第266話 発表会・後編
壮大な家鳴り、恐怖よりも死にたくない気持ちが上回ったのか喚き散らし始めた兵士、情けない声で兵士に怒鳴る貴族、へたり込む女と腰を抜かす男の勇者様御一行。
ウチの子たち以外の面々が阿鼻叫喚の地獄絵図になっている中で、淡々と準備を進めていったワラビとヘカトンくん。
「凄いねぇ......あのモードのワラビとヘカトンくん初めて見たよ。どうやってんのアレ? 皆は知ってたの?」
『頑張ってたよ』
そっかぁ。俺に内緒であんな事を練習してたんだね......練習風景見たかったなぁ。おのれ、帝国め。
そんな俺の内心はともかく、発表会は恙無く進行していく。
ワラビはラージ〇ン砲をぶっ放して射線上にいた兵士共の膝から上を蒸発させた。残ったのは嫌な臭いと白煙をあげる人の膝から下。
本家のアレも威力がアレだったなぁと思いながらその発表を見ていた。対個人の攻撃かは疑問が残るがあの子が自分で考えて実行したのだから俺はソレを尊重しよう。すごーい!!
続きましては俺の家族最大の良心であるヘカトンくん。見た目はともかく、とってもいい子。どうにかして可愛くならないかな?
そんなヘカトンくんの攻撃は至ってシンプル。いつものあの子からは考えられないドシンプルな攻撃。
手を伸ばし、対象を掴み、ソレを握り潰し、絶命を確認したら投げ捨てる。それだけなのだが兵士には超効果的で、皆様恐怖に震えていた。
おっきくなっちゃったヘカトンくんはモンスターそのものだもんね......自分の理解が追い付かない相手が淡々と生命を奪っていく光景は結構心にクるらしい。
恐怖に支配されてただ闇雲に武器を振り回すだけのマシーンになった兵士が、見事ヘカトンくんに攻撃を当てるも防御力を突破できずに武器が折れていく。そして折れた武器は味方に刺さっていく。
潰され投げ捨てられる兵士、さっきまで兵士だったモノで潰れる兵士、恐怖でご乱心した兵士、ワンクッション置いたフレンドリーファイアで死んでいく兵士。嗚呼、なんという地獄絵図......ヘカトンくんすげー!!
攻撃しやすい大きさと、本気を出したらキメラとモンスターになる見た目のこの子たちは攻撃しやすかったのかな?
「お疲れ様ー、怪我はしてない? あぁ、大丈夫なのね......よかったァ」
攻撃を受けていたから傷物にされたかと心配したよ。いくら強いといっても怪我はするからね......あ、元の姿に戻った。
『さいごはー』
『うちらだよー』
戻ってきたワラビは俺を自分の体の上に乗せ、ヘカトンは跨る俺の股の間にイン。
高くなった視点で大トリを飾る末っ子姉妹の発表を見守る。
『ちゃんとー』
『みててねー』
「見てるよー! がんばえー!」
こっちを見ながら前足をフリフリする姿が俺の心を射抜く。某とっつぁんがこの場に居たら、きっとあの名セリフを言ってくれたと思われる。ウチの子が優秀すぎ、可愛すぎて心が幾つあっても足りない。
謎の感情に心を締め付けられて悶えていると、定位置にすっぽり入ってご機嫌なお嬢様に怒られた。『始まるからちゃんと見てなさい』って......お母さん、ごめんなさい。
「メェェェェ!!」
毛を直毛にしてモップわんこみたいになったしるこ。そんなしるこに向かってお尻のヒレで素振りをするウイちゃん。まさかとは思うけど、これは......
「......ま、まさか!? 本当に!?」
そのまさかだった。
ウイちゃんがモップしるこを、見事なスウィングでスマッシュした。
「ふぁっ!? マジでやんのかよ!?」
スパーーンッ!! と、とてもいい音を奏でたアザラシと羊。そして、スマッシュされて結構な勢いで飛んでいく羊たん。
ぶつかれば結構なダメージはありそうだけど、ソレさ、しるこにもダメージいかない? 諸刃の剣じゃないかな......俺、心配だよ。
そんな俺の心配を他所に、順調な勢いで兵士に飛んでいく......あぁぁ......
『だいじょーぶだよー、みててー』
俺の心情を読み解いたのか、しるこをぶっ放したウイちゃんが呑気な声で俺を窘める。
あぁ......もうぶつかっちゃう......
「メェェ!!」
まるで心配するな! とでも言うかのように鳴いたしるこ。そして、形状が変化していく。風に靡く羊にあるまじきツヤツヤサラサラの直毛が槍の穂先に早変わり。それも体中にビッシリ生えている。
飛んでくるしるこを打ち返そうとしていた兵士共はもう大慌て。
そりゃそうだよね、ただのサッカーみたいだなと思って油断していたら、急に主将の翼さんやテニヌの人みたいに人体に深刻なダメージを与える種目に様変わりしたんだもの。
そして、ウチの子の攻撃は相手に刺さって終わり......なんて言う生易しいモノでは無かった。まぁ当たり前だよね......ふふふ。
「......HAHAHAHAHAHA」
勇敢にもしるこを顔面ブロックで迎え入れた兵士。その兵士に刺さって止まると、これ幸いとしるこに群がり殺そうとする残りの兵士共。......その子にかすり傷の一つでも付けたら、その時はお前を消滅させるからな。
「え、えぇぇ......羊ってこんなとんでも生物だったっけか?」
そんな言葉が漏れた。
突き刺さったしるこは身動きが取れておらず、俺はアタフタしてしまうがそんな俺をピノちゃんと鳥ちゃんズが情けないなぁと笑いながら見る。
『黙ってみてなよ』
「うす......」
不安からか定位置のあんこを抱きしめる腕に力が篭もる。あ、あぁぁぁ......
「メェッ!!」
そんな一声と共にしるこは体中に生えた毛槍をパージし、周囲を取り囲む兵士を串刺しにし、槍の支えを失ったしるこはつんつるてんのまま、何事もなかったかのように俺の方へと走って戻ってきた。
「メェェェェ」
どうだった? と言っているのが何となくわかる。俺の空いている左手の方に飛び込み、スリスリ......Oh......新触感。
「よーしよしよし、凄かったね。あんな技が出来るとは思ってなかったよ。さ、しるこのお姉ちゃんの晴れ舞台を一緒に見ようか」
「メェッ」
「ウイちゃーんがんばえー!」
「キュッ!!」
俺の方に一度敬礼をしてからぬっこぬっこと進んでいくウイちゃん。もう......その動きは反則ですよ。
「キュッキュッキュッキュッ......キュッ」
リズミカルに五回鳴くと、建物の四方が爆散し天井が粉々になる。
「......何それ、俺、それ知らない」
音響であんな事出来るんだ......そうだよね、振動って恐ろしいモンだったわ。忘れてたよ。音響兵器とか言うモンがあるくらいだもんね......
「キュゥゥゥン」
ウイちゃんを取り囲む兵士が爆散した。ウチの子たちの攻撃って爆散率高杉内。
こうしてウチの子たちの初めての発表会は大量の血と肉片と臓物を生産し、大盛況の内に幕を閉じた。
「お疲れさまぁ! よく頑張ったね。皆は連戦になるけど体力は大丈夫? このまま殲滅戦もやっちゃえるかな?」
ひと仕事終えたウイちゃんが右手に飛び込み、フル装備シアンが完成。
背中と腰周りが無防備だけど、コレはまぁ仕方ない。いつか此処も埋まったりするのかなぁ......なんてね。
「さ、後はここにいる大量の有象無象共の処理だよ。爆散して死ぬという無様な死に方をたくさん見て、戦意喪失してるね。でもこれはあのカス共が選択した事だから皆は何も気にせずに気高く、美しく、それでいて目撃した人全てが恐怖に慄く......そんな攻撃で滅ぼしてあげてね」
『『『『『『おー!!』』』』』』
............ん?
「えーっと、このままで大丈夫なの?」
『うん!』
『キメ技は皆でやるの!』
『おねーちゃんたちと!』
『いっしょにどかーん!』
甘えんぼさんたちがはしゃいでいる。かいしんのいちげき!!
「そっかー、俺はこのまま皆の止まり木に徹していればいいのかな?」
『うん、そのままボーッとしてていいよ』
『そのまま見てて』
『皆、凄く張り切ってたからね』
『......練習大変だった』
大人ぶってる子たちがクールに言う。もう、もっとデレたりはしゃいでくれてもいいのにぃ......
「りょーかい。じゃあ楽しみにしてるからね!! 皆の発表会、凄くカッコよくて感動したよ!!」
対帝国戦は佳境へ向かっていくが、シアンはデレデレしていた。
◆◆◆
「異世界から持ってきた戦力の中にあった無能が裏切り、勇者は役立たず......おい、この一週間、貴様らは何をしていたのだ!!」
「申し訳ございません......細心の注意を払っていたのですが......」
皇太子が報告に来た者に怒鳴りつける。
怒りが収まらないのか、腰に佩いた剣に手を掛け......
「お前は此処を血で汚すつもりなのか? 剣から手を離せ。 もうよい、貴様らに任せておいた儂が愚かだったようだ。もうこれしかやる事が無いのぅ。......覚悟を決めるしかない......か」
自国の愚か者共や各国の黒い思惑で板挟みななり、起死回生の一手として行った勇者召喚もこの有様。
一人立ち上がり、騒がしい部屋を後にする。
「やるぞ、ついてこい。愚かな皇で済まなかったな」
「いえ、立派でございます」
窮鼠が猫を噛もうと、起死回生の一手を繰り出そうと準備を始めた――
──────────────────────────────
牛と燕の頂上決戦、とても面白かったです。去年、一昨年と、鷹による一方的な兎狩りがなんだったのかというくらい面白かった。でもこの時期の野外ナイターはヤバいですね。ブルペンに火鉢、選手の吐く息が白いほもフィーは......
さて、これで今年のシーズンが終わり、来年のシーズン開幕まで鬱い時間がやってきます。ストーブリーグも盛り上がらなそうでつらたん......
今年の余命も後一ヶ月、皆様お体にお気をつけてお過ごしくださいませ。
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