第252話 理想の家庭
深夜に襲撃があった日、迎撃に参戦しなかったメンツ以外は皆昼頃まで寝ていた。
珍しくヘカトンくんも寝坊してた。起きた時にアワアワしてて可愛かっ......た。うん、可愛かったよ。
ピノちゃんは目が覚めてすぐに農園に行こうとしたので、メッしてからご飯を食べさせた。ちゃんと食べないとダメよ。
その後、皆でまったりしていると日課の牛の世話を終えたヘカトンくんと、農園とイノシシファミリーのお世話を終えたピノちゃんが帰宅。身体の疲れはそんなでもないけど、精神的な面が疲れてるらしく眠たいらしくて、今日はまったりしたいんだって。
こういうギャップもいいね! 普段はしっかりしている子の弛緩した姿はとてもいい物である。
囲炉裏の近くでだらーんとしている我が子に高級なクッションと座布団と与えて全力でダラけた。
◇◇◇
襲撃から二日が経過。
やっと弛緩した雰囲気は消え去り、いつも通りの日常が戻ってきている。
皆はパパよりもしっかりしていて何か申し訳ない。俺? 俺はもう可能ならばずっとダラけていたいタイプの人間だからね。
「もっとダラダラしていいんだよー。もっと肩の力を抜いて、楽ぅに生きようよー」
堕落した人間の甘言を、頑張って精力的に働く我が子に投げかけるも届かず。クソ人間でごめんね。
『ダラダラしてていいんだよ。ずっと頑張ってくれてたの知ってるから』
俺はこんな言葉を我が子から貰いたくてさっきの言葉を言ったんじゃないんや。情けなさでハツが張り裂けそうになった。
やれ......とか、働け......とか、勉強しろと言われたら、今やろうとしてたのにって反発するガキんちょのような俺だけど、ノータイムでアナタはダラけていていいよと言われてしまうと......ね。無理だよ。
こんな言葉は日本に住んでいる時に言われたかった。私はあっちでヒモになりたかったんや......私は貝に......いや、ヒモになりたい。貝ヒモでも可。
頑張る理由のあるこっちでは、君たちと一緒にダラけたくてそう言ったんだよ。わかってほしい。
でも、一度栓を抜いた浴槽は、再び栓を閉めるまでお湯が流れていく。そして、再び閉めようとした栓は取り上げられてしまい、もう流れは止まらない。
決して君たちに養ってもらおうとか思っていないんです。ごめんなさい。
やっぱ人間ってクソだわ。面倒な生き物でごめんなさい。ハツが痛いです......
正直にごめんなさいしようと口を開こうとした次の瞬間......我が子たちの心から言い放った善意の追い打ちが、汚れきって濁り腐ったヒトモドキの心を抉る。
『今日は私たちがご主人のお世話をするからね。ゆっくりさせてあげるの!!』
『料理は任せて』
『今日くらいは僕を好きにしていいよ。抱き枕とかにもなってあげる』
『いつもしてくれているマッサージをワタシがやってあげるね!!』
『敷地内の警備は任せてダラけてて』
『いどうするときはのってね』
「キュゥゥゥ」
「メェェェェ」
『今日は一日大人しくしててね!!』
ハハッ......今日一日ダメ人間になる事が確定してしまった。これに味を占めて今後も甘やかそうとしない事を祈ろう。
もう今日は甘んじて受け入れますので。
◇◇◇
『はい! ダイフクに頭を乗せるか抱いて寝てて!!』
今、ダメ男ことシアンは煎餅布団の上にうつ伏せで寝転がっています。顔をそのまま下ろせばダイフクの腹に顔面がダイレクトアタックします。
本当に俺の顔をそのまま乗せて平気なの? 重くない? 潰れないでね。いや、本当に。
『よしよし』
俺の顔面をモチモチクッションが受け止める。気持ちいいっす。すごく。
そして広げた羽根で俺の頭を包み込み、モチモチウィングでよしよししてきました。何これ、めっちゃバブい......ダイフクはオスなのに、めっちゃバブみを感じる。
「ふぁぁぁぁ......」
抗えない。
抗えなかった。即堕ち二コマもびっくりな堕ち方をしてしまった。無理だよこんなん。
『んっ......んっ......』
背中からはツキミちゃんの可愛い声が聞こえてくる。鳥の足の独特な感触と適度な力の込め具合いがやばい。ちょー健気、ちょーきもちいい。
休日にオモチャにされる世のパパさんや、肩たたきをしてもらえるパパさんの気持ちがわかる。至福やでぇ。
「ふぉぉぉっ!!」
急に足の裏に刺激がきて情けない声を出してしまう。恥ずかしい......でも感じちゃうっ。
「キュッキュッ」
「メェェェェ」
両足裏のマッサージが唐突に始まった。流線形のあの子と、ふわもこのあの子の仕業だねこれは。
でもね、足裏にそれはあかん。擽ったい。
せめて、せめて物理的な刺激を......刺激をください。
「ハハハハハッ、待って、待ってソレダメ、ダメ......擽ったい、無理! 止めて、一旦カメラ止めて」
我慢出来ませんでした。擽りって拷問にも使われるくらいにヤバいらしいよ。耐えられるわけない......
「キュゥ......」
「メェェ......」
............心が痛い。善意の行為なのに、ごめんね、我慢できないダメな男で。
「そこはね、敏感な所なの。だからそこは踏むとか押すとかしてほしいな。君たちにされるのが嫌なわけじゃないから」
「キュッ!」
「メェェ!」
......あぁ、これよこれ。気持ちいい。
ウイちゃんのヒレは若干擽ったいけどさっきみたいに耐えられない程じゃない。
「......顔も背中も足も気持ちいい」
「わんっ!」
「はぁぁぁん」
お嬢様、参戦。
腰をぷにゅぷにゅの肉球でプッシュしてくれている......もう俺、ダメ人間でいいや。いくら払えばまたやってくれるのかな......
◇◇◇
仕上げはワラービさん。
最高級のマッサージとリラクゼーションを堪能して全身蕩けきった俺は、仕上げにワラビの電気マッサージを喰らってイった。
低周波治療器とか、お腹ブルブルベルトとかのアレ。それの超極上なヤツだった。
いつの間にそんな繊細な扱いが出来るようになったのか......ありがとう。
マッサージの後はワラビ輸送により温泉へ運ばれた。そこにはスーパー銭湯バリの風呂が待っていた。
細かい泡を適度な刺激に調整された泡風呂、ジェットバス、ミストサウナ、お湯の滝、極上のしるこボディタオル、ピノドライヤー、キンッキンに冷えたポン酒と、世のパパさんホイホイな歓待を受けた。
周囲には絶世の美男美女(※シアン目線)、桃源郷オブ桃源郷はここだったと後日シアンは語った。
そしてランチタイム。
朝から解しに解されて体が軟体生物のように骨抜きにされ、幸せの絶頂まで導かれた俺を待っていたのは採りたて新鮮ピノ野菜と、トカゲよりも強いであろうレベルにまで育った牛の肉をふんだんに使ったしゃぶしゃぶだった。なんという贅沢なお昼ご飯だろうか。
愛する我が子の手作り料理とあーんの嵐。前世までの俺は、どれ程の徳を積んでいたんでしょう。
ランチの後は皆でお昼寝。
囲炉裏を囲みながら腹いっぱいな状態で寝そべると、すぐに眠気がやってくる。
微睡む意識の中で遂に俺は真理を見つけた。
なんで俺はこんなに精力的に動き回っていたのか......
それは今のように愛する皆とこうやって自堕落で幸せな生活を送るためだった......と。
“そうだよ。もう働かなくていいんだよ”
その事に気付いた瞬間、俺の中のリトルシアンが囁いてきた。
もういいんだよね、隠居した老人のように一日の内のちょっとだけ動いて、残りの時間は縁側で茶を飲みながらボーッとしていてもいいんだよね。
......あぁ、幸せだ――
◇◇◇
ゆっくりと意識が覚醒していく。
目を開いて辺りを見渡すと、もう外は真っ暗になっていた。
「......めっちゃ寝た」
これまでの人生で一番いい目覚め、最高に整った体調、疲れなど欠片もない。
俺の腕を枕にスヤスヤと眠る末っ子姉妹、俺の腹の上に頭を乗せて眠るあんことダイフクとツキミちゃん。
台所にしている場所からは料理のいい匂いが漂ってくる。昼を食ってから寝る以外になんもしてないのに腹が鳴る。
「ははは、理想の家庭やんけ。人間の嫁なんていらんかったんや」
『あ、起きた? ご飯出来たから起こして』
料理担当のピノちゃんから声が掛かる。その指示に従って俺にべったりくっついて寝てる子を起こす。
その隙に運送業者のワラビが角に器用にデカい鍋を引っ掛けてやってきた。ヘカトンくんは食器類を運んできた。
『イノシシの鍋だよ。結構前になんかこんな事言ってたよね、囲炉裏で鍋を食べたいって』
「思ってたけど......言ったっけ? でもありがとうね」
この日の夕飯は美味しすぎて、目から汗が出そうになった。
頑張りたくない、だけどこの幸せな家庭を守る為に無理しない程度に頑張ろうと思った。リトルシアンよ、疲れてるだろうけどすまんな。俺もう少し頑張るよ......
──────────────────────────────
全身を包む強烈な筋肉痛のようなナニかと倦怠感に襲われ、ベッドの上から動けませんが、気持ち悪さや発熱は無かったのでイケました。二回目ヤバいっすね。
ペットボトルを開ける時、トイレ、食べ物の開封が苦痛すぎます。
この後もまだ油断出来ないっぽいんすかね? 怖いです。
更新出来ない出来ない詐欺ですいません。
思ったよりも元気だけど動けないだけだったので、書けました。
明日も体調次第なので更新出来るか不明です。朝晩の冷えが強まってきましたので体調にお気を付けください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます