないの?』
『やれる』
『やっちゃえー!!』
『おー!!』
「不穏な会話が聞こえた気がする。あはははぁ......あっ、本当に加速した。あかん、もう無理......落下の衝撃でこの子たちを潰したとかトラウマになってまう。寝てる時にグチャァてしないように不動の寝相を死に物狂いで会得したのに......あぁ、八百万居ると言われている日本の神様、どうかこの子たちをお守りください............」
生まれて初めて本気で神に祈る。そして祈りのポーズのまま雪原と豪快なハグををする事となった。頭上と肩から聞こえてくる笑い声に少しだけイラッとしたのは内緒だ。
◇◇◇
『なんか面白そうな事してる......ずるい』
『へんなかおしてるーなになにー?』
『へんなかおーどーしたのー?』
『変な顔って......んーん、何でもないよ』
『うそだめー』
『だめだめー』
『んー......あの人が僕らに黙ってなんか面白そうな事してたからね、ちょっとイラッとしただけだよ』
『えー!!』
『ずるいー!!』
『ずるいねー。帰ってきたら二人で問い詰めてあげるといいよ』
『わかった!!』
『やってやるの!!』
『黙って楽しそうな事してるのはずるいからね。たっぷり絞ってあげな』
『まかせろー』
『でもいまはいないからかまえー』
覗き見がバレて末っ子姉妹に纏わりつかれたダイフク。だが、彼は結構いいお兄ちゃんを演じて出歯亀の現行犯の瞬間を乗り越えていた。
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