第255話 寒いの贅沢
「......そうか......本当にやるのだな。アレは諸刃の剣、失敗に終わったのならば目も当てられぬ結果になるぞ」
「......よい、儂は失敗した。その責任を負わねばならぬのだ。わかるだろう?」
「だが余りにもリスクが大きすぎる。手に負えぬヤツが来たらどうする? 伝承では五百年かそこらは生きるとも言われておる。当たればデカいが外れたら国が終わるぞ」
「それでも各国の戦力を削ってしまった責任がある。誰かがやらねばなるまい......いい加減、あの件について未だにグダグダと行ってくる貴族の突き上げも煩わしい」
「アイツらはなぁ......まぁ何処もそうだろうよ。いざと言う時には役に立たないクセに、どうでもいい足の引っ張り合いには活き活きとしおってからに......」
「そう言えば王国では害にしかならぬような侯爵が二人消されたとか聞くが......ウチでもやってくれぬかね......ははははは」
「......何処もそう思っているだろうな」
「ゴホンっ......話がズレたな。では、今は儂らで小競り合いをしている場合ではないのはない。なので四カ国で一代限り、もしくは原因の根絶が確認されるまでの停戦協定を結ぶ。これに異論のある者はおるか?」
「......ないようだな。では約定は結ばれた。破りし者、一方的に破棄せし者は三カ国から同時に責められる事を覚悟せよ」
国内でもトップクラスの戦力を保持していた冒険者や兵を多数失い、国の戦力が低下する中で結ばれた四カ国による不戦の約定。
大多数から一目置かれる戦力になるような者はそうそう生えてこない。国家が揺らぐような危機はすぐ側にあるが、今は失った力を取り戻す事が重要と判断し、普段は水面下で小競り合いをするようなヤツらが同盟を締結した。
なにやらきな臭い事を考えている国もあるようだが、果たしてこの試みは上手く行くのだろうか......
◇◇◇
「......ピノえも~~ん。この雪塗れの毎日をどうにかしてよ~~!!
てか、なんでこの農園には雪がほとんど積もってないの? なんか特殊な事でもしてんのかな? こんな事が出来るなら俺のお家の周りとかにもやってくんないかな?」
『......え、なに急に変な事言ってんの? 気持ち悪い呼び方はやめて』
「失礼な。これは我が故郷に伝わる何でもやれる青タヌキにお願いする時の様式美みたいなものだよ。気持ち悪いとか言わないで」
『えー......そんな青タヌキが普通に存在しているなんて怖い......』
「怖くないよ。ネズミさえ見せなければ老人から子どもまで誰しもに愛される存在なんだからね」
『......ネズミに勝てないタヌキってなんなんだよ。まさかアンタの故郷のネズミってこっちの理解が追いつかないような化け物だったりする?』
「普通のネズミ。でもソイツはなんかがあってネズミが嫌いになって、ネズミを見たらパニックになって星が破壊できる威力の爆弾を使おうとするくらいイカれたヤツ」
『何それ怖い......もし此処にソイツが居たとして、アンタはソイツに勝てるの?』
「......わからん」
『......えぇぇぇ......ねぇ、他にもそういったクレイジーなヤツはいるの?』
「......んー、居るね。お腹が空いている相手に自分の顔を引きちぎって差し出す動くアンパンとか、顔の中身に詰まってるカレーを吐き出して敵にぶっ掛けたりするカレーパンとか......」
『ねぇ、怖いんだけど。聞いといてなんだけどもうやめて』
「うん......わかった。それで話を戻すけど、この農園みたいな処置を家や温泉にもやってくんない? 全部解かすと雪大好きなメンツが悲しむから、雪の被害を受けないように程度でいいから」
『りょーかい。でも何ヶ所もやるのは大変だから家の周りだけでいい?』
「それだけでもかなり助かるからお願いね。てかさ、それ昨日教えてくれてればあんこに説教されなくて済んだんだけど......」
『......忘れてた。ごめん』
「まぁいいけどね、凡ミスしちゃうピノちゃんも可愛い!!」
「シャァァァァァァァ!!」
割りとガチ目に威嚇をされた後、ピノちゃんは家の周りに謎パワーによる雪解けシステムを掛けてくれた。あざーっす!
これで、俺の家周辺の安全は確保された。気温は何故か全く変わらなかったけど、めっちゃ積もりに積もった雪が消えただけで大分助かる。視覚的にも気分的にも。
「どうやってんのソレ?」
『わからない』
「そっかー」
謎パワーってしゅごい。そう思いました。
その後、施行代としてまた畑のお世話に駆り出されたが、こんな事で贖えるならとても安い代価だと思えた。
ただ、中腰のままでの作業はとても腰にキた。なんでこういう部位はチートボディになっていないのだろうか。内部もどうにかして超絶チートになってほしい。
無限に近い体を持ちながら、ヘルニアで動けないまま何千年も過ごすとか、二十年後には四十肩になってるとかはやめてほしい。絶対に。
回復薬や回復魔法が効かないマイボディなんだから頼むよマジで。関節痛に悩まされる魔王とかシャレにならんからな。
腰痛魔王とか、要介護魔王とか言われたら世界を滅ぼしかねないからね。はははっ。
............風呂上がりに湿布でも貼っておこうかな。効くかわかんねぇけど。
◇◇◇
翌日、雪が消えたマイハウスの庭は賑やかになっていた。
庭を駆け回るワラビ、パタパタ飛ぶダイフク、縁側で羽根を広げて寝転がるツキミちゃん、昨日までブラック企業並に酷使されていたコタツと囲炉裏周辺は見事にガラガラになっていた。
なるほど、あの子たちは単に雪が苦手なだけで寒さにはそこそこ耐性があるらしい。
お家の中でゴロゴロするだけではなくなったのはいい事だ。その責務は俺が請け負うから君たちは安心して庭を駆け回るがよい。
「俺は俺の責務を全うする!!」
さぁ意思表示は済んだ。入ろうか。
あー......おこたあったかいナリィ......俺、もう冬が終わるまでコタツを装備したまま暮らす。この装備は呪われているからね、一度装備すると外せないから仕方ないよね。春になったら解呪してもらおう。
俺以外にコタツ利用者がいないからね、なんでも出来る。おこたを装備したまま囲炉裏の前に移動してご飯の準備をする。
冬は鍋がおいしいからね。必然的に鍋の比率が増えていく。
食べる人はぬくぬくになれるし野菜も肉も大量にとれてハッピー、作り手は面倒な作業が少なく簡単楽ちんハッピー。
今日は皆大好き、牛のモツ鍋ですよー。
具材は潔く、新鮮なモツとキャベツとニラ、ニンニクと鷹の爪......以上。味付けはオーソドックスな醤油味と塩、〆はうどん。おかずは白米。
完璧だ......完璧すぎる布陣......それだけで食うのもいいが、酒にも米にも麺にも、何にでも合う悪魔の食べ物。
冬以外には焼いて食べたい。だが冬、テメーは鍋だ。
店で食う時はなるべくお高めな所を狙う必要がある。クチコミや評価のチェックも忘れずに。くっさいモツ鍋は凶器だ。
安くても美味い店もあれば、高くてもゴミな店がある。
『今日の夜は美味しいモツ鍋だ!!』と意気込んでお高めな店に行くも、モツの臭みがたっぷり溶け込んでニンニクなどの臭い消しが死んでるスープ、モツの臭みを存分に吸った葉物野菜、ゴムみたいで異臭を放つモツ。だが、スープだけはいい匂いなんて言う拷問を受ける事があるから要注意だ。
クチコミマジだいぢ。当たり外れの大きい食べ物を食う時には外観と雰囲気だけで選ぶのは愚かだ。初めてのモツならばあれだけでモツの評価が決まり、その後二度と食おうとも思わないだろう。
他人からの評価と言うモノは厄介で、良い所が書かれている所よりも、悪い所に目が行きがちだ。ズラッと並ぶ良さげな評価をスルーして悪い評価を見て行くのを断念するなんて事もある。声の大きいクレーマーは本当に厄介だ。
情報に踊らされてしまい、優良店をスルーする愚行をしないよう、しっかりと自分の目で情報を精査してほしい。
おっと、そんな事を考えている暇は無いな。最高の状態で飯を提供しなくては。ガチでモツが合わない子以外に、こんなにも素晴らしい食べ物が不当に評価されるなんてあってはならない。
......味、おーけー。
......火の通り、パーフェクト。
......追加の具材、オールグリーン。
......オマケに焼いた串焼き、エクセレント。
完璧だ。完璧な布陣。
一部の隙もない堅固な要塞。
愛と淫欲が入り乱れる宴の始まりだ!
「ご飯出来たよー! 戻っておいでー!」
寒い日に体を冷たくして帰ってくる我が子を迎えるぬくぬくなお部屋とたっぷり用意したあったかご飯。
「プリティあんよとキュートなボディ、ちゃんとキレイキレイしたね? じゃあいただきましょう」
この子たちに介護されるような事態にならないよう、いつまでも元気でいなきゃね。
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