第269話 終焉の光の華
休憩が終わり甘い物を摂取し終えた俺らは最後の仕上げ、皇帝殺しに出発した。
名前を言うのもはばかられるイニシャルGの如く、元から根絶しなければならないクソみたいな相手だ。ゴキの巣殺り。
「拉致被害者をこれ以上増やさない為にも、元凶をコロコロしないとね」
「くぅーん」
完全に自分たちは仕事を終えたわよというスタイルの天使たち。後はパパの活躍を特等席で見ててください。君たちが傍にいてくれるだけで強くなれるのですよ......
◇◇◇
トロトロに溶かした壁の間を通り抜けていき、ようやく辿り着いたGの巣。
気持ち悪い笑みを浮かべた世にも珍しい人面ゴキブリ共が部屋の隅で固まっている。
「ここまで無駄に肥えて害悪をばら撒くだけの生、お疲れ様でした。これから害虫は駆除されるのを待つだけの簡単なお仕事のお時間でございます」
黙れ! だとか、今ならまだ許してやる! だとか、そんな在り来りな事しか言わない。
「はぁぁぁ......」
ほらぁ......天使たちも呆れて溜め息吐いてるよ......本当にクズしかいねぇな!?
「はいはい、釈明は皇帝陛下と一緒にしてくださいねー」
ヌルッと糸を巻き付け、ワラビに牽引してもらって移動。お前らが汚らわしいと蔑む下民がよくやられてる事だよ。
「ヘカトンくん、その扉ぶっ壊して」
『わかった』
後方の五月蝿いゴミ虫共は完全に無視してズンズン進んでいく。不敬だとか聞き飽きたからもっと面白い事言えよ。
「......シッ!!」
まだ騒いでるアホ虫を無視して皇帝の待っている部屋に侵入った瞬間、怪しい男が不意打ちしてきた。
「お疲れ様でーす」
サクッと不意打ちを避け、すれ違い様にスペ魔法をソッと添えた。後はわかるな?
「ぐぁぁぁぁぁ!!!!」
ちょっとした段差でも死んでしまうような脆さのヤツが、天井からするというダイナミックでストロングなエントリー。
水滴が水面に落ちた時のような自然さでトプンと地面と接触し、赤い絨毯にジョブチェンジしていった。南無阿弥陀仏......
「イヤァァァァァ!!!」
「キャァァァァァ!!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
目の前で人が死ぬ所など何度も見ているだろうに、みっともなく泣いて喚いて取り乱すクソ虫共。煩わしいので喉をスペらせる。
「沈黙は金なり......」
喉をスペらされたアホが赤いマーライオンになったのを見て、騒いでいたゴミ虫が一斉に静まり返る。
「はじめまして皇帝さん。一応聞いておくけど......異世界からガキを拉致してソイツらの人生を狂わせた事と、人が沢山死ぬ原因を作った事についてどう落とし前を付けるつもりなのかな?」
「......国を背負う覚悟の無い者に言われても何も思わんな。失敗したとしても長である儂が生きていれば何も問題はない」
「わかった。おっけー! あ、知ってるかな? 下々の人間って案外図太いから統治者が死んでいても意外とどうにかなるもんなんだよ。治める人は必要だけど、そういうのは勝手に生えてくるから気にせずに逝け。それに、もしダメでも勝手に滅びていくから」
「......もうよい、貴様をどうにかすればよいのだからな。食らえっ!!」
皇帝なんてお飾りな存在かと思ってたけど意外と戦えるらしく、急に動き始めた。仕方ない......茶番に付き合ってあげよう。
バレないように頑張って準備していたらしい鎖を俺に投げつけた後、ピッカピカの鎧を一瞬で装備。
どうやってんのソレと思わなくもないが、俺の体に引っ付いたままの天使を巻き込むように鎖を投げつけたのは許せない。
断腸の思いで優しく天使たちを体から引き剥がし、俺の後方に待機させる。
皇帝よ、貴様はどれだけ罪を重ねるつもりだド畜生!!
それにしても鎖が遅すぎる。あんこたちの超スピードに慣れすぎた弊害かもしれないけど......
あんこたちをやさしーくパージしたのにまだまだ距離がある。俺の体がある位置までくる迄に、皇帝と俺の位置を入れ替えても余裕で間に合うぞ。
しないけど。
「う、うわぁぁぁ! な、なんなんだこの鎖はぁぁぁぁ! やめろぉぉぉ!」
......緊縛されてみました。が、特に何も変わった感じはしない。オートで敵を捕縛するだけの鎖なのかな?
「おっと、獣共は動くなよ。飼い主がどうなるかわからないからな」
体に張り付いていた天使たちが俺の後方に待機してる事になんの疑問も抱いていない愚か者。なんで気付かないんだろう。
悔しそうな顔を頑張って作ってくれてるあんことツキミちゃんが可愛い。おっさんに縛られるという人生最大の汚点になりかねない事を我慢した甲斐があったよ。
でもね、ピノちゃんとダイフクよ......ワラビに顔を埋めて笑ってんじゃねぇ。ウイちゃんのしるこはもっと興味持って!!
「......お前、ウチの子を......グッ......獣とか呼んでんじゃねぇよ......」
様式美として我慢してるけど、今すぐ殺してやろうかテメェゴラ!!
俺の演技力だけが無駄に上がっていくだけの無駄な時間じゃねぇか。
「フハハハハ、強がってももう遅いぞ。お前はもう終わっている! さぁ、これを付けて終いだ」
そう言って俺の首にネックレスを付けてくるおっさん。そんなプレゼントはいらない。付けてくれるならせめて可愛い子にしてくれ......
............うん、これも何もないな。何がしたいんだろこのおっさんは。
「その縛魔の鎖で魔力を封じて身動き取れなくさせた後、隷属の首飾りで貴様を隷属させる。完璧だろう......まぁ強力な魔道具故、数日で廃人になるだろうが、帝国に仇成したのだから当然の処置だろうがな」
あらやだ......緊縛して強制的に奴隷にするとかやることが人じゃないね。まさに外道!
「ハハハハ!! 貴様はそこで黙ってみていろ。貴様が大事にしている獣共が死んでいく様をな!!」
勝ち誇り、高笑いをした後、よくわからんピンク色の液体が入った瓶を取り出す皇帝。
............なんだろうか。アレを使わせたらダメな気がする。ウチの子の情操教育的に。
もういいか。茶番に付き合うのはここまで。既に皇帝陛下という茶葉はもう出涸らしなのだから。
「このサキュバスの淫液を使えば、使われたモノは気が狂い、ただ腰を振るだけのケダモノに成り下がるのだ!!」
「............そっか、もういいよお疲れさん。追い詰められてからの逆転劇で脳汁ドバドバになれて気持ちよくなれただろ?」
「はぁぁ!? 何故、何故その魔道具を使われて動けるんだ!!」
「あ、僕ァそういうの効かない体質なので。俺に効くようなの用意出来なくて残念だったねぇ......それさえあれば俺を思い通りに出来てたのに」
とりあえずなんか色々使えそうなアイテムをゲット。鎖はこの太さと強度なら魔道具としてだけではなく鈍器としても使えるな。ラッキー。
「その鎧もなんかの魔道具なんだろうが、まぁ無駄な努力だったね、お疲れさん」
魔力をたっぷり乗せて威圧したらバラバラに散らばり、おっさんは気絶した。なんかごめんね。
「さて、皆ごめんね......クソみたいな茶番に付き合わせて。すぐ戻ってくるからここで休んでて。ワラビ、皆を乗せてあげて」
『わかった』
『どっか行くの?』
「ちょっと慰謝料分捕ってくるだけだからすぐ戻ってくるよ」
『早く帰ってきてね』
「おうよ。ちゃっちゃと行ってすぐ戻ってくるから待っててね」
最短距離で宝物庫まで進み、音速で中身を全て根こそぎ徴収し帰還。こんな競技があったならアンタッチャブルレコードなんじゃないかってくらいのスピードだと思う。めっちゃ頑張った。
「ただいまー! おー、よしよし。いい子で待ってたかなー?」
お留守番とも言えない時間だが、離れてる時間は短い方がいい。そしていい子にしてたなら褒める。これ、大事。
「はーい、おっさんとその他大勢起きてくださーい」
威圧の余波で皆失神していたのを、鼻の穴から水を流し込んで起こす。老若男女問わず可哀想な事になったが慈悲はない。
「最後に聞きたい事あんだけど、素直に話してくれない? それを拒否すんならさっきおっさんが俺に使った首飾りを使う事になるからs......」
「......ペッ」
皇女......かな? 唾を顔に吐かれた。こんなコッテコテな反抗されるとは思ってもみなかったよ。他のクソ貴族も同様に殺意の籠った熱い視線を向けてくる。
............はぁ。出し時がわからなくなってずっと放置しちゃってたから、そのままにしておきたかったけど......しゃーないか。
「女王陛下かもーんぬ」
喋れる、聞ける、この二つが出来ればいいから短時間で徹底的に心を折ってと指示して一時避難。
その隙に俺は帝国のシンボルである城を壊すのは何がいいのかとアレコレ頭を悩ませながら調達。まだ悲鳴が聞こえてきていたのでそのままモフりながら待機。
それから十分程待つと女王様が満面の笑みを浮かべながら部屋から出てきた。どうやら終わったらしい。
女王様を送った後、なんでも素直に話すようになったゴキブリ共から情報収集。部屋の中はとてもファッショナブルというかなんて言うか......とても攻めたデザインになっていたと評しておく。
「さて、いっぱい待たせてごめんな。長かったゴタゴタもこれで終わりだからラストはド派手に逝くよー!!」
『なーにーこれー?』
『おっきいたまー』
好奇心の塊の末っ子姉妹は最終兵器に心を奪われてツンツンしている。誤爆したら危ないから気をつけてね。
『何これ?』
『おっきい......』
『コレでどうするの?』
普段はクールな白コンビとヘカトンくんも口を開いたままソレを見ている。
「ふふーん、これはねー、花火玉だよ!」
『花火ってアレ? 空で爆発するキレイなヤツ!!』
『これを打ち上げてどうするのー?』
これまで大人しくしていたあんことツキミちゃんが興奮しだした。可愛いなぁ。
「これはね、このお城の中で爆発させるんだよ。見上げるのに比べたら物足りないかもしれないけど、それでもかなり綺麗なのが見れるはず!! 帰った後に普通のやろうね」
『うん!』
『あれ好き!』
「じゃあこの城から離れようか。観戦位置に着いたらあんこは薄くて透明な水の膜を張ってくれる? かなり音ヤバいと思うから」
『任せて!!』
『早く見たい!』
「キュッ!」
「メェェ!」
ははっ、可愛い子たちだなぁ。
「ここらでいいか。いい具合に外も暗くなってきてるしちょうどいい。じゃああんこたん、頼むよ!!」
『いくよー!!』
ソワソワする皆を宥め、あんこが水の膜を張るのを見届けた。
俺が用意したのはギネスにも載ったと言われる花火玉、正四尺玉の詰め合わせ。それプラス城のあちこちに仕掛けたプラスチック爆弾。どれくらいの威力になるかは未知数。
帝都は隔離してある。周囲の安全はバッチリだ......巻き込まれた人が居たらごめんなさい。
「じゃあカウントダウンするから、ゼロになったらそのボタンを皆で押すんだよ。準備はいい?」
『『『『『『おー!!』』』』』』
「行くぞー! 十、九、八、七......」
『『『『「六、五、四、三、二、一......」』』』』
「零!!」
ポチッ......
――この日、五大国の一つであった帝国が地図から名前を消した。
教国の時のような光の柱ではなく、複数の光の華が咲き乱れたと記録されている。
残った三大国は、帝国が勇者召喚をした事で何者かの怒りを買い滅ぼされたと確信し、自国にも報復が来るのではないかと怯える日々を過ごしたとか......
この日以降、不定期で魔国と亜人国を分断する山脈から光の華が何度も見られるようになり、あの山には何があろうとも絶対に踏み込んではいけない......終焉を迎えたくないのならば――
そんな言い伝えが後世まで語られる事となった。
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