第249話 迷惑

 はーい、ちゃーん、ばぶー、イェー!


 はーい、みんなー! こーんばんはー。おうたのおにいさんこと、シアンおにいさんだよー。



 ......さて、なんで俺がこんな某放送協会の番組のような事をしているか......という事、皆さんはさぞ気になっていると思う。


 気になるでしょ? え? 気にならない?


 そっか......なら仕方ないね。では、お歌のおにいさんはここでご退場という事で......



 はーい、みんなー! こーんばんはー。おうたのおにいさん改め、殴打の鬼いさんだよー。


 悪い子はいねーがー!! クソがっ!! ザワザワしてねぇで黙って聴けや!!




「はい、そんで、お前ら......何をしにこんな夜更けに俺らの楽園まで来たのかな? 詳しく、手短に、早く話せ」


 死ぬほど数の多いネズミ男とネズミ女が俺らの楽園を囲んでいたので、ちょっとだけ肉体を使ったOHANASHIをした。


 その結果、彼らが正座してこちらの顔色を伺っているこの状況になりましたとさ。

 はーい、そこ、ザワザワしなーい。黙って正座してなさいよー。


「はい、そこの顔面ボッコボコな癖にクソほど偉そうにしているネズミ男、お前は誰で、どういう目的で此処にやって来た?」


「ふぉまえふぁふんぬとふぉうふぉくをふぉろしふぁんふぁろ」


「はっきり喋れや!! 何言ってっかわかんねぇよてめぇ!! ボケがっ!!」


 はいそこ! えぇぇって顔すんな。腹ぁかっ捌いて死んで詫びろボケぇ!!





 なんでこんな事になっているのか......それは鳥ちゃんズの釣り勝負から一週間後の夜中の出来事......つまり今日、日付けが変わったばかりの事だ。




 ◇◇◇




 カタカタ......ギシッ......サクサク......


 羽毛布団とモフ布団を纏って幸せな惰眠を貪っていた俺だったが、何かが動いた音、床が軋む音、なんか軽い音で目を覚ます。それと同時にひんやりとした空気を感じてブルッとした。


 眠すぎて目が開かないので、意識を気配探知に切り替えるとワラビとヘカトンくんがお外に向かってるのに気付いた。


 俺に内緒で何をしようとしてるのかな?


 んもう!


 すぐにでも後を追いたい所だが、如何せん眠気がやばい。目が開かないんだよぉ。


 ............あ、あー。あの子たちお外に出ようとしてるわ。......あれ? ま、まさか、脱走しようとしてるのか!? おじちゃん黙って出ていくなんて許さないよ。旅に出たいなら出たいでもいいけど、俺に許可を取ってから出ていきなさい。涙をラッパ飲みして見送るからさ......黙って出ていくなんて......寂しい事すんなよ。


「起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ......今起きなかったら多分一生後悔すると思うんだ......だからお願い......起きてよー!」


 ドックン......


 ドックン......


 てててーててっててってってー


 てーてーてーてててーててててってー


 まさか......暴走!?



 は、しないけど、急いで目を覚ます。

 目をかっ開いてドテラを装備し、結界のお外に出ちゃったワラビとヘカトンくんを大慌てで追った。


 この隠蔽結界の所為で、隠蔽されている範囲以上の事が探知しにくい。これはちょっとマイナスポイント。便利すぎるから差し引きではプラスだけど、もう少しこちらに都合のいい感じに改造できないかしら。


「......痛いっ」


 ワラビ&ヘカトンくんを追う俺を追尾してきたのだろう......モチモチとツキミちゃんが衝撃と共に油断しまくっていた俺に刺さった。


 持っててよかったチートボディ。ドテラに穴があいたが俺の体には穴はあいていない。


 俺の皮膚に到達した鳥ちゃんズのクチバシは薄皮を挟んでいる。刺さるよりも痛い。


「......なにそのギリギリを攻める感じの啄みは......めっちゃ痛いんですけど」


『黙って何処行こうとしてるの?』

『連れていってくれないの?』


 ......拗ねてるんですねー。可愛いですねー。


「あー、うん。ヘカトンくんとワラビが隠蔽結界の外に出ていったから心配で追ってきたんだよ。気持ちよさそうに寝てる君たちを起こすのは悪いなーって思って、黙って出てきたんだけど......うん、起こしちゃったみたいですね、ごめんなさい」


『黙って行くな。僕も行くから』

『ワタシも行く。仲間はずれは嫌』


 ......拗ね気味にそう言い放つこの子たちがエグい可愛さを発揮している。萌える。


「あんこやピノちゃん、ウイちゃんやしるこは拗ねないかな? 拗ねそうなら起こした方がいいかもだけど......さっきも言った通り、皆が幸せそうな顔でスヤスヤ寝ていると起こせないんだよ。わかってくだせぇ」


『......拗ねそうだけど、起きないから仕方ないよね。さぁ行こっ』

『起きてこないからね、行こっ行こっ』


 強かになったなぁ。


「怒られる時は一緒だよ。皆で仲良く怒られようね♡」


『............』

『............』


「............裏切らないよね? ね? 目を逸らさないでこっち見て。ねぇ」


『行くよ』

『置いてかれちゃうよ』


「......起こして連れてきた方がいい気がしてきてるんだけど......」


『『行くよ!!』』


「ぬわーーーーっっ!!」


 クチバシに力を込めて俺を引っ張っていく鳥ちゃんズ。どいひー。




 ◇◇◇




 薄皮を引っ張られながら外に出た俺を待っていたのは、不健康そうな肌の色をしたネズミ男とネズミ女のネズミの群れが俺の楽園を囲んでいる光景と、身体中に紫電を纏っているワラビ&土で出来た筍を周囲に浮かべているヘカトンくんだった。


 目玉が父親の、妖気を感じ取れる子どもとよくつるんでいるアレが不摂生な生活を数年続けたらあぁなるみたいな見た目のヤツらがいっぱい。



 ......グロい。汚い。数が多い。五月蝿い。


 俺の皮膚を引っ張って伸ばしていた鳥の黒い方が、この光景を見て怖気付いたらしく逃げようとしているから確保。逃がさんよ。


 俺もドン引きしてるんだからさ、逃げようとしちゃダメ。こうさ、害獣が犇めいている光景ってエグいよね。そう思わない?


『おこしてごめんなさい。あんみんをじゃまするこいつらゆるさない』

『こっそり殺ろうとしてたのに......起こしちゃってごめんなさい』


 俺が来ていた事に気付いていたワラビとヘカトンくんが謝ってきた。俺の為に不届き者をこっそりぶち殺して、何も無かったかのようにシレッと戻ってくるつもりだったらしい。この子たちが良い子すぎて、俺のドロドロさが際立つ......誰か浄化してくれ。


「俺や皆の為にそうしようとしたんでしょ。ありがとうしかないよ。こっちこそ家出するのかなって疑ってたからごめんね」


『ここはまかせて。みてて』

『とっても楽しいから家出なんてする訳ないよ。ワラビと一緒に片付けてくるから待ってて』


「頼もしいなぁ。がんばれ♡がんばれ♡」


 なんとなく流行りに乗っかったような応援をしながら、ワラビ&ヘカトンによるショーを鳥ちゃんズと共に見守る事に決めた。



『あんみんをじゃまするものはゆるさない』


『折角静かに暮らしてるのに何で皆邪魔をするんだろう。こっちから攻めた方がいいのかな?』


 物騒な事を言い出すウチの用心棒と乗り物。ワラビの言う事には全面的に同意するけど、ヘカトンくんのはノーセンキュー。これくらいならわざわざこちらから出向くような事態ではないさ。


「とりあえず人型のヤツはまだ殺さないでおいて。邪魔な獣畜生は全て殺しておいてほしいな。ネズミって疫病の原因になったりするから容赦しなくていいよ」


『わかった』

『了解』


「はい、いってらー。......うん、そんで、ソワソワしてるけど、もしかしたらダイフクも混ざりたいのかな?」


『......そんな事ないよ』


「ハハッ、行きたいなら行きたいって言えばいいじゃん。俺は気にしないよ」


『いいの?』


「行きたいんでしょ? マナーとか礼儀とかとして、乱入前にあの子たちに声を掛けてからにしてね。俺は見てるから楽しんでおいで」


『行ってくる!!』


「あいよー。ダイフクは行っちゃったけど、ツキミちゃんはどうする?」


『......気持ち悪いから嫌』


「おっけ、じゃあ一緒に観戦してよう」


『うん!』





 ――そこからは



 戦と言うには些か語弊がある......ただの蹂躙だった――




 稲光がそこかしこに降り注ぎ


 そこかしこに閃光が煌めき


 地面に赤い花が咲き乱れた――





「......な、なんだアレは......怠惰が言う事は本当に誇張でも何でもなかったのか......」


 わざわざ仲間だった誼で受けた忠告を臆病者の言い訳と決めつけて信用せず、他の魔王を出し抜いて手柄や食料を独占しようとした事のツケを払わせられる事になった哀れな暴食のネズミ。


 所詮他の生物よりも少しだけ強かったと言うだけ。


 どこで歯車が狂ったか......


 だが、こちらにも魔王としての意地とプライドがある。


 何も出来ずに殺られるわけにはいかないので、暴食の本気を出す為、仲間の死体を貪り食いはじめる。



 が、そんなネズミに鋭い視線を向けている白い影があった。


 彼の主人と仲間が共喰いをしている姿を見て顔を顰めた事により、その目付きは何時もより余計に鋭くなっていた事を......食事に夢中になっている者は知らない。

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