第275話 乗り物とプライド

 ムラムラする......


 これは平和な日常生活を送っていると急にクるアレだ。


 そう、欲求不満というヤツだ。

 その中でも今キてるのは暴走欲求。


 字面だけだと完全にヤベー野郎のヤベー欲求だ。実際にこの欲求に従って公道を爆走するわけにはいかない。


 法定速度を守り、交通ルールに従順な犬でなくてはならない。


 一度それを破ればたちまち、普通の車両だと思っていた車が赤い光を放ちながらどこまでも追ってくるデスストーカーになったり、オービスでパシャリされてしまい、社会不適合者の烙印を捺されてしまうからだ。


 ならばそのヤベー欲求を、俺は現代日本でどう解消していたのかといえば......


『リアルはクソ、やっぱ二次元しか勝たん』


 という合言葉の元、リアルさがウリのレースゲームで爆走していた。ブレーキ? そんなもん知らん。道交法? これはゲームですよ。HAHAHA。


 ゲームと現実の区別がつかなくなるからという巫山戯た理由で規制を強めたりするお偉いさん......アイツらはクソだと思う。


 表現の自由とは一体なんなんだ!!


 自由と言いながらもセーフとアウトなのがあるのはわかる。これは仕方ないと理解しているんだ......


 だが、アーフともセウトと言えるような微妙なラインが刻刻と変動していくのは納得いかん。時代の流れって一言で片付けていいもんじゃねぇだろ。


 リアルで出来ないからこそのゲーム、仮想現実、フィクション、作り物......そうなのではないだろうか。


 銃乱射

 戦争

 殺人

 暴走

 暴力


 これらは実際にはやっていけない事であるというのは、誰でも理解出来るだろう。それでもこういった物を見る人はたくさんいる。


 この作品の登場人物は全て18歳以上という謳い文句。実際にヤってはいけない事筆頭なアレなモノにつくこの言葉。それでもこういうモノは売れる。


 日常は我慢の連続だから、作り物でストレスや欲求が解消できるならそれでいいと思うのにね。


 これらの表現がされた本、ゲーム、DVDやブルーレイなどは誰しもが持っているし見た事があると思う。そう、誰しもが、だ。


 それでも犯人が、こんなのを持っていたとか言い出したりして印象を操作し、それを聞いて外野がギャーギャー騒ぐ。

 報道に踊らされるだけ踊らされ、自分で情報の取捨選択をする努力を放棄する愚かな人間の所為で、ガス抜きができる機会がどんどん減っていくのだ。


 なんでも規制すればいいってモンじゃねぇんだぞ。




「ガウッ......グルルルルル」


 ......いや、俺は何を言ってるんだろうか。万を超える文字数を叩き出してしまいそうだからここら辺で止めよう。


 うん、もう平気。落ち着いた。


 だからもう離してくれていいよ。うん、そんな野性味を感じる君の顔は見たくない。



「よし、気を取り直して......ねぇねぇ、誰か俺と一緒にドライブ行かない? それで、最後は寒い中でキャンプもしたいなーって思ってんだけど......どう?」


 なんか急にドライブがしたくなった。冬の寒い日ならば出歩いている人もいないだろうという事で......悲しい事故が起きる可能性もグッと減るだろう。


 あの子を一度もちゃんと走らせてあげないのは可哀想だからね......寝泊まりするだけじゃなく、キャンピングカーで公道を走り回るのもやってみたかった。


「皆は車にちゃんと乗るの初めてでしょ? あんことかワラビとかは乗せたい派だろうけど、たまには乗ってみるのもいいんじゃないかな?」


 この子たちを口先で丸め込む事が出来るかな? たまには運ばれるのもいいと思うよ。走りたくなったら並走してくれたらいいんじゃないかな。


 などと言って、可愛い子どもたちを説得していく。この子たちは好奇心旺盛だから少しでも興味を持ってもらえさえすれば俺の勝ちとなる......さぁ、一緒に風になろうじゃないか!!


 ......ん? 私に乗って走ったり、普通に走った方が早いでしょだって? 違うんだよ......違うんだよ......


「確かに本気出せばどんな乗り物よりも早く走れるけどさ、外が寒いのに車の中をぬくぬくにして走リ回る......これがいいんじゃないか!! 乗ってみるのも案外楽しいと思うから......一回だけやってみない? そう、一回だけ......先っちょだけ、先っちょだけでいいからさ。ね?」


 ぐぬぬぬ......走り回りたい派の子たちが頑なに拒んでくりゅぅぅぅ。こうなったら仕方ない......か。


「......よろしい、ならば戦争だ!!」


 嘘です。俺がこの子たちと戦争なんてするわけないじゃないですかぁ。


 絶対にキャンピングカーに乗りたくないわんこ&キメラVSドライブのしたい飼い主VSお出掛けが楽しみな子どもたち


「フヒヒヒッ......では、僕たちの戦いに相応しい場所に移動しようではないか。そこで決着をつけるとしましょう」


 こういう時はとっとと行動に移すに限る。お外でやると被害が出そうなので草野ダンジョンのフジエリアに飛ぶ事に。



「フハハハハッ、さぁ戦いの幕開けです」


 なんとなーく雰囲気を出すために、三下の悪役ムーブをかましておく。......うん、もうちょっとだけテンション上げてくれるとパパは嬉しいんだけどなぁ......


「......はい、という事で、これからキャンピングカーVSあんこ&ワラビの試乗会を始めたいと思います。戦いなんてものはしませんのでご了承ください」


『ルールは?』


 ふんすふんすしているあんこたんが説明を求めてきた。可愛い。


『はやくせつめい』


 地面をガツガツ蹴っているワラビが急かしてくる......気合いが入ってるのか機嫌が悪いのか判断し難い。馬のこの行動ってどんな意味があるんだっけ?


「これから皆にはあんこたん、ワラビ、キャンピングカーに乗ってもらいます。ワラビは......あんこには乗れないからアレだけど、皆にはそれぞれに一回ずつ乗ってもらいます。そしてこのフロアを走ってもらい、それぞれの良さを体感してもらおうという企画です」


 それぞれの良さをわかってくれれば皆仲良くできるでしょう。ただそれだけの事だ。


「優劣を決めるとかそんなんじゃないから気楽に乗ってほしい。俺的にはキャンピングカーはただ泊まる為の物じゃないんだよって事と、こういう乗り物もあるんだよって皆にわかってほしいだけだからね」


 みんな違ってみんないい。


「さ、何往復かするから適当に別れてねー。とりあえず二、二、二で行ってみよう」


 シアン組:ヘカトンくん、ウイ

 あんこ組:ダイフク、しるこ

 ワラビ組:ピノ、ツキミ


 こう別れた。スルッと決まる&組み合わせが意外でびっくりした。


 次からは一周毎にローテーションしていくらしいです。


「じゃあヘカトンくんとウイちゃんは助手席に乗ってね。後部座席でもいいけど、きっとこっちの方が楽しめるよ」


 と言っても座高が足りないので、クッションや座布団をマシマシにして目線を丁度いい位置に調整。


 あんことワラビを見てみると、乗客を乗せて準備万端。早く行くよと目で訴えてくる。


「じゃあ行くよー! スタート!」


 久しぶりの真面目な運転。一応安全の為に魔力を流して全体を硬化するようにコーティングし出発。



 あー......気持ちいい......


 気持ちいいんだけど、最近の車は静かになりすぎて少し物足りない。


 もっと内臓に響くようなエンジン音......とまではいかないけど、曲がり角から出てきたのに気付けないほど静かにしなくてもいいと思うの。


「どーかな、車の乗り心地は」


 車の前を並走するあんことワラビの尻を眺めながら、同乗者に声を掛ける。


「キュッキュッ!」


『動いてないみたいなのに動いてる』


 鳴き声のみのウイちゃんと筆談のヘカトンくん。ウイちゃんは喋ってほしい。それと脇見運転してごめんなさい。


「あんこやワラビに乗るのもいいけど、たまにはこういうのもいいでしょ」


 久々の運転が楽しい。もしぶつけちゃったとしても破損するのは車以外なので万が一の心配をしなくてもいいのが余計に運転の楽しさを後押ししてくれる。


「キュゥゥゥゥウ」

『方向転換楽しい』


 カーブを曲がると声を上げるウイちゃんと、体を傾けるヘカトンくん。すっごい微笑ましくて可愛らしい。


 60Km⑅/hくらいのスピードでゆったりと一周を終えた。キャンピングカーを真面目に運転したのは初めてだったけど、意外となんとかなるもんだね。


「どうだったって聞くまでもないか。楽しんでくれたようでよかったよ」


 もう終わりかぁ......と、しょんぼりしている姿を見て嬉しくなる。後でまた乗せてあげるからね。


 ウイちゃんとヘカトンくんの様子を見て、他の子たちもさっきまでよりも興味を持ったらしくソワソワしている。

 頑なに拒否していたあんことワラビも、乗りたい気持ちと負けたくないって気持ちが入り交じった表情......すごく可愛い。


「フフフフフ......さ、次行こっか。慣れてきたから次はもう少しスピード上げるよ」


 超変則ドライブデートはまだまだ始まったばっかりだ!!

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