第260話 マネレ事件

「......もうアッチ行きたくない。こんな事を知ってしまったらもう......無理だよ、俺は行けない......二度とこの温もりから離れたくないんだ」


『ダメ!!』

『行きなさい!!』

『みてくれるんでしょ!!』

『れんしゅーするの!!』


 もう行きたくないとグズる俺を追い出そうとする甘えんぼさんたち+無言でプレッシャーを掛けてくる辛辣な子たち。


『行ってらっしゃい。頑張ってきてね』


 トドメの一撃とばかりに見送りの言葉を送るヘカトンくん。


「味方はッッ味方はいないのかッッ!? 何で皆は俺を追い出そうとするのよっ!! パパは悲しいよっ......」


 ここまで恥も外聞もなく叫んでみてもあの子たちの心には響かず。これ見よがしに溜め息を吐く天使たち。俺の居場所は此処じゃないのね......悲しいよ、パパとっても悲しい!!


 仕方がないので潔く諦めて準備を始め、その最中に保険として欲しい物が一つだけあったのを思い出したので、出かける前にしるこに頼み込み目的のブツを貰う。

 準備が完了したのを見届けられた俺は異常に張り切る皆に強引に見送られ、帝国へと旅立った。悲しいなぁ......




 ◇◇◇




「......ここまでヤるかぁ、ここまですんのってもしかして普通なのか。確かにこんな事があるかもと思って保険掛けてたけど、予想以上でドン引き......第二の保険、持ってきてよかったなぁ。ウフフフフフ」


 全裸に剥かれ、ヌルヌルベチョベチョになっている自分そっくりなマネキンを見下ろしながら笑う。笑うしかないよねコレ。


「アサシン大集合が八割、ハニトラ大集合が二割くらいの予想だったんだけど......これは酷い。酷すぎて笑えてくる......所々赤い染みもあるけど、まさかコレをホントに挿入しちゃったのか......」


 シアンマネキンに装備させておいたネタ感満載な極太ディルドさんがカピカピになっている。赤い染みもある事から初めての娘も参加してコレをぶち込んだんだろう。


 ............プロが来ると思ってたんだよ。ごめんな、マジで。


 謝る必要ないわ。加害者の気持ちになってたわあっぶねぇ。


「刃物の生け花になっているのを見た方がまだ精神衛生上よかったかもしれない。いやーこれは酷い......」


 複数とヤった形跡から見て、いつの間にか睡眠薬とか媚薬を盛られていたんだろう。やっぱ人間ってクソだわ......


「............異世界召喚に巻き込まれた俺は、召喚初日に逆レされるってタイトルかな? さて、どんな衝撃映像が写ってるんだろ......」




 ..................


 ............


 ......



「もうやめてっ!! シアンのライフはゼロよっ!!」


 ずっと俺以外のターン。悲鳴と嗚咽とガチ泣きの声が鳴り響く悪夢のサバト。

 HENTAIの国である日本よりも圧倒的に性知識と道具が乏しい異世界。それなのにHENTAIの国出身者がドン引きする事件を起こした帝国は救えない。


 はぁ......後片付けしよう......


 ん?


 ............あ、よく見たらディルドに歯型付いとるやんけ。イヤぁぁぁぁぁあ!!


 貴族って確か房中術とか伽の作法とかを教えるとかあるんだよね? こんな恐ろしい事を教えたヤツは何処の誰だ。死ね!!


 朝っぱらからテンションダダ下がり......そして、この後に起きる面倒事も予想できる。俺、何してんだろ......




 コンコンコン......


 部屋の隅に体育座りをしながらタバコを吸っていると、扉をノックする音が聞こえてきたので返事をする。つらたん。


「コユーザ様失礼しますっ! あの、何があったんですか!? 城内がかなり殺気立ってますよ!!」


 あーデボラちゃんだ。おはよー。

 癒されるわー。この俺が人型の生き物を見て癒されるって感想を言う日が来るとは思わなかったよー。


「ははははは、おはよう。爽やかな朝に殺気立つとは愚かな者共ですねぇ。一体ナニがあったんでしょう......ふふふふふふ」


「......あの、大丈夫なんですか? とてもお疲れのように思えるのですが......」


「ナニが起きたか知ってる? ついさっき俺はここでナニがあったのかを確認した。知りたい? ねぇ、知りたい?」


「え、あの......その......」


「ん? ナニがあったのか、フワッとした理由くらいは知ってるみたいだね。でもね、事の発端になったヤツらの発する都合よく捻じ曲げられた言葉だけ聞いても、真実には辿り着けないよ。じっちゃんの名にかけて真実はいつも一つ!! という訳で、ちょっと君は真実を知っておこうか」


「え......あ、ちょっ......待っ......」



 ~映像を確認しております。しばらくお待ちください~



 ............重い。空気が重い。

 サバトを見ていたからじゃない。明らかに場違いな俺の異物感をスルー出来なくなったからだ。


「コユーザ様、貴方は本当に勇者様方と同郷なのですか? 明らかにスペックが違いすぎますよ」


「同郷だよ。それは間違いない。でもね、俺はアイツらよりも一年ちょっと早く来ていただけだよ。王国で流行りのぬいぐるみを買った後に散歩してたらいつの間にか帝国に......あ、コユーザってのは偽名だから」


「そうだったんですね......」


「そうなのよ。だから権力者のアホな思考はわかるし、ガッツリ保険を掛けて寝てたら案の定だよ......まぁ、十中八九暗殺するもんだと思ってたけど、そうじゃなかったってのが驚きだったよ。ははははは」


「笑えないですよ!!」


「デボラちゃんはよかったね、このサバトに参加しろって言われなくて」


「もうっ!!」


「とまぁこんな事があったから、さっきまでソレのお片付けをして疲れきってたってワケですよ。ホントふざけんなよな......イカれた参加メンバーにはメイドも居たんだし片付けくらいしていけよ」


「......あはは」



 そんな他愛もない話をしていると、隔離部屋へとやってくる複数の気配......そして


 ガンガンガンガンッ!!


「卑劣な偽勇者出てこいっ!!」


 乱暴に扉を叩く音と、謂れの無い誹謗中傷が俺に向けて飛んできた。そのクソみたいな言われ様に、菩薩の生まれ変わりとも評される温厚さを持つ俺でもイラッとしたので、全く使う予定の無かったとある機械の電源を入れた。


「はいはーい、なんでございましょう。野蛮な兵士さん」


「来い!! 抵抗するなよ犯罪者」


「......ン? そんな扱いしてるけどさ、もし俺が犯罪者じゃなかった場合はどう落とし前つけんの?」


「万に一つも有り得ないね。こっちには卑劣な貴様に傷付けられた被害者がたくさんいるんだからな!!」


「......ま、まさか!? お前ら......俺の事を嵌めやがったのか!! 異世界から強制的に拉致して、その先にあるはずだった輝かしい人生を終了させるだけでは飽き足らず、右も左もわからない異世界で二日目には犯罪者扱いするとは......畜生にも劣るクズだな、帝国に住む人というのは!!」


「き、貴様ァァァ!!」


「ん? 殴る? それとも斬る?」


「やめろ! 今はこの罪人を連れていくのが重要だぞ!」


「チッ......クソ野郎が」


「ん? ちょっと待て。なんでこの子も連れてかれてんの?」


「貴様と一緒に犯罪を企んだ疑いがあるからな。大人しく着いてこい!!」


 ......一度電源をオフる。ふぅ、名演技だったぜ。



「......あの、失礼とは思いますが物凄く棒読みでしたよ。笑わないようにするのが大変でした」


「嘘でしょ......今回は自信あったのに」


 大根卒業ならず。




 ◇◇◇




「あ、やっと来たな卑怯者!!」

「最低っ、これだから男なんて......」

「汚らわしいです」


 勇者様御一行の野郎の影に隠れながら、俺にキツイ視線とキツイ言葉を投げつける女。


「あんな奴生かしておけない!」

「君達は絶対に俺らが守るからね」

「人を殺してもレベルって上がるのかな?」


 女の子にいい所を見せようとニヤニヤしながらクソみたいな事を言う勇者と愉快な仲間たち。女共よく見ろ、お前今壁にしている奴は股間が本体のヤツとサイコ野郎だぞ。


「クズめ」「クズだな」「あんな奴早く処刑しろ」「顔に似合わず凄いモノをお持ちなんですよね......」「嫌っ!! 助けて!!」


 ギャラリーが煩い。


 あっれれ〜? おかしいぞ〜?? 俺はただベッドの下で寝ていただけなのにな〜?


 このクソカス帝国のヤツらがマネキンをレイプしただけで俺が怒られる。どいひー。


「まだ己の置かれた立場がわかっていないのか!!」「見て......笑ってるわよ」「気持ち悪い......なんで笑えるのよ!?」「即刻処刑すべき!!」


 はぁー......冤罪吹っかけて何人殺してきたんだろうねコイツら。



「グダグダうっせぇなァ......メイドちゃん、ちょっとなんか面白い事やってよ」


「こんな状況で何言ってるんですか!?」


「飽きたんだもん。同じ事しか言わってこないし、何アイツら......頭ん中にエビ味噌でも詰まってんの?」


「......何かとても冷静になれました。ありがとうございます」


「......あの、何か俺がスベッたみたいな空気にすんのやめてくんない? 別に今面白い事言おうとか思ってないから」


「あ、始まるみたいですよ」


「えぇぇー......」



 召喚された時に見た、偉そうなのとコスプレイヤーが裁判長席っぽい所に座ると場が静まり返った。


 引っ張り出されたら終わりのクソみたいな裁判の幕が上がる――

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