第259話 パーティーでの攻防
パーティーの会場に到着。煌びやかなホール内には着飾った畜生共がたくさん詰まっていた。ハハハ、今ここで明王さんと龍さんを解き放ったら楽しそう。
「......あの、本当にすみませんでした。私共は貴方様を蔑ろにしたつもりはございません......それだけは理解して頂けたらと......なんでこんな事を......」
俺を案内したメイドさんが物凄く申し訳なさそうに俺を見てくる。大丈夫だよ、君は知らされてなかったんだよね、それくらいは分かるから大丈夫。
俺の目に映る、豪華な衣装に身を包んでイケメンと美少女に囲まれている高校生らしき畜生共を見た俺の表情筋が死んだのを見て、慌てて弁解してるんだろう。
「おいおいアレ......」
遅れてやってきた俺を見て鼻で笑う糞共と元同郷の糞共。おっけー、お前らのスタンスは理解した。このクソみたいな国と一緒に滅びてどうぞ。
「ねぇ、これはアンタらの国の上層部の総意と捉えてもいいのかな? 末端や使い捨ててもいいようなヤツらには伝えていなかったんだよね」
「......あ、あの......」
若めのメイドや執事は唖然としながらこちらを見てきていて、中堅以上に見えるヤツらは俺とメイドちゃんの両方へ嘲りを含んだ視線を送っている。
貴族のガキ共は場違いなヤツが来たとヒソヒソと話をし、大人......いや、屠殺場に出荷を目前に控えた畜生共は聞こえるように嫌味を投げかけてくる。
高校生、アイツらは俺を指さして今も笑っているよ。こんな短時間で勘違い......ハハッ、救いようがないなぁ。
「ねぇ、君は真面目に働いているみたいだから忠告しておくね。信頼出来る人を連れて一週間以内に帝国から脱出しな。一週間を過ぎても残っているようなら命の保証はしないから......ね。君が信頼できないヤツや面倒に思っているヤツには話しちゃダメだよ」
「あっ......はい」
「じゃあ一旦外に出ようか。どこかにお色直し出来るとこある? 俺も正装に着替えるから手伝って」
「......はい! 畏まりました!!」
入ったばかりのパーティー会場から回れ右して退場し、着替え用の部屋に入り着流しをパージ。
臆面もなく脱ぎ出した俺に呆気にとられるも、そこは一応本職のメイドか。脱いだ着流しの扱いはわからないだろうに綺麗に畳んでいく。
順番を間違えた感が否めないが、俺の正装である真っ黒スーツとアラクネシャツを取り出して着ていく。こういった服の扱いはリーマン程度の知識しかない俺。
細かい調整はメイドさんにお任せし、この服装に合いそうなネクタイや小物を片っ端から収納から取り出して並べていく。俺の完成品のクオリティは君のセンスに掛かっているから頼んだよ。
メイドさんは結構有能だった。五分足らずでシアンは、一人だけ騙されて場違いな格好でパーティーに参加させられた一般人から、嘘と粉飾で塗り固めたエセ特権階級の人にランクアップした。
「どうでしょか! これならあの場にいる見栄っ張り共よりもよっぽど貴族に見えます。素敵ですよ!」
聞かれたら確実に一発で不敬罪で処されそうな言葉を放ち、満足気に頷くメイドさん。
いや、これからは名前で呼んであげよう。
▼デボラ
人族ㅤ17歳
職業:下っ端メイド▼
デボラちゃんね、おーけー覚えた。職業欄が下っ端メイド......可哀想、マトモな人材はなかなか評価されない世知辛さ。
「ん、ありがとう。そんじゃ、行こうか」
「はい!!」
この子は優秀そうだから、再就職先としてあの商会を紹介してあげよう。
ざわ・・・ざわ・・・
ざわ・・・ざわ・・・
ざわ・・・ざわ・・・
パーティー会場に戻ったと思ったら、部屋を間違えたらしく賭博場に入ってしまった。
つい、そう思ってしまう程、現場はザワついていた。心做しか皆さん顎と鼻がシャープになっているように思える。
いやー、馬子にも衣装とはよく言ったものだ。さっきまで俺を笑っていたヤツらがみっともなく目をひん剥いておられる。
あータバコおいちい。
「さ、飯でも食おうか。帝国のオススメ料理教えて」
「畏まりました」
先程までよりも気持ち風格が出てきたデボラちゃんと料理を取りに行く。ザワつきが心地良い。
退け、愚民共。
ねぇ、今どんな気持ち? 短時間でマウントが取れなくなった事についてどう思いますか?
「あ、このよくわからんエビっぽいヤツ美味しいかも......」
「それは皇帝エビと名付けられた帝国特産のエビを使った料理です」
「へー、じゃあこの魚料理は?」
「そちらは............」
メイドちゃんと一緒に、仲睦まじい雰囲気を出しつつ料理を食べ続ける。周囲の有象無象は完全無視。
真の勇者様(笑)御一行を取り囲んでいたヤツらも、俺を見て蔑んでいた使用人一同もこちらをチラチラ見ている。
メイドちゃんなんて視線で人が殺せそうな程の目で見られていて可哀想。本人はそんなの関係ねぇって態度を崩してないけど。
......うん、辛うじて人だったとわかるような死体を見てテンパらなければ、この子はとても優秀だったんだね。ごめんよ。
「あ、あの......お話をして頂けませんか?」
「あっ、ズルい! あの、私とも!」
「先程は失礼しました、あちらでお話しませんか?」
「その素敵なお召し物は......」
「あ、そういうのは間に合ってますんでお引き取りください」
熱い手のひら返しを見た。笑うのを堪えた俺を褒めてほしい。
悔しそうに歯噛みする上位貴族とその息のかかった使用人、見る目の無いモブ共、勘違いした勇者様(笑)御一行を鼻で笑いつつ、そこそこ美味しいご飯をデボラちゃんと一緒に楽しみ、パーティーはお開きの時間を迎えた。
結局皇帝一家はパーティーには現れず仕舞いだったのも笑う。お前らなんなの?
「お疲れ様、今日はありがとうね。これ、御守りとして持ってて。魔力を流してから投げつけると結構な爆発を起こすから」
「あの、本当にありがとうございます。いつも嫌がらせしてくる先輩達が悔しそうにしてるのを見れて嬉しかったです」
思っていたよりも剛の者なデボラちゃんを見送り、宛てがわれた隔離部屋へと入り帰宅の準備を始める。
幻影で誤魔化した定点カメラをセットし、ベッドの上には俺と似たサイズのマネキンをこれまた幻影で俺そっくりに偽装+ちょっとしたトラップを設置。
俺はベッドの下に潜って帰還石で拠点にゴーホーム。ではまた明日お会いしましょう。
帝国への拉致初日はこれにて終了。早く天使たちに、俺のズタボロになったハートを癒してほしい!!
◇◇◇
「ただいまー」
『『『おかえりぃぃぃ!!』』』
帰宅した俺は、腹、胸、顔面と間髪入れずに三つの幸せな衝撃を受ける。
ツキミちゃん、ウイちゃん、あんこだ。
しるこはパパの帰りを健気に待っていたけど、襲ってくる眠気に負けたらしくワラビを枕にして寝ていた。荒れに荒れた荒野が一瞬で大草原になる勢いでマイハートが癒された。ウチの子たちが可愛いすぎる。
「よしよしよーし。いい子にしてたかな? あはぁぁぁん! ピノちゃんまで甘えてきてくれてりゅぅぅぅ!!」
顔面をあんこに覆われ、胸にツキミちゃんが張り付き、腹をグリグリしてくるウイちゃんだけでも昇天モノなのに、左肩にピノちゃんがライドし、右肩にモチモチまで乗ってきてくれた。
ヘカトンくんはそんな俺らを見守りながら布団や座布団を用意してくれた。この子はいいお嫁さんになれるでー。
普段は素っ気ない子も、急にどっかに飛んだ俺を心配してくれていたみたいで、いつもより多めに甘えてきてくれています。
嗚呼、ここがヴァルハラだったんだね......
お風呂で丁寧に全員をマッサージし、新技開発の進捗や、今日あった出来事の報告を聴きながらの晩酌。
あー......もぅ行きたくなくなっちゃった。でも、この子たちが新技開発に燃えちゃっているから、今更行くのやーめたを出来る状況ではない。
俺のバカバカバカっ! 一時の好奇心に流されるなんて愚かにも程があるやろ......
悲しいなぁ......何故俺はお家にいるのにホームシックみたいな症状になっているのだろうか。
『......どうしたの?』
人の心の機微に人よりも敏感と言われてるんだよね。わんこって。
お家に居ながらホームシックに罹った俺の顔を心配そうに覗き込むあんこお嬢様。ずっと前から好きでした......俺と生涯を共にしてください。
「あんこや皆が居てくれるのが幸せだなって思ったら、明日お出掛けしたくなくなっただけだから」
『行かなくていいんだよ?』
「でもね、皆の発表会の日の方が楽しみだから、頑張んなきゃなって思ってるの......」
『そっか......じゃあ寂しいけど私も頑張るね......でも夜はいっぱい甘えるから!!』
「......うん、頑張ろうね。さぁそろそろ寝ようか。甘えんぼあんこちゃん、俺と一緒に寝よっか」
『うん!!』
布団に寝転んで両手を広げると、音速で飛び込んでくるあんこちゃん。
「ぬわーーっっ!!」
超大型犬サイズに変化しながら飛び込まれて潰される俺、幸せな重みを感じながら全身であんこを堪能する。
長女に続けと言わんばかりに続々と増えていく生命の重み。今日はとことんプレスされる日だな......だが、それがいい。
異世界で巻き込まれ異世界召喚と言うよくわからん事が起きた一日目が終わった。
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日本シリーズが始まりましたね。CSファースト、ファイナルと最低日数で終わったので、日シリは是非とも最終戦まで縺れてほしいです。一戦目はめちゃくちゃ面白かったので!
自分の希望としては内弁慶シリーズになって欲しいですね。アレ、他のファンでもめちゃくちゃ盛り上がるんで......
今年のプロ野球も残り三戦~六戦。それが終われば長いオフ......悲しすぎて吐きそう。
そして気付けば今年も後約四十日......一年って早いなぁ。年末に向けて忙しくなっていくと思いますが、そんな日々の中でこの作品が少しでも皆様の楽しみになっていれば嬉しいです。
今後も頑張っていきますので、応援よろしくお願いします。
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