第272話 ヘカトンくん、初めての商会
ダラける一日を過ごした次の日の朝飯時、怠惰なムードも無くなりいつも通りの日常が戻ってきていた。
もう少しダラダラしててもいいのに......と思いながらも働き者の皆に感謝を。俺もやらなきゃいけない事を早いとこ片付けてしまおうと、ご飯を食べてる皆に話を切り出した。
「俺は今日やりたい事があるから王都に行きたいんだけど行ってきていい? その時にヘカトンくんを連れて行きたいけど、今日は忙しかったりする?」
『それは別にいいんだけど......また変な事に巻き込まれたりしないよね?』
『牛の見回りだけだからすぐに暇になる』
「......当たり前だけど信用無いね。そんな立て続けに面倒事が起こるはずは無いと思うから安心していいと思います。ヘカトンくんはいつもありがとう。世話が終わったら声を掛けてね」
『無いよ!! すぐなんかに巻き込まれたりしてるもん!!』
『ワタシも行きたい!!』
『ごちそうさまでした。牛の所に行ってくるね』
「あ、ヘカトンくんは行ってらっしゃい。頑張ってねー! じゃあ今回はツキミちゃんも一緒に行こっか。俺がなんか変なのに絡まれそうなら俺を助けてね。ピノちゃんも俺とヘカトンくんだけじゃなくて、ツキミちゃんも連れていけば安心できそう?」
そそくさと牛の所に向かうヘカトンくんを見送りながら、信用度0だと俺を責めるピノちゃんと話しをする。
ツキミちゃんはありがとね。俺と一緒に行くと言ってくれて!!
それにしてもピノちゃんがこんなに突っかかってくるなんて珍しいな、.........ん? あ、まさか......
「......ピノちゃんも一緒に行こっか」
ピノちゃんは多分だけと、何が起きてもボクが対処してやるから一緒に行く。連れていけって言いたかったんだろう。んもう、ツンデレさん!!
『......うん』
あまりのいじらしさにちょっとだけ顔が緩んでしまったのがわかる。ごめんよ、いじめるつもりはなかったんだ。ただピノちゃんの事が可愛くて可愛くて感情が抑えられなくなっただけやねん。
「おっけー。じゃあ俺らの事を変なのの魔の手から守ってね。頼りにしてるよ」
「......シャァァァァ」
ツンデレさん可愛すぎるぅ。居心地悪そうにしながら威嚇するとか......たまらん。撫でさせろ!!
「よーしよしよしよしゃー、じゃれてるんですねー。可愛いですねー」
ツキミちゃんとタッグを組んでツンデレスネイクを撫で回した。じゃれつくピノちゃんがとても可愛かったです。恥ずかしさがオーバーフローして
『......畑見てくる』
噛んでもダメージを与えられないと悟り、農園へと逃げていくピノちゃん。農作業で精神安定を図るんですね。
「ねぇツキミちゃん、ピノちゃんのツンデレっぷり可愛すぎない?」
『いつもクールなのにね、ダイフクもそうだけどもっと素直になればいいのに』
「でもさ、あんこやツキミちゃんレベルにデレ甘になったダイフクとピノちゃんを想像してごらん? なんか違わない? たまーに猛烈に甘えてきたり、他の子が居ない時には素直になったり......そっちの方が良くね?」
『............ないねー。ねぇねぇ、そのツンデレってのワタシもやった方がいい?』
「やらなくていいよ。いや、むしろやられたら俺の精神が崩壊するから絶対やらないでほしい。甘い成分が減ったら泣くよ、周囲の目線や迷惑なんて全く考えずにガチ泣きするからね」
『............うん、それは見たくない』
「死活問題だからね、みっともないとか思っていられないから......まぁうん、いつも通りに甘えてきて欲しい。さ、あの子たちの用事が終わるまでゆっくりしてよっか」
『うん!』
こんな会話してて再認識したけどやっぱ俺は、わんこの『自分の認知範囲に入った瞬間全力で甘えるから覚悟しろ』なスタイルが大好きだ。
ぬこのように『気が向いたら構ってやるから、そうなるまでは大人しく一人でシコシコしてろ』なスタイルとは合わない。
一緒にいる時はお互い全力で構い構われ、離れる時は涙を飲んで......ってのが好き。わんこ好きはきっとこの気持ちをわかってくれると思う。出勤、通学前によく見られるあの悲しさを全身で表現するわんこに何度心を抉られたか......
「うーん、今日も君の羽毛はビューティホー! 世界一の美オウルだよ!」
『ふふーん、羽根のお手入れ頑張ってるからね! 今思うと初めて会った時の姿は恥ずかしいなぁ......』
このフワッフワの羽毛たまらん......母性さえ感じるような全てを包み込む羽根の質......指なんてもうズブズブ埋まっていく......抗う事なんて誰も出来ないだろう。
「それは仕方ないよ。生きるのに必死だっただろうし......それでもツキミちゃんを初めて見た時は目とハートを奪われたよ」
『そっか!』
俺の回答が満点だったらしく、嬉しそうに俺の顔を包み込んでくるツキミちゃん。俺らは全員同じお風呂用品を使っているはずなのに何故かそれぞれ匂いが違う。ツキミちゃんはなんか甘い匂いが強くて嗅いでいて落ち着く。
しばらくクンカクンカする状況のまま抱き合っていると、ヘカトンくんが先に帰宅。今日も牛のお世話お疲れ様......と、ふごふご言いながら伝えた。ちゃんとそう伝わっているかは不明だけど。
「ぷはぁっ! ピノちゃんはまだかな? ヘカトンくんもおいで。膝でいいかな?」
俺の横に座って待っていたので一度顔を離し、ヘカトンくんを膝の上にご招待。嬉しそうによじ登ってくる姿がかわ......かわ......うん、かわいいねー。
顔面をツキミちゃんに、膝上をヘカトンくんに貸してしばらくすると、ピノちゃんがようやく帰宅。見事にそっけないいつものピノちゃんに戻っていた。
「ピノちゃん、ヘカトンくん、お疲れ様。いつもありがとねー! 休憩はいる? あ、大丈夫なのね......じゃあ行こっか」
まだまだ元気なピノちゃんとヘカトンくん。全員を一気に抱っこして商会の俺の部屋に飛んだ。行ってきまーす。
◇◇◇
「はい、到着っ......うん、今日も居るね」
着いた途端に飛んでくる容赦の無い視線。今日も元気みたいでよかった。
『......ねぇ、アレは大丈夫なの?』
そうピノちゃんが聞いてくる。
「大丈夫だよ。ちょっと色々拗らせすぎちゃったダイフクって思っといて」
『う、うん......』
『そっかぁ......』
この回答にちょっとヒキ気味のお二人。でも安全性は伝わったと思う。
身の危険を感じたのかピノちゃんはポケットに避難し、ツキミちゃんは俺にしがみつく力が少し強まった。可愛い。
『これからどうするの?』
ヘカトンくんが質問してきた。この忍者とキャラ被りしている......でもこの子は喋れないからどうしようもない......いい加減忍者は俺に慣れろや。
「あー、俺の部屋に色々皆のぬいぐるみとか置いてあるの知ってるでしょ? そのグッズ開発の部署がヘカトンくんグッズの制作で行き詰まってて......だからいっその事、ご本人降臨させてインスピレーションを刺激してやろうってなったのよ。......嫌だった?」
『大丈夫。上手く出来たらお部屋に飾ってくれる?』
「もちろん!」
『じゃあやる。連れてって』
「ありがと。そんで、俺はその間ちょっとやりたい事あるんだけど、着いてくる? それともヘカトンくんと一緒にグッズ開発の人たちに協力する?」
『着いてく』
『一緒に行く』
「了解。ごめんね、ヘカトンくんを一人にしちゃうけどなるべく早く帰ってくるから」
『気にしないでいいよ』
「ありがと、ご褒美に飴ちゃん置いてくから、それを食べながら頑張ってね」
生産組のヘカトンくん狂いのお姉さんに、お気に入りのサク〇ドロップスを胸に抱いたヘカトンくんを預けてから王都へと繰り出した。ラブコメでよく見る感じで取り乱すお姉さんをと、冷静なヘカトンくんの温度差が凄かったとだけ言っておこう。
『......ねぇ、あの店大丈夫なの?』
店からある程度距離が離れるとポケットからひょっこり顔を出したピノちゃんがそう聞いてきた。
ツキミちゃんもやっと体の力が抜けたみたいで、深い溜め息と共にしがみつく力が弱まる。
「......まぁアレだよ。仕事っぷりだけは本当に優秀だから......ははは」
天才とアレは紙一重。これ、本当に核心を突いていると思う。
『うーん......でもまぁ、ヘカトンくんだし大丈夫なのかな』
「常識人っぷりではウチの子の中でもトップクラスだし......お店破壊とかはしないよね、きっと」
......心配の方向性はそっち方面。全て終わったら労わってあげようと思っている。
「まぁなるようになるさ。ダメだった場合はウチの子を怒らせたあっちが悪い。さ、気を取り直してお散歩を楽しもう!」
『そうだね』
『やりたい事ってお散歩なの?』
もうここまでくれば安全と確信したツキミちゃんは俺の右肩へ、ピノちゃんは俺の左肩へと移動してきた。
「そうそう、お散歩しながら出来る事だからね。ちょっといっぱい歩くからリラックスしてていいよ」
『わかった』
『うん!』
ちょうどいいポイ捨てスポットを探す王都散歩がスタートした。
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ㅤ寒暖差なのか、秋の花粉野郎が遅れて襲来してるのかわかりませんが、くしゃみと鼻水が止まらずに顔面崩壊しています。
ㅤ花粉もアレルギーも滅びて欲しい......そして薬の影響で眠気がヤバくて寝落ちしまくりで色々ヤバいです。鼻と喉を取り外して丸洗いしたい。
ㅤ皆様、体調管理にはくれぐれもお気をつけください。眠気が来なくて物凄く効く薬はどこにいるんでしょうか。
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