第279話 勝負は佳境へ
レースは二周目に入るとホンワカした雰囲気から一変し、なんか少しずつギスッてきた気がする......いや、気がするでは済まなくなっているね、間違いない。
謎の多いダンジョン特製カートが覚醒した。そこから色々おかしくなった。畜生ッッ、おのれ草野ォォォ!! ホンワカレースが別物になったじゃねぇか!!
......クソッタレぇぇぇ!!
事の起こりはこうである。
「おぉーっと、ここでレース復帰してきたダイフクとワラビが最後尾でスピン祭りをしていたウイちゃんを捉えたぁぁぁぁ!!!」
なんと、ここで負けず嫌いが発動したのかしらないが、ダイフクとワラビが無意識に漏らした魔力かそれに近い何か......それがメイドイン草野のカートとなんやかんやあってケミストリーを起こし、カートが変質した。
「ダイフクのカートが真っ白な光を纏い、ワラビのカートが青白い稲光を纏ってなんか凄くカッコよくなったぁぁぁぁ!!!」
子ども用のゴーカートからガチレーサー御用達なマシーンにフォルムチェンジ。何が起こったのでしょう。そして......
「あぁぁぁぁ!!! 突然の強い光に気を取られた天使たちがスピンんんんん!!! 一瞬の気の緩みから大事故に発展してしまったぁぁぁッッ!!!」
急に後方から強い発光に気を取られて脇見運転をしてしまった天使たちが続々とコースアウトしていった。
なんとも言えない悲しそうな声が聞こえてきたのが少し面白かった。積極的に出してもらいたくはないけど、偶然出ちゃったそういう声、俺は好きだよ。
「......可愛かったなぁ。いや、そんな事考えてたらまた白い目で見られる......よし、気を取り直して実況を再開しよう。
排気口から綺麗な魔力の残滓が漏れてるなぁ......アレどうなってんだろ? おっと、コースアウトしていった皆があの二人に何が起きたかを認識したぞー!!」
立て続けに発光が始まる天使たち。なんだこの少年漫画のような展開は......胸アツじゃないですかー。
姿形だけでなくスピードや動きの滑らかさも全て別物と言えるまで変わってしまったダイフクとワラビのマシーンが、先頭集団を捉えた。それとほぼ時を同じくしてレース復帰してくるエンジェルたち。
あんこの乗り込んでいた機体は透明な氷で作られた麗しいボディが光を反射して、とっても綺麗......中のあんこが輝いて見える。
ピノちゃんの機体は白い炎が揺らめいている幻想的なボディに変貌し、ツキミちゃんの機体は黒真珠のようなエレガントさを醸し出す魅惑のボディに。
うん、ここまではよかった。各々の特性をとてもよく表してくれている。
ただ......残りの子たちはなんかあかん。なんか違う......違うんやで......ワイが求めているのはそんなんちゃうんや......
ウイちゃんの乗ってる機体はスケスケでモザイク処理されている。中に乗ったウイちゃんが流線型の赤いモノがモザイクの中でうねうねウゴウゴしている......なんかヤバい見た目の物になってしまった。
ソレが嬉々として直線では暴走し、カーブではスピンしているから余計にタチが悪い。お願い、元に戻って!! なんで音波がモザイクになるのか俺には理解できないよ!!
続いてしるこマシーン。なんとなく想像出来てるかと思うが、モッサモサの機体となっております。空気抵抗凄そう、クラッシュの時はいいクッションになりそう......そんな感想しか出てこない。
乗り込んでいるしること機体の境界線がわからない。辛うじて角が見える所、そこにしるこがエントリーしている......んだろうと思える程度。
最後にヘカトンくん。これはね、もう、俺のSAN値がアレだ。ウイちゃんのパワーでモザイク処理してほしい。切実に。
某海賊団の女性の能力みたいな感じで組み上がった機体。正直暗い部屋の中で見たら漏らしてしまいそう。
............実況、再開しようか。
「さぁさぁさぁさぁ(やけくそ)!!! 選手皆の乗り込んだマシーンが真の姿を曝け出しました!!! ここからが本番となる事でしょう......どんな展開になるのか全く想像がつきません!!!」
無駄にテンションを上げた。
今後の展開について嫌な予感しかしていないけど、今さらこのレースを中止する事なんて出来るはずがない。俺に出来る事は、ただただ皆が無事にこのレースを終える事を願うしかないのである。
「......おぉっと、既に嫌な予感がギンギンでしたが、これはもう和気藹々としたレースは望めないのが確定しました。実況も、レースを見守る事もしたくありません。誰か助けてください......」
そんな俺の嘆きは誰にも届くはずもなく......
「あぁぁぁ......あんこたんの走った跡が凍りついている......カーブの所とか最凶じゃないですかーやだーもー」
「ピノちゃん......路面......溶けてる......」
「ダイフクさん......サングラス越しでも眩しいんで、光量をすこーしだけ抑えてくれませんかねぇ......光の塊が動いてる程度にしかわかりません......」
「あぁ......ツキミちゃんはマトモだ。可愛いなぁ......漆黒の機体に映える君の麗しい瞳がとても素敵..................あれ? ツキミちゃんがブレて見える......あ、分裂したのコレ?」
「もうやめて、シアンのSAN値はもうゼロよっ!! ヘカトンくぅぅぅん......ムッキムキのムカデにしか見えないよぉ......」
「ワラビも少しだけ眩しい......けどかなりマトモな部類だ。安心する......たださ、なんでアクセル踏み込んだり、ブレーキ踏んだりすると落雷のような音がするのかな?」
「ウイちゃん......君、あかんよ。モザイクの中で蠢いている赤い流線型ボディが、なんか如何わしいモノにしか見えないんだ......心が汚れきっている俺を許してくれ......ヒクヒクしたりモゾモゾしないでほしいんだ......」
「しるこぉ......機体のフォルムは一番可愛いんだよ。でもさ、君の通った後の路面を見ると......俺は少しだけ心が痛むんだ。ねぇ、君は毛を好きに弄れるんだろ? ならさ、毛を抜けないようにできないっすかね?
君の通った跡がオトンが起床した後の枕みたいになってるよ......やめたげて......あ、その抜け毛はバナナのような扱いなのね......スリップするのかぁ......」
各自、お助けアイテムを一種類を無限に使えるような状態になっている。一部は残念な効果のモノもあるけど。
そして、一人だけ大混乱の中、大接戦となったレースは遂に運命の三周目へ突入した。泣いても笑っても後一周で全てが決まる。
「一位から五位までは殆ど差が無い大接戦、六位から最下位までもそこまで差がありません!!! つまりは団子状態です。団子状態のままラスト一周ッッ!!! この大接戦からいち早く抜け出すのは誰になるのでしょうかァァァァ!!!」
一周目ではワラビ、ダイフク、ウイちゃんはもう戦線離脱と思っていたけど、二周目に入りたての時に起きたダイフクワラビフラッシュ事件で差が消えた。そこまではいい。だが、スピンして遊んでいるだけのウイちゃんがデッドヒートに加わっているのはなんか納得いかない。
トップのツキミちゃんと最下位のウイちゃんの差はだいたい十五秒くらいしかない。どうしてこうなった......
「堅実に走っているツキミちゃんとふざけまくっているモザイクアザラシの差が少ししかないのが理解できないですが、このままフィニッシュまで行けるのか......それとも捲るのか......目が離せません!!」
◇◆◇
side~メイドと執事と護衛~
「はぁ......はぁ......帝国から王国まで、凄く遠いんですね......ここまで急ぐ理由あるのですか?」
「早い内に離れておかないと賊が増えっから仕方ねぇんだよ......アイツらはこういう事に鼻が利くからな」
「だから無理してでも今のうちに距離を稼いでおかないとダメなのよ。今日中にこの一帯を抜けておかないと、貴方たちのような戦闘の素人をアイツらの襲撃から守りきる事なんてできないわ」
「そういう事だ。無理をさせてでも進んでもらうからな。悪いがここはアンタらのペースに合わせる余裕は無い。俺らも死にたくはないからな」
「ここを抜ければ俺らが前に依頼で行ったことのある村がある。そこまではどうにか頑張ってくれ」
「お手数をお掛けして申し訳ありません。よろしくお願いします」
帝城で上がった大花火はそれほどまでに強いインパクトを与えた。
冒険者の読み通り、商人並に機に敏い盗賊は今が稼ぎ時と見て一斉に帝都周辺に集まりだしていた。
しかしこの後、メイドたちは無事にハイエナの如く帝都に群がってくる盗賊とカチ合う事無く切り抜ける事に成功した。
護衛の冒険者たちの指示に従い、無理を承知で急いで危険な地域を抜けた事
帝城で大花火が上がる前から帝都を脱出していた距離のアドバンテージがあった事
上記二点と雇った冒険者の優秀さ、シアンジャッジメントをクリアしたメイドや執事のガッツにより、疲労困憊になったが予想される最悪の展開の回避に成功。
果たして、無事に生きて王都の畜ペン商会に辿り着く事が出来るだろうか......
ㅤ──────────────────────────────
ㅤ畜ペンが二度目のFA宣言しやがりましたね。今回は何処が獲得に乗り出すのでしょうか......
ㅤ今年はFAが一人だけ、贔屓球団から手術する選手数名、あの人が横浜へと気分の下がりまくるオフだったのでもっと面白い事をしてほしいと思っています。
ㅤテレビ局の皆様、どうかもっとバラエティバンバンやってください。ビッグボス、どうか杉谷にバラエティの許可を。
ㅤ今日は珍プレー好プレーを見ながら酒を飲みます。皆様、よい週末をお過ごしくださいませ。
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