第248話 抗議する末っ子姉妹

『かまえーーー!!』

『そーだそーだー!!』

「「「「「「メェェェ」」」」」」

「「「「「「メェェェ」」」」」」

「「「「「「メェェェ」」」」」」


「あぁうん、構うよ。うんうん、もちろん構うさ。構うに決まってんじゃん。でもね、もう色々何なんだよ急にさ......」


 ちっちゃいしるこがたくさんいる。そして、そのちっちゃいしるこに担がれた状態で俺に抗議をするウイちゃんとしるこ。


 なんですかぁ、この状況はぁ!?


「キュゥゥゥゥ!!」

「メェッ!!」


「なるほど、わからん。説明プリーズ」


「「「「「メェェェ」」」」」


「ごめん、ちびしるこはちょっと黙っててもらえるかな? 話が全然わからんし進まん」


 朝飯を食べ終わった後、囲炉裏で昨日鳥ちゃんズが釣った魚を焼いていたらこうなった。すぐに状況を察することなんて出来ない鈍感な俺を許しておくれ。構ってほしいとしかわからんのさ。


『せっかくことばをおぼえたのに』

『おねえちゃんたちばっかりかまって』

『『ずるいー』』

『しゃざいとばいしょーを』

『ようきゅーするー』

『『かまえー』』


 覚えたての難しそうな言葉を使ってどっかの民族みたいな事を言ってるけど、最近の俺がこの子たちをあんまり構っていないから寂しいと言いたいんだね。とりあえず萌えた。可愛い。


 そっかぁー。


「おーけー、今日は修行に出掛けようと思っていたけど、その予定はキャンセルして思いっきり構ってあげるよ」


 ただなぁ......このちっこくて黒い大量のモコモコをどう扱えばいいのかさっぱりわからん。それぞれが独立した個体なのか、しるこの分体なのか......


『やったー』

『かまってー』

「「「「「「メェェェ」」」」」」

「「「「「「メェェェ」」」」」」

「「「「「「メェェェ」」」」」」


「なにこのカオス」


 とりあえず最初に事情聴取。




 ......した結果、この大量のモコモコたちはしるこの分体だが、実体のある体という事がわかった。分体の体から離れたモノは分体を消しても残りる。なので、消す前に毛を刈った方がお得だよとの事。だが肉体が死ぬと毛以外は消えるので食えないらしい。


 愛している我が子のクローンの肉を食えと言われても、はいそうですかとその肉を食えるほど俺はイカれてはいない。でもラム肉は好き。ジンギスカンは神の食べ物。


【毛量操作】【無限増殖】【生贄羊】


 このスキルらはやばいね。やばいよ。


 俺の魔力を吸い取れるから、誇張なくガチで無限に増やせる分体がいて、毛も無限に増やせ、毛質も自由自在。そしてデコイにも鉄砲玉にも出来るらしい。やばいね。

 あんピノ玉を口に咥えて敵地に乗り込む怒涛の羊ごっこも出来る。やらんけど。


 トラックで敵のシマに突っ込むヤーさんが可愛く思えるっす。



 羊毛が刈り放題だなぁ......とだけ思っておく事にする。応用が利きすぎて怖い。


 しるこベイビーを鉄砲玉にするとか俺には無理。でも死に直面すると勝手に現界して盾になるんだから、気にしないで好きに使ってくれって言われた。


「いやいやいや、無理だからね。俺はしるこの屍を越えてゆけないからね、もしそうなったら俺の心が死ぬ。絶対に君の命が脅かされるなんて状況になんてしないから!!」


「......メェェェ」

「「「「「「メェェェ」」」」」」

「「「「「「メェェェ」」」」」」

「「「「「「メェェェ」」」」」」


 喋ってほしいな。メェェェってどんな感情で言ってるのかわからんのや。


「とりあえず今からミニしるこの毛を刈ります。しることウイちゃんは俺の体の好きな所に乗っかるか入るかしといて」


『わかった』

『のりこめー』

「「「「「「メェェェ」」」」」」


 子しるこまで俺に乗ってくるわけのわからない状況になったが、とりあえずふわもこで気持ちよかったとだけ言っておこう。ファンシーな見た目なのか、モサモサしたテンパ野郎な見た目なのかだけ気になる。




 ◇◇◇




「「「「「「......メェ......メェ」」」」」」

「「「「「「......メェ......メェ」」」」」」

「「「「「「......メェ......メェ」」」」」」


 半日後、つんつるてんになった元黒羊の群れが、息を荒くしながら雪の上に転がっていた。何故だろう......心が痛い。


 待機する黒羊の行列......刈リ終えると速攻で毛を生やし、行列の後ろに並び直す黒羊。

 そして俺の肩で熱っぽい息を吐くしること楽しそうにキュウキュウしてるウイちゃん。


 果たしてこれは末っ子姉妹を構ってあげたと言ってもいいのだろうか......でも満足そうだし楽しそうだし......うん、これでいいんだろうね。きっと、多分、メイビー。


「しるこ本体の毛も刈るかい?」


『さむいのはやだー』


「そっかー、分体は寒くないの?」


『えらべるからへーき』


「オンオフできるのかー。すごいね」


『でしょ』


「すごいすごい! んで、この山のような毛はもらっていいの?」


『あげる』


「わかった。じゃあこの後は何したい?」


『かまえー』

『あそべー』


「おけまる」


 何して構って欲しいか聞いたらブラッシングとマッサージをご所望されたので、温泉でぬくぬくしながらモフり倒した。


 久しぶりの直毛羊に笑いながら、ひたすらマッサージとブラッシングに勤しむ俺。クルクルしてるよりも直毛の方が楽だという羊のアイデンティティを疑う発言をするしるこを宥め、おばちゃんがパーマをする時に使うあの謎のパーツをしるこに取り付けて寝かしつけておいた。


 ウイちゃんにはアロマオイルを塗りながらマッサージをしてヌルテカにしてあげた。なんかコレ違うと思いつつも、ウイちゃんは温泉を泳ぐスピードがあがって喜んでいた。スピード狂疑惑が浮上。


 ウチの子たちの生態がよくわからない。何を目指しているのだろうか......


 ストパー羊とヌルテカアザラシって誰得なのでしょうか。特殊性癖をお持ちの皆様、愚かな私めにご指導ご鞭撻を......


 入念に揉みほぐしたおかげですやっすやな末っ子姉妹をこの子たち専用のベッドに寝かせた俺は、大量の羊毛を持ってミステリアス商会へと移動した。




 ◇◇◇




「お待ちしておりました」


「ヒィッ......」


 一応今日行くと伝えていた。伝えてはいたんだよ。


 でもさ、何時行くとは伝えていなかったのよ。なのに転移石の傍でスタンバっていて、到着と同時に声を掛けられるのさ......怖いよ!! 怖すぎだよ!!


「ではこちらへどうぞ......」


「慕ってくれるのは嬉しいけど、迷惑になるような事だけは絶対にしないでね」


「心得ております」


 ......いつでも俺の家を隔離できるようにしておこう。後腐れの無い関係が一番楽でいいんだよ。ヤン風味はいらないってわかってください。俺はこんな事望んでいないのです。


 どうしてこうなった......


「本日はどうなされましたか?」


 いつの間にか俺の秘書っぽく振る舞うようになったリーリャちゃん。それといつもの恥ずか死忍者の熱視線。


 再度言おう......どうしてこうなった......


「あーうん、用件を伝える前に一つ言わせてほしい。あのね、普通にしてくれ。貴族の屋敷時のリーダーの子のような感じで」


「で、ですが......」


「丁寧さはもう諦めるからさ、せめて店員と客のような感じで頼む。楽な方がここに来やすいから」


「......かしこまりました」


「............」


「......わ、わかりました」


「それでいい、後は......忍者ちゃん! いい加減に出てきなさい!!」


『申し訳ございません、死んでしまいますのでご勘弁を』


 ............いい加減慣れろや!! なんで文字を書いた紙を落としてくんねん!!


「人は羞恥心では死なねぇから!!」


『この距離でも心拍数がヤバいです。死んでしまいそうです。でも、どうしても貴方様の御姿を拝見したいのです。どうかお許しください』


 すげー早さで文字書けんだなコイツ。無駄に綺麗な字だし......


「......すみません。あの子は本当にアレなので......」


『アレで申し訳ありません』


 ......アレなら仕方ないね。ははっ。


「とりあえずわからないけどわかった。生産組のところに行きたいから案内して」


「ありがとうございます。こちらです」




 この後、生産組に子しるこの毛を渡してプレミアムぬいぐるみの制作と、この羊毛を使って毛糸を作ってくれと頼んだ。


 プレミアムぬいぐるみ欲しいやん。ふわもこだったりサラサラだったりするから、ダイフクとピノちゃんとヘカトンくん以外のぬいぐるみはクオリティが上がるはずだ。


「こ......これはっ......!!」


 って生産組のリーダーが震えていたからきっと良い物が出来る。俺はそう信じている。


 当初の目的だった執事スキル習得は諦め、売り出しているぬいぐるみの豪華バージョンを受け取り退散。次に来る時にはもう少しマトモな対応になっていると信じたい。


 頼むよマジで。あの時のリーダーちゃんのような対応で丁度いいんだよ俺は。

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