第265話 発表会・前編

 所々不機嫌さを滲ませながらも殺る気に満ち溢れたマイエンジェルズ。


 さぁ、戦場はすぐそこだよ。


「あのさ、俺にはよくわかんないんだけど何か気になる事でもあるの? こっちに来てからずっとピリピリしてるのが気になるんだけど」


『よくわからない......けど、何か嫌な感じがするの。触られたくない所を触られた時のようなゾワゾワする感じ』


 あんこが俺に説明してくれた俺にはよく分からない感覚。あんこたんセンサーに引っかかるようなナニかがあると言う事らしい。


 うん、俺は大丈夫。何が起きても大丈夫。絶対に守って見せるからね。

 最悪思考を放棄して全てを吹っ飛ばせばいいんだから......アハハハ。




 ◇◇◇




 案内された先はクソ広い軍事施設のような場所。その中にビッシリ詰まった兵士や貴族共。外にもガッツリ配置されていて逃がす気はないよという強い意志を感じる。


 わかっていた事だけど帝国は冤罪を吹っ掛けようとした事や、拉致した事に対して償おうとする意志を見せるのを拒んだ。


 貴族、兵士、侍従、そして勇者御一行(笑)は謝罪も賠償もしない全面的に争う姿勢を見せやがりやがるようで、フル装備で俺を殺そうと待機していた。


「よく来たな、私達は貴様なぞに屈しない。帝国に仇なす存在は生かしておけないのだよ......先日は貴様の不意打ちにより無様な姿を晒したが、今回はそうはいかない。絶対に殺してやる......」


「やっぱり偉い人は皆そう考えるよね。臭いものには蓋をしちゃえばいいというか、なんていうか......ね。マトモな人材はちゃんと逃げ出したようだし、遠慮は必要ないかな。勇者御一行様、無理矢理召喚されたことには同情するけど、優遇されて調子に乗り、選択を誤っちゃったみたいだね」


「五月蝿い五月蝿い五月蝿い!! よくも俺らに恥をかかせたな!! 絶対に許さない......殺してやる!!」


 男子、三日会わざれば刮目して見よとは言うけどさ、どうしてこうなった? プライドがズタズタになったくらいでこうなるか? ヤバいくらいに洗脳されてるというかなんていうか......何が起きた?


 勇者(笑)以外の残りの聖闘士共も目をギラつかせながらこちらを見ている。


「何だこれ......未だにこちらに姿を見せない皇帝一家が関係してんのかなぁ......」


 いくらクソカス共だとしても可笑しいレベルの変貌っぷりに不安を覚え、逃がしたメイドたちの安全を確認する為に【千里眼】で覗いてみる。


「ゴチャゴチャ言ってねぇで俺と戦え!! 勇者と勇者パーティに恥をかかせたお前を、俺は許さない!!」


「私達にこんな事するのも......女の子達に酷い事をするのも......許されない行いだよ」


「同じ日本人だと思って見逃してきたけど、もうお前は許されない所まで来てしまった。俺達がこれからお前を断罪してやる」


「逃げられるなんて思わない事だね。全員手筈通りにいくよ......」


 ......ちょっとなに言ってるかわからない。


 逃がしたメイドさんたちは無事なようで、帝都内にある宿屋らしき所に一塊になって避難しているのが見えた。


「......こいつらはもう手遅れデース。じゃあ俺らも予定通りにいくよー。皆が頑張ってきた特訓の成果を見せてね♡」


 帝国VSエンジェルズの戦いの幕が上がる――




 我らシアン一家の長女によるあんこお嬢様が開会の挨拶を担当。


 対人の技をお披露目してくれるようで、俺は今とてもワクワクしている。


 敵である帝国貴族、兵士、勇者御一行ですら可愛さに目を奪われている。

 俺? 俺の目はもういつも通りインパクトドライバーで打ち付けられた釘のようになっていますよ。HAHAHA。


(か、可愛いあんよでヨチヨチと......しかし、それでいて堂々たる足取りでモブ兵士に向かって歩いていく姿が尊しゅぎて、目から何やら液体が......)


 シアンは娘の晴れ舞台を見て感動で前が見えなくなりそうな雑魚すぎる目を叱咤し、娘の成長を見届けられるこの夢のような時間を目に焼き付ける勢いで鑑賞しだした。


 最初はゆっくりだった足取り、しかしいつの間にか敵との距離がほぼ無くなっていた。


 恐ろしく早い歩法、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。


 恐らく相手の脳は、既に目の前に来ているあんこを認識出来ていないだろう。


 あんこお嬢様の動きはまだ止まっていない。まるで生き物が呼吸するように、流れる水のように、それが当然であるような自然な流れ、動きのまま......犬型の生き物にあるまじき不自然な二足歩行スタイルに移行し......


『あたァ!!』


 可愛い掛け声と共にそのまま拳を......いや、前足を前に突き出した。


 肉球パンチはぷにっぷにでふんわりしていて気持ちいいんだよなぁと、あの素晴らしい感触に思いを馳せていたが、目の前で起きた惨劇に目を見開いて驚く事になった。


 バーソロミューなクマさんの攻撃後のような肉球マークが身体に刻まれ、兵士は腰砕けしたように床へとトロリと倒れ込んだ。


「俺が教えた暗殺拳とは全然違うけど、すっごい可愛くてえげつない威力だね!! よーしよしよし凄いよー」


 可愛さと凶悪さが比例していない。あまりにもアレな光景に、帝国の人達は唖然としていた。俺はそれには目もくれず、誇らしげにドヤるお嬢様を撫で、褒め殺した。


『じゃあ次、行ってくるね』


 長女のお披露目が済むと、次は自分の番だ! とばかりに意気揚々と歩みを進めていくホワイトスネイク。


「ピノちゃん素敵っ! がんばえー!」


 俺の応援をスルーしたピノちゃんはいつも通り、緊張も気負いもない自然体。兵士が三人程固まっている所に向けて尻尾を一閃。


「ゴヒュ......」


 気持ち悪い声が聞こえ、間髪入れずに汚らしい水音を含んだ重量物が地に落ちる音と、固いものが床に落ちる音が立て続けに聞こえてきた。

 先程まで兵士が立っていた場所には、ピノちゃんの攻撃により上下に分断された死体が一つ、首の無くなった死体が一つ、胸に大穴の空いた死体が一つ転がっていた。


「ふぉぉぉ!! さすがピノちゃん!! 飛ばしたのは鱗だよね? 綺麗だったけどあんなヤツに使うのは勿体ないよぉ」


 微かに光る麗しい白鱗を飛ばし、見事に的に当てた素晴らしいコントロールと美しさ。その攻撃を視認できる人からしたら金を取れるレベル。やっぱウチの子って天使だわ。


『じゃあ次は......』

『ワタシたちだね!』


 満を持した感を漂わせながら前に出るダイフク&ツキミちゃんの鳥さんコンビ。


 団体戦をこの後に控えてはいるが、今殺る事は終わったと満足気なあんことピノちゃんは、それぞれの定位置に収まり弟と妹の晴れ舞台を観戦するモードに入っている。もう幸せすぎてやばい。


『しっかり見ててねー!』


 ツンとお澄まし顔のダイフクと、俺らに向けて羽根をフリフリするツキミちゃん。


「がんばえー!!」


 フリフリと手を振り返すと嬉しそうにするツキミちゃん。おら、ダイフクも俺に愛想を振り撒けや。


『行くよー!!』


 ウチの子たちはやっぱり俺を魅了する事に命を懸けているレベル。五臓六腑に染み入る可愛さだね。


 可愛さとは裏腹に鳥ちゃんズの攻撃はとてもシンプルだった。


『そーれ!』


 ノリノリなツキミちゃんは超スピードで兵士に突進していった。そう、それはただのゴッドバ〇ド。


 上半身が爆発四散した死体が四つ、超高速のスピードで発生した衝撃波に巻き込まれて関節が増えまくった人体が多数。


「ヒュゥゥゥウ! 超絶カッコイイよ!! 黒と白の弾丸だね!!」


 人体を爆散させたのに身体に肉片や血が全く付着していないキレイなままの状態で戻ってきた鳥ちゃんズ。俺の両肩に止まってドヤっている。可愛い。


「なるほど......全員が攻撃し終わったら俺の身体は全身フル装備に変わっているというサプライズイベントなんだね!」


『『エヘヘ......』』


 企画発案者と思われる子が照れながらスリスリしてきてくれた。可愛い。


『行ってきます』

『みてて』


 イチャイチャしている俺らの前に出てきたヘカトンくん&ワラビ。


 なんで帝国軍は誰も挑んでこないんだろうか。変身ヒーローの変身を待つ悪役じゃないんだからさ......まぁ余計な気を使わなくていいんだけどね。まさかブルッてるんじゃないよね? まさかね......


「がんばえー!!」


 100ある腕で一斉にサムズアップするヘカトンくんに少しビビってしまった。ごめんね......ごめんね......


 いつにも増して気合い十分なお二方。何をするんだろう......と息を呑む。なんか妙な緊迫感があるな。


 ヘカトンくんとワラビが発するナニかで俺らがいる施設がミシミシと嫌な音を立てている。崩落させるのはダメだよ。獲物が減っちゃうからね。


 まるで怒ると金色になる大猿のように体毛を金に変化させスパークを身に纏ったワラビと、いつもの姿の五倍くらいの大きさになったヘカトンくんが今動き出す......

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