第263話 準備中

「......コレは魔王なのかな?」


 魔法陣の発光が収まり、見えてきたのは三メートル程の大きさの鳥人間。とてもじゃないけど魔王とは言い難いヘンテコ生物。


 上半身がハシビロコウ、手と下半身が人間で、見れば見るほどとてもチグハグな生き物だった。


「............おーい、話できる?」


「カカカカカカカカッ」


 コイツ、会話は出来なさそう。クチバシを鳴らしている。怖い。

 本物のハシビロコウも確かこんな事するらしいけど、どうなんだろうか。この行動の意味はなんだろ? 威嚇......とかなのかな?


「おーい、会話は無理だとしても意思疎通くらいは出来ないかなー? 聞こえてるならその変な行動はやめてー」


「カカカカカカカカッ」


 ダメだコイツ。早く何とかしないと......


 ▼妖怪 嘴広鸛

 永い時を生きたハシビロコウの成れの果て

 立つのが楽、食べ物を食べる時に楽という理由で手足が人間のように変化した▼


「............これ、魔王じゃないね。ただの歳をとって妖怪化したハシビロコウだ。すんなりと魔王が出てきてくれたらよかったんだけど、さすがにそこまで上手くいかないか。チッ、面倒くせぇ......あ、アンタはもう帰っていいよ。ごめんね」


 送還した。コイツとはもう二度と会わない事を祈る。なんか気持ち悪い。



 ふぅ、やる事が無くなった。......頑張って時間を潰さなきゃなぁ。



 あ、そうだ。ミステリアス商会に行って失職して路頭に迷いそうな人を保護してくれないか聞いておこう。あの子が加われば、少しは商会のメンツがマトモな思考になってくれたり......


「んな事ァ無さそうだな......はぁ......」


 特権階級に慣れていれば、あんな態度をとられても難なく受け入れられるんだろうけど、俺は普通のその他大勢に分類されるモブ一般人で、使われる方の立場だったからあんな風に遜られると落ち着かないんだよな。


 まぁいいや。行こう。

 生産者として、経営者としてはかなり優秀だから、そこらへんの奇行は我慢しなきゃ。天才と変態は紙一重だからね。ははは




「..................見られてるなぁ。ふぇぇぇ、視線の圧が凄いよぉ」


 部屋に飛んだ途端、ガッツリ飛んでくる某忍者のネットリとした視線。この子は俺が拉致された瞬間も見てたから、その後は俺が帰ってくると信じてここで張ってたんだろう。


 忍者ちゃんに手を振ってから、責任者であるリーリャちゃんの元へ向かう。

 忍者ちゃんから俺が拉致された事を聞いていたのか、会った瞬間に泣かれた。何も悪い事をしてないけど謝罪して、それから詳しい事を説明。


「帝国はもう終わるのでしょうが、帝都も滅ぼしてしまうのでしょうか?」


 赤くなった目でそんな事を聞いてくる。


「ウチのエンジェルズの怒りの程度によるとしか言えないかなぁ。今回の件についてめっちゃ怒ってたし張り切ってるし......ガチのマジだったら王国まで余波がきそうだね」


「ありがとうございます。では帝都での出店計画は一旦白紙に戻します。まだ計画の段階でしたが、王国以外の大国から出店の要請がありましたので......」


 天使たちの可愛さは国境を超えた。


「......なるほど、従業員の人数って足りてる?」


「足りていないですね。二店舗だけならまだ大丈夫なのですが、四店舗になると......」


 イケるかもしれない。聞くべき時は今だな、聞いてみよう。


「そんな貴女にいい話があるんだけど、聞くだけ聞いてみない?」


「お願い致します」


「腐りに腐ったクソ帝城の中で見つけた腐ってない若い執事やメイドが近々大量に失業する予定なんだけど、そんな人たちを新店舗の従業員として雇用してみませんか?」


「貴方様が目を掛けた人材でしたら何も問題は無いですね」


「いや、ちゃんと面接とかはしてね。全員と話したワケじゃないからさ。雇ってもいいかなって思える人だけで......実際俺が目を掛けたのは一人だけだから」


「ありがとうございます。では話はこのまま進めさせて頂きます」


「野郎は入れても平気なの?」


「本店である此処に入れる男性は貴方様以外には絶対に有り得ませんが、支店になら問題ありません」


「なるほど......じゃあ明日話をしておくね。帝都については壊さないようにやるから安心してね」


「畏まりました。よろしくお願いします」


「こちらこそ、ありがとうね。よろしく」


 なんか色々と俺の知らない所で動きがあるんだねぇ。天使たちが世界中を魅了していく為の手助けを今後もお願いね。



 さて、雇用問題は解決した。残りは帝国の壊し方だけだ。タイムリミットまでは大人しくしておこう。帝国から逃げ出すか、魔王の魔の手に抗うか......見物ですねぇ。

 貴族なんて権力の及ぶ地域から一歩外に出れば、ただの世間知らずの偉そうな人だからね。意地でも甘い汁が出る樹木を守ろうと奮起してくださいな。


「ククククク......フハハハハ......」


 わざとらしい高笑いをしながら商会を後にした。こんな事していても熱っぽい視線を送ってくる店員たちはヤバいと思う。早く正気に戻って!!




 ◇◇◇




 そんなこんなで時間は過ぎていき、帝国滅亡まであと一日となった......


 商会とデボラちゃんの顔繋ぎは既に終わっており、同僚のほとんどを受け入れる事で話は付いた。

 面接で落とされたのは男女五人で他の人たちは無事に商会に雇われる事が決まった。

 落とされた五人は面接に同席していた冒険者組と、監視していた忍者が揃ってNGを出したから不採用に決まったらしい。どんな理由かわからないけど、まぁ何かが起きてからでは遅いから、変なのを早めに弾けてよかったと思おう。


 一度あげたチャンスを逃したコイツらについてはもう、俺がお世話する義理はない。転職活動を頑張ってください。



 帝城で囚われている勇者様御一行と、クソカス裁判を仕掛けてきた貴族共は、縛られている情けない状態のまま、現状を打破しようと色々考えているらしい。

 コイツらがめっちゃ睨んでくる姿は滑稽だった。まだ心が折れてないらしいので、明日は頑張ってピエロってほしい。


 飯を運ぶメイドが色々と話を持ち掛けられたらしく、嫌そうな顔をしながらどんな事を言われたかとかを話してきた。ヤツらの協力者がなんとか縄を解こうとするも全て不発でかなり余裕がないらしい。


 俺が家へと戻ってから縄を解いてあげた。明日までに体調を戻しておくんだよ。


 囚われていない貴族共は甘い汁が湧き出る泉こと帝城を守ろうと躍起になっており、帝国から逃げ出した者はごく少数。


 帝王御一家は未だに姿を現さないが影でブチ切れているのは知っている。クソ貴族共が行動を起こす日に合わせて何かをしようとしているが、ゴミはどうせ全て消滅させる気満々なので企みは暴いていない。



 まぁ、こんなどうでもいい事は知らなくてもいいよね。どうせ帝国は滅ぶし、商会は放っておけば勝手に繁栄していくんだから。


 さぁお待たせ致しました。ここからはマイエンジェルズのお話であります。

 ......と言っても、相変わらず修行パートは閲覧禁止で、マイエンジェルたちは何をしてるのかわからない。ただ俺の天使成分が圧倒的に足らなくて辛いから愚痴りたかっただけだ。


 あのね、聞いてくださいよ......あの子たちはいつの間にか【千里眼】を使った事に気付くようになってしまって、こっそり覗いていると行動を止めてジト目をするようになったんですよ!! それで、覗きをした日の夜はとても素っ気なくなるのさ......


 そう、とても素っ気なくなるの。


 俺にゲロ甘な甘えんぼたちまでも素っ気なくなったので、期間中は絶対に覗かないと誓ったのは言うまでもない。プイッてされた日の夜は、枕をびちゃびちゃにしてしまった。


 おのれモチモチ......余計な事を天使たちに教えたせいで、天使たちを見守り隊の隊長である俺の仕事が無くなってしまったじゃないか。これは訴訟モンやでぇ......


 天使成分が足りなくて辛い。帝国のクソ共は絶対に赦さない。絶対にだ。


「......明日、帝国で天使たちお披露目会と発表会をやるけど、皆の準備は万端かい?」


 おー!! と元気のいいお返事。可愛い。寂しい。構って。


「準備万端なら構って。ここ数日寂しかったから構って。その原因を作ったのは俺だろうけど構って。君たちとの触れ合いが足りなくて辛いから構って」


 昨日まではこう言ってもダメだったけど、今日は大丈夫らしい。本番に向けての準備はもう完璧に終わらせてあるとの事。


 しょうがないなぁ......って言いながら俺を迎えてくれた天使たちラブ。幸せが溢れてきて脳内がヤバい事になっている。


 まるで危ないお薬の玉手箱やー(錯乱)

 今なら何でもできる気がする......神ですらワンパンよ、ワンパン。アハハハハハ。


 ウフフフフ、みんなー!! 明日は家族皆で一つの国を終わらせようねー!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る