第246話 初雪
「......パターンホワイト、雪です」
頂上付近はもう真っ白になっていたが、とうとう此処にも初雪が降った。初雪なのにガッツリ降って一面真っ白になっている。
「シャァァァァ」
某ホワイトスネイクちゃんは目が醒めてすぐに声を上げて駆け出していった。
「ちょっ......待っ......行っちゃった」
静止する暇なぞ与えず......一直線に自身の管理する農園へと。
完全に農家に染まっていたピノちゃん。雪に感動する前に自身の農園の心配とは......これからも俺らの為に美味しい野菜を作ってくださいませ。
「......うわぁーお」
あの子が飛び出して直ぐ火があがり、思わずドリルされたような声を上げてしまった。綺麗だなー。
農園を包み込むように薄い火の膜を張るピノちゃん。ビニールハウス亜種だね、これからも美味しい野菜が食べられるな、よかったよかった。
「ファンタジー農業パネェっす」
超絶力技農業。俺らじゃないと雪に負けちゃうね。
カウントが消え去った魔力を保持する俺の恩恵を受けたあの子だからできる技。やろうとすればこの楽園全てを覆えるんだろうけど、俺は雪が好きだからあの子に雪の除去は頼まない。
きっと今頃イノシシファミリーに色々指示を出しているのだろう。イノシシって冬眠したような気もするけど、どうなんだろ?
まぁこれもファンタジーということでスルーでいいか。
「よし、二度寝しよ。この温もりには勝てない......おやすみなさい」
肌寒くなった季節の贅沢と言えば......と、アンケートを取れば、きっとベストスリーに入っていると思われる二度寝。
お布団も、添い寝してくれる天使たちも、ぬっくぬくで最高。少しも寒くないわ。
◇◇◇
「メェェェェ!!」
ドスンッ......ドスンッ......
『おきろー!!』
ドスンッ......ドスンッ......
「キュゥゥゥ!!」
「ウボァー」
二度寝した俺を起こした末っ子姉妹。力強くなったしるこの突進でも眠り続けた俺。
それでもめげずに起こそうとしているしるこを見兼ねたウイお姉ちゃんが禁じ手の揺さぶるボイスを使って俺を起こした。
「......うぷっ......おはよ......」
『まっしろになってる!! アレなに?』
『おきなかったからやった。ごめんなさい』
キュウキュウメェメェだけだった末っ子姉妹は、冬になる前にようやく会話出来るようになっていた。まだたどたどしいんだけど、それもまたキュート。すぐに流暢に話すようになると思うので、この可愛らしい時間は火のついた蝋燭のようなもの。
ずっとそのままでいいんだよ? 学ぶだけが人生ではないのです。自由気侭に過ごしてください。勉強なんて後回しで。
「あーあれはね、雪って言うんだよ。寒くなってくるとね、雨がね、夜更け過ぎに雪変わるんだよ」
サイレンナイ、ホーリーナイ。
『そーなんだねー?』
『あそんできていい?』
よくわからない言い訳でどうにかなった。可愛いなぁ。
初めて見る雪に興奮が隠せないしるこちゃんはソワソワしているし、流氷エリアで産まれたウイちゃんはお外に出たがっている。
「そーなんだよー不思議だよねー。お外に出たいのはわかるけど、ご飯を食べてからね......ヒャンッ」
いつの間にか戻ってきていたピノちゃんが、はしゃぐ末っ子姉妹を宥めていた俺の服の中に帰宅してきた。おかえり。
でもさ、君は体温操作できるはずよね? せめて表面を温めてから入ってきてほしかったなー。
「今から飯を作っても、君たちは我慢出来なそうだから作ってある物を出すね。それを食べたら行っていいよ。しるこは初めてだから冷たさに驚かないようにしなね」
保存食としてとってあった豚汁とお餅を振る舞ってから、好奇心の塊姉妹を解き放つ。きっとこの黒羊は雪まみれになって真っ白になってくる事でしょう。
「「いただきまーす!!」」
「ははは、可愛いなぁ。ピノちゃんもお疲れ様。お餅食べる?」
『うん!』
末っ子姉妹はマッハで食べ終わり駆け出していった。
その様子を生暖かく見守り、俺は他の子たちが起きてくるのをピノちゃんとお餅を食べながら待つ。
「こうするのも久しぶりだね、お餅美味しいかな?」
『お餅好き』
七輪を出してお餅を焼いて食べた。久しぶりにピノちゃんにあーんをした気がする。側に誰もいない時は甘えてくれるこの子、餅の匂いに誘われて皆が起き出したらシャッと逃げてしまった。悲しい。
この日の朝飯時は、餅焼きマシーンと化した俺であった。
でも、皆がお餅を食べ終えて散らばっていくと、こっそり戻ってきて俺に甘えてくれたピノちゃんがとても可愛かった。
寝転がった俺の腹の上で、ヘソ天で眠るピノちゃんを撮りまくったのは内緒だ。
◇◇◇
お昼すぎ、雪まみれになって戻ってきた皆とお風呂。
初めての雪がとても楽しかったらしいしるこちゃんは、俺の予想通りにふわも身体中に雪を付着させていて、真っ白所により黒になって戻ってきた。
手でパンパンと払っても雪が払えないので、救済措置としてお風呂になったわけでございます。雪で体も冷えていたし。
真っ黒に戻りぬくぬくになったしるこはピノドライヤーによって乾かされ、ヘカトンくんを引き連れて再び雪に突撃していった。頑張れお兄ちゃん。
あんこはワラビの角の上に鎮座する謎の行動のまま散歩に出掛け、ピノちゃんはダイフクと一緒に農園へ、ウイちゃんは温泉→雪→温泉→雪と、サウナみたいな楽しみ方をしていた。ととのうといいね。
俺は風呂上がりに着物とドテラを着込んだスタイルになり、縁側で緑茶を飲んでまったりしていた。すると、一人遊びに行かなかったツキミちゃんが音も無く飛んできて、俺の膝の上に着陸。
「どうした? ツキミちゃんは皆と一緒に出掛けないのかな?」
『今日はワタシが独占する日なの!』
「......お? あんこちゃんとのお出掛けから戻ってきてから、毎日違う子と一緒になる時間があったけど......まさか協定を結んで俺に甘える日を決めてたりするの?」
『あっ......あのね、ワタシが言っちゃったってバラさないで!』
どうやらドジっ娘が発動してしまったらしい。ドジ可愛い。
帰宅してから毎日、俺の所に誰かしら来るようになっていたのは、ウチの子たちの間で協定が出来ていたかららしい。
昔......といってもそんなに昔じゃないけど、結構増えたもんね......まだまだ一桁年齢のこの子たち、甘えたい盛りだ。
甘えローテは大体こんな感じ→遊びたい盛りのウイちゃんとしるこは二回りに一度くらい、ヘカトンくんは月一、ワラビは無参加。あんこ、ピノちゃん、ダイフク、ツキミちゃんで一ローテって感じだ。
「そっかぁ......ごめんね、家族がたくさん増えたから、前のように甘えられないもんね。あんこやツキミちゃん、末っ子姉妹は甘えんぼだからいいけど、ツンデレな白い子たちはこうでもしないと甘えにくいよね」
『......内緒にしておいてね、ダイフクとかの番の時にニヤニヤしちゃダメだよ。皆勘が鋭いから、きっとワタシが漏らしたってバレちゃう......』
「ダイジョーブだよ。俺のベテラン俳優っぷりを信じなさい」
『大根だよぉ......』
なにやら辛辣な評価を下されたような気がしたけど、ドテラの中に潜っていくツキミちゃんが愛らしすぎたので、空耳だったんだと思うことにした。俺が大根とかそんなことあるワケがない。
「んもう、もっと俺を信じなさい」
「クルルルルル......」
「嘘でしょ......喋りたくないほど信じられないのかよ......久しぶりにツキミちゃんの鳴き声聞いたなぁ......はははっ」
開いた胸元から顔を出して鳴くツキミちゃん。それからしばらく話しかけても鳴き声を出すだけで喋らなくなった。解せぬ。
「......はぁ......まぁいいや。演技力をもっと鍛えてなんとか賞が取れるくらいにまでなってやる。ねぇ、このまま縁側にいる? それとも散歩でもする?」
『......お散歩行く。この中に居ていい?』
「ふふっ、いいよ。夕飯の時間になるまでずっと二人で居ようね」
『うん、ギュッてしててね』
おっけー! 今日はどんなオーダーでも受け入れちゃうよ。
「この格好で行くつもりなんだけど、ツキミちゃんは寒くない? 寒さを感じるなら着替えてくるけど」
『ギュッてしてくれてるとあったかい!』
「そっか、じゃあずっと抱きしめてなきゃだね。さ、行こっか」
新雪を踏みしめるサクサクとした音を聞きながら、日が暮れるまでツキミちゃんとお散歩デートを楽しんだ。
会話は全然無かったけど、ツキミちゃんはずっとご機嫌で俺も嬉しくなった。
「ねぇツキミちゃん、もっといっぱいわがまま言ってくれていいんだよ。皆もそうなんだけど、いい子すぎるよ」
『もっとやりたい事とか言っていいの?』
「おぅ! 俺に出来ることなら何でも言ってくれていいからね」
『......うん!』
その後はずっとデレデレしているツキミちゃんとお散歩デートを楽しんだ。まだ俺はこの子をダイフクに渡すつもりはないからな!! ツキミちゃんを娶りたくば、俺を倒してからにしやがれ!!
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明日は鴎と鷲の鳥類対決を見に行くのでおやすみします。多分明日は二羽目の鷲の死体が転がると思います。
ショックで羊の死体も転がるかもしれません。
......なんで一点リードの八回に、外人が弱点の復帰したてのあの人をマウンドに上げんねん!! もぉぉぉぉ!!
取り乱しましたが、月曜or火曜からまたよろしくお願いします。いつもありがとうございます。
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