第276話 シアンRC

 フロアを三周し終え、乗り専の子たちを一通り乗せ終えた。


 どの子も移動するスピードは物足りなそうにしていたけれど、振動の少なさとカーブの時は面白そうにしてくれていた。

 レースゲームで曲がる時に体を傾けるあの現象を、リアルで、それもウチの天使たちバージョンで見れて俺は幸せだ。


「じゃあラストはあんことワラビだね。ほら、乗って乗って。合わなかった時は仕方ないけど、体験しないで好き嫌いするのはダメだよー」


 ワラビはサイズ的に助手席は無理なので、居住スペースから入ってもらいました。お前なら......うん、いつかきっとどうにかしてサイズ変えられるようになれるよ。頑張れ、気合いでどうにか頑張ってくれ。


 あんこはムスーッとしている。


 本当は乗ってみたいけど、乗せる側が乗ったら負けみたいに思って......るのかな?

 それとも、単純に嫌いなのか。わんこは車輪付きの乗り物を嫌がるよねぇ。

 チャリカゴ、買い物カート、ベビーカー、手押し車、リアカーなどはかなり嫌がる。車は慣れれば大人しく乗るようになったりしたけど......何が気に食わないんだろ?


 乗せてる人とかたまに見たけど、どうやったら乗ってくれるん? チャリカゴわんことかマジ可愛いからやってみたかったのに......


「......ほらほら、嫌がらないで。あんこたんが車を不安に思ってるのなら、俺の膝の上に乗ってていいから一回乗ってみようよ」


『それなら......いいよ』


 と、いうことで俺の膝に乗って試乗をしたあんこたん。その様子が可愛くて運転に集中出来なかったのは内緒だ。



 とりあえずこれで全員乗ったので、これ以降は希望者を募ってのドライブ。


 五回目は全員でのドライブ、六回目はあんこ以外が乗ってのドライブで、アクセルベタ踏みで。


 何故か知らないけど、踏めば踏むほどにスピードが出やがりやがって、350Km⑅/hまで出たのは確認した。


 何故かそこまでスピードが出てもGが掛かる事はなく、カーブもとても滑らかに曲がる事が出来た。......が、俺の中の常識先生が邪魔をし、それ以上のスピードを出すのに拒否反応を示した。


『もっとスピード出せたでしょ!! なんで出さなかったの!!』


『私の方が早いんだよ!!』


『次はもっと出して!!』


「キュゥゥゥ」


「いやね、そのぉ......アレ以上スピード出したらカーブを曲がれる自信が無かったんだよ......もっと出せとはしゃぐ皆の為にやってあげたかったけど、ガチの大自損事故を起こすわけにはいかなかったんです......」


『でもその事故を起こしたとしてもなんとかなるでしょ?』


「メェェェェ!」


「なるかもだけどさ、アレだよ? 首を痛めたりしちゃう可能性があるから俺としてはオススメ出来ないかなーって......」


『............直線だけなら大丈夫なの?』


『それならダンジョンマスターにコースを作ってもらうとか出来ない?』


『ダメなら外を走ろう!! 障害物は皆で壊しながら走れば問題無いでしょ?』


「......皆がスピード狂に片足突っ込んでしまった。それでも可愛いなんて反則だよね。草野にコースを作ってもらうのもいいね。それと、外ならばどうにかなるっぽいね......当初の予定通り爆走しちゃおうかな。でもそれは今日じゃなくていい? ちょっと草野と相談してコースとかのザックリした案を作りたいからさ」


『......わかった。けど出来たらすぐ教えてね!!』


『私も楽しめるようにして!!』


『待ってる』


 楽しみにしてくれる子、待ちきれない様子で急かしてくる子、対抗意識に燃える子など色んな反応があったが、見た感じ全員が楽しみにしてくれている。


 嗚呼......イメージが膨らんでいく......クククククク、全員が全員楽しめるようにパパが作ってあげるからね......


「よーしよしよし、パパに任せてくれていいからね。この世界には道交法なんてないんだから......クフフフフフフ」


 暴走したいという欲求と、この子たちとドライブデートしたいという欲求から始まったドライブは大成功となり、新たな欲求が俺に芽生えた。


 なる早で終わらせるからいい子で待っていてほしい。




 ◇◇◇




 ドライブを終えた俺は希望者だけフジエリアに残して、希望しなかった子をお家に送る。その後、俺は操り人形と化している草野に命令して大規模なレースを開催できるようなコースの作成に取り掛かった。


 ダンジョンの制作の様子を眺めていたが、それは案外頭を使う作業でげんなりする。一つの階層に掛けられるコストやら、ギミックやら、配置モンスターやら、トラップやら、モンスター共に与える戦略やら......と、とにかく考える事と操作する項目が多い。


 一つの階層に掛けられるコストは上の階層ほど少なく、下に行くほど大きくなり、半分を境にズルッと増える。これが50階層からとにかく面倒になっていった真実か......


 なんとなく理解していたけどダンジョン運営というモノは、性格の悪さがとにかく重要という事。

 ............思い出したらまたイライラしてきた。あのクソジジイめ......アイツ、ダンジョン運営に関して言えば天才じゃねぇか。

 俺じゃなきゃ......いや、あんことピノちゃんを連れた俺じゃなきゃ絶対攻略出来ないやん、あんなん無理だよ。無理ゲーすぎる。


 ソロで挑んでいたら、今頃俺はルナティックラビィの仲間入りしていたんじゃないかな。人に見られたらきっと人型のユニークモンスターとして恐れられていただろう。


 ......まぁんなこたぁどうでもいいか。


 こんなに頑張っていても、一つの異物が混入しただけで終わってしまうなんて理不尽で可哀想かもと少しは思う......だが、永遠に終わりの来ないRPGなんてクソすぎるから強引に終わらせてあげたって事で。



 さて、コース設定に戻そう。ここからは完全に俺の悪ふざけだ。バレたら色んな所からお叱りがくるかもしれない危ない悪ふざけになる。


 しかし、こんなダンジョンの、しかも最下層付近に監査なぞ来るはずもない。そして異世界だから権利とかも発生しない......はずだ。

 某ネズミの王国の精鋭たちならば次元を越えておしおきに来れるかもしれないが、そっち方面は完全にノータッチ安定。シアン危うきに近寄らず。




 さて、ここからは道路工事のお時間です。


 まず取り掛かったのは、95階層に掛けている全てのコストを解除し、空間の広さに全振りする事。


 ヒントはクソジジイダンジョンの龍さんに頼んで飛んでもらったエリア。


 そして次はコース広さの調整、複数のコース作成、路面の舗装。


 コースの設定は某配管工のおっさんのレースゲーム参照に。アレ何作も出ていて文句なく名作と言えるが、シンプルだが奥深かった初代らへんが俺は好き。


 次に、某豆腐屋の頭文字なアレに出てくるようなコースも作成した。現実でアレをやるのは怖すぎたからやった事は無いけど、山道やカーブの多い道を走るのは面白い。

 クネクネしているコースはウチの天使たちも好きだろうしね。




 ......モンスターの配置やモンスターに与える戦略などを無くすと、使用可能なコストがかなり余った。


 さすが95階層といった所か、モンスターを削るだけで相当変わる。


 一応50のコースを作成し、余ったコストを使ってワンタッチでコースを切り替えられるように仕様を変更。

 広さは一周するのに30分程度のコースを作り、何をしても、何が起きたとしても、このフロアの中にいる限り運転手は無敵になるというご都合主義のゴーカート風の乗り物を作った。合計9台。


 もちろんコレらはピノちゃんやウイちゃんなどの足の無い子でも操作できる俺特製の不思議マシン。どうなってるかは謎。


 それに追加したのは誰もが一度は見た事があるだろう例のボックス。中からキノコ、スター、亀の甲羅、雷などのやべー物が出てくるあのボックス。ぶっちゃけコレが一番コストを食った。


 オブジェにしてもいいし、本当に出てくるようにもできる。でも、アレを使ったレースをしたら天使たちがギスりそうだからあの子たちの前では封印。

 俺個人でこっそりやる時に使用予定。モンスターに乗らせてガチレースをしたいってのと、来ないとは思うけど侵入者が来てしまった時用。


 侵入者さんはダービ〇兄弟並の厭らしさを持ったモンスターが、罠もりもり、嫌がらせもりもりなコースを使って相手してくれる。勝負に負けたら......ね。フフフフフ......


「おぉぉぉ......ふぅ......出来たぜェ」


 完成したコースを一つずつ確認し、問題が無さそうなのでこれで確定。ダメな所が見えたらその場その場でメンテすればいい。


「喜んでくれるかな......ふふふふふ。さぁお迎えに行って今日は帰ろう」


 大満足で天使たちをお迎えに行くと、湖畔でスヤスヤ眠っていたので、起こさないようにソーッとキャンピングカーに入れてから家へ飛んだ。


『『『おかえりー!!』』』


 先に戻っていた子たちから熱烈なお出迎えを受けた後、スヤスヤな皆を寝床に移す。


「きっとあんこたちも満足できる仕上がりになったから、全員で行ける時に行こうね!」


 現代知識とファンタジー成分の入り混じったハイスペックシアンカート。お披露目の時が楽しみだ......クフフフフ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る