第253話 野望と挫折
――時は来た
異世界に突然飛ばされてから大体一年と九ヶ月......長かった......長かったぞ。
だが、ようやくだ。今こそ俺の望みを叶える日が来たのだ。
少しずつ、少しずつだが......自分の理想に近付ける為に研究を重ね、必要不可欠なモノがようやく理解出来た。
俺の悲願達成の為の最後のピースに足りなかったもの、それは......
化学調味料
オイスターソース
町中華の命、ラーメンスープ
なんで俺はコヤツらの存在を忘れてしまっていたのだろうか。
豆板醤や甜麺醤と胡麻油、それと鶏ガラスープの素があれば何とか中華料理っぽくなるだろうと思っていた。だが、それだけでは全然物足りなかった。
チャーハンには創味シャ〇タンやウェ〇パーがあればなんとかなった。むしろソレを入れていれば多少の塩コショウで味付けはなんとかなる。
パラパラ派かベチャベチャ派かは、食べる人個人の好みの問題だ......そこはもう頑張って鍋を振れとしか言えない。
個人的には上記の間をとったしっとりチャーハンこそが至高だと思っている。完全に個人の好みだよね。
まぁそれはいい。
俺はとにかく庶民舌である。アホほど美味い牛肉や、あっちでは考えられない食材もこっちにきて結構な数を食べて舌もそこそこ肥えたとは思う。
家での中華はクッ〇ドゥーにとてもお世話になりました。高級中華なんて片手で足りる程度にしか行ったことはない。
だがしかし!! 俺のソウルフード、フェイバリットフードは、庶民がよく行く中華料理屋さんである町中華。
小汚く、来店すれば絶対におっさんが居座っていて、壁や置いてある漫画や雑誌は茶色くなっている......味だけではなくあの雰囲気も大好きでよく行っていた。所謂、雰囲気補正がバリバリ効いたあの場所が大好き。
若干チープさを残しつつも、圧倒的に家中華や惣菜屋で買うよりも美味しいアレだ。
町中華を何度かお取り寄せしようとしたが、その度に何故か出てくる中華鍋やお玉、中華包丁。俺のスキルなのに、お前はソレを使ってシコシコしてろって言われているようなあの屈辱感......死ね。
馴染みの店のあの味が恋しくて出てきて欲しかったのに絶対出てこない謎。めっちゃ助かってるしめっちゃ感謝してるよ召喚能力さんには......でもね、本当に欲しい物は出てこないのは何でだい? くそがっ!!
どぼじで出てぎでぐれないのよォ!!
町中華の厨房は覗かずに殆どの店に完備してあるゴル〇十三とか、鬼平犯〇帳とか、闇金ウシ〇マくんのワイド版とかしか見てなかったし......ラーメンスープ自体は自作するモンと思ってなかったのが悔やまれる。
クソ田舎に行こうが絶対に一軒はあるし、都会ならもうそこかしこにあるから、食べたくなったら行けばいいとなっていたのが悪い。完全に俺の怠慢だ......
訴訟モンだよ。......嘘です。大変お世話になっておりました......どうか異世界にも出店お願いします。どうか......どうか......
色んな食文化が混ざり合い、食への情熱がマジキチレベルに限界突破している日本だからこそ、我ら庶民の財布の味方、そして我ら庶民の胃袋をガッチリ掴んで離さない町中華が誕生したのだろう。
今日は豪雪、お外に出るのは自殺行為と言えるほどのヤバい日。ウチの天使たちは囲炉裏周辺とコタツの中を占領していて俺如きには構ってくれない今日この日。
ようするに暇を持て余している。そんな日は町中華の命であるラーメンスープを作成するには最適な日ではないだろうか。
ヤってやる......俺はヤってやるんだ!!
うぉぉぉぉぉぉお!!!
◇◇◇
......はい、cyaan's kitchenのお時間でございます。
本日のメニューはこちら――
“ラーメンスープ”
では作っていきましょう。
なんとなく覚えているのは香味野菜やネギの青い所、何かの骨とかそこらへんを入れて何時間か煮込む。
これだけ。
正解はわからない。だが、やるしかないのでやります。はい。
正解がわからないので何個か同時にやっていきます。一つでもそれらしくなってくれれば......
一個目
人参、玉ねぎ、ネギの青い所、鶏の足、にんにく、ショウガ+お水
二個目
人参、玉ねぎ、ネギ一本、鶏ガラ、にんにく、ショウガ+お水
三個目
人参、玉ねぎ、ネギの青い所、豚骨、にんにく、ショウガ+お水
四個目
人参、玉ねぎ、ネギの青い所、煮干し、にんにく、ショウガ+お水
さぁレッツクッキング。
ひたすら煮ていく。グツグツコトコトと......
時折りかき混ぜ、ただのお水の色が変わるまで待つ......待つ......待つ......
どれくらい待てばいいかわからないのでとりあえず二時間で煮込みは中断。
見てみるとちゃんとそれっぽいモノが完成していたので一安心。透き通ったスープではなかったのが気になるが......
............試食してみた結果、それはもう食えたもんじゃなかった。エグ味、雑味のオンパレードで俺が恋い焦がれていたモノとは別物。
匂いに釣られてやってきたヘカトンくんにも試食してもらったのだが、彼は物凄く渋い顔をして落ち込んでしまった。ごめんな。
気を取り直してセカンドトライ。
今回は同じ素材のまま火加減&にんにく、ショウガの入れ方を変えてみた。
......が、ダメっっ!!
またまた気を取り直してサードトライ。
だが、またしても失敗。一体何があかんのかが全くわからんてぃ......
必死に考えていると、ここで天啓っ!
そう、とても単純な事が頭からまるっと抜け落ちていた。
灰汁取り
単純にして料理の基本。そりゃスープさんも濁るわな。
それと骨やら何やらも洗ってから寸胴に投入してフォーストライ。
ボコボコ浮いてくる灰汁を取り取り、確か浮いてくる油は旨味だった気がするので残したまま灰汁のみを除去。寸胴が多すぎてとってもダルい。自分からやり始めた事だけど、とってもメンドーサ。
めげずに格闘する事二時間、やっとこさ完成とも言える見た目のスープが完成。スープ作りを頑張っているラーメン屋さんマジすげぇっすわ。
味は......まぁ、アレだね。アレだ。
及第点には程遠いけど、まぁ色々と懐かしい気持ちになれた。せめてチェーン店の平均的で無難な味くらいにはしたい。かなり難しいと思うけど、そこを目指そう。
懐かしい気持ちついでに今日の夜は餃子とチャーハンにしよう。スープは......どうしよっか。飲めなくないし俺が頑張って処理しよう。ヘカトンくんに飲ませて反応を観察したいけど、飲んでくれなそうだなー。
目指せ町中華のラーメンスープ。そうと決まれば一日一スープ。ははは。
◇◇◇
その日の夜中にノリで晩酌用のツマミを作った。スープを使ってのホイコーローを。
そうだね、雪見酒だね。
結果は、思ってたんと違う! と思わず言ってしまうような出来の物が完成しましたよ......えぇ......ちくしょうっ!
まだまだだねって中学生なのに試合中に五感を奪ったり、金網に血まみれで磔にするようなバイオレンスな球技の王子様に言われましたよ。悲しい。
中華料理は火力が命。
家に住んでいたらほぼ絶対に使わないあのクソデカくて重い鉄の盾。全力で殴りつければ頭蓋骨を陥没させられるんじゃないかと思えるお玉。鉈と同じ使い方をしても問題のなさそうな中華包丁。
慣れないモノを使い、アホほど強い火力で炒める作業......これがまぁ難しい。
調味料で味付けする時に少しでもモタモタすれば容赦なく焦げていくし、鍋捌きが甘くて火の通りがバラバラな具。焦れば焦るほどどれくらいの量を入れればいいのかわからなくなるし、味見する時間すら惜しい。
......はい、素人がいきなりヤれって言われて出来るはずがないんですよ。幸い俺のチートボディが張り切ってくれたおかげで、素手で中華鍋の取手を掴んでしまっても火傷せずに済んだけど。これも要練習だなぁ......
うん、そんなこんなで異世界初の本格町中華はほろ苦い(物理)思い出になりました。悔しい。カッチカチになりそうな程悔しい。ゾックゾクとはしないけど悔しい。
「......俺、これが上手く作れるようになったら、皆に町中華のフルコースを振る舞うんだ......」
頑張ろう。
失敗作のホイコーローを大瓶の瓶ビールで流し込みながら、料理の上達を死亡フラグっぽく決意した。
──────────────────────────────
死んでました。今も死んでますが。
何すかねコレ......左半身が異様に痺れたり、痛んだり、動こうにも筋肉痛のようなペインとダルさで寝返りすら辛い。
満足に飯も食えない中で書いていたらこの話でしたよ。我ながら何故この時に丁度重なるように書いていたのか。
オムツ装備を真剣に考えたのは内緒です。
自分......元気になったら絶対、焼き餃子+ネギチャーシュー+ビールで楽しんだ後にレバニラ炒め定食を食べてやるんだ......
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます