異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

第274話 泣いた用心棒

「よし、ここでいいだろう。......それで、いいネタとはなんなんだ？」

　偉そうなおっさんに人気の無い所まで連れていかれて問い詰められる。圧迫面接みたいで不快＆おっさんの顔が近くてキモいから離れて欲しい。野郎に詰め寄られるなんて死んでもゴメンだ。

「ぐへへへへ、旦那ぁコレでやんすよ。あ、それとですね、手配書とかいうの見せてくれやせんかね......へへっ」

　こういう時はササッと渡してしまうに限る。はいそこ、白い目で見ないで！！

「......ふむふむ......これがそのネタと......な、なんだと！？ オイ！！ これはガセネタじゃないだろうな！！」

「アンタがソイツをどう思おうがそこに書いてある通りでしかないよ。その手帳を貴族様に見せれば、アンタがソレを最初に見た時のリアクション通りの反応をしてくれると思うよ」

　......おーおーおー、頭の中で必死に損得を勘定していますねぇ。まぁお疑いのようにガセネタなんですけども。

「まぁいいけどさ、ソレを信じるか信じないかはアナタ次第デース」

「............お前の顔は覚えたからな。ガセネタだった時は容赦はしない......行っていいぞ」

「それでは皆様ごきげんよう。それを売り込んだお貴族様にたっぷり報酬を貰えるといいね......ではでは」

　別れ際に見たおっさんはすっごい顔が緩んでいた。せめてそのニチャ顔を見えないようにする努力しなさいよ......精々買い叩かれないようにね。ついでに口封じとかも心配した方がいいかも......

　さて、指名手配も解けた事だし来る時と違う道を通って堂々と帰りましょうかね。

「我慢してくれてありがとね。もう少しブラブラしてから帰ろう」

『......殺らなくていいの？』

「いいんだよー。人は楽して泡銭を大量に得ちゃうとオートで落ちぶれていくモンだし、例えそうならなくてもその幻影を追い求めて同じ事を繰り返すから、勝手にヘイトを集めまくって自滅しちゃう生き物だから」

『人間って面倒なんだね』

「だからもう気にしないでいいの。アイツらの事はサクッと忘れて俺とのデートを楽しむのが吉と占いの結果が出てるから」

『いつ占ったのさ......でもそうだね』

『りょーかーい！』

　この後は目的も無くブラブラ歩いた。だが、さっきまで同様貴族街にはウチの天使たちの琴線に触れるモノは無く、高貴な方々から好奇な視線を集めるだけの散歩を続けて、貴族街散歩はフィニッシュした。

「なーんもいい所無かったね......目が疲れただけだったよ」

『ねー......こっちは落ち着いてていいなぁ』

『ジロジロ見られて鬱陶しかった......お散歩するなら普通の場所だけでいいや』

　お散歩自体は満足したようだが、無駄にテカテカしている建物や人を見るのと、ジロジロ見られる事に疲れきった俺ら。まぁしゃーないよね......普段からそんな物とは縁遠い生活をしているんだもの。

『お家をあんな風に改造しないでね......』

『キラキラしてるのは多すぎると疲れるってわかった』

　光り物は嫌いじゃないんだろうけど、限度ってものはある。この子たちとセンスが被ってよかったよ。

「おっけー、帰ったらピノちゃんの農園の外周をキラッキラに改築してあげるからね」

「シャァァァァァ」

『......うわぁ』

「嘘です、ごめんなさい。ただのお茶目な冗談だから、喉をガチ噛みしないで」

　噛んで離さないピノちゃんと、ドン引いているツキミちゃん。

『......チッ、なんで牙が刺さらないんだよ』

　怖い事言わないでほしい。刺さったらやばいでしょうに......

「ほらほらお遊びは一旦おしまい。からかったの悪いと思ってるけど、通行人の視線が痛いから離れよっか。ね？」

「シャァァァ」

『よしよし』

　納得がいかないと態度で示すピノちゃんをよしよしするツキミちゃん。ずるいぞ、俺にもやってくれ。

「......帰ろうか......ちなみにツキミちゃん、俺によしよしは？」

『やらない』

　◇◇◇

「......ただいま、庶民地区」

『人の多さに目を瞑ればここはいい所だよねー』

「人の多さは......ね、俺らじゃどうにも出来ないかなぁ」

『なんか疲れちゃったからヘカトンくんを回収して帰らない？』

「そだねー、なんか今日はもう買い物って気分でもないし帰ろうか。結構時間も経ったし充分でしょ」

　人混み疲れ、気疲れ、その他諸々。おのれ、人間共め......俺らに勝てないからって、体力気力をこんな戦法で削ぎにくるとは恐るべき相手だ。

『......ヘカトンくん元気にやってるかな？ あのヤバいヤツみたいのが、あそこにはいっぱいいるんでしょ？』

「ノーコメントでお願いします」

『ヘカトンくんだから大丈夫でしょ......多分きっと......』

『............早く迎えに行こ』

「そうだね......もし最悪の事態になってたら、皆で手厚く埋葬してあげよう」

　ダダダダダダッ......ガシッ！！

　商会に到着し、扉を開けて中に入ろうとした次の瞬間......

　半泣きのヘカトンくんが俺のお腹に全力で抱きついてきました。一体この子の身に何があったのでしょうか。

「......おー、よしよし......ど、どうしちゃったのかなー？ 何か怖い事でもあったの？ ほら......え、ちょっと......泣かないでよ、よーしよしよしよし、怖かったのかなー？」

　仮にも元９８階層のボスだったこの子をこんな風にしてしまうとは......ミステリアス商会はなんて怖い所なのでしょう！！

「............ねぇ、一応聞いておくけど、お前らこの子に何したの？」

「スケッチをしていました。貴方様がお出かけになられてから......ずっと」

　この子の保護者として聞いておかないといけないよね。何ウチの子泣かしとんじゃコラァとは言わないでおくけど。

　んで、返ってきた答えがスケッチ。ちょっと何言ってるかわからない......この子がそれだけで泣くか？

「......それだけでこの子が泣くか？ ヘカトンくん、とりあえず俺らに何があったか説明してくんない？」

　小刻みにバイブするヘカトンくんを宥めながら説明を求める。ちょっとマジで何があったのさ......

「......目立ってるから中に入ろうか、ね。大丈夫だよ、俺らがいるから......敵陣のど真ん中に入るのだとしても、俺やピノちゃんやツキミちゃんが居れば安全安心でしょ。ね」

　俺らに会いたくて会いたくて震えていたヘカトンくん。服をギュッと掴んでくる。その手が二本だけならとても心温まる光景だっただろう......だが、掴むのが百本の腕だからとても言葉では言い表せない光景になっている。本当にこの子は......色々と惜しいなぁ。

　......あ、ピノちゃんも慰めに参加した。ありがとうございます。

　十分ほどグズるヘカトンくんを宥め倒し、ようやくヘカトンくんが復帰した。しかしまだ完全復活とは言えず、俺の背中に引っ付いて隠れている。

「さて、何があったか教えてくれるかな？」

『......うん』

　俺の言葉にビクッとしたヘカトンくんが、犯行が行われた時の状況をポツポツと語り始めた。

　............うん。ありがとう。

「よーしよしよしよしよし......怖かったね、怖かったね......一人にしてごめんね」

『......どんまい』

『よしよし』

　俺らと別れた後、ヘカトンくんはリーダーに自己紹介されたと言う。この時はまだ普通だったらしい。

　しかし、その後がやばかった。

　自己紹介が終わるとヘカトンくんグッズ製作チームの人員全てが部屋に入ってきたそうだ。そして、その後はひたすら黙々とスケッチされ続けた......

　ん？ 別にそれだけなら怖くなくね？ そう思っただろう。ノンノンノンノン......それだけだから怖いんだよ。

　ハイライトさんが自分探しの旅に出た沢山の瞳で見詰められ、一定の時間が経過すると、ポージングの指示が飛んでくる。その繰り返しだったそうだ。

　同族ならまだしも、異種族にそれをされたらどうだろうか。俺なら怖くて泣く。

　しかし、この事態を引き起こした元凶は俺だ。故に商会員の子たちは責められない。この子らは俺の指示に淡々と従っていただけなのだから。

「......うん、なんかごめんね。なんでもするから許して......今、なんかある？」

『帰る......』

「おけ。......という理由なんで今日は帰るよ。今回のは不幸なアレが重なったって事で......それじゃあ」

　生産組のお姉さんたちは泣いてたけど仕方ない。無になる事を心掛け過ぎて起こった事件だった。

「............大丈夫。また、来ると思う」

　可哀想すぎたのでその一言を追加してから地獄になった商会を後にした。

「さ、お風呂に入って美味しいのを食べて、ガッツリ寝て忘れよう」

『うん』

　この日の夜は皆でどんちゃん騒ぎをしてヘカトンくんの心を癒した。ウチの子たちはとっても優しくて、最後の方にはヘカトンくんにも笑顔が戻っていた。ありがとう。

　......嫌な、事件だったね。

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ㅤ辛子高菜と野沢菜わさびをお土産で貰いました。一人暮らしで漬物系をもらっても持て余しますよね。毎日、野沢菜おにぎりと高菜チャーハンばかり食べてます。

ㅤそれはさておき、薬に寝かしつけられてしまった所為で昨日は更新できませんでした。申し訳ありません。たまに休みますが、これからもよろしくお願いします。