第270話 打ち上げ

 い、いやー......ははは。どうも、国家を滅ぼしたばかりのテロリストです。いやね、一面焼け野原でどうしようもないといった現実が目に突き刺さっています。


 簡単に言えば大花火がゴト師によって大噴火し、未曾有の大惨事となりました。


 あんこたんの水の膜が数枚突破されるという異常事態とかマジ焦ったわ......隔離して守っていた帝都は無事だったけど、守っていなかったその他が更地になった。完全に想定外でした、申し訳ございません。


 俺の魔力がたっぷりと詰まった花火&爆弾はヤバかった。以上!! 無理やり反省点を作るとしたら、爆弾は余計だったなって事くらいだね。あはははは。


 さて、災害からはもう目を背けようか。終わった事にいつまでも固執していては人は成長できない。うん。


『すっごい綺麗だったね!』


 ウチのお姫様が物凄く喜んでくれている。俺はそれだけを見ていればいいんだ。

 衝撃波で荒れ果てた周囲数キロの惨状とかは俺の目にはもう映らない。


『アレに似たヤツは再現出来そう』


 前にやったなんちゃって花火じゃない、マジモンの花火を完全再現したくてソワソワしているピノちゃん。一緒に花火大会やりたいね。


 残りの子は興奮冷めやらずにキャッキャウフフしている。ヘカトンくんでさえ今まで見たことの無いくらい高いテンション。


「やってよかった帝城大花火!!」


 可愛いは正義だ。大正義。


「さ、逃げたメイドちゃんも無事みたいだし、お家に帰ろっか」


『『『『『『おー!』』』』』』


 こうして、拉致られから始まった帝国召喚編は幕を閉じた。




 ◇◇◇




 帰宅した俺らがお家に入ろうとしたその時、あんこたんを先頭に皆が俺から離れ、家の前に整列した。

 まさか、ここに入りたければ私たちを倒してからにしろ! とでも言われるんじゃ......そう思い、軽く絶望しかけた瞬間......


『おかえりなさい』


 お家に着いた途端、天使たちから口々に飛んでくるおかえりなさいの言葉。泣けるぜ。

 有り得ない想像をして勝手に凹んでごめんなさい。君たち熾天使が俺にそんな事言う訳無いもんね......


「ただいま!」


 おじちゃんそれだけで色々頑張れちゃう。ありがとう......大好き。


 帰宅時の儀礼が終わるとすぐに皆はリラックスし始め、これでもかと言う程甘えてきた。嗚呼、これが楽園か。


 お風呂入ろ! ブラッシングして! ご飯が先! 抱っこ! と、変則的なご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し? が炸裂した。


 こんな急に運命の分岐点が出てきたらパパ困っちゃう......先にセーブさせて!!


「おーけー、じゃあ全部やっちゃおう。人間はね......とっても欲深い生き物なのだよ」


 選べなかった。仕方ない......仕方ないんや......こんなん選べるわけがない。


『......全部出来るの?』


 そう疑われても仕方ないね。でもやるさ、やってみせるよ。


「俺を信じなさーい」


 好きな子の願いは全部叶えてあげたいし、俺の欲望も全て叶えてもらいたい。


 さ、このままお風呂に向かうわよ。時間は有限だ......無駄にしてはならんのですよ!!



 唸れ俺の脳味噌!! 今頑張らなかったら意味が無いんだ!!


 お風呂にする? はお風呂に入ればいいだけのとっても簡単なミッション。楽々クリアーできてとても簡単。

 わ・た・し? の部分もお風呂に入りながら触ったり、揉んだり、撫でたりすればいい。まぁ早い話いつもと同じ事をすればクリアーだ。


 問題はご飯にする? の部分だ。酒ならば簡単に用意出来るし実際にやった事がある。だが、風呂に入りながらの飯......何をすればいい、どんな物を用意すればいいのだ!!


 時間は有限だ(二回目)。脳を魔力で強化し時を引き伸ばしつつ、【多重思考】さんを全力で使って考える。早い話が思考限定のゾーン状態である。やりすぎたら脳がバァンしそうだから長時間はやれないけどな! ←ここまで思考開始から一秒未満


 おっと、こんな事考えてる暇は無い。増えた脳のタブを無駄にするのはあかん。


 さて、料理だ。風呂に入りながら食べれて、それでいて胃が満足する料理を考えるんだ......大丈夫、俺なら出来る。やれ、やるんだ俺!!!


 候補としてあがるのは温泉の上に浮かしながら食べられる簡単なモノ。だが、大仕事を終えたばかりの天使たちのご褒美にはならないので却下。

 ならばどうするか......俺の貧弱な思考回路よ、頑張るんだ、何としてでも良案を捻り出せ。


 Q、ご褒美を貰う立場なら何が嬉しい?


 A、ジャンクフードや体に悪いと普段は遠ざけられるカロリーモンスター


 Q、皆で仲良くワイワイ食べるならば?


 A、ビュッフェ形式or大皿料理


 Q、お前が思い付いた答え、そこから導き出される最適解は?


 A、ピッツァやハンバーガー


 Q、それは温泉に浸かりながらでも食べられるのか?


 A、そこはパパの頑張りどころだろ


 ............完全に俺基準になってしまった。だが、嫌いな人はほとんど居ないであろうピザやハンバーガーだ。それに、個人個人の好みにもほぼ完璧に対応できるバリエーションの豊富さがウリの両者だ。きっと気に入ってくれるはず......


 ハンバーガーはパンを焼けばいいだけ......ハンバーグは出来たてホヤホヤな作り置きが大量にあるし、具もある。

 ピザは生地をお取り寄せすれば後は手持ちの食材でなんとかなる。ピザ窯ならば簡単に用意出来る。


 後はお湯に浮かべるテーブル&逆上せそうな時に避難できる休憩場所を作ればいいだけの簡単なお仕事......



 ......これでイケるか?


 本日最後の仕事だと、バッチバチに活性化している脳味噌を働かせてシュミレートしていく。用意する手順、作成に掛かる時間、問題が起きそうなポイントの炙り出し、俺が心を奪われてしまった時の挽回方法......などなど、起こり得そうな事を事前に把握していく。


「......ぶはぁっ......アァァ......疲れたぁ」


 脳をフル回転させればどうなるか......それを見落としていた俺は、踏み出した一歩目で躓く事になった。あぁ......脳に栄養が......糖分が足らないぃ......




 ◇◇◇




 これでもかというほど脳を酷使した。人生で初めての経験で疲労はピーク。


 だが、その甲斐あって大まかなプランは完成したので、皆をモフモフもみもみペロペロさわさわしながら糸をフルに使って舞台を整えていけばいいのだから。


 温泉に浮かべたテーブルは水の揺らぎや上に乗っかるくらいではビクともしないファンタジー仕様になっている。

 浴槽も改装して縁に顎を乗せながら飯を食える怠惰な人向けのカスタマイズも施した。


 好きな位置で各々楽しんで欲しいが、サイズ的な問題があるのでワラビだけは専用の場所を特注で作った。例外として大きくなったあんこだけは使える様になっている。


「気持ちいいですかー? もうすぐピザが焼き上がるからご飯にしようねー」


 順番に撫で回していったので、全員が全員蕩けた顔で温泉を満喫している。

 今、俺は半身浴の状態で手を独占しているピノちゃんを優しく撫でている。全員のマッサージが終わったのを見届けるとスーッと手に乗ってきたから、この子お気に入りのブラシで追加のマッサージをしてたら動かなくなってしまった。

 膝の上にはあんことしるこが乗り、俺の胸に顎を乗せて信頼しきった顔でまったりしている。これがまぁ物凄く可愛い。ヤバい。


 手が空いていないので撫でる事が出来ないのが残念だが、これはこれで素晴らしいので糸を使ってカメラを操りパシャリ。またアルバムが潤ってしまったぜ......ぐふふふ。



「皆ぁご飯出来たよ。動ける?」


 この言葉でトロントロンだった皆が少しずつ凝固していく。そしてゆっくりと浮かべたテーブルの周りに集まってきた。


 俺にくっ付いている三名は全く動こうとしない。絶対に動いてあげないから運びなさいよという確固たる意志を持って俺にくっ付いている。ちょっとだけ噛まれているので本当に動きたくないらしい。


「じゃあ皆好きなのを取って食べてね。食べにくかったら浴槽の縁に飲食できそうなスペースもあるから......さぁ食べよっか。この一週間お疲れ様でした。よく頑張ったね」


 カロリーと日々戦う哀戦士たちと真っ向から喧嘩するような食卓。


 だが俺が尊敬する金髪のあの人はきっとこう言うであろう。


『温泉に浸かって脂肪燃焼してるからどんだけ食べても0カロリー』


 と。0カロリー理論は本当に素晴らしい。



 さて、そんな我が家の本日のメニューはこちら。


 ・明太もちチーズピザ

 ・ウインナー&ソーセージもりもりピザ

 ・サラミ&ジャーキーマシマシピザ

 ・ピノ野菜のピザ

 ・シーフードミックスピザ


 ・美味牛ダブルバーガー

 ・美味牛ダブルチーズバーガー

 ・美味牛月見バーガー

 ・美味牛月見チーズバーガー

 ・フライドポテト


 唯一の良心としてピノ野菜ピザ。それ以外はもう潔くカロリーのお化けたち。


 ピザはウチの子の好物で固めた。これなら誰も文句は言わないだろう。

 そしてハンバーガーは俺の好み。ダブルチーズバーガーは神の食べ物。月見は至宝。


「ピノちゃんはまだ動けないのかなー? ほら食べな。餅入りのヤツでいい?」


 ちぎっては食べさせ、ちぎっては食べさせ、普段の姿からは想像も出来ない程甘えきった姿のピノちゃん。そして俺を上目遣いで見ながら口を開けて待ってるあんことしるこ。

 俺の作ったモンを美味しそうにガツガツ食べていく天使たち。


 幸せだなぁ。いつまでもこの幸せが続きますように......この幸せを守る為なら俺は何だってするからね。

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